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漆黒の花嫁  作者: つかさ
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悪魔の意思

「話をまとめるが、今回悪魔について詳しく判明した事がある。悪魔を代表する何かが現れたのだ」

ざわっと皆が口々に騒ぎ出す。

「現れた、とは言えんかもしれん。元々いたのかもしれんし、それに姿形は判明できておらん」

「アース、なぜそれが分かったんだ」

「そう急くなローランド。今からそれを説明するのだ」

アースとはミスター・スカイウォーナの愛称だ。ローランドはミスター・マヘッダの名となる。総長と隊長はお互いを同じ力量の者として見、そして深く信頼しあっている。そのため彼らの仲はお互いを名で呼び合うほど親密だった。

「3日前、ヴァルの弟子の二人と、ミーシャの弟子の一人が任務の為にプリペート海岸へむかった。その際悪魔が死に際に言葉を残したのだ。“あの方”、とな。そして悪魔の残骸から記憶を追跡しようと実験した。だが、その記憶は何者かによって視れぬようにされておった」

「そんなことしてたのかよ。3日間で済ませるたぁ行動はえーな」

「トップは違うんだよ」

仕事や頭の回転の速さが僕らと格別だと思い知らされる。

「つまりは、だ」

ミスター・スカイウォーナの声が再び響く。

「“あの方”とやらは存在するのだろう。記憶を追跡させぬという手の込んだやり方や、悪魔達の言い草はもはや主人に憧れ溺愛した様だった。あの顔は嘘ではない」

「言いきれるのだな」

厳しい声はミス・シェーダだ。

「ああ、我の長年の経験からの直感がそうだと言っておるのだよ。これは確信にも近い」

「……まあ、アースが言う直感は外ない。信じよう」

「ありがたいよ、レノア」

ミス・シェーダはふんと鼻を鳴らして礼を受け取ったようだが、ミスター・スカイウォーナはそれに慣れているようで、咎めるような事は言わず穏やかに微笑んだ。

「諸君、主に付き従う悪魔がいるという事は、どういう事かわかるかね?」

ミスター・スカイウォーナはぐるりとデトラン達を見回した。

「悪魔が意思を持ち出した、という事だ」

デトラン達は不安げに互いを見やった。

「よいな。今まではただ人を喰らう為に動いてきた悪魔が知恵を持ちだすという事は、悪魔の行動が先読みしにくく、なおかつ戦闘時には危険を倍増させる。これからはただ欲望に従って牙を向けて来るわけではなくなるからな」

僕もグラルダーも、いっさい言葉を口にせず話を聞いていた。


『意思を持ち出した』?何を言っているんだいったい。

「まこと滑稽な事よ。ただの無能だったやつらが己の欲望に迫られ意思を持ちだすとは。どこまでも哀れとしか言いようがない」

「お言葉ですが」

僕は思わず立ち上がってまで発言していた。

一斉に全員の視線が僕に注がれる。意見されたミスター・マヘッダの鷹の様な目が突き刺さった。だが構わず先を続けた。

「悪魔にも意思はあります」

ギラリとミスター・マヘッダの目が厳しく光る。

「ほう?何を根拠に行っている?」

僕は重い空気に飲み込まれないように、なるべく毅然と振舞った。

「悪魔にも、心があるから怯え、襲い、快楽を求め、付き従うのです。あなたは覇打獣だ。悪魔の心を感じ取れる場面はあったのでは?」

「……生意気なガキめ」

「申し訳ございません」

前方で人が立ち上がった。ヴァルだ。

「わたくしの弟子がでしゃばりまして。こういった環境での礼儀は出来ているとふんだのですが、いやはや、まだ理解出来ていないようでしたな」

ミスター・マヘッダにお辞儀をすると、きっと僕を振り返って睨んだ。これは後でしばかれるかな。

「よい、ヴァルよ。謝罪することはない」

「いや、しかし……」

「若い者の意見を聞くことも時には大事だ。少年よ、お前ヴァルの弟子なのだな」

ミスター・マヘッダは僕をかばう言い方をしながらもピリピリとした空気を放っているように感じた。

「はい。ロア・ロトといいます」

「ロト。お前はなぜそこまで悪魔を知っている。任務のなかで悪魔の心に触れ合うことはそう無いはずだ。すばやく仕留めるのが一番いいからな」

僕はたじろいだ。やはりミスター・マヘッダは、僕を責めている。彼の顔には怒りが滲み出ていた。

「俺にはお前は悪魔を好いているようにも見えるぞ」

「……別に、悪魔を好いているというわけではありません。だとすれば始末はしないでしょう」


「それは違うよ」


凛とした声が響いた。

「悪魔を好いているからこそ、慈しむのです。悪魔は可哀想な生き物。故に『殺してあげよう』という情けが生まれる。今の君の表情からなら、それがあっているんじゃないですか?」

ミスター・ワイナーは、僕を優しく見て穏やかに言った。ように、見えた。ぞくりと背中に恐怖が走る。

ミスター・ワイナーは確かに微笑んでいる。が、目は笑っていない。そして目の奥には蛇の様な冷酷さがあり、気に入らぬことがあれば殺す、と、言われている気分にさせる。

覇打獣の中で一番若いミスター・ワイナーは、後ろでゆるく三つ編みした長い金の髪を、右肩から前に垂らし、背も高くスタイルもいい。その目は切れ長だがきつく見えず、二重と瞳の深い緑の色がどこか優しい印象を与える。まさに絵本から飛び出してきた王子の様な容姿である。

まさにどこにも欠点がない、美しく優しい外見だ。だが彼は覇打獣としての残忍さを、しかと心得ていた。

「……僕は悪魔に慈悲をかけたことはありません」

「そうですか。なら質問の仕方を変えましょう。君はこの場で注目を浴びてまで何故わざわざ悪魔に心があると主張したのです?しかも、あれはローランドの言葉に腹が立っているように見えました。それは悪魔に情けをかけてでは無いのですか?」

「まさか。デトランともあろものが悪魔に情を移すなど、おかしいじゃないですか」

「おかしくはない。人の過去には色々ありますからね。けれど悪魔に情を移して行動するのはおかしいのです。君にはそれが出来ているのかな」

「自分自身だけの意思では動いていません」

「やはり情はあるのですね」

「っ!」

しまった。カマをかけられた。これは拷問だ。遠回しな言い方をしているが、内を探れば厳しい言い方しかしていない。唖然と立ち尽くす僕を見てミスター・ワイナーは笑った。

「すまないね、ついいじめてしまいました。隊長からものを言われてしまっては、反抗したくてもしにくいでしょう。冗談がすぎました。今の話は忘れなさい」

ヴァルが暗い顔をしているのがちらと見えた。何が言いたいんだ、あんたは。なんであんたが暗い顔してるんだ。

「君には、恐怖は無いのですか?」

ふいにミスター・ワイナーが問うてきた。

「ありますよ。この場でこの空気で、平然としている方がおかしいでしょう」

ミスター・ワイナーは僕の生意気な答えに満足したように頷いた。

「ふふ、変わったデトランですね。もう少し君の内心を探りたかったんだけれどね、おしまいです。ローランド、もういいね?」

「ふん、興味も無くなるわ、あの態度」

「ロト。君の言いたい事は終わりですか?」

「ええ」

「いいでしょう。お座りなさい。ヴァルも」

僕とヴァルはお辞儀をして席に着いた。

「大丈夫かロア」

「……ああ」

グラルダーが心配してくれたが、今はそれに笑って頷ける余裕がなかった。


なんだ、あれは。

ミスター・ワイナーはまるで僕の心の内を聞いて、理解し、自分の意見と僕の意見を互角にとった様に見えた。だがそれは違う。哀れんでいるのだ。そして面白がっている。

悪魔に情を移し、狭い視界からおかしな事を言い、指摘されてもなおも必死に悪魔をかばう。

あの男の目にはそうとしか映らなかったのだろう。馬鹿にしている。

あの男は僕も悪魔も同等に見えるのだろう。腹が立つ。




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