覇打獣達と、覇王
「確かに『あの方たち』と言ったんだね?」
任務での出来事を報告すると、テリバーさんは渋い顔になった。
「はい。悪魔の言い方からすると僕達の力をかなり上回った者だと」
「ふん。そんなの悪魔の客観的な見方だろうがな」
グラルダーが気に食わないと言ったように口をはさんだ。
「それに、デトランの力を上回る悪魔がいればとっくに探知機が反応してるだろうしね」
テリバーさんは難しい顔をしながらペンをくるくると回した。これは考え事をする時のテリバーさんの癖だ。
「けれど個体で行動をする悪魔が、主として付き従っているような物言いだね。それがどうも気にかかる」
「もしそうだとしたら力の強さに屈しての事でしょうか?」
「いや、あるいはそれに見合う代価につられたのかもしれないし、悪魔共通の野望があって協力してるのかもしれない。……考えれる範囲は広い。どちらにせよ良くはない出来事だね」
うーん、とテリバーさんが唸る。
「これは総長にお伝えした方がいいな。今回の戦闘は後ほど千里眼のキュラムを持っているものに一度覗いてもらう。疑っている訳でなく確認として確かめなくちゃいけない。確認がとれたらこの事は総長にお伝えする」
「僕達は黙秘という形でいいんですか?」
「そうだね。必要以上に話さない方がいいだろう。変にねじれ曲がって話が広まっては僕が色々質問攻めにされちゃうし」
「わかりました」
「今回の任務、お疲れ様。それじゃあ休憩に入って。詳しい事が分かったら伝えるよ」
「はい。失礼します」
こうして僕達はテリバーさんの部屋を出て、空いた腹を満たそうと食堂へ向かった。
そしてテリバーさんの『伝える』は、総員会議という形になって知らされるのである。
それから三日後、本部全体に放送で集合がかけられた。
《緊急命令だ。これから先に行う任務は全て取り止めとし、乱舞の間へすぐに集まりなさい。ミスター・スカイウォーナがいらっしゃり、彼直々にデトラン総員に伝える事がある》
「総長のお出ましだな」
「ああ、やっと到着したようだね」
「遅かったじゃねぇか。ノロノロしてっと悪魔が主とやらに従って攻めてくるかもしれねぇぜ」
「グラルダー、口を慎しみなよ。そうやって愚痴ってることが誰かに聞かれて総長の耳にでも入ったら、一緒にいる僕だって罰されるんだからね」
「ったく、薄情者だなおまえは。全部俺が責任かぶれってのか?」
「当たり前でしょ」
「ふん、まあいい。行くか」
僕達はぞろぞろと移動し始めたデトラン達に混ざって、3階にある乱舞の間へむかった。
乱舞の間とは、いわゆる会議室の様なものだ。とても大きな部屋となっており、中央本部在住のデトラン全員が入れる。きっと本部の中にある部屋で一番大きい。
弧を描くように何列も並べられた椅子の正面には、少し高めの台の上に7つの椅子が置かれている。とくに真ん中をはじめ、どっしりとした威厳ある豪華な椅子ばかり。その真ん中の玉座には総長である、ミスター・スカイウォーナ。そしてサイドの6つに覇打獣と言われる6代隊長が座す。玉座に座せるのは覇王と呼ばれる者だけ。昔ヴァルに、興味本位で玉座に座ろうとしたら「ケツが裂けるから止めとけ」と教えられたことがある。本当かは知らないが。
「隊長も皆集まってんのかな」
「どうだろう。けれどさすがに覇王の命令とあれば急いで来るでしょう」
すでに乱舞の間の3分の2は埋まっていた。僕達は後ろの方の全体が見渡せる位置へついた。誰がいるのかと探していると、ギルティ達の姿が見つかった。こちらには気付いていない。そしてさらに探すと、一番玉座から近い最前列の椅子に、ヴァルやテリバーさんがいた。二人ともかたい表情で何やら話している。
するといきなり前の列の女性が騒ぎ出した。
「ミスター・ゼルヘブンよ! 素敵だわぁ」
どうやら一人目の隊長が到着したようだ。いっきに乱舞の間が騒がしくなる。
「後ろにミスター・マヘッダもいるわ」
「ミスター・ゼルヘブンてほんと不思議な人だよな。見てると心が落ち着くっていうか」
「ミスター・マヘッダもやはり美しい体だ。あそこまで筋力をつけれるとは、ミスター・マヘッダだからできるのだろうな」
「きゃあ! ミスター・ワイナーが来たわ!! なんてかっこいいの!」
一際大きな歓声に迎えられ、ミスター・ワイナーが入ってきた。
「いつ見てもあの美貌には惚れてしまうわねぇ」
三人の隊長がたくさんのデトランの挨拶に紛れて玉座のサイドの椅子へと腰をおろす。右にミスター・ゼルヘブン、左に、玉座側からミスター・マヘッダ、ミスター・ワイナーの順番だ。皆それぞれの表情でそれぞれの場所へ目を移している。
「やっぱ隊長が座ると様になんなぁ。俺もあそこの椅子へ座ってみたいもんだぜ」
「僕はこのままでいいけどね。隊長も総長も忙しそうだし、これ以上忙しくなるのは勘弁だよ」
「つまんねぇ男だなお前は」
「……」
どうして君にそれを言われなくちゃならないんだ。
するとグラルダーがいきなり叫んだ。
「おわっ!! 俺の愛するシェーダだぜ!!!」
またしても乱舞の間がざわっと騒いだ。
「シェーダー!!! 会いたかったぜー!!」
グラルダーはミス・シェーダに熱狂的に歓声をあげた。
ミス・シェーダは覇打獣の中の唯一の女性デトランだ。覇打獣となるのは女性としてのハンデがやはり邪魔をし簡単になれはしない。そのハンデを乗り切って覇打獣となったミス・シェーダは、女性デトランの憧れとなり、男達はそのシェーダの美貌に熱を浮かした。支持率の高い覇打獣の一人である。
「そんなに魅力的には見えないんだけれどな」
周りの黄色い声を聞いて思った事をポツリとつぶやくと、すぐさまグラルダーが反応した。
「何言ってんだ馬鹿野郎! ミス・シェーダのあの整いすぎにもほどがある顔……。やばすぎるじゃねえか!!」
興奮したグラルダーの大声が耳に痛い。
「だってあの人冷たいにもほどがあるじゃない。誰に対してもそっけないし」
「その澄ましてるにしてもほどがある態度がまたいいんだよ!! 子どものロアには理解できねぇよ!」
僕は呆れてため息をついた。あのミス・シェーダのそっけない態度は僕には澄ましている様には見えない。僕からしたらあれは人を見下した態度だ。自分の力量にそぐわぬ者は虫と同じよ、と言われている気分になる。
きゃあきゃあわぁわぁと騒々しかった乱舞の間が、静かに開いたドアと共に沈黙となった。
入室してきたその人物は、コツン、コツンと靴を鳴らして、急ぐでもなく真ん中に置かれた椅子へむかって行く。そしてゆるりと玉座へ腰をおろすと、懐かしそうに肘掛けを撫でた。
「こんにちは、諸君。中には初めての者もいるであろう。我はアーサー・ウェン・スカイウォーナ」
良く通る声。ただ話しているだけのその声は、深海の底の様に重い圧力を感じた。ミスター・スカイウォーナが会議室に現れる直前まで騒がしかったデトラン達は、彼が話し出した瞬間水を打ったように静まり返ったのである。
見た目はたいした特徴のある顔でもないが、額から顎まで目を通って一直線に伸びた傷跡が、歩んできた道の険しさを物語っていた。ヴァルにも傷はある。だがミスタースカイウォーナの傷は深くえぐれた傷だ。目が見えているのはきっと奇跡だろう。そしてこれもヴァルと同じ。その目は濁る事なく強い光をたたえていた。
「諸君に集まってもらったのは報告があってのことだ。これは前代未聞でな。若い諸君の何倍も長く生きている我でも初めての事件だ」
未だ声を発する者はいない。誰もが覇王の空気にのまれた。
「さて、残念な事に急な集合だったからな。集まった隊長は4人しかおらん。許してくれ諸君。テリバーよ、総員は今日この場におる者で全てで良いか?」
「は、よろしいかと」
「ふむ、では終始ベルを鳴らすぞ」
そう言うとミスター・スカイウォーナは手をくるりと円状にひねった。すると、瞬く間に透明のガラス製の様なベルが出来上がる。
そしてミスター・スカイウォーナが手をパチンと鳴らした瞬間……
カーン、カーン、カーン
小柄なベルのはずなのに、良く響く大きな音が乱舞の間へ広がった。
「総員会議を始める!」
そして、ミスター・スカイウォーナの一言から総員会議は始まったのである。




