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漆黒の花嫁  作者: つかさ
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酒屋にて、師の動揺

「……ん」

窓から差し込む光が眩しくて目を覚ます。僕はゆっくりベッドから起き上がった。

「また夢……」

今でもたまに昔の夢を見る自分に呆れ、僕はふうとため息をついた。ティラナの夢。それは僕の中で大きな記憶となり、夢に度々出て来る。

承認、か。僕は少し微笑んだ。あれからまだそんなに時はたっていないのに、ずいぶん懐かしく感じる。

すると、ドアが礼儀知らずにドンドンと鳴り響いた。誰かがノック(ノックにしてはドアが壊れてしまいそうだけど)しているようだ。

「おいロア! 起きてっかー!?」

聞き慣れた声を聞いて僕はため息をついた。

「やっぱりお前しかいないよね」

ベッドからのそっと降りて、僕は急ぐこともなくドアは開けずに前に立った。

「マナーってものを教えようか?」

「いいからはやくでてこい! なんで鍵閉めてんだよ?あけろ!」

なんだって?君は鍵をかけてなかったら入って来てたのかい?

「いいかい、まずはそのノック。もっと丁寧に優しく、3回程度叩くだけでいい。叩くといっても優しくね。それから……」

「わーかった、わかった! 次から気を付けるから開けてくれ!」

「それから、ノックした後は名前を名乗るように。言葉使いも教えてあげようか?」

ドアの向こうで咳払いが聞こえた。

「早朝で申し訳ない。グラルダーだ。ベイル殿、部屋にいらっしゃるか?」

「ああ、おはようグラルダー。僕も今ちょうど何か大きな音がして起きた所だよ。何か用事かい?」

「そ、それはそうか。ちょうどよかった。長話になるんで部屋に入れてくれないか」

「もちろん」

僕はゆるりとドアを開ける。するとお馴染みのいかつい顔が現れた。

「てめえロア! そんな厳しい作法朝からくらわすなよ!」

「君が悪いんでしょう?これ、安眠妨害だからね」

「ったく何が安眠妨害だよ。この前お前、ヴァルと一緒に真夜中叩き起こしに来たじゃねえか」

「だって任務だもの。君みたいに内容の薄い個人的な話で起こしたんじゃない。叩き起こしたって?それは叩き起こさないと君が起きないからそうしたまでだよ。あやまろうか?ごめんね」

グラルダーはロアの皮肉っぽい言い草に眉をきつく寄せた。

「けっ! とにかく今日は朝から作法を教えてくれたかわりに、酒でも付き合わせてやるよ」

「酒ぇ?やだよこんな朝っぱらから!」

「るせえ! さあ行くぞ!」

僕は引きずられるようにして部屋を出た。









ぼくらがデトランとなってから1年がたつ。

「おはよーロア!」

「おはよう、セナ」

「まーたグラルダーに付き合わされてんのか! おはよう!」

「おはようございます、ミネア。よければ一緒にどうですか?」

「あたしゃ朝から酒飲むほど馬鹿じゃないよ」

「なんだとミネア! お前俺が馬鹿だって言いたいのか?」

「他に何があるのさ?」

「おはよぉ、ほんと毎日元気だねぇ」

「ギルティ、君も来る?」

「うーん、また次誘ってよぉ。次の任務確か一緒でしょ?俺君たちみたいな元気ないし遠慮しとく」

「残念。じゃあまた」

沢山の仲間と挨拶を交わし、何人か酒屋に誘ってみたが、やはりミネアの言ったとおり朝から酒を飲む馬鹿なんてどこにもいず……。

「なんで僕がお前と二人でお酒飲まなくちゃいけないんだよ」

「いいじゃねえの、楽しくて。マスターいつもの!」

「はいよー」

マスターは楽しそうに笑っている。


ここは本拠地となるデトランの住処で、中央本部と言われている。僕らは承認されたあの日から中央本部へむかい、本部へついてすぐ自分の部屋を与えてもらった。何故か僕とグラルダーは部屋が隣。不運にもほどがある。

なんといっても中央本部まで来るのが大変だった。山を越え谷を越え、海を越えて山を越え、さらに谷を越えて登りに登り峡谷へたどり着き、そろそろ疲労が溜まって死んでしまうんじゃないかと思ったころにやっと到着した。そりゃあ人目もつかないに決まっている。


中央本部は48階まである、超高層のお城。中もとても綺麗で、何人もの使用人が働いており隅々まで手入れが施されている。研究部、戦闘部、医療部、事務部、料理部などその他色々の部があり、20階まではほぼ研究室や、武器保管庫、医療室などで埋め尽くされている。そこからさらに28階全ては、デトランの寝室となっている。ちなみに僕とグラルダーの部屋は32階にあたる。28階全てがデトラン専用の階となっているということは、それはもうかなりのデトランがいた。ヴァルは以前数少ないと言っていたが、なんの嘘だったのか。おかげで僕はまだ名前を覚えていないデトランや、顔すら見たことがないデトランだっている。


初めは慣れるのが大変だった中央本部での暮らしも、周りの人達の優しさと親切に支えられ、かなり不自由がなくなった。ただもう朝一に起こされたくはないので、グラルダーと部屋を離して欲しいだけで。

「ロア次いつ任務入ってたっけ?」

「6時間後だよ。しっかりしてよね。酔っ払って足手まといなるなら斬り捨てるから」

「酔わねえよ! 俺の酒の強さなめんなよ!」

まあ、確かに。グラルダーの酒の強さは半端ない。僕も強い方ではあるが、本気で飲み比べたら負けてしまうかもしれない。

「場所は覚えてるぜ。たしかプリペート海岸だろ?海の近くに悪魔が住みついて悪さしてるらしいな」

「ああ、なんでもどうやってか知らないけど、海に毒をながして魚を殺してるらしいよ」

「なんのために?」

「人間を寄せ付けるためでしょ。怒ってやって来た人間の心を喰うんだよ」

「ばっちーなあ」

あまり怖がった様子もなく、グラルダーはぐびぐびと酒を飲み干した。

「マスターもう一杯!」

「ほんと、馬鹿って元気」

「馬鹿は長生きすんだぜぇ」

くだらない話を続けて時間を潰していると、カランカランと、入り口のベルが鳴った。誰かが入ってくると分かるようにベルがつけられているのだ。

まさかこんな朝っぱらから呑む馬鹿が他にいたのかと入り口の方を振り返ると、

「おわ! なんでいるんだ?」

「ん?お前らなにしてんだ朝から?」

入ってきたのはヴァルだった。

「いや、なにしてるって酒しかねえだろ」

「そうか。ならそれは俺も同じだ」

ヴァルはそう言って僕の隣に腰掛けた。

「ヴァルディ、あんたもいつものやつかい?」

「ああ、頼む」

「ヴァル、珍しいね、こんな早くに起きてるとか」

ヴァルはほぼ毎日昼以降まで寝ているので、僕は物珍しげにヴァルを見た。ヴァルは気だるそうにタバコに火を付けた。

「まあな、色々あるんだよ」

「色々って、任務?」

「ああ」

仕事してんだなー、とグラルダーがつぶやいた。

「一人で動くの?」

「いや、俺だけじゃない。チーム戦だ」

僕はなぜか少し興味がわいた。いつもの好奇心で、立て続けにヴァルに質問する。

「ヴァルって確かチーム戦嫌いじゃなかった?」

「苦手だな。信頼できてこっちの行動パターン分かってるやつなら文句ないんだが」

そう言ってため息の様に煙を吐いたが、ヴァルの行動パターンを先読みできる人間なんているのだろうか。

「てことはあんまり良くないメンバーなんだ」

「上から決められたもんは仕方がない。強制参加だしな」

「そんなに強い悪魔なの?」

「ああ。一端のデトランじゃ相手にはできん」

「上から指令が来るなんてよほど危ない任務なんだね」

「特別任務だからな」

そう言ったヴァルの顔が、言ってしまったというように歪んだ。ますます興味がわく。

「特別任務?初めて聞いたけど、それってなに?」

「忘れろ。たいした任務じゃない」

「へえ?そんなに嫌そうなのに?」

「ったく、お前にこういった話をするとすぐ食いつくな」

ヴァルは心底嫌々し気に僕を見た。

「なんだヴァル、弟子に隠し事かよ?」

グラルダーがニヤニヤとヴァルに言った。

「子どもは知らんでいい」

「じゃあ隠さなくちゃならないような話題なんだね?」

痛い所を突かれたヴァルはうなった。

「もういいだろう。俺はそろそろ行く。ロレックス、またゆっくり来るよ」

おう、とマスターが返事をする。ロレックスはマスターの名前だ。

「お前らも任務が近いだろう。酒もそこそこにしておけよ」

「まーたじっくり聞かせてもらうぜヴァル。またな」

ヴァルはグラルダーの言葉を鼻で笑って店を出て行った。

「……なんなんだろう、特別任務って」

「さあな。なんか臭うがなあ」

「ヴァルがあんなに動揺するって事は何かしら隠してる事みたいだけど」

「あやしいな」

僕とグラルダーはヴァルの不自然な動揺を疑って考え込んだ。


「いくら考えても無駄だな。俺らはそろそろ任務に備えるか」

「そうだね。ごちそうさま、マスター」

そして僕らは店を後にした。

恋愛要素が先になりますが、お付き合いお願いします。

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