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漆黒の花嫁  作者: つかさ
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師弟の覚悟

「俺がキュラムの……!?」

「ああ」

グラルダーは信じられないと言うようにただただヴァルを見つめた。僕もだが。

「まさかお前まで……。俺も驚いたぞ。いやはや、ベイルの気が大きすぎてお前のキュラムの気がかき消されていたんだな」

「……で、でもよ。なんで今になって覚醒する?タイミングがいまいち掴めねえんだが……」

「うむ。これは憶測だが、お前たちは初めてキュラムどうしでぶつかりあったな?多分それにキュラムが共鳴しだんじゃないかと思う。俺はずっと木刀を使っていたからな」

ヴァルはそう言って木刀をふるふると降った。

「お、俺はこれをどうしたらいいんだ?」

「どうしたらいいって、別にもともとデトランに入るのはきまってんだ。ちょうどいいじゃないか?お前も一緒に戦えるぞ」

「お、おう。よかった。よかったよかった」

やっぱりグラルダーはまだ腑に落ちない様子で、それでもひたすら「よかった」を連発した。でも時間がたつごとに少しずつ理解してきたようで。

「っしぁぁあ!! これで俺は世界中の悪魔ぶった斬ってやる!! ヴァル! 俺をもっと鍛えてくれ!」

こんな風に、うるさいほど元気になった。僕は少し呆れて苦笑しつつも、素直にグラルダーがキュラムの適合者であったことを喜んだ。










あれから3ヶ月。

僕はジリジリと詰め寄った。目の前にいる敵に気配を悟られぬように。その敵は木々の中にぽっかりとあいた、円状の草むらでこちらの様子を探っている。気付かれるものか。

僕の隠れている茂みから少し離れた茂みにはグラルダーが待機していた。目配せしていつでも飛びかかっていいかとジェスチャー付きで伺うと、オッケーサインを出してくる。

僕はなるべく覚醒さした腕の気を悟られぬよう、必死に気を押し殺していた。敵がゆるりと刀を抜く。


その瞬間、僕は勢い良く茂みから飛び出した。目の前の敵めがけて上から一気に爪を振りおろす。敵はヒラリとその攻撃をかわした。が、

「まだだぜ!」

攻撃を避け態勢を立て直そうとした相手には、今度は後ろにグラルダーが待ち構えていた。フォークの様に先端が三つに別れた槍をものすごい早さで敵に突き出す。

敵に槍は届かなかったものの、先端が敵の剣に当たり、鋭い音を立てて遠くへ弾き飛ばした。

「もらった!」

グラルダーは最後の一撃を決めようと雄叫びを上げて飛びかかった。

「甘い」

勝利と見て気を脱いていた僕は、そう言った敵の嫌らしい笑みを垣間見た……。






「やっぱ強え」

「俺に勝とうなんざ千年はやい」

ヴァルはぶんっと剣を払うと鞘におさめた。敵とはヴァルの事だ。一週間ほど前からこんな感じのやり方へ修行を変えたのだ。実戦のようにして経験を積み、いざデトランとなったらすぐに戦場へかりだせるようにさせるためらしい。それが三つ目の修行。

「だが腕を上げたぞ。まさかグラルダーがそこまで気配を隠しているとは。成長したものだな」

「はんっ! こちとら鍛えられてますからね!」

今までの苦難の日々を思ってか、グラルダーは憎らしそうにヴァルに言った。ヴァルはくっくっと笑うと、穏やかに僕を見つめる。

「お前もだベイル。よくその気を抑えたな。それにタイミングもなかなか良かったぞ。二人とももうかなりの腕っ節になっている」

するとヴァルの表情がすっと引き締まった。

「そこで思ったことがある」

こういう真剣で硬い顔をする時のヴァルは滅多にない。僕とグラルダーは黙ってヴァルの言葉の続きを待った。

「お前たちを、そろそろ一人前のデトランへ承認さしてやろうと思う」

デトランへと?承認?やっと、デトランという名を名乗れるようになるのか?

ふとグラルダーを見ると、目をらんらんと輝かせ、期待と不安の入り混じった目で僕を見ていた。何が言いたいか手に取るように分かる。

『聞いたかよ!?俺たちは認められたんだ!!』

大方そんな所だろう。だが僕も嬉しかったのは事実。微笑みを浮かべてグラルダーに頷くと、グラルダーはにかっと八重歯を覗かせて笑いかけてきた。

「で?どうやったら承認するんだ?なあヴァル! はやくしてくれよ! 俺は鍛えたこの腕を試したくてうずうずしてんだ」

ヴァルはあたたかな表情でグラルダーに手を上げ、黙らした。

「好奇心旺盛なのは知っているがとりあえず落ち着け。いっぱしのデトランなるものが身なりを乱しては不恰好なことこのうえない」

そう言われたグラルダーは、すぐにぴしっと姿勢を正しヴァルの言葉を待った。

「待ってヴァル。承認って、本拠地に出向かなくてもいいの?」

デトランとして認証されるためには、本拠地で何かしらの儀式の様なものでもあるのではないかと思っていた僕は首を傾げてヴァルに聞いた。

「まあ、一番それが正式でいいんだがな。本拠地にわざわざ行かなくとも承認はどこでもできるんだよ」

グラルダーはそう言ってにっと笑うと、何やらそこら辺から拾ってきた気の棒で地面に円を書き出した。その中に絵を描く。それはヴァルがデトランについて説明していた時に見せてくれた紋章の、龍のような絵だった。

大人の男が5人入るほどの円に、ヴァルは器用に枝を滑らし絵を描いていった。

「ふん」

ヴァルはぽいと枝を投げ出した。

「こんなところだ。ここに呪文をかけると本拠地の方へ連絡できるんだよ」

そしてまた真剣な面持ちになる。

「本当にデトランとなって良いのだな?」

「何今更言ってんだよ。俺たちは最初から覚悟できてんぜ?」

「最終確認だ。いいな、デトランとなれば日々戦の世界だ。どれだけ傷付いても、どれだけ恐くても、どれだけ相手が強くても、立ち向かわなくてはならん。もちろん普通の人間と共に生活はできない。俺たちデトランにとっては出現した悪魔を素早く始末するのが役目。そのためには本拠地の方で引きこもり、いつでも待機できる様にせねばならんからな」

グラルダーをちらと見た。少しだけ顔に戸惑いがある。

「デトランになるならば、その命はデトランに売ることになるぞ。デトランの為に命をかけ、デトランの為に命を落とす。そういう仕事だ。もちろん、仲間の死だってある」

最後の言葉を聞いたグラルダーの顔が歪んだ。

「……あんたは、仲間の死を見てきたのか?」

グラルダーは僕が覚醒したあの日、仲間をほとんど失った。きっとそれはグラルダーにとって大きなトラウマとなっているのだろう。

グラルダーの問にヴァルは目を細めて答えた。

「もちろんだ」

グラルダーはうなだれた。だがヴァルには過去を悲しむ様子がない。

「仲間は腐る程死んでいった。俺が入団した時からいた友人達、俺を信じついて来てくれた親友、こんな俺に憧れ命をかけると言ってくれた部下達。俺より若いくせに、俺より早く死んでいった」

ヴァルはどこか遠くを見ていた。昔を思い出しているのだろうか。

「だが、一つ一つの死に心を折られては体がもたんぞ。その時の感情として胸にしまい込まねばならない。デトランに悲しみに暮れる様な暇はないからな」

「あんたは最初からそれができたっていうのか?」

グラルダーが重々しく言った。その問いにヴァルはふっと笑う。

「まさか。俺はそこまで強い人間ではなかった。だがな、悲しいことに、慣れてしまうものよ……。それほど死は惨酷に繰り返し繰り返しやってくる」

「俺はもう仲間を失うなんてごめんだぜ……」

「なら、お前が強くなればいい。仲間にかけた部分を自分が補えるように。そして守ってやれ。死なせない為に。だがそれでも守れぬというのなら、その仲間は名誉ある死を迎えることになる。自らも全力を出し、仲間にも背を押してもらえる。……ぬくもりを感じ、共に戦った皆の心に残る死を迎えれるのだ」

ヴァルは少し間をあけ、また続けた。

「これからお前達が行く所は、そういう所だ。これを聞いてもなお、デトランへとなるか?」

「ヴァル、僕はなるよ」

迷いなく答えた僕に、少しだけヴァルは驚いた顔をした。

「僕を強くして。力が欲しい。もう誰にも頼らなくていいように。僕のせいで誰かが傷付く事がなくなるように……」

僕はぐっと強く拳を握った。


本当は、自分への慰めの為に強くなりたかった。強くなれば、少しは安心する。ああ、もう誰も殺さなくてすむ。ああ、もう一人で大丈夫だ。

その為だけにデトランになったのだとしても、僕はかまわない。強くなったのなら、自分の中の化け物がいつ暴走するのかと怯えずにすむ。


「僕は、デトランになる」

ヴァルは頷いた。

「お前の覚悟、しかと受け取った」

そしてグラルダーを見る。

「お前の覚悟は?」

「……俺はデトランになることへの気持ちに揺るぎはねえ。ただ、仲間の死が……恐い。……でも、俺が強くなれば、俺が死なせないように守ってやればいい話なんだよな?……それに、俺は自分の罪を許せない。仲間を売ったようなもんだ。だから、俺には自由な暮らしをする権利がねえ。デトランの生き様が苦難だと言うのなら、俺にとっちゃあありがたいもんだ。苦しんで苦しんで、もう嫌だと思っても、それが俺にとっての妥当な暮らし。一生デトランに身を捧いでやるよ」

グラルダーは強い目でヴァルにそう言いきった。ヴァルもあたたかく微笑む。

「お前の覚悟も、しかと受け取ったぞ」

ヴァルはずかずかと近寄って来ると、僕たちの肩に手を置いた。

「お前達はもう、俺の弟子となる。お前達はまだ若い。だが身に余る苦しみを背負っている。俺はそれを知っている。意思の強さも伝わった。俺はお前達に持っているもの全てを叩きこんでいくぞ」

「ああ、ありがてえな。俺も師としてあんたが誇れるデトランになるさ」

「僕もどこまでもついていくよ。お望みなら地獄でも」

ヴァルは声をあげて笑った。

「いい決意だ! よし、ならば本拠地へ連絡をとるぞ」

ヴァルは円の中心へ立つと、目を閉じて何かをつぶやきだした。初めてきく言葉だ。きっとあれが呪文というのだろう。ヴァルが呪文を唱え続けていくと、円の絵が光を放ち出した。すると……。


『こちらは中央本部局長のテリバー・ナエル。どちらさまかな?』


「ヴァルディ・ソルジャーだ」

なんと、どこからか分からないが、知らない男の声がした。

『ヴァルかい! 連絡がないから心配していたんだよ?何か急用かい?』

「ああ、今二人のキュラムの適合者と居る。デトランとして二人を承認してやってくれ。すでに二人ともデトランになることを承知している」

『なんとなんと。いっきに二人もか! デトランの事は詳しく説明してくれた?』

「ああ、大丈夫だ」

『ふむ、わかった。ではその二人の適合者の名前を教えてもらおうかな。こちらで証明石と本人登録を作成するからね』

「一人目はグラルダー・レインドルで男。17歳」

『はいはいはい、っと……。いーよ、次の子』

ヴァルは僕を見て、何かを考え込んだ。すると何かを思いついたかの様ににやりと笑った。

「二人目も男。年も17ぐらいだろう。名前は」

ヴァルが自慢げに胸を張って、その先を言った。

「ロア・ロト」

僕は驚いてヴァルを見た。

「“ベイル”の名は、お前と女の思い出にしまっておけ」

ヴァルは小声で言うと、ウィンクした。


『登録完了。今ここに、二人のデトランを承認した。……よろしくね! 君たちにはこれから働いてもらうよっ!』

声の主は楽しそうに言った。





ティラナと、二人だけの……。


そう、僕はデトランとして新しい道を歩いて行く。君との思い出は過去の僕にしまっておくよ。





「ありがとう、ヴァル……」

僕は静かに涙を流した。


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