やだやだやだやだ、捨てないで泣
曲がり角の向こうからキャアキャアと、黄色い声が聞こえる。
彼がいるのか。
ステラは気が重くなりハァっとため息を吐いた。しかし曲がらないわけにはいかない。曲がり角の先にある図書室に行きたいのだ。
腹を括って角を曲がったステラの眼前には、予想通りの光景が広がっている。
4人の女子生徒が、1人の男子生徒の周りに群がっている。綺麗な顔の男子生徒は女子生徒と肩を組んだり腰を抱いたりしており、どこか誇らしげな様子だ。
「ねぇねぇ、フィン様ぁ。今度の休日、一緒にショッピングに行ってくださらない??」
「もちろんだよ。君の頼みならどこでもついていくに決まっているじゃないか。」
「あー!ずるいずるい!フィン様、私ともお出かけしましょうよぉ!」
「私も私も!」
「あはは。困っちゃうなぁ。順番ね、1人ずつ、一緒に行こうね。ね?」
「「「「きゃぁああ!」」」」
首をこてんと傾げながらウインクをしてみせた男子生徒に、女子生徒たちは黄色い声援をあげる。
ふふふと笑みを漏らした男子生徒は、ふと顔を上げた。どうやら曲がり角の向こうから来たばかりのステラに気がついたようだ。
(しまった。目が合ってしまったわ。)
面倒くさいことになりそうだと悩むステラとは対照的に、男子生徒はニコニコと笑いながら口を開く。
「おや?ステラじゃないか。奇遇だね。僕に何か用かな?」
「ーーーーーご機嫌よう、フィン様。いえ、用はございませんわ。図書室に向かっているところでしたの。」
声をかけてくれるな、と思いながらも、ステラは貼り付けた笑顔で対応する。
「図書室?あぁ、また魔法の本を読むのか。君はそればっかりだね。ちょっとは、ほら、この子たちを見習って、見た目にも気を遣いなよ。」
そう言ってフィンは、侍らせている女子生徒らをきゅっと引き寄せた。
その行動に、女子生徒らは再度黄色い声援をあげる。
(この方は、仮にも婚約者の前なのに何がしたいのかしら。そんなに私が嫌いかしら。)
面倒くさいなぁと思いながらも、早く図書室に向かいたいステラは適当に答える。
「ご指摘ありがとうございます。フィン様の言う通りかもしれませんわ。」
「えっ、あ、そ、それだけかい?」
ステラの答えに、フィンは驚いたように返した。
(それだけ?って、逆にこれ以上何を言えば良いのよ。)
面倒くささがピークに達したステラは、フィンの質問には答えず、退散することにした。
「ーーすみません、フィン様。急いでおりますので、、。それでは、ご機嫌よう。」
ステラは一礼してそそくさと立ち去る。
あ、ちょっと、とフィンが呼び止めた気もするが、いったん聞こえなかったことにする。
早く図書室に行きたい。ずっと研究していた魔道具がやっと完成しそうなのだ。必要な文献を探さないと。
パタパタと立ち去るステラの後ろ姿を、フィンはじとっとした目で見つめていた。
***
昔、とても仲の良い少女が2人いた。
彼女らは学園の卒業式の日に約束した。
お互い子供を産んで、その子たちが男女だったら結婚させましょうね。
学園を卒業した2人はほぼ同時期に結婚した。1人は侯爵家に、1人は子爵家に。
多少の身分差はできてしまったものの、2人は変わらず仲良く過ごしていた。
そして結婚から3年後、侯爵家に嫁いだ方の少女が男児を産んだ。
さらにその1年後、もう1人の少女が女児を産んだ。
かつての少女たちは、この上ないほどに喜び、女児が生まれるや否や、2人を婚約者にしたのだった。
そう。その2人こそ、フィンとステラである。2人は物心ついた時にはすでに、典型的な"政略結婚"前提の関係にあったのだ。
そうは言っても仲が悪かったわけではない。むしろ幼少期の2人は、互いの母親たちのようにとても仲が良かった。
ひとつ年上のフィンがステラを大層可愛がり、どこにいくにも、何をするにも甲斐甲斐しくステラの世話をやいていた。
それなのに成長するにつれて、良いように言えば落ち着いた、悪いように言えば冷めた関係になってしまったのだった。
***
「ねぇ、ステラちゃん。フィンくんは元気?上手くやれてる?」
「もちろんよ、お母様。フィン様も元気だよ。」
ステラはさらりと答える。実際には、とても上手くやれているとは言えないが。
「そう。なら良かったわぁ。ステラの卒業と同時に結婚するから、フィンくんとの結婚まであと1年、、、半くらいね!」
母親が幸せそうにステラに語りかける。
ステラは笑顔を貼り付けたまま、そうだねと答えることしかできない。まぁ、毎日のことなので慣れっこだ。
幸せそうにニコニコと微笑む母の横で食事を進めていた父が、カトラリーを置いてステラに語りかけた。
「ステラ。あと1年、フィンくんと必ず上手くやりなさい。こんな貧乏子爵家から侯爵家に嫁げるなんて、この上ない奇跡なのだから。」
頑張りなさいね。と優しく微笑む。
その父親の笑顔に、さすがに胸が痛くなってきたステラは、はい。と小さく呟くことしかできない。
どうしてこうなってしまったのだろう。
幼い頃は仲良くできていたはずだ。
小さい頃から魔法学に興味津々だったステラの話を、フィンはニコニコしながら聞いてくれたものだった。
そんなフィンに対して、恋愛感情こそないものの、将来の良きパートナーとしては信頼していた。
なのに学園に入学すると、フィンは女子生徒を侍らすようになった。婚約者がいるのに、そんな不誠実なことをするような人ではないと思っていたのだが。
結局ステラは、夕食の間中ぐるぐると考え込んでいた。
***
翌日の昼休み、ステラはひとつ上の学年の教室を訪れていた。
何のためかと言うと、もちろんフィンを昼食に誘うためだ。
とは言うものの、ステラはフィンと昼食を取りたいとは微塵も思っていない。
しかしながら、一応は婚約者であるので、仕方なく「私は仲良くしようとしていますよ」アピールのために毎日フィンを昼食に誘いにきているのだ。
それに、どうせ断られる。
関係悪化後から、ステラは欠かさずフィンを誘い続けているが、フィンが誘いに乗ってくれたことは一度もない。
それをわかっているから、ステラも日々の生活の一環として何となくフィンに声をかけるか、程度の認識だ。
ステラがボーーっと教室の前で待っていると、昨日とは別の女子生徒を侍らせたフィンが教室から出てきた。
「あ、フィン様、ご機嫌よう。よければ一緒に昼食でもいかがですか?」
毎日のこととはいえ、一応婚約者の前でこれはどうなんだ、と眉を顰めるステラに、フィンは満足そうに笑いながら答える。
「ステラ!今日も来てくれたんだね!でも悪いね。今日はこの子と一緒に食べる予定なんだ。」
「そうですか。」
いつも通りの答えを得たステラはあっさりと引き下がる。
「ごめんねー。毎日来てくれて、ステラは本当に僕と昼食がとりたいんだね。」
ニコっと不審な笑みを浮かべるフィンに、ステラは言葉が詰まる。
いえ!全くそんなことは思っていません!お気になさらず!!と言うのが本音だが、流石に自分から誘っておいてそれは、、、。それに、フィンの家の方が格上なので、ステラが本音を言えるはずもない。
何と言えば良いかわからなくなったステラは、場を切り抜けるため、無難な答えを返す。
「お気遣いありがとうございます、フィン様。ですが、私のことはお気になさらず、、、。お邪魔してしまい、申し訳ございませんでした。失礼致します。」
さも「婚約者に誘いを断られて落胆している令嬢」風を装ってその場を離れた。
場を離れる前、一瞬だけフィンの顔が見えたが、何やらとても笑顔だった。やはり彼は私が嫌いなのだろう。
それは困るな。どうしようか。
そう思いながら小走りで図書室へ向かう。
勢いよく図書室の扉を開けると、中には短髪の男子生徒が1人いた。彼はステラの姿を見ると「やっと来たか。」と声をかける。
「これ、昨日のバグ、解決しといたぞ。」
そう言いながら男は小さな魔道具をステラに差し出す。ステラはキラキラと瞳を輝かせながらそれを受け取った。
「ほんと!?やっぱりラウルは天才ね!」
「何だ、今さら気がついたのか?俺は国から直々にスカウトが届くレベルなんだぞ??」
自慢げに笑う彼の名前はラウル。この学園唯一の平民出身の男だ。
この学園には彼以外、貴族の子供達しかいない。
ラウルは平民にも関わらず、その莫大な魔力量と魔法のセンスが噂となり、国から「ぜひ学園で魔法を学び、卒業後は魔法省に!」とスカウトを受けたそうだ。
そんなラウルとステラの出会いは3ヶ月ほど前。ステラがずっと開発を続けていた魔道具が暴発しかけたところを、ラウルが助けてくれたのだ。
それ以来、昼休みは図書室で一緒に研究を進めている。
「昨日は一切水が出なかったからな。それは解消したけど、、、やっぱり出てくる水の量がまだ少ない。」
「そうだよね、、。あとちょっとな気がするんだけど。」
「これで潤すことができるのは、せいぜい小さな花壇ひとつ分くらいだ。畑には程遠いな。」
この世界の生活必需品のほとんどは魔道具だ。部屋の明かりや水道、火を起こすためのもの、これら全てそうである。
今も、手を洗ったり料理をしたりするための水の魔道具はある。それを基に2人が作ろうとしているのは、より広範囲により多量の水を供給することができる魔道具だ。
それがあれば農作業が格段に楽になり、収穫量も増え、さらに国が豊かになるだろうとステラは考えている。
「まぁ、もとの手洗いレベルの排水量と比べたら、これでも十分進歩しただろ。」
あとちょっと頑張ろうぜ。とラウルが呑気に笑った。
そうだね。と返したステラに、ラウルが何気なく聞いた。
「そういえばお前、今日も例の婚約者様のところ行ってきたのか。」
「うん。そうよ。」
ステラとフィンの仲が良好ではないと知っているラウルは、面倒くさそうな表情を浮かべた。
「へぇー。よくやるな。あんな浮気紛いなことされてんのにまだ好きってことか?」
「いや。というか元々恋愛感情はないけれど、、。」
「は?好きじゃないやつと結婚しようとしてたのか??」
心底理解できない、と言いたげなラウルは言葉を続ける。
「なんで??あ、お母さんのためだったか。」
「まぁそれもあるけれど、それ以上に大事なのはお金かな。」
「金?」
「うん。うちの家は貴族にしては貧乏だから。土地があまり肥えてないせいで、収穫量が少ないのよ。領民も困っているし、、。」
「それが結婚とどう繋がるんだよ。」
貴族様にも貧乏とかあるんだな、と呟くラウルに、ステラは答える。
「結婚すれば、侯爵家から多少の金銭的援助が得られる。そうすれば両親も、領民も今よりいい暮らしができるはずってこと。」
そう。ステラの結婚は最早自分だけの問題ではないのだ。
それをしっかりと理解しているステラは、いくら不仲だろうと婚約破棄されるわけにはいかない、何とかフィンを繋ぎ止めなければ、と考えている。
険しい表情を浮かべるステラとは対照的に、ラウルは呑気に答える。
「ふーーん、なるほどね。貴族様は難しいこと考えてんなぁ。」
魔道具を手の中でコロコロと転がしながら、ラウルは唸る。
そこでラウルは、ふと何かに気がついたようだ。
「てか、それって今作ってる魔道具が完成したら解決するんじゃないか?」
「え??」
唐突な話に、ステラは目を丸くさせた。
ラウルは、そんなステラの様子を気に求めることなく続ける。
「いや、だからこの魔道具完成したら、収穫量増えるだろうなーって話だったじゃねぇか。それに、この魔道具、国がかなりの量買い取ってくれると思うぞ。収穫量を増やしたいのは国も同じだろ。そうなれば、収穫量の問題も、金の問題も解決すると思うけど。」
「ーーー確かに、、。」
突飛な話だ、と思ってたが、確かにラウルの話には一理あるかもしれない。
ステラは、ゆっくりとラウルの言ったことについて考えてみる。
「だから無理して結婚する必要ないと思うぞ。貴族のあれこれはわかんねぇけど、平民の俺からしたら、結婚は好きな人とするべきものだし。」
「まぁ、責任は取れねぇから分からんけどな。」なんてケラケラ笑いながら、ラウルは言い切った。
「って!もうすぐ昼休み終わるじゃねぇか!ほら!教室戻るぞ!!」
時計を見たラウルはそう言って、図書館から走り出る。
ステラも走ってその後を追いかけながら、ラウルに言われたことについて考え込んでいた。
***
次の日。
昼休みになると、ステラは真っ直ぐ図書室へ向かった。
ガラッと図書室の扉を開けると、そこにはすでにラウルの姿がある。
「あれっ?早いじゃねぇか。婚約者様いなかったのか?」
「行ってない。」
ステラの答えにラウルは目を見開く。
「え??まじ???」
「まじよ。昨日ラウルに言われて考えたのよ。確かに、これさえ完成すれば大丈夫なのかなって。」
ステラの言っていることが本当だと気がついたラウルは、気まずそうに目を逸らす。
「ふーーん。、、、自分から言っといて何だけど、俺責任取れねぇぞ?なんかあっても俺のせいにするなよー。」
「わかってる。自分で考えた結果だから大丈夫。」
ステラはラウルの様子を気に留めず、言葉を続けた。
「それより、ほら。早くするよ。」
そう。魔道具さえ完成すれば、フィンのことを気にする必要もなくなるのだ。
ステラは気合を入れて、魔道具の改良を進める。
ラウルもその様子を見て、文献を探しにいった。
そして次の日も、その次の日も、ステラはフィンの元へ向かうことなく、図書室で昼休みを過ごした。
そうして1週間が経った。
「おい、この本見てみろよ。」
1週間後の昼休み、本を読み漁っていたラウルが、本から顔を上げてステラに声をかける。
「これ。この本のここ応用すればうまくいくんじゃないか?」
「!!本当だ、、。」
ラウルの提案にステラは目を輝かせる。
ちょっと試してみろよ。というラウルの言葉で、ステラは魔道具に魔力を込め始めた。
本に書いてある通りに丁寧に、ゆっくりと魔力を込め続けていると、途端に魔道具がふぉんと光を放った。
「で、できた。」
ステラは手の中にある魔道具をじっくりと見つめる。
魔道具に魔力を込めることに成功した。
これがもしうまくいっていたら、この魔道具は完成だ。と緊張した面持ちを浮かべる。
「ーー発動してみろよ。周りの本は魔法で守っておくから。」
ラウルが防御魔法を展開しながらステラに声をかけた。
頷いたステラは慎重に魔道具の魔法を発動させる。
その瞬間、びしゃっっとあたりに水が噴き出した。
その水を正面から受け、全身に水を浴びたステラは、目を輝かせてラウルを見る。
「ーー成功、成功したよ、ラウル!」
「そんなことより、お前、全身びしょ濡れじゃねぇか!」
子供のように喜ぶステラに、ラウルが走り寄ってくる。
「やった!やったよ、ラウル!!」
「いいから乾かせって!!風邪引くぞ!?」
ラウルのその言葉に、はっと我に返ったステラは、水に濡れた自分の姿を確認した。
「あ、、、。」
シュンと落ち着いたステラの髪に風魔法を当てながら、ラウルは話しかける。
「髪は乾かしてやるから、服とかは自分でやれよ。」
ラウルの言葉にステラも風魔法を使う。
ラウルはステラの髪を優しく手で梳かしながら乾かしてくれている。
「お前、せっかく髪長いのに何もしないのか?」
「時間がもったいないから。」
「ふーん、、。」
ステラの髪を乾かし終わったラウルは、その髪を丁寧に編み始める。
「ほら、できたぞ。」
ステラは軽く自身の頭を触った。自分ではしたことがないような複雑な髪型になっているのがわかる。
「ありがと。ラウル、こんなのできるんだね。」
「いつも妹にやってるからな。」
ふふん、と自慢げに笑いながらラウルは言って、ステラの手から魔道具を受け取る。
「これ、もっと広いところで試したいし、続きは放課後にしよう。教室戻るぞ。」
魔道具をポケットに直しながらラウルは言った。
ラウルの言葉に2人は図書室を出る。
これからどうしようか。まず広いところで試して効果を確認して、それから、、、。
ラウルと相談しながら歩いていると、廊下の先に見覚えのある顔が見えた。
「ステラ、、。」
「あ、フィン様。」
そこにいたのは1週間ぶりに見る婚約者だった。
前まで毎日のように会っていたので、久々に見かけるのは何となく変な感じだ。
「ごきげんよう、フィン様。少しお痩せになられましたか?」
フィンを見ながらステラは声をかけた。
フィンは、ステラこそ、、と言葉を返す。
「、、どうしたの、その髪型。」
ステラは自身の頭に触れる。
そういえば、フィンと会う時にも髪を結ってたことはなかったな、とステラは思い出した。
「ラウルにやってもらったんです。」
「、、、ふーーーん。」
フィンは小さく答えると、じとっとラウルを見た。
ラウルはその視線にビクッと体を震わせる。
「最近、昼休みに僕のとこ来なかったのは何で?」
「ラウルと図書室にいたので、、。」
ステラに視線を戻したフィンは再度質問をしたが、ステラの答えによって、さらに険しい表情になる。
「え???」
「???」
何でこの人は不機嫌そうなのだろうか。とステラは考えるが、理解ができない。
「、、じゃあ何?婚約者のとこに来るのやめて、別の男と過ごしていたってこと?しかもその男に髪まで触らせたの?何で??」
(何でって魔法のためだし、、。それに婚約者を放って別の人とって、あなたが言えることではないでしょう。)
ステラはむっと顔を顰める。
その様子に嫌な予感を覚えたラウルは、ステラにこそっと話しかける。
「お、おい。俺先戻っとくからな。」
「え?あ、うん。」
そう言ってラウルは走り去った。
フィンはその後ろ姿を眺めながら小さく呟く。
「僕よりあの男の方がいいの?」
「え?」
フィンは、ラウルが走り去っていった方を見ながらステラに話しかけた。
ステラは何のことかさっぱりわからず、頭にクエスチョンマークを浮かべている。
「あの男の方がいいんでしょ。」
絞り出すようにフィンが続けた。
「ラウルはまぁ、優秀な人なので、研究仲間としてはこの上ないですね。」
「やっぱり。」
フィンは深く項垂れた。
あまりに異様なその光景が理解できず、ステラは一歩フィンの元へと近づく。
「いきなりどうしたのですか、フィン様。」
フィンの顔を覗き込んだステラは思わず目を見開いた。
フィンが悲しそうな、泣きそうな、見たこともない顔をしている。
「ステラはあの男と結婚したいんだね。」
「結婚????」
「僕よりあの男の方がいいって、そういうことなんでしょ。2人で過ごして、髪まで触らせて、、。僕が、見た目を変えたら?って言っても何もしなかったのに、、。」
何を言っているのだこの人は、とステラは目をぱちぱちとさせる。
「魔法に夢中なのは、まだ良かったけど、他の男と一緒にいるなんて。僕のところには来なくなったし。」
フィンの顔が一層険しくなった。
「ーーーねぇ、ステラ。ステラは僕のことなんてもう嫌い?」
「いやいやいや、待ってください。嫌いなのはあなたのほうでしょう?」
ステラの言葉に、フィンは心底驚いたような顔をした。
「え、僕?」
「そうでしょう?学園に入学した途端、急に別の女の子との付き合いが多くなったじゃないですか。」
もっともなステラの言い分に、フィンは驚いたような、気まずそうな表情を浮かべて答える。
「あ、あれは!だって、、そうしたらステラが嫌そうな顔してくれたから、、。」
「え???」
「小さい時からステラが好きなのは魔法ばっかりで、笑うのも泣くのも魔法が関係してる時だけで、、。でも、僕が女の子といたらステラ嫌そうな顔してくれて。初めて魔法が関係してない時でも表情を変えてくれたから、、。だから、その、、。」
「?????」
疑問符がステラの脳内を占領する。
でも確かに言われてみればそうだったかもしれない。
「それに、女の子といるようになったら、ステラお昼誘いに来てくれるようになって、嬉しくて、、。なのに最近来てくれなくなって、知らない男と一緒にいるの見て、それで、、。」
フィンはそこまで言うと、瞳からボロボロと大粒の涙を溢した。
「え、ちょっと、フィン様!?」
「それでっ、捨てられるんじゃないかと思って。」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、フィンは言い切った。
(捨てられるのは私の方だと思っていたたのだけれど。、、というか、それならあの女の子たちは?フィン様のご友人、、にしては距離が近かったけれど、、。一体誰でどういう関係なのよ。)
そう考えたステラはおずおずと聞いてみた。
「あの、ちなみにあの女の子たちは、、?」
「知らないよ。何もっ、名前も知らない。ステラ以外、興味ないもん。勝手に寄ってきただけ。」
予想していなかった答えに、ステラは呆気に取られる。
つまり、この人は私のことが好きで、かまって欲しくて、別の女の人を利用して私を煽っていたということか。
なんだそれは。それって、それってめちゃくちゃ、、、
「めんどくさっ、、、。」
「!?!?ご、ごめん。ごめんなさい。あの、謝るからっ、何でもするからっ。やだよ、ステラ。捨てないでよ。」
捨てられると考えたのか、見限られると考えたのか、びくりと体を震わせたフィンは、さらに泣いてしまった。
「ステラぁ。ごめんなさい、、。」
「いや、もういいですから、、。」
そんなフィンの様子に、ステラの良心はちくりと痛む。
(フィン様は、ここまで私のことを考えてくれていたのか、、。それなのに、私はこの人のことを思って、何かをしたことが今まであったかな、、。)
ステラは幼いころを思い出す。
小さいころからずっと、フィンはステラの魔法の話をニコニコしながら聞いてくれた。ステラの話には専門知識が多かったから、魔法に興味がないフィンからしたら大層退屈だっただろう。それなのに嫌な顔ひとつせず笑って聞いてくれた。
自分はフィンの話を聞いたことはあっただろうか。聞こうとしたことはあったのか。
そう考えて暗い顔をするステラに、フィンはさっと顔を青ざめさせた。
「!?も、もういい!?、、僕なんて、もうどうでもいいってこと!?やだやだやだ、お願いステラ、捨てないで。」
「そうじゃなくて!」
何やら勘違いをしているフィンに、ステラは思わず大きな声をあげてしまう。
「十分あなたの気持ちは理解できたので、もうこれ以上謝っていただかなくていい、ということです。」
「でも、でもステラはあの男と、、。やだよぉ。」
「だからもういいって!」
ステラの声に、フィンはハッとして、シュンと小さくなった。
「ごめん、、。」
背を丸めて謝るフィンに、ステラは複雑な気持ちになる。
フィンがしたことを完全には理解できないし、めんどくさいと思ったことも事実だが、その根本的な要因は自分にあると思う。
現に、フィンがこんなにネガティブな性格なのだと知らなかった。知ろうともしていなかった。
そこまで考えたステラは一息つくと、フィンに向かって声をかけた。
「わ、私も悪いところはあったと思いますし、、。魔法のことばかりしすぎたところとか。だから、これからお互いのこと知っていければいいんじゃないですか?」
「ステラ!!!」
泣きじゃくっていたフィンの顔が、途端にぱぁっと輝いた。
そのフィンの表情に、グッと顔を赤くしたステラが再度口を開く。
「ひ、ひとまず、フィン様、良ければ一緒に昼食でもいかがですか?」
「お、お願いします!!!」
昼休み終了まで、まだ時間があることを確認したステラは、いつも通りを装ってフィンに声をかける。
フィンは大型犬のように、目をキラキラと輝かせながらステラに応えた。
***
2年後。
ステラの目の前には、あの時同様、涙で顔をぐしゃぐしゃにしたフィンがいる。
「ステラっ、ステラ、綺麗だよ。本当に綺麗で、、ほんとに、、。」
ただ違うのは、幸せそうな顔をしながら泣いていることだろうか。
涙が止まらず、声も出せなくなったフィンに対して、純白のドレスに身を包んだステラは呆れながら答えた。
「事前の試着の時に、フィン様も見ていたじゃないですか。」
「そうだけど、それとこれとは違うから!!」
フィンはボロボロと泣き続けている。
結婚式当日に新郎がこんなので良いのだろうか。とステラは頭を悩ませる。
「ステラ。」
涙をゴシゴシと雑に拭いながらフィンが口を開いた。
「何ですか、フィン様。」
「大好きだよ。僕にとってはステラだけなんだ。ずっとずっと、僕が好きなのはステラだけ。」
フィンのその言葉に、ステラは幸せそうに頷く。
「これからもずっと大好き。ずっと一緒にいようね。一生離さないからね。僕、長生きする。ステラよりも長生きするよ。ステラが眠りについたのを見届けたら即座に僕も死ぬから。だから死んでも一緒にいようね。」
ん?何やら嫌な予感が、、。
「あ、もちろん来世もだよ。来世も絶対に結婚しようね。人間に生まれ変われなくても絶対に一緒になろうね。そのまた来世も、その次も、その次もその次もその次もその」
「長いっ!!」
ステラのその声に、ようやく泣き止んだフィンは「ごめん、、。」と呟いてシュンとする。
その時、ゴーンゴーンと教会の鐘が鳴り響いた。入場の合図だ。
その音を聞いたフィンは背筋を正して、ステラに手を差し出す。
「僕と結婚してくれてありがとう、ステラ。絶対に幸せにするよ。」
「こちらこそ。ありがとうございます、フィン様。」
ステラは笑顔でフィンの手を取る。
(まさかこんなに面倒臭い人と結婚することになるなんて。この人は本当に来世まで追いかけてきそうだし、、、。多分私は、永遠にこの人から逃げられないのね。)
ステラはちらりとフィンの顔を盗み見る。
それに気がついたフィンは、ニコリとステラに笑いかけた。
(こんなにも面倒臭くて、すぐ泣いて、優しくて、綺麗で、可愛い、私のことを大好きな人が永遠に追いかけてくれるなんて。ーーー案外悪くないかもね。)
ふふふ、とステラは満足そうに笑いながら前を向いた。
教会の重々しい扉がゆっくりと開き始めた。
お読みいただきありがとうございました。
こんな感じで、ハイスペ重男子が自己肯定感激高無自覚女子にぶんぶんに振り回される連載を今週から始めました。よければそちらもよろしくお願いします。↓
『過保護ハイスペ幼馴染×2のせいで、大人になれませんわ!』
https://ncode.syosetu.com/n9921mt/




