楽園
とにかく止める。ここを絶対に通すべきじゃない。
目の前には勇者一行。皆、俺の幼馴染であり、村のことを良く知っている面々だ。
俺の背後には村に通じる門がある。
「カオス。そこを通して」
勇者ミリナがそんなことを言う。
「絶対に嫌だね」
俺ははっきりとそう言った。
絶対に嫌だった。
「なんで? 村に行かないと世界を救えないのに!」
「この先には行かせない。お前たちの旅はここで終わりだ」
俺がそう言うと、魔法使いのルードが口を開いた。
「理由を聞かせてくれ。君のことだ何か深い理由があるのだろう?」
「……」
ミリナがじっと俺を見つめてくる。
「お前たちはこの先の時計塔の魔法を解こうとしているのだろう? それはダメだ」
「なぜだ? 時計塔の時を動かさなければ、魔王の元まで行けない」
「時計塔の時を進めたら、死の時刻になってしまう。そうすれば皆が死んでしまう」
「……」
「だから絶対に嫌だ」
門の先にある村。そこにある時計塔はただの時計塔じゃない。この村の時を司る時計塔だ。
この村の人間達は魔王の力で魂を吸われ、消滅するはずだった。
だが俺が魔法を掛け、時計塔の時間を1日前に戻した。
そしてこの村は最後の一日を繰り返すことになった。一年を祝う祭りと、魔物の侵略。その繰り返し。皆が魔物に殺された後、魔王によって魂が吸われて消滅する直前に、一日前に戻る。
狂うほど何度も見た光景だ。
焼け野原になった村。祭りの飾りは燃え、ちぎれてゴミになる。あちこちに死体が転がり、魔物が村人の頭を踏みつぶす。
俺は何度も繰り返すうちに、夜は自宅の地下室に籠り、惨劇を見るのをやめた。
そうすれば毎日祭りを楽しむだけで終われるのだから。
もう村の皆が死ぬことはない。
邪魔する奴は、例えよく知る勇者達であっても、敵だ。
俺の覚悟が伝わったのか、ミリナの表情が硬くなる。だが、何度も苦難を経験してきたのか、この程度で止まりそうもなかった。
「カオス……。君と戦いたくない。だが君一人では私たちには勝てないよ? 戦うのならそれでもいい。直ぐに気絶させるから」
「やってみろよ」
俺は薬を飲む。
全身に激痛が走る。思わず叫んでしまう。何が起きているのかもう分からない。
体が肥大化する。気が付けば勇者たちが小さく見え、周りの全てがちっぽけに見えた。
「カオス!? あなた何を……」
ミリナが口を開き、呆然としている。
「絶対にお前らは通さない。この楽園を壊されてたまるかよ!」
俺は勇者たちに襲い掛かった。
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