ホウレンソウ標語
報告・連絡・相談をひとまとめにしてホウレンソウと言うわけですが、他にも野菜を使った語呂合わせを作ってみようというのが今日の会合の趣旨であります。ホウレンソウは、報告をまめにやる、連絡をまめにやる、相談をまめにやる、という形で豆に絡めてみれば非常に頂きやすいものではあるのですが、報告を無視する、連絡を無視する、相談を無視するという具合に虫に絡めてみれば非常に不味いものができあがってしまうわけです。そこで、ホウレンソウのほかにも何か、豆や虫に絡めてみてもうまいものを求めてみようということがありましてですね。今日のこの日に至ったわけです。
「では、H さんからお話しいただきましょうか。
「ええ、そうですね。ホウレンソウは青物ですので、大根に絡めてみるのもよいかと思ってここに持ち出してきました青首大根です。青首大根は、葉っぱの部分が青いので、ホウレンソウと同じように青物として扱うことができます。大根は、根っこの部分を食べるわけですが、葉っぱの部分も食べることができます。大根の葉っぱは、ビタミンが豊富で、特にビタミンAやビタミンCが多く含まれています。大根のような足とか、大根役者とか、大根3とか、色々ありましてですね。そのような標語にも、大根が使えるのではないかと思った次第です。
「で、大根に絡めるものとはというと?
「そうですね、だ・い・こ・ん、ですから、ダイエット、コミュニケーション、コスト、ン? という具合ですね。明日からダイエットしようかなぁと思って、友人とコミュニケーションを取っていたら、思わず今日限定のケーキに出会ってしまってコストが掛かってしまった、ん? あれ、これ明日からダイエットになるの? という具合ですね。どうでしょう?
「いやあ、それは...面白くないですね
「面白くないですか
「いや、そもそもですね。標語にしようっていうのに、三題噺、といいますか、物語にしちゃあだめじゃないですか。しかもオチがないですよオチが
「ああ、オチですか、オチは考えてきましたよ
「え? そのオチがあるんですか?
「そうなんです、明日からダイエットなのにケーキを食べてしまって、大混乱って具合です。てへ
「・・・、てへ、じゃないですよ。それ、オチと言えばオチですが、山田君、座布団1枚もっていって
「えええ・・・
ってな具合で、ホウレンソウ標語の談義が始まりまして、集会のメンバーがあれこれと頭を悩ませるわけです。
集会に集まってくるのは白髪のじじいや、白髪染めをしたお姉さんばかりでしてね、スマホアプリなんてものはわからないので、かちかちかちガラケーを弄っている方もおられるわけで、そりゃもう、まとまりがないことこの上ないわけですが。まあ、そこはそれ、町内会といいますか、団地の老人会みたいなものですから、決まるも八卦、決まらぬも八卦ということですね。
おっと、話がそれているうちに手を上げた方いますよ。
「ああ、K さん、どうぞ
「ええ、わたしも常々考えていたんですよ。いかのおすしとか、ええと、いかのしおから、とか、いかのてんぷらとか」
「ああ、いかのおすしは知ってはいるんですが、いかのしおから、ってのがあるんですか?
「ええ、いかの塩辛の場合は、「い」いかない、「の」のらない、「し」知らない、「お」怒らない、「か」帰らない、「ら」らしい。という具合にですね
「ええ?、その「らしい」ってのはなんですか? そもそも、いかの、まで同じで、その後、しらない、怒らない、帰らない、ってどういう意味があるんですか?
「いやあ、そんなことは「しらない」んで、でも「怒らない」でね、あきれて「帰らない」でね、そっちのほうが、あなた「らしい」ですよ
「・・・、って、おだててもダメですよ。山田君、座布団二枚持って行って
「えええ・・・
なんともはや、考えているか考えていないかわからない会合ではあるのですが、楽しければいいのです。そんな老人会ですから。それでも、何か、こう、目標をもってですね、勢いよくやりたいもので、おっと、また手があがりましたね T さん、どうぞ。
「ええと、私は、本日、総裁に選ばれました T です
「おっと、これはもう大きくでましたね。総裁ってことで、総菜に掛けているんですかね。総菜は主食ではありませんから、全体を美味しく召し上がるためには、もうちょっと味を薄めにしないと駄目なんじゃないか、ってことですね、ああ、口をはさみ過ぎました。T さん続きをどうぞ
「総裁という立場でですね、家父長制度を突破する形で、男に媚びを売り、男の権力にすがる形でこの地位に至ったことを全く持って、まさかまさか、連邦局の局員の立場からここまでのし上がることになるとは・・・
「あの、T さん、ちょっと、それ長くなりそうですか?
「いえ、すみません、言わないといけないことが先走ってしまったわけで
「いえいえ、興奮しないで大丈夫ですよ、で、標語のほうはどうでしょう?
「私は、ワークライフバランスの撤廃を提案したいと思います
「ええ、撤廃ですか?
「そう、馬車馬のように働き、馬車馬のように目標に盲目的に向かい、馬車馬のようにばしゃばしゃと雨の中をくぐって、飴と鞭でむち打ちながら党を議員をこき使っていきたいと思います
「いや、それは、ちょっと、その、議員さんが可哀想ではないでしょうか?
「いえいえ、国民のためならば身を粉にして働くのが国会議員の役目、使命でありますね
「はあ、まあ、決意はそうかもしれませんが、その、ほどほどになさった方がよいかと思いますが如何なものでしょうか
「いえ、大丈夫です。介護報酬を爆上げして、株価を上げて、円安を促進したいのです
「まあ、それは、どうなるかわかりませんが、で、忘れておりましたが、標語のほうは?
「そう、ワークライフバランスですね。ワーク・ライフ・ハラス、これが一体となって、日本を盛り上げていきたいのです。ワークは仕事、ライフは生活、ハラスは塩焼きにすると美味いところです。馬車馬の如く猪突猛進したもの、馬くいかのおすしだった、という訳でもなく
「あの、オチがないんですが。なんか、オチを
「そうですね、ここで、オチてしまうと、株価が落ちてしまうので、オチはありません。ワタクシの話は常にオチはないです!
「おお、なるほど、これはさすが、お惣菜のプロですね。
料理研究家の T さんは席についた。興奮しきっているが、まあ、大丈夫だろう。なんか、後ろに太郎みたいな人もいるけども、ひとまずそっとしておこう。
さて、最後にまとめてとして、それっぽい標語をつけておいて、締めにしたいと思うのですが、さて、どうでしょうか、何か締めのオチはありますか。皆さん。
司会者はまわりを見回したが、皆黙っていた。ひょっとしたらワークライフバランスの変更が自分のところに及んでくるかもしれないし、逆に、馬車馬のように社員を働かせることができる経営者は嬉々としていて笑みを浮かべていたが黙っていた。いや、こっそりと X に呟いていた、というか参政万歳なぞと言っていたのかもしれない。ひょっとすると、教会から「お・め・で・と・う・ご・ざ・い・ま・す」と喜びが伝えられて、くるくると傘をまわしておき、いつもより多めに廻しております、といいつつ、さらっと削除して吹けない口笛を吹いていたのかもしれない。ひょっとしたら、だれかが犬笛を吹いたのだろう。音は聞こえないけども、一斉に吠え立てる犬たちはわんわんきゃんきゃんと尻尾を振るのであった。
おって、そこにいたのは、ギターを持った、嘉門達夫似の老人であった。
「じゃじゃじゃーん、馬車馬からの駒りごと~、馬くいかぬの、蓬莱蓬莱、えらいやっちゃ、ぴーひゃらら~」
【完】




