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とある街での、とある出来事

作者: ゆーく
掲載日:2025/10/07


またいる


オレはデカい入れ物の中に突っ込んでいた身体を外に戻して頭をあげた。

今日の獲物を探すために身体を突っ込んでいた入れ物は今も魅惑的な香りをさせているがそれよりも気になるものがある。


オレが縄張りにしているここ一帯で最近よく見かけるあいつ。


はじめは美味そうな鳥だなとしか思わなかった。

すぐにでも狩ってやりたかったが、生憎とあいつが居る木の枝までは自慢の爪も牙も届かない。

背後を狙いに奴の居る木に登り始めた時点で警戒心の強いあいつらはサッサと逃げちまう。


それがわかっているから、はなっから狙わない。

ボスたる者、無駄な狩りはしないのだ。


そんなオレの高尚さを知ってから知らずか、あいつはピクリとも動かない。

オレの存在を気にした様子もなくただそこに止まっている。

そのことがだんだんと気になりはじめた。


何してんだとしばらく観察していても羽先一つ動かさない様子はもうただの鳥肉になってるんじゃないかと思うほど。


それならあいつがいる木の下で口を開けて落ちるのを待てばいいだけなのだが、一向に落ちる気配もない。



意味がわからん。

とりあえずあいつが一心に見ている先に目を向けた。



そこにはただのデカい建物が建っているだけ。

よく美味そうな匂いをさせたものをデカい入れ物にいれてくる場所。

オレの狩場のひとつ。



あいつもなんか食うもん狙ってるのか?



そんなことを思いながらオレはその日の獲物を持って根城に戻った。





そんな日がしばらく続いた。


オレの狩場は一つじゃない。

縄張りに幾つかの狩場があって気分でその場所に向かう。


だからあいつがいる狩場にいつも行くわけじゃない。

それでもオレが行くたびにあいつはいつも同じ場所にいた。







その日の獲物は豪華だった。

オレの好物の肉にありつけた。


いつもデカい入れ物に美味いものを置いてく奴にバッタリはち合わせたからだ。



「まぁた来てんのか。このドラ猫が」

「なぁん(さっさと飯よこせ)」

「いつもいつもゴミを漁りやがって。ったく」



オレより何倍もある身体をもつこいつはニンゲンという奴らしい。

先代が言っていた。


こいつらはメシを持っているが近づき過ぎてはいけない。

うまくやらなければこっちの身が危うくなってしまう。


らしい。


先代が言っていた。

先代が言うからそうなのだろう。



「ほら。コレやるから、もうゴミを漁るんじゃねぇぞ」



ニンゲンは何かを言ってオレに肉を渡してきた。

こいつらが何を言っているのかはわからないが、どうせオレの自慢の牙や爪に怯えているのだろう。


オレはここら一帯のボスだからな。


コイツらはオレたちと違って尻尾や耳がねぇから怯え具合が目に見えない。

それだけが残念だ。


まぁなんにせよ、今日のメシは豪華だ。

気分が良くなったオレは肉を咥えながら根城に戻ろうとした。


その時、ふとあいつが視界に入った。

いつもピクリとも動かず木の上にいるあいつ。

鳥肉なのか鳥なのかわかんねぇ奴。


いつもなら変な奴だとさっさと根城に戻るが。


オレはその場で今日の豪華なメシを食い切るとそいつがいる木の下まで向かった。



すこぶる機嫌が良かったからだ。

だからいつもとは違うことをした。



オレが木の下に着いても相変わらず鳥肉みてぇにピクリともしない奴。

本当に生きてんのか?



鳥肉になってるならえらく器用に木の枝に止まってるもんだと思う。



「なぁ。おまえ何してんの?」



オレがそう聞くと初めてそいつはオレに気付いたかのように羽を動かした。



「お。生きてた。つうか鈍くねえか?おまえ」



あまりの鈍臭さにこのまま登って食ってやろうかと前脚を木に引っ掛けると「うるせぇよ」と上から声がした。



「は?」

「おまえには関係ないだろ。さっさとどっか行け」

「あぁ?」



獲物であるはずの鳥肉がオレを見下ろしてる。

それどころかオレに命令をしているのか。



狩る。

こいつはぜってぇオレが狩ってやる。



毛を逆立てて木の上に登り始めると鳥肉もどきはサッサと空に飛び上がった。



「くっそ!いつも鈍臭そうにしてやがるくせに!」

「は?いつもってなんだよ。適当なこと言ってんなよ。クソ猫が」

「あぁ?!」



頭にきたオレはそいつに飛び掛かるように木から離れたがそいつは平然と飛び離れて行った。



「ふみ゛ゃ!!」



あのクソ生意気な鳥肉野郎を仕留めることしか頭になくて着地に失敗した。



くそっ!オレの自慢のヒゲが!



「チチチ。だっせぇ」

「ぁあ!?」



上から聞こえた耳障りな言葉に身体中の毛を逆立てる。


けれどフーッと威嚇するオレにはもう目もくれず鳥肉野郎はどこかへと飛んで行った。



「ッぜってぇオレが狩ってやる!!!!」






***






「おはよお。とりしゃん」



そう言って少女は笑った。


彼女がなんと言ってるのかは、わからない。

けれど俺はその言葉にチチチと返事をした。



嬉しそうに笑いながら少女は部屋の中に戻る。

何をしているのかニンゲンじゃない俺にはさっぱりわからないがたまに覗く少女の姿に機嫌よくチチチと歌った。





少女に出会ったのは激しい雨風が過ぎ去った後だった。



大きな嵐が来る前、俺たちはいつも餌を蓄え巣に籠って嵐が過ぎるのをじっと待つ。

本来なら俺もいつも通り巣に籠るはずだった。


だがそのときは餌集めが下手な仲間に自分の分を分け与えてしまい、手元の餌が心許なかったのだ。


だから、ほんの少しだけ、いつもより長く餌探しに出ていた。




————— 間に合わなかった。



嵐は俺が巣へ戻るより先にやって来た。

激しい風にあおられた俺は、翼を痛め地面へと叩きつけられた。



なんとか飛ぼうとするも、羽を動かそうとする度に今まで経験したことのない鋭い衝撃が全身を駆け抜けた。



(なんだよ、これ…。このままじゃ巣に戻れない)



焦ってやみくもに動かそうとすればするほど衝撃は増すばかり。

加えて、冷たい雨と激しい風が俺の全身を強く打った。



自分の身に何が起こっているのかわからないながらも、


このままでは死ぬかもしれない


と、薄れゆく意識の中で思った。










「あーー!とりしゃんだ!!」



ふいに聞こえた音に意識が浮き上がった。

次いでツンツンとつつかれてる感触。



(なんだ…?)



霞む視界と聴覚で必死に周囲の状況を把握しようする。

するとすぐそばに巨大な生物がいることに気付いた。


その正体に気付くと同時に身体中の羽がブワッと膨らんだ。



(まさか、ニンゲンか!?まずい!さわるな!)



俺たちはニオイで味方か敵かを判断する。

ここでニンゲンに触れられてニオイを移されてしまったら俺はもう群れへ帰れなくなってしまう。



過った最悪の予感に羽を膨らませながら必死に距離を取ろうともがいた。


しかし、肩翼が思い通りに動かない。

無事に動く肩翼の音だけがバサバサとむなしく響いた。



そんな俺の必死の抵抗を気にもせずにニンゲンはその大きな体で俺の身体を掴んだ。



「くそっ!!離せ!!!!!!俺に触るな!!!!」

「だいじょぶよー。だいじょぶだいじょぶ。ばあやー!とりしゃんいたー!」



ニンゲンは何かを言いながら俺を建物の中へと連れて行った。


ギュウッと音がしそうなほど掴まれて初めの鋭い衝撃を上回る痛みが俺の全身を駆け巡り、



俺はまたもや意識を失った。






その後は、いつの間にか餌の面倒を見られ、羽を治された。


なぜニンゲンが俺にそんなことをするのかわからない。

わからないが、ニンゲンに捕まった時点で俺はもう群れには戻れない。


ヤケクソのように開き直り動かなくなった羽が動けるようになるまで居座った。

そして、そんな俺を毎日毎日覗きにくる大きな真ん丸の瞳にほだされた。



俺はもう群れには戻れない。

だからといってニンゲンのもとで暮らすなんて冗談じゃない。


羽が再び動くようになり懐かしい風の感触を思い出した時、俺はその場を離れた。



けれど、あのニンゲンの瞳が忘れられなくて気がつけば毎日のように少し動かしにくくなった羽で、俺は彼女の傍まで飛んでいた。





風も穏やかで飛びやすい日。

俺はいつものように彼女のもとへと飛んだ。




「やぁーーーっ!!!」



聞き慣れない高い音に視線を向けると少女がカラスに襲われている。

どうやらキラキラ光るものを毛に付けていてカラスはそれを狙っているらしい。


あいつらは光るものが好きだからな、となんとなく眺めていると見覚えのある大きな丸い瞳に気付いた。



(あの子だ…っ!)



彼女はいつも他のニンゲンと群れて行動しているはずだ。

しかし辺りを見回しても何故か少女以外のニンゲンが見当たらない。



「くそっ!」



彼女のもとへ急ごうと下降体制に入ろうとした。

しかし、無意識に全身が強張った。



カラスにとって俺たちは格好の獲物だ。

ましてや今は、俺しかいない。

仲間がいればまた違ったかもしれないが、俺一羽では容易くやり返されるだろう。



たとえ運良く逃げ延びたとしても、あいつらはズル賢くて執念深い。

きっとどこまでも俺を追ってくるに違いない。



本能が逃げろと告げている。



それでもーー。



俺は意を決して、カラスに向かおうとした。




その時、



「ふみ゛やぁーーーーーご!!!!!」



カラスに負けず劣らず真っ黒い生き物が飛び出してきた。



「またてめぇか!!こんにゃろ!!!しつけぇぞ!!オレの縄張りで狩りしてんじゃねぇ!!!!!!」



その黒い物体は少女を襲っていたカラスに噛みつこうとしたのか飛び掛かっていた。

しかしカラスは悠然と翼を広げ空へと逃げる。


爪も牙も届かない相手に全身の毛を逆立てながら威嚇してる黒い物体はすぐ傍に立つニンゲンなど眼中にもないようだった。



「てめぇ!!降りてこい!!!オレの餌にしてやる!!!」



フギャーフギャーとうるさく鳴き散らすそいつを嘲笑っているかのように空中を飛び回ると、カラスは標的を変えて奴を襲い始めた。

しかし短い攻防の末、すぐに空へと逃げていった。



「っざけんな!!!まだ決着ついてねぇだろうが!!!いつもいつも逃げやがって!!!!!!もどれぇーーー!!!」



「フシャーー!」っという鳴き声を残して奴はカラスを追いかけて行った。



…あの飛び出してきた黒くてデカい物体は、いつだったか俺に話しかけてきた変わり者の猫だ。



(なんだあいつ…)



去って行くカラス


追いかける猫


ポカンとただそれを見送るオレ




そこへ「グス、グス……」と変わった音が聞こえて、ハッと我に返った。



地面の上では、大きな身体を小さく丸め、「あ゛ーーー」と声を漏らすニンゲンがいた。

近くへ飛んでいき上から覗いてみると、雨も降っていないというのに、地面が濡れている。


そしてあの真ん丸の瞳を身体で隠している様子になんだか落ち着かなくて、身体の奥がザワザワした。



だから、いつもは近付かないようにしているけれど今だけは、と彼女の肩にソッと降り立った。




そして、チチチと小さく歌ってみせた。



「もう大丈夫だ。あの意地汚いカラスはどこかへ行ったよ」



チチチ、チチチ、と歌う俺に気付いたのか彼女は身体に隠していた真ん丸の瞳で俺を見つめた。


なぜか今日はその瞳が濡れている。


けれど、彼女の顔が見れて気分をよくした俺は彼女の頭に移動して乱れた毛を嘴で整えてやった。



俺は餌探しも得意だが、巣作りも得意なのだ。



濡れた真ん丸の瞳が細まって、「キャッキャッ」と甲高い声が響く。

その音が嬉しくて、俺もまたご機嫌に歌い返した。







***





オレは今日も狩場に向かった。


このあいだは性悪トリを捕まえ損ねた。

今度こそ捕えるために同じ狩場に行き奴を待ち伏せするのだ。


そして、何も知らずにやってきたあの間抜けな性悪トリを今度こそオレの自慢の爪と牙で仕留めてやる。



とはいえ、腹ごしらえは大事だ。

狩りの前に少しでも腹を満たしておこう。



オレはいつものようにうまい匂いがする入れ物に頭を突っ込んだ。



「おい」



(あ?なんの音だ?)



入れ物の中で反響して聞こえてきた音にオレは突っ込んでいた頭を外に戻した。



鳥肉がしゃべってる



「なんだぁ?てめぇ、話しかけんじゃねえ。食うぞ」

「おまえに俺が食えるかよ」

「にゃんだとぅ!?」



頭にきたオレは建物の屋根にいるあいつの元へ向かうとした。

だが飛び乗ろうと体勢を取った瞬間、奴は悠々と空へと飛んだ。



「てめぇ!戻ってこい!」

「ありがとな」

「ぁあ!?なんのことだ」

「なんでもねぇよ」



そう言って鳥肉もどきは俺を馬鹿にしたようにチチチと鳴いた。



いつもいつもピクリとも動かず生きてるのかどうかもわからなかった鈍臭え奴はただの腹立つクソ鳥だった。



だがいつものようにピクリともしないよりはこうして挑発してくる今のほうがよほど張り合いがあるってもんだ。




なんたってオレはここら一帯のボス。

生半可な奴なんざ、相手にしないからな。




「こいつは俺の獲物だ」と、自慢のヒゲを揺らして笑った。




獲物と定めて笑う黒猫はそれでもどこか楽しそうに尻尾を揺らした。

そして、鳥もまた、いつもの木の上へと止まると機嫌良さそうにチチチと歌った。






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鳥ニキ…元気になってよかった…!女の子と猫ニキと仲良くな…!
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