Part 2-3 Spear of Extension 延伸の槍(やり)
Port of Guanta warehouse operated by the state-owned company Bolipuertos Anzoategui Venezuela, 13:55 Dec 22th/
USS DDG-99 Farragut Arleigh Burgh-class guided missile destroyer US Navy 4th Fleet 155 nautical miles south-south of U.S. Virgin Islands U.S. territory Caribbean Sea, 11:07 Dec 22th
12月22日13:55 ベネズエラ アンソアテギ 国営会社ボリプエルトス運営グアンタ港 港湾倉庫/
12月22日11:07 カリブ海アメリカ国領土バージン諸島南南百五十五海里米海軍第四艦隊アーレイバーグ級ミサイル駆逐艦DDGー99ファラガット
三台の黒いシボレー・タホを従えシルバーのメルセデスAMGーS63が国道九号線を出てベネズエラ四大港の一つであるグアンタ港に入って来た。
車輌四輌は何れもビンクロ・デ・マルテ・カルテル(:死の結束)のものらが乗っており何れも武装していたが、港は国営会社ボリプエルトスが運営しているが問題なかった。ビンクロ・デ・マルテ・カルテルのアメリカや欧州各国に密輸する麻薬取引量は南米最大であり、政府組織はもちろん軍や警察、ベネズエラ国内の多数の大企業に多くの賄賂を長年支払っており、国営会社ボリプエルトスもその一社でカルテルのメンバーが現れても問題視しない。
グアンタ港はベネズエラ四大港の一つといってもベネズエラの経済状況から地方のその港には港湾施設も少なく陸揚げ機どころか倉庫も数えるほどしかない。
そのグアンタ港で一番大きな倉庫をビンクロ・デ・マルテ・カルテルは密輸拠点として借りきってあった。
倉庫前に車列が止まるとシボレー・タホから十二人のサイドフォールディング・ストックを折り畳んだIMBEL MDー2バトル・ライフルを手にする陸軍の兵隊のような男らが素早く下りて倉庫前の周囲へ向けて警戒する陣を開くとAMGの後席ドアを開きビンクロ・デ・マルテ・カルテルのナンバー2であるロレンツォ・ラミレスが下りて私兵三人を連れて倉庫の大きな吊り下げ扉を開いた。
中には二台のレンジローバーが出入り口へフロント向けて止まっておりヘッドライトがハイビームで点けられていた。
"¡Apaguen las luces! ¡Es Ramírez!"
(:ライトを消せ! ラミレスだ!)
そう彼が怒鳴ると、レンジローバーの周囲にいる男らの一人が言い返した。
"¡Obligad a vuestros subordinados a deponer las armas!"
(:配下の連中の銃口を下ろさせろ!)
ラミレスが両側でバトル・ライフルを肩付けしている部下らに命じた。
"¡Baja tu arma!"
(:銃を下ろせ──)
彼の部下らが肩付けしたバトル・ライフルを胸の前に銃口を斜め下に向け両手で抱き抱えるとレンジローバーのヘッドライトが消され車輌の周囲にいる武装した男らの中から一人がラミレスの方へ出てきた。
"Lo siento. Fui precavido porque se trataba de una transacción muy costosa."
(:失礼をした。すまないな。何せ大商いだからな)
進み出て来たのは世界中の戦争地で戦闘機から核爆弾まで売りさばく闇の武器商人の一人エドガール・リヴァロルだった。
"Fue bastante rápido. Solo transcurrieron 24 horas desde que me puse en contacto contigo──"
(:随分と早く用意できたな。連絡して二十四時間だぞ──)
"Ustedes son socios comerciales importantes. Se lo envié por vía aérea en cuanto se realizó la transferencia del pago."
(:おたくらは大物の取引相手だからな。代金を振り込まれてすぐに空輸してきた)
武器商人にそう言われラミレスは当たり前だと鼻を鳴らした。闇ルートとはいえ五百万ドルもの莫大な金を支払ったのだ。
"¿Dónde está mi pedido?"
(:注文したものはどこだ?)
そうラミレスが問うとエドガール・リヴァロルが倉庫の奥へ案内した。
倉庫の半分を占拠するオリーブドラブのシート掛けられた山が四つあった。
その一山のシートを武器商人が部下に顎を振って指示すると成り行きを聞いていた部下の一人がシートを引っ張り剥がした。
出てきてのは17フィートもある移動発射台に載ったミサイルだった。
ラミレスは色々な武器は見てきたが、こんな大きなミサイルは目にするのが初めてだった。
"Misil antibuque Nord Aviation - Exocet MM40 Bloque 2."
(:ノール・アビアシオン社製対艦ミサイル──エグゾセMM40ブロック2だ)
ラミレスは傍に寄りその筐体へ手を伸ばし撫でた。冷たく何かの金属だと思った。長さの割に直径が細い。コンクリート電柱の最下部ほどしかない。これで大きな船舶を沈められるのかと不安よぎった。
"¿Puede esta cosa hundir un buque de guerra de la Armada?"
(:こいつで海軍の戦闘艦を沈められるのか?)
そうラミレスが尋ねると武器商人が説明した。
"Que un buque sea hundido o no depende también de su tamaño. Por ejemplo, el crucero lanzamisiles guiados clase Ticonderoga de la Armada estadounidense no puede hundirse de un solo disparo."
(:沈められるかは艦艇の大きさにもよる。そうだな──米海軍のタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦だと1発では無理だ)
やはり軍艦を沈めるのは難しいのだとラミレスは思った。だがその為に四発もこの高価なミサイルを購入したのだ。
"¿Qué es lo que pretendes conseguir?"
(:何を狙うつもりだ?)
そう武器商人に問われ、どの道世間に知れ渡るのだとラミレスは教えた。
"El barco que será hundido es un destructor estadounidense que está causando estragos en el Mar Caribe."
(:沈めるのは──カリブ海で我が物顔をしているアメリカ駆逐艦だ)
"Un barco de la clase Arleighburg... esto es venganza. Tres disparos lo hundirán sin duda, pero considéralo como un golpe final por si acaso."
(:アーレイバーグ級か──意趣返しだな。三発で確実に沈むが、一発は万が一の止めだと考えてくれ)
沈められるか──だが大砲があっても扱える兵がいなければただの鉄くずだとラミレスは思って武器商人に問うた。
"Pediré prestado un ingeniero que pueda disparar este misil."
(:操作できる奴を借りるぞ)
"Por supuesto. Está incluido en el precio."
(:勿論だとも。代金に込みだ)
もう一つ。敵のアジトに止め刺すものがある。
"¿Dónde está el otro que pedí?"
(:もう一つ注文したものはどれだ?)
そう取引相手に問われ、武器商人がシート剥がしたミサイルの台車へ行きアタッシュ・ケースを手に取った。
「艦長、ブリッジに入室!」
ブリッジの全員が一斉に敬礼し、トレヴァー・オファレル艦長が答礼するとそれぞれが職務に戻った。
「どうだエドガー、不審船はいないか?」
艦長に尋ねられエドガー・チェスタートン大尉が状況報告した。
「現在、警戒体制3──百九十海里に航行中の船舶は概ね十ノット以下の低速船ばかりですべて漁船と思われます。戦闘指揮所からの報告でも飛行中の小型航空機はカリブ海を越えようとしているものはなく、船舶、航空機共我が艦に脅威はありません」
DDGー99ファラガットの水上索敵レーダーAN/SPSー67(V)3の最大索敵距離は非公式に五十海里ほどだったが、フロリダ州ジャクソンビル海軍航空基地から遥々千三百l海里飛来したUAV─MQー4Cトライトンが上空三万フィートからより広域のカリブ海百九十海里に睨み利かせ、ジャクソンビル海軍航空基地から海軍ネットワークTADILーBでファラガットの戦闘指揮所にデータを送り続けていた。
「そうか。麻薬密輸の高速ボートを破壊してからまだ二十八時間にしか過ぎぬ。用心した方がいいだろう。カルテルが報復に自爆ボートを出してくることを警戒するように提督も言っていたからな」
「自爆ボートですか。神風ですね。不用意に近づく不審船は警告し、従わぬ場合躊躇なく沈めます」
そう大尉が言うと艦長が頷いた。
戦闘指揮所でAWS B/L7AWS B/L 7イージスの洋上レーダー・モニタを見つめ次々に索敵レンジに現れてくる洋上船をトラックボールを操作し識別表示をKNOWENに切り替えている隣りのクラレンス・ヒューイット三等兵曹を防空索敵端末モニタを担当しているロザリンド・サーマン上級兵曹は室長に聞こえぬよう小声でからかっていた。
「ほら、どうしたクラスタ──お前モグラ叩きの才能ねぇじゃないか──もっと頑張れよ」
「サーマン上級兵曹──なんでこれをマニュアルでさせるんですか!? こんなに漁船が出入りするんなら自動識別走らせればいいじゃないですか!?」
ロザリンドは笑いたくなるのを我慢して教えた。
「だからお前はいつまでたっても防空索敵のトレーニングをやらさせてもらえないんだよ。イージスの自動識別には弱点があってな。高速で接近する方に優先してコード割り振るんだ。迎撃対応に接近率と脅威優先係数が優先になっている。だがその先に近づくUNKNOWNに射撃管制システムにデータやり取りに掛かりっきりになって、後から来たミサイルに対応できないことはよくあるんだ。いざとなるとマニュアルでの人の即応能力が試されるんだよ」
押し黙って鬼のようにトラックボール操るクラレンス・ヒューイット三等兵曹の集中力と忍耐をロザリンドは認めた。
イージスの防空索敵は一人で対応しない。群がってくる敵機や対艦ミサイルを数人のオペで捌く。自動識別──自動迎撃はうたい文句だが、絶えずその処理を神経張りつめ俯瞰しボトムアップ・オペレーションで尻拭いし続ける。DDGー99ファラガットの戦闘指揮所では四人で防空に当たっていた。
理解できるかい?
研ぎ澄まされた四人掛かりの究極なモグラ叩きだ。
今ではモニタに映る三十二のシンボルを同時に逐いマニュアルで射撃管制システムにデータを放り投げる曲芸を身につけているとロザリンド・サーマン上級兵曹は自負していた。
お前は道半ばにしてまだ投げだしていないとクラレンス・ヒューイット三等兵曹の処理を見ながらロザリンドは鼻で笑った。
「あぁ! 上級兵曹殿ぉ! 今、鼻で笑ったでしょう!」
そう三等兵曹が声荒げると、背後から戦闘指揮所長のクライド・アスプルンド少尉が怒鳴った。
「ロザリンド! クラレンス! お前ら甲板掃除やらされたいか!?」
「いえ結構であります! 少尉殿!」
ロザリンドとクラレンスが声をハモらせると戦闘指揮所にいる他のオペレーターから失笑がもれた。
ロザリンドは端末を操作し艦橋下の左右にあるフューズド・アレイのビームの帯域を下げ広げ索敵範囲を延伸した。公式では百七十五海里の範囲の航空機やミサイルを拾い上げることができたが、実際は75ミリ波長のSバンド帯域を北はドミニカ共和国上空、南はベネズエラ内陸部百三十五海里にまで広げることができる。
海面高度15フィートをシースキミングして飛翔してくる対艦ミサイルも五十海里以上先まで見つけることができる。
この現在、艦を中心に二百海里余りのUNKNOWNの航空機は小型機二十四機で定期航路の旅客機が二機のみだった。
もしも爆発物満載の小型機が遠方から接近してきていても最大で三十秒で撃ち落とせる。艦が警戒体制1になれば戦闘指揮所長の確認なくその迎撃対応を許可されていた。
上空索敵管制モニタに蠢く蚊の群れの様なシンボルにまだミサイル警報の赤いラベルは表示されていなかった。




