Part 2-1 Shock 打撃
NDC HQ-Bild. Chelsea Manhattan NYC. NY. 09:07 Dec. 21/
Father Daffi Square Times Square 7th Ave. W 47th St. Manhattan NY. 17:06 Dec 21th
12月21日09:07ニューヨーク州ニューヨーク市チェルシー地区NDC本社ビル/
12月21日17:06ニューヨーク州ニューヨーク市7番アヴェニュー&47番ストリート タイムズ・スクウェア ファーザー・ダフィー・スクウェア
私でなくなぜボスを上院は聴聞会に召喚しようなどに至ったのかと疑念抱いたマリア・ガーランドは、指令室からヘラルドに会いに行った。
NDC会長のヘラルド・バスーンは指令室直下の全フロアを使い暮らしているが、民間軍事企業を含めて複合企業運営に関わらず日々傘下企業で使われる各技術を運営しているのはMGは承知していた。
だが、この五年であまり会話した覚えもなく、マリーはそもそもNDCが抱える膨大な特許権をカリフォルニア研究所一つで供給している事実は五年前にルナの記憶を受け継いで知っていたが興味もなくすっかり失念していた。
エレベーターから下りてマリーはあまり立ち入った記憶もないヘラルド専用のフロアに入ると驚いた。
常に数十人のハウスキーパーが働いているように通路が磨き抜かれている。
ちょっと病的な感じさえするとマリーは思った。
フロアは広く使用人の十数名ぐらい個室を与えるのは簡単だろう。
どの扉が彼の個室だったかうろ覚えでMGは通路を奥へ向かった。
確か数年前に訪れた時に彼の部屋はトニー・スタークばりの研究室か生活の居住区くか分からないほど様々な器機が溢れていた。
パラレルワールドの彼がメキシコの一件に球体関節戦闘服を提供してくれて、後日開発費用の捻出を気にしてカリフォルニア研究所の経費に眼を通したことがあったが、ヘラルドはまったく研究所の予算を借用してなかった。
ヘラルドに問い質す前に実態を知っておく必要があった。
マリーは廊下半ばで立ち止まり左手のブレスレットに指で触れて3Dホログラムを手首に立ち上げNDCの統合AIマザーにアクセスした。
「マザー、認証──マリア・ガーランド」
『認証致しました。何でしょうかマリー?』
「当社傘下すべての今期の特許申請数は?」
『五十一万千八百二十一件です』
その数が多いのか少ないのか比較する基準がわからずマリーはマザーに別な問い掛けをした。
「その申請懸案のカリフォルニア研究所での開発比率をパーセントでは?」
『98.87パーセントです』
やはり傘下企業が個々に研究開発したものは極端に少ないのだ。
「マザー、あなたはC研究所の現行研究のどれくらい内容に関して知っているの?」
『100パーセントに関して網羅しています。たえず研究データは弊社クラウドにアップロードされそのすべてを取り込んでいます』
「ならその──市場的に重要な開発にヘラルドはどれくらい関わっているの?」
『市場重要度の閾値は?』
「産業革命に匹敵する開発とします」
『98.5978パーセント』
多い!? 殆どにヘラルド・バスーンは口出ししていることになる。分野は様々だろう。工業品ばかりとは限らない。NDCは医療や遺伝子工学分野にも膨大な収益がある。なら彼は広範囲に渡り並外れた知識を持つことになる。
聡明なルナでさえ、知り得ているのは工学系だけだ。
「腹を探られくすぐったいな」
言われ振り向いたマリア・ガーランドは背後にヘラルド・バスーンが微笑んで立っていることに跳び上がりそうなほど驚いて左手首の3Dホログラムを右手で掻き乱した。
「ヘラルド、あなたに上院議会が特許申請の多さについて研究元の開示を求め聴聞会を開くそうよ!」
そう知らせ、マリア・ガーランドは相変わらず眼の前の二十代前半にしか見えない男の実年齢を意識していた。
NDC創設した当時にすでに二十代だったと聞いている。
なら四十代半ばのはずがどう見ても三十一の自分より若く見えるとマリーは思った。
「そうか。何れその時が来るのは覚悟していた。もう言い逃れできないかな──」
その時? 言い逃れ? 会長が何を言ってるのかとマリーは深読みしようとした。
「マリー、私はこれでも己の全知識を小出しにしてきたんだ。上院に物言えるロビーストにかなりの報酬を払って政府から探られるのを先延ばしにしてきた」
この人は立ち話で何を言いだしたのとマリーは困惑して、全知識という意味合いに臓腑をつかまれた気がした。
他企業を出し抜く年間六十万ほどもの研究の基礎知識を言ってるとしたらとんでもない話だった。
そうだ! 眼の前のこの人はNDCを立ち上げ僅か二十年足らずで世界最大規模の企業にした奇才だった。
「聴聞会に列碗の弁護士と私も同席し、追求を躱せるようします。その前に隠し事なしで確認しておきたいの──」
そう告げマリア・ガーランドはヘラルド・バスーンのオレンジ色の虹彩を見つめ問い掛けた。
「あなたはなぜ、そんなに多くのことを知ってるの?」
寸秒、彼がはにかんだような表情浮かべたとマリーは思った。
「君が主により授かったこの世界の外にある特異的のパラメーターをなぜ操れると聞いているようなものだ」
マリーは不満げに鼻筋に皺刻み彼に問うた。
「誤魔化さないで。そんな風にはぐらかそうとするなら守り様がないでしょう」
すると会長が眼を逸らし呟いた。
「すべて最初から知っていた」
マリア・ガーランドはざわざわと肌が泡立つのを覚え、そんなことがあるのかと自問自答しようとした。この人は自我が確立する幼少のことを言っているのか!? 十数年──年間六十万件の技術革新の知識を数歳の頃から持ち得ていたなど上院聴聞会でどう立証するのだと血の気が引いた。
わたしがパラメーター操作のことをルナに説明しようとして断念している以上に不可解だとマリーは思った。
ルナの思考パターンに沿うなら因果律が崩れていることになる。
私が暗殺者兄妹の兄ザームエル・バルヒェットの能力を奪い、時間転移できることをルナに話した時に彼女は青ざめて出来るだけ物事の対処にその時間転移能力を使わないことを約束させられた。その時ルナは因果律が崩れると言い切った。パラドックスを多量に生み出しやがて矛盾に判断と行動がとれなくなると警告された。
「ヘラルド、いいわ。そのことは聴聞会で発言しない。他にもっともらしい理由を作りましょう」
「助かるよマリア、礼ではないがもう継承してもいいだろう」
ヘラルドが視線戻し礼を告げたがマリーは上院聴聞会のことで頭が一杯でよく理解せずに断った。
「嫌よ! NDCの社長職でも嫌なのに会長なんかになるものですか!」
それを聞いてヘラルド・バスーンは苦笑いすると話を切り替えた。
「ところで今朝の爆破テロは解決できそうかい?」
それを聞いてマリーは鼻を鳴らして不満げに言い切った。
「解決? ええ解決するわよ。探し出し息の根を止めてみせるわ。ああいう手合いは放置すると世界中で害悪を撒き散らし、死ななくてもいい人が毎日死んでゆくの」
そこまで言い放ちマリーは皮肉混じりにヘラルドへ問い掛けた。
「なんでも知ってるのでしょ。テロをどうやってなくせばいいの?」
するとヘラルド・バスーンが恐ろしいことを口にた。
「簡単だ。地球上から人を根絶やしにするだけだ」
論外だとマリア・ガーランドは思って踵返しエレベーター・ホールへとむかった。
トレーニングルームからアン・プリストリが出てくると、出入り口両側で寝そべっていたカストルとポルックス──二頭のホワイトタイガーは起き上がり後をついて歩き始めた。
なんでこいつらいつもついて来るんだとNDC一の問題女は歩きながら眉根しかめた。
まるで少佐から見張っていろと命じられてるみたいだとアンは思った。
何か食わせたらなつくかとサーロインステーキを二頭に食わせたのが余計にまずかったのか、本社に出社すると一日中後についてくる。
いや、後ばかりじゃない。
時々回り込んで通路の先にいる。
アンは昼時でもないのにラウンジに行きウイスキーでも飲んでくつろごうと思ったがホワイトタイガーらが傍にいると落ち着けないと、いきなり立ち止まり両腕振り上げ奇声浴びせホワイトタイガーらを威嚇した。
「がぁ────あああ!」
一瞬、二頭は跳び退き警戒感丸出しでじっと見つめアンが背を向けるのを待った。
「くそっ」
そう言い捨て背を向けると足音もさせず二頭がついて来るのが気配でわかりアンは唇を歪めた。
少佐がなんでこんな猫科の獣なんかを社内で飼っているのかとセキュリティの間で一時期噂になったことがあった。
さぼってる社員を襲わせるため。
陰口を言ってる社員を襲わせるため。
襲撃者などの侵入者を襲わせるため。
うざい報道陣を追い払うため。
だいたいそれらはしばしば見かけるので全部本当だ。セキュリティの中に数人が襲われ労災申請してる奴がいる。
二頭いるので隙を突いて逃げるのも難しい。
アンは地獄の門番してるケルベロスをけしかけてやろうかとも思うが、後で少佐の仕打ちが酷いので我慢していた。
あれこれ考え歩いていると前からアリスとアランカの二人が楽しげにキャピキャピ話しながら姿現した。
挨拶交わし小娘らが後ろに行くと途端にカストルとポルックスが喉をゴロゴロ鳴らし始めたのを聞いてアンは眉根寄せた。
くそう! あの虎ども小娘らには甘えやがるとアンがラウンジへ急ぐと二頭が駆けてきた。
ホワイトタイガーに舐められると鮫肌で擦ったよりも痛いのにアリスらは平気で虎どもをわしわしと撫で回す。
さらに甘噛みまでされても小娘らはキャーキャー喜ぶ。
あの二頭は甘噛みすると見せかけていきなり本気咬みしやがるから大っ嫌いだ。
太腿とわき腹にまだ牙の痕が残っていて消えない。
そのうち少佐の顔色窺いあの大型の猫らをハドソン川にでもぶち込んでやると時々アンは本気で考える。
けっ! 猫は水が大っ嫌いだからな。
エレベーター・ホールに行き、ドアが開くとアンは駆け込んでドア閉鎖のタッチパネルをがしがしに叩いた。
すると虎どもはよく知っていて、スライドするドア先端のセンサーを足で遮り戻ってゆくドアを尻目に悠々と乗り込んで操作パネルの前に立つアン・プリストリの背後を取る。
アンはラウンジの階をAIに告げ思った。
いつもいつもサーロイン喰わせると思ったら大間違いだ。今日はタバスコだたけのピザを喰わせてやる。baconもりもりなら気がつかずに喰うだろう。
そう思った刹那、二頭が冥途服のスカートを引っ張り始めて、アンが蹴り跳ばすと二頭から組み倒され甘噛みされたアンが叫び声上げているとラウンジに着いてドア開き通りかかったコンシェルジェが驚いて逃げだした。
ニューヨークの中で人気ある観光名所の一つタイムズスクウェアは、ブロードウェイや様々なショップ、イベント、大道芸などで昼夜問わず人通りが多い。日に三十万人から四十五万人余りの歩行者が行き交う繁華街だとアメリカ人ならよく知られた地区である。
人が多ければトラブルも多く管轄のミッドタウン北管区警察署は犯罪抑止のためパトロールにも力を入れており車道には青のストライプの白い警察車輌をよく見かける。人混みには頻繁にペア以上の制服警察官がパトロールしているのを眼にもする。その威圧に人によってはファシズムだと見当違いの意見持つものもいる。
巡回する警察官は不審人物に用心するだけでなく置き忘れられた物にも警戒心を持つ。
911のテロ以降、不審な人物、所有者不明な物は徹底して警戒される。
年末で観光客で溢れ返るタイムズスクウェアに四人でパトロールに回っていたクェンティン・タッチェル巡査は雑踏の隙間からブロードウェイのスポーツ用品店のショーウインド前に小ぶりの黒いコンバットバッグが置かれているのに気づき同僚の三人に声を掛けた。
「おい、グランドスラムのショーウインド前に黒のバッグ」
そう伝え、クェンティンは左胸に付けた無線機のハンドマイクをつかみトークボタンを握って分署へと通信した。
「こちら206、こちら206──10ー44、グランドスラム前に黒のバッグ」
『こちら07、観光客の忘れ物か?』
「206、不明だが観光客の持ち物ぽくない。人を遠ざけて確認してみる。以上」
『了解した』
二人が歩道の南北に立ち押し寄せてくる歩行者を捌き始め、クェンティンと女性巡査のクローイ・ピークマンがバッグを挟み込むように両側にしゃがみ込んでクェンティンがその合成布のバッグを指でそっと押してみてクローイに告げた。
「硬い凹凸のあるものが入ってる」
それを聞いてクローイが眉根しかめた。遺品物を見つけ出した場合、中身の確認が出来ない時はSWATに準ずる緊急サービスユニットと爆発物処理班を要請する規定になっていた。
「駅の爆破テロでESUは手一杯だろ。ファスナーを少し開いて覗き込んで本部に要請することにしよう」
そうクェンティンが提案するとクローイはスポーツ用品店の前を迂回し車道にはみ出て歩く通行人を見やり彼を脅した。
「何かあったらどうするの? 十や二十の負傷者で済まないわよ」
今度はクェンティンが鼻筋に皺刻み両肩を上げてみせて無難策を受け入れた。そうしてクローイとクェンティンが立ち上がり本部へ連絡しようと彼がハンドマイクに手を掛けた寸秒だった。
凄まじい爆轟と同時に広がった爆炎に周囲の店舗の窓ガラスは砕け、歩行者の七十名余りが吹き飛ばされタイムズスクウェアに溢れ返っていた歩行者は叫び我先にと逃げ始めた。その瞬間、交差点から逃げだす人々を狙うようにブロードウェイと7番ストリートの周囲で次々に爆発が巻き起こり観光地は修羅場と化した。
21日────二つ目の地獄が口を開いた。




