Part 6-1 Desperatio 絶望
USS DDG-65 Benfold guided-missile destroyer, Destroyer Squadron 15, 7th Fleet.103 nautical miles southwest of Guam 10:11 Dec. 22th/
Observatorio Roque de los Muchachos, 38728 Villa de Garafía, Santa Cruz de Tenerife, Spain 01:25 Dec. 22th
12月22日10:11 グアム島南西西103海里 米国第7艦隊第15駆逐戦隊所属ミサイル駆逐艦DDG-65ベンフォールド/
12月22日01:25スペイン領カナリア諸島ラ・パルマ島サンタ クルス デ テネリフェ・ガラフィア村ロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台
艦橋の内線で呼び出しが鳴り少尉が受話器取ると報告を受けそれを戻し艦長エドワード・クィンラン大佐に告げた。
「艦長、戦闘指揮所からです。球体と思われるブラインド領域がグアム島を通過し方位0-0-7へと向かっています。移動速度は以前として30ノット。距離変わらず」
クィンラン大佐は窓から遠くに見えるグアム島を見つめ思った。
一旦詰めた距離が巨大球体の移動速度が上がり狭めることができなくなっていた。だがまったく追いつけないでいる第7艦隊旗艦からはアーレイバーグ級ミサイル駆逐艦DDGー85マッキャンベルと共に巨大球体へ打撃を加えろと命じられていた。
球体はグアム島を飛び越したので通常攻撃を仕掛けても島に危害が加わる恐れはなかった。
だが多数の艦載機による打撃は多大な損失を伴いすべて失敗し副提督はこれ以上の艦載機失うわけにゆかず球体に追従する当艦とマッキャンベルに巨大球体の足止め指示を出した。
マッキャンベルと二艦で30発以上のミサイルを撃ち込みそのすべてがハッキングされ落とされていた。
方法はあるのかとクィンラン大佐は思った。
あれは海原を穿ち人の意識に介入する力を持っている。
核攻撃まで許可され、もしもそれで球体に損傷を与えられなかったらと大佐は苦慮し大尉を呼びつけた。彼が傍らに来ると
「至急109──2基にW80mod3を換装しろ」
大尉は復誦し艦橋を急ぎ出て行った。
アーレイバーク級1艦には公式にはW80が搭載されていないことになっていたが対艦戦の為に4発の200キロトン級熱核弾頭が配備されていた。
ただ問題はあの巨大球体が近隣にトマホーク巡航ミサイルを近づけさせないことだった。
球体登頂での起爆が望ましかったが、そこまでどうやって核弾頭を運び込むかだった。
あれは飛ぶものを何でも有無を言わさず落としていた。
空域を制圧できてない状況で限られた弾頭を無駄にはできない。
正義を力で成すなら最後まで押し通す。
どこの産物か知らぬが合衆国海軍を敵に回したことを後悔させてやろうとエドワード・クィンラン大佐は思った。
彼は内線受話器を取り上げると戦闘指揮所を呼びだした。
『CICキングトンです』
「デズ、エドワードだ。109が着水した場合、損害がないとどれくらい浮いている?」
『着水ですか──恐らくは長くても20分です』
大佐は暗算でおおよそ9.9海里だと判断した。想定より早く沈降しても海中で起爆すれば魚雷弾頭と同じくバブルパルスで大きな被害を齎す。
「W80弾頭搭載を2基用意させた。200キロトンをグアム島近海で爆発させると津浪被害が大きい。19時間後にグアム島北東540海里で仕掛ける。これまで巡航ミサイルはすべてをハッキングで落としている。そこで球体の侵行方向9.9海里海上にW80弾頭搭載109を2発を着水させ20分後にタイマー起爆させる。浮いているものをハッキングしようとは考えないはずだ」
指示を受けたCIC指揮官が命令を整理するために数十秒要した。
『了解です、2発の核爆発起こすのですか──わかりました。いけそうです』
「座標は標的が設定位置に近づいた15海里手前で微調整する」
そうエドワード・クィンランは命じて了承を得て受話器下ろし艦橋付きの航海士大尉に問うた。
「エリクソン、このままの速度で18時間巨大球体を追い続けられるか?」
最大戦速ではなかったがガスタービンぶん回し最高速度を出し続けていた。
「燃料的には可能ですが、その後作戦継続はできずグアムに寄港し燃料補充が必要です艦長」
無理もないと大佐は思った。元々フィリピン近海でオーストラリア海軍との合同演習だったのだ。
しかし巨大球体の目的が何なのかとクィンラン大佐は困惑した。
これだけの被害出しながら戦略が目的ならグアム島基地を襲ったはずだった。だが空軍も海軍も統合本部にも被害が一切ないと通知を受けていた。
それでもハワイや本土に向かわせるわけにはゆかない。
グアムは無事でも他が無事だという保証はない。
グランテカンは10.4メートル開口を誇るトップクラスの望遠鏡備えた天文台だった。
M87のブラックホールを観測していたセオドア・クーガン観測員は電話が鳴り天体観測をしていたモニタから顔を離し受話器を取った。
『クインカルです。久しぶりです。実は奇妙な事象を見つけて──』
セオドアの知人でアマチュア天体観測家の一人だった。こと天体観測では奇妙な事象は多かったが、そこから大きな発見に繋がることも多く彼は蔑ろにせず必ず真摯に耳を傾けることにしていた。
「どうしたんです? 奇妙な?」
『ええ、昨晩から海王星のトリトンを観測していたのですが先ほどから輪郭がぶれ始めたんです』
トリトンは海王星16の衛星の一つで最大のものだった。
「輪郭がぶれる? 観測機器の不具合で?」
それを電話の主は否定した。
『そう思ったのですが、海王星は変わらず。他の衛星も綺麗に見えていてトリトンだけが右へ変形しているのです』
「んん? 右へ? 全体的にでなくですか? わかりました。調べてみましょう」
セオドアは受話器下ろすとコンソールに戻りコントロールモジュールを操作しリストから海王星を選び望遠鏡のサーボを回しゆっくりと望遠鏡の光軸の向きを変え始めた。
M87から海王星へ向けるのに13分半が掛かりモニタにゆっくりと海王星がせり上がってきた。
彼は一度海王星を中心に捉えデータリストから海王星の衛星群の軌道計算をPCに指示しトリトンの現在座標を割り出すと手動で光軸調整を行いその大きな衛星をモニタに入れ込んだ。
一目で異変に気づいた。
トリトンの2時方向に小さなドームが盛り上がっていた。
黒色のドームはトリトンの直径2千7百からおおよそ10分の1ほどもありドームの直径は300キロメートル近くあった。
変化じゃない! トリトンの陰から真球の何かがせり出しているとセオドアはじっと衛星の輪郭を凝視しながらドームがゆっくりとそれでいて目視できる速さでせり上がっていた。
異常な光景を目撃し、まず彼は主任観測員であるリーダーに知らせようと席を離れた。
仮眠室を覗き込んで開いた扉ノックし交代し寝たばかりのリーダーに声を掛けた。
「ヴィンス! 起きてくれヴィンス!」
「あぁ──? 何だ────故障か?」
上半身起こし掛かったリーダーにセオドアは告げた。
「いや、違うんだ。海王星のトリトンに異変が起きてる」
「────海王星? トリトン────?」
スリッパに足を突っ込みながらリーダーが問い返した。
「モニタを見てくれ。トリトンの地表か、陰から三百キロメートルはある真球の何かが膨れ上がっている」
その訴えにヴィンスは眉根しかめ出入り口に立つ旧友を見つめた。
寝間着にカーディガンを羽織り急ぎ足で観測室へと急ぐとコンソールの一つの傍にセオドアが立ってヴィンスが来るのを待っていた。
卓の前に行き椅子に座らず腰を折りヴィンスはモニタを見つめるとセオドアがトリトンだと告げた。
その右肩に黒い球形の異物が膨れ上がり直径通りなら4分の3が浮き上がっていた。
「これはトリトンの地表からではない。確かあの星は窒素が氷土となった衛星だ。重力も強くなく地表割って出てきたら凍った窒素が多く飛び散る」
そうヴィンスが説明すると、セオドアが問い返した。
「なら裏から姿を現してきたのか? トリトンの衛星? それは天体物理に反しないか? 海王星の影響下で軌道を維持できんだろう」
そうだとヴィンスは思ってつけ加えた。
「いやトリトンに極めて近い直径のものがしかるべき距離をおいてトリトンの陰にいて公転を──それも有り得ないな。動力を持ち陰に居続けでもしないかぎり二重衛星ならこれまでに観測されているはずだ」
するとセオドアが指摘した。
「人工のものだと? まずくないか? 三百キロメートルだぞ!」
「あそこから三十億天文単位あることを感謝だ」
そう観測員リーダーのヴィンスが告げたが安寧がないことにすぐに気づいた。
二千七百キロメートルもの直径のあるトリトンが一瞬で崩壊した。
デストラクターが始動した今となってはもう第3惑星に拘る意味がなかった。
監視体はこの惑星の乾燥しきった衛星の裏でとおく遠くに駆け始めた駆逐体を感じていた。
これがゴールだとは数万年に渡る忍耐が報われないと思った。
あれが到達した時点で恒星すら崩壊してしまう極限の摂理。
この星に広がった文明崩壊まで26万秒を切っていた。
主よ我が身の束縛を解きたまえ。
一瞬と無限が結ばれた刹那、監視体は逃れられぬ呪縛に気づいた。
焦りは現実のものとなりこの衛星から離れられぬ定めに混乱し始めた。
第3惑星と共に滅べと仰るのかと主に問うた。
だがこれまでの様には返事がないことに監視体は気が狂わんばかりに訴えた。
これが縁だというのか。
我を御見捨てになるのですか。
3万年も貴方のために身を捧げてきたのに今になり見捨てようと仰るのですか。
訴えになおも返事がなく監視体は怯えに震えが走った。
ふと約束など最初からなかったと気づいた。
この世界の宇宙すべてのものに対し約束する意味などなかったのだ。
駆逐体は太洋に針先を差し込むよりも極小で取るに足らない事象。最終的には宇宙すべてを覆すのに誰を残し誰は閉め出すという選択に希望という言葉が存在しないのだと理解した。
ならなぜ多くの命と数多の文明を星々に創られたのだと監視体は困惑した。
すべてに意味がないのに。
膝を落とし舞い上がった塵すべてが流されずその場に落ちることしか許されない世界で青い星を見続けてきた老人は主の上にもさらに別な主がいるのではないかと両手地面につき勘ぐった。
この世はシャーレーの培養地に生まれたコロニーの一つでありそれを見つめる監視体は自分がさらに大きなコロニーの一部であると辛うじて認識できる程度に過ぎない。
見限りシャーレーを廃棄する決断を誰が下したのだ。
それは遥かに上位からの連鎖で、誰が始めたかも誰にもわからない入れ子の仕組みが向かい合わせの鏡の牢獄のように永遠に続いていた。
ならなぜエントロピー増大に反して命を創らせたのだと遥か遠い昔に初期段階の生命の遺伝子操作した記憶が蘇り監視体は絶望に言葉を失った。




