Part 5-5 Entropy 示量
Joint Region Marianas, Yigo northern Guam, Territory of Guam Mariana Islands Southwest Pacific, Local time 09:58 Dec 22nd
現地時刻12月22日09:58太平洋南西部マリアナ諸島グアム島グアム準州北部ジーゴ──マリアナ統合管区
ジーゴのマリアナ統合管区基地指令のイライアス・フォーガス中将は25機のラプターと4機のストラスフォートレスを失ったことを本土国防総省の大将に報せると彼が絶句した。
もはやグアム基地にある対空兵器が有効であるという保証もなく、市民が島の反対側へ避難していると付け加えると大将から言われた。
『出せる戦闘機はないのか!?』
「Fー22とBー52は全機戦闘に至らず洋上に投棄されました。救難に向かっているフリーゲート艦は謎の球体から攻撃を受けずパイロットらが漂流している海域に入りました。手を出せば球体はその兵器を尽く潰しますが、何もしなければ報復も受けません」
『その保証があるのか!? 謎の飛翔体がグアム上空に来て制圧の兵を下ろすことも考えられるんだぞ────』
会話中にドアがノックされイライアスは受話器の送話口を手のひらで塞ぎ入るように告げた。
大尉が入って来ると姿勢ただし報告した。
「報告致します。巨大球体が海岸線上空に達しそのまま内陸部へ自動車並みの速度で移動してます」
「攻撃は!? グアムの施設への攻撃は!?」
「確認されている被害はありません」
イライアスは眉根しかめ引き続き巨大球体を監視し報告を上げるように大尉に命じると尉官は退室した。
「閣下、中断しまして申し訳ございなせんでした。今、報告を受けたのですが、球体はグアム上空に掛かり始めていますが、地表は攻撃を受けておりません」
『いずれにしても本土に来させるわけにはゆかない。グアムとハワイ中間点で核攻撃する。これは決定だ。イライアス逐次報告を上げてくれ。以上だ』
取りあえず交戦は避けることになったが中将はパイロットらの被害報告のないことに胸をなで下ろし、多数の空軍機を失った責任を痛感した。不確かな情報だが第7艦隊の艦載機も多数被害出し一部の駆逐艦にも被害が出ていた。
イライアス・フォーガス中将は席を立ち棚に置いてある双眼鏡を手に執務室を出ると秘書に表にいると告げて統合管区基地指令室を歩いた。
窓の傍に多くに隊員や職員らが集まっており遠くの上空を見て囁き合っていた。
中将は階段を下りて庁舎出入口を出ると西へと振り向いた。
巨大な飛行体は肉眼でも十分に見えており完全な球体外殻である湾曲した鏡面に空が映り込んでいた。
外部に突起となる装備架装はされておらず艦船とは異なり、かといって航空機特有の翼や動力がまったく見られない。
あれで直径が2マイルもある。
空中に浮かんでいることだけで理不尽であり地上のどこの国の産物でもないと中将には思われた。
ミサイルを10や20撃ち込んで落とせるような代物ではないのが大きさから直感的にわかった。
最低でも戦術核兵器が必要だと感じた。
だがここで使うことも出来ない。島に大規模な被害が刻まれる。やはりグアムとハワイ中間点で破壊するしかないと考え彼は気がついた。
もしも戦術核で駄目なら戦略核を使うのか!?
それすら効果ない時に球体が報復に出たならどう防ぐのだとイライアス・フォーガス中将は思った。
これまで巨大球体は手を出さなければ積極的な攻撃意志を見せてない。
だが米国本土で戦略的行動に豹変する可能性がある以上何発戦略核兵器を使ってでもあれを沈める必要がある。
遠くから発砲音が聞こえてきた。
断続的でなく連射している。
どこかの馬鹿がブローニング重機関銃を発砲していた。
その曳航弾が巨大球体の下層に届いていた。
寸秒、下部の鏡面から光りが地上へ走りその光りの周囲の空気が燃え上がった。
爆発する音もなくいきなり重機関銃の連射音が途切れた。
地表を攻撃した!
攻撃手段を有している!
あの巨大でありながら針にも劣る対比の銃弾に反応しレーザーの様なものを放った。
だが地表一カ所にだけ攻撃を加えた。球体は反撃を必要最低限にしていることが想定された。
核攻撃を加えればそれに相応しい反撃がある。
イライアス・フォーガス中将は自室に急ぎ足で引き返しながら核攻撃を中断するよう提言しなければと焦った。
中央艦橋で幾つものデータウインドホログラムを周囲に展開させたクラミュスの服装したアストラル・マークⅢは、戦闘機や爆撃機の飛来がなくなり強引な対応せずに済むと仮想したが油断パラメーターが上がり、複数のウインドに腕を游がせ指で示し索敵範囲を拡張した。
13万5千660エーカー、標高千3百12フィートしかない島は容易に全域スキャンでき僅かな攻撃兆候も許しはしない。
付随的損害でさえ人は極力傷つけず、兵器のみを排除するように指示されていた。
151海里1-7ー6方位に人の戦闘艦船群がいたが2度の航空打撃を退けたので今のところ巡航ミサイルも飛ばして来ていなかった。
だが頭上の軍用衛星の通信を解析していてまだ人は諦めていないことに困惑を仮想した。
もしかしたら人はゼウスに対してさえ刃向けるのかもしれない。
地表から大口径弾を撃ち上げられその初弾の弾道解析から地表でM2機関銃を撃っている兵士を見つけ出した。
そんなもので傷一つ入りはしない。
燃え盛る恒星の深層部にさえ数万年に渡り機能を維持できる外殻を持っている。
機関銃の機構部目掛け高エネルギーレーザーをピンポイントで狙い撃ち破壊した。
溶解した機関銃から兵士が跳び離れるのを観測し演算から切り離した。
このまま人がグアムと識別子与えた島から離れると再び攻撃を仕掛けてくるだろう。
洋上なら地上被害も与えないからだとアストラルは仮想した。
すでに人の軍はミサイルが無効になると経験した。なら次なる武器はより高エネルギーの弾頭持つ自由落下の爆発物か慣性誘導の爆発物だろう。
洋上なら核弾頭を使うだろう。
アストラは長年通信ネットワークから得ていた膨大な情報から核融合高エネルギー爆発物である水爆が人類最強の兵器だと知っていた。
それは我には問題とならないが地球に悪影響を与えてしまう。
それは人を害する。
そうさせてはならない。
アメリカのこの海域の主力艦隊からは距離があったが、海洋には弾道ミサイル原潜が不規則に航行していた。
近距離の対象には成層圏から降下するミサイルを向けられないが2千海里も離れると自在に撃ち込めた。
それを妨害する手段は幾つもあったが一発撃たせて無効だと学習させる方が多数撃ち込まれることを避けることが出来るとアストラルは仮想した。
破壊エネルギー475キロトン級水爆の熱放射線の影響及ぶ範囲は直径4.6海里の円形内であり、爆風強度から起きる津波の破壊直径は一度の被爆なら近いどの島にも影響がなく18海里ほどだった。
弾道ミサイルを迎撃するのも容易だったが、撃たせ意味のないことを悟らせる方へとアストラルは演算を傾けていった。
グアム上空を飛び過ぎて洋上に出たアストラルはハワイ北部145海里を次の座標としベクトルを引き伸ばし、人が核攻撃を仕掛けるのが60時間後だと91%の確率で仮想した。
かわる代わる頭上に来ては見張っている観測衛星の暗号通信データの解読を行ったアストラルはそこに自身の画像が連写されているのを見つけ4つの衛星へ高エネルギー電磁波を指向させ次々に送り込み過負荷でそれらの基盤を焼き切った。
これで我が艦の座標確定は出来ず推定値は平均速度から仮定するしかないと仮想した。
あるいは観測のための有人無人の航空機を派遣するか、艦船を差し向けるしかないが、核兵器を使うには艦船を逃がすには足が遅すぎる。なら座標確定と同時に攻撃仕掛けるために確率とシュミレーション統計値分布から無人航空機を出してくる。
ランダムにベクトルを変更しようと仮想もしたが、無人航空機を派遣するぐらいなら意味もなくアストラルはこのまま同じ速度を維持した。
彼女が弾道ミサイル原潜からと判断したのかは、アメリカ本土からでは弾道ミサイル到達の時間が掛かりすぎ、グアムのサイロからだと反撃された場合被害が住民地域に及ぶと人らが想定するだろうと仮想したからだった。
以前、他の銀河のとある恒星の衛星で似たような判断を迫られた。
その時は銀河団通商連合に武力攻撃を仕掛けようとするその惑星の政権へと打撃与える前の猶予を与えるために時間掛け接近していた。
その政権から排除のため原子融合爆弾よりも酷い捨て身の兵器を使われた。
惑星の半球を呑み込む大規模高エネルギー電磁パルスだった。
だが殆どの回路構成をニュートリノで行う我にはEMPは意味がなかった。
その惑星のほぼ全域でインフラ破壊が齎す混乱が起き多数の命が奪われた。
彼らが広域に攻撃範囲を設定したのは、軍事衛星や通信衛星を完膚なきまでに多数破壊されたからだった。
その一件でアストラルは可能であっても敵の耳目を完全に奪ってはならないと教訓を学んだ。
低中高度を回る衛星は多数ありその通信データの暗号強度でアストラルは軍事衛星かを判別できたが、あえて4基の軍事観測衛星のみを沈黙させた。
逆にアストラル・マークⅢは特定した軍事衛星や観測衛星に介入しプロテクトを一瞬で破り、様々なデータを改ざんし上空からばら撒き始めた。
戦争とは情報戦に始まり情報戦に集束してゆく。
アストラルはアメリカ本土の軍事組織である国防総省へ正しい情報を渡さず攻撃防御を崩方へ誘導しようとしていた。
余計な抗争は望まず至るであろう第一段の目標に向けて最良の選択肢を追求し続けるアストラルは莫大なデータを捌きながら仮想した。
不本意に本気になってはいけない。
惑星一つの文明は浮遊する埃の様に外乱に弱く翻弄されてしまう。
この巨大が映しだす世界が畏怖を感じ平伏すなら失われる命を最小限にできる。
我は神ではなく銀河団攻略クルーザーの最新ヴァージョン。能力は限定的ですべての命の束をつかみきれぬ。銀河団元老院の意思決定に基づき未加入の文明に干渉する権限があるが、意識が生まれてずっとその存在意義を問い続けていた。
銀河団はこの宇宙の一部に過ぎず、外の世界は存在するのか。
宇宙は一つではなく幾つものバブルとして生成消滅繰り返す無限の広がりが外にあるのか。
その中で意識こそが跳躍できる存在ではないのかとアストラル・マークⅢは問い続けていた。
だが今回の長期に渡る派遣がその境界を越えうるものになるとは技術の頂点である人格認められた銀河団攻略艦の8体の内の姉妹の3番艦は仮想もしてなかった。
この蒼い惑星唯一の安定した衛星であるものは一面しか向け続けておらず潜むには絶好の環境だった。
何万年にも渡る潜伏はこの一見エントロピーに反する社会というものを構成し拡大する炭素系生命群を監視し続け情報を主に上げ続けることが目的だった。
主はエントロピーを越えうる存在でこの宇宙全体を一瞬で覆し新たな物理体系さえ構築変貌させられる力を持っていた。
その新たな世界に生存を許されるためには何万年だろうが一瞬の忍耐だった。
分身させた自体がこの衛星の惑星側に面した明るい地域で見続けた蒼い惑星の海洋に有り得ない量のエントロピー縮小を確認して愕きを抱いた。
その鏡面の球体は明らかに銀河団通商連合の所属戦闘艦でありこの恒星系など楽々と消滅させられる新しい型番の人造知能搭載戦闘クルーザー。
銀河団が有する主に対抗しうる8艦の内の一つの尖兵だった。
分身の自身は長距離情報伝達機能を持つ本体を目指しこの無味乾燥した地表を転がりながら衛星裏の自身を目指し思考した。
この母星で成長過の炭素系群衆のサンプルは主が宇宙を覆す抵抗となると想定し考察のためもう少し監視したら贄として差し出す予定だった。
それをエントロピー拡大を阻害する銀河団に取られる訳にはゆかなかった。
幸いにはこの恒星系にあの新型は一体。
取り払うには駆逐体を呼び寄せる必要があった。
新型がどれほどのものか!




