Part 5-3 Betrayer 内通者
OCR NDC HQ-Bld. Chelsea Manhattan NYC. NY. 06:07 22th Dec.
12月22日06:07 ニューヨーク州ニューヨーク市チェルシー地区NDC本社ビル作戦指揮室
深夜に帰宅せずNDC本社ビルの職員仮眠室で朝まで寝たミュウ・エンメ・サロームは起きて軽食を取りながら意識をビル全体に振った。
まだ日勤の職員達は出てきておらず夜勤者はかなり少ない。
ひとり一人の意識を攫っていっても大して時間は必要でなかった。
テロリストへ情報を流している内通者がいるとは思いたくないがそれを皆が危虞していた。
襲撃に十分な対処が容易されていたので内通者がいるとしたら逆勤務者の可能性が大きかった。
パトリシアはマンハッタンの人すべての人を見渡したているので手を煩わせるわけにいかないとミュウは一人捜し始めた。
私のテレパスは距離が短いが本社ビルは十分にカヴァーできる。ビルのある数区画の通りまで見通せると意識した。
次々に総当たりでブレイン・リンクを構築し探り切り離してゆく。食事する間に情報職員とセキュリティ九十人余りをスイープして、軽くコスメで化粧し作戦指揮室へと向かった。
その間に夜勤組の一般職員を調べ始めた。
作戦指揮室に入るとミュウはエレナ・ケイツの情報2課のブースへ行き空いてる席へ腰を下ろしデスクに置いてあるメモ帳を開きペン立てからボールペンを引き抜いて意識をブレイン・リンクへと集中した。
夜勤者の一般職人は三百人以上おり、出来るだけ7時半までに大方の職員の精査を済ませて起きたかった。
普通ならテロリストの多くはイスラミックでありそれが指標になるのだが、マリーにいつも言われているように先入観を持って見ないことだとミュウは思った。
先入観で的中したとしても、付随する様々な事象を見逃してしまう。
内通者は一人だとは限らず複数いて連携を取ってる場合もある。一人が暴露した場合他のものが用心深く潜伏する。
怪しい思考を持つものを見つけたら、より深く意識を攫い第2、第3の協力者を炙りだす。
二十分足らずで夜勤の一般職員の半数を調べミュウはデスクに置いてある時計見て眉根しかめた。
あと半時間もすると日勤の職員らが出勤してくる。そしたらNDC本社ビルは七千人の人で溢れ返る。どう足掻いても追いつきそうになかった。
AIにサポートしてもらい条件付けで選んだ人を先に見てゆくかと考えた。まず中東からの就職者を調べ、次に警察の逮捕歴がある人を調べ、預金口座を調べ給料以外の定期的な入金のあるものをピックアップする。
「マザー、特殊情報職員ミュウ・エンメ・サローム。職員ID1107SA03──職員を絞り込んでリスト化──中東、中南米からの当社就職者」
僅か5秒程度でAIがリストを職務用個人フォルダにアップロードしそれを告げた。
ミュウは眼の前のPCを起動しIDとパスワードを打ち込みクラウドのドロップ・フォルダを開くと今日の今の日時のファイル見つけ開いて眉根しかめた。
中東、中南米出身者だけで八百人ほどもいる。
無理もなかった。NDCは巨大な世界的複合企業で有能だと各地からすぐに人材を引き抜いてくる。
「マザー、今し方のフィルタリングに条件追加。次に警察の逮捕歴がある人もしくは、預金口座を調べ給料以外の定期的な入金のあるものそのサイクルと金額も。またフィルタリングされた職員の今日の出勤時間」
今度は先ほどよりも早く一秒ほどで資料がドロップされた。
リストは一気に減りフィルタリングされたのは三十一名になった。
その誰もが面識がないとミュウは思った。
内、四人がもう出社していたので部所から思念を探り次々に三は見つけだした。仕事の段取りや進捗しか意識してなく、もう一人を探した。
だが部所近辺にはおらず意識を探しまわるとまったく関係ない部所にいた。
ミュウは意識に潜り込む前にPCで職務情報に眼を通した。
名をサイーブ・アハル・アッ=タミーミーと舌を噛みそうな名だと出身地を見るとレバノンだった。レバノンにもNDC支社はあるが大きくはなかった。
よく栄転できたと思いきや、そうでなくいきなり本社採用だった。本社採用に有名大学卒業生ばかりでなかなかなれるものでなく頭がいいんだとミュウは感心した。
そのサイーブが出社時間よりもかなり早く出てきて何をしてるのかとミュウは彼の意識に潜り込んだ。
驚いたことに隠しマイクを設置して回っていた。
無線式でなく社内光通信を介して自分のデスクで聞き耳を立てている。その情報をどうするのかと記憶を精査し調べると丸投げして買い取り業者に売り渡していた。
直接テロリストらと繋がりはないが職務上の漏洩に当たるとメモに書き込んだ。
やはりそんなわけで協力者はおらず単独だった。
ミュウは取りあえずサイーブのことは置いておいて他のフィルタリングされた人物を出社してくる順番に残りの職務を調べていった。
十九番目のレナータ・フォルストの意識に入り込んでミュウは顔を強ばらせた。
セキュリティの一人第2中隊のヒューバート・マッキンタイアと付き合っていたが、典型的なハニートラップだった。
業績が極めて良くフランスのNDCヨーロッパ本部支社から引き抜かれていた。直接イラン人と取引しており職員として手にする年収と同額の収入を得ているが、セキュリティの情報を売っている理由は他にあった。
亡き弟の復讐からだった。
イスラミートの活動をしていた弟はNDCが4年前にテロリスト・アジトを急襲したさいに撃たれ死亡していた。
レナータは社内にヒューバート・マッキンタイア以外に協力者はおらずヒューバートからも愛人としてセキュリティの話を聞きだしているに過ぎなかった。
ミュウは報告しようと腰上げてブースの仕切りボードの上からレノチカを探すと4課のGMと何か話し込んでいた。
ミュウが片手上げ振っていると、しばらくしてレノチカが歩いてきた。
「どうしたの、ミュウ?」
「内通者を見つけました。国際通商部のレナータ・フォルストです。第2中隊のヒューバート・マッキンタイアと2年前から交際しており彼からセキュリティの行動を聞き出しイラン人のカーペット商人に売り渡しています」
レノチカは眉根しかめるとミュウに問い掛けた。
「本社に他の協力者はいるの?」
「いえ、レナータの単独行動で、我が社が中東のテロリストアジトを襲撃したさいに弟がその場にいて銃殺され、彼女は復讐心から動いてます」
レノチカは腰に手を当てしばらく考え込むとミュウに持ち掛けた。
「そのレナータという内通者を偽の情報提供者として使えないかしら?」
「彼女は上手く立ち回っていてヒューバートからしか情報を受け取らないと思います。そうするならヒューバートに事情を話すことになります」
「ミュウ、私から話すから近くで彼の考えを拾い上げて後で報告して」
そう言うなりレノチカはAIに命じてヒューバートを作戦指揮室に呼び出した。
五分ほどで内階段から彼が下りて来ると、レノチカは情報1課のブースへ行き空いてる椅子を引き出してそれに腰を下ろし彼を待つ間にPCを操作しているのがミュウには見えた。
ヒューバートが作戦指揮室へ下りるとレノチカが片手上げ彼を呼び寄せた。
ヒューバートを隣りのブースの空いてる椅子に座るようにレノチカが告げ彼が腰下ろすとレノチカが話し始め、ミュウはヒューバートの意識に滑り込んだ。
いきなりレノチカはレナータ・フォルストの名を告げ男女交際なのかとヒューバートに問うと彼が肯定したがもうその時点でヒューバートは激しく動揺しだした。
レノチカがレナータがスパイだと告げるとその言葉の意味に嘘だと言い返した。
あなたは利用されたのだとレノチカが追い打ちかけてヒューバートは愕然となった。
そこでレノチカは彼に持ち掛けた。
社長に恩赦を提言するので協力しなさいと告げた。
恩赦!? 恩赦だと!? そんなことはでうでもいい。レナータはどうなるのだと彼はレノチカに声を荒げた。
彼のレナータへの思いは本物だった。
レナータはいずれFBIに引き渡しますとレノチカが告げるとヒューバートは彼女の罪状が軽くなるなら何でもすると思ってそれをそのままレノチカに告げた。
では出来るだけレナータの罪状が軽くなるように弁護士を付けるのでレノチカは彼に協力を持ち掛けた。
これまで通り、レナータに情報を渡してもらう。ただしそれで買い取っている連中を拘束するとはっきり告げた。
ヒューバートはレナータを騙すことに激しく困惑したが、レノチカの弁護士を付けるという申し出に折れた。
彼におって詳細を話すから普段通り職務に戻り、レナータに接する時も気づかれぬように接しなさいとアドヴァイスして彼を促した。
立ち上がってヒューバートが歩きだすとレノチカが呼び止めた。
「あなた次第よ!」
それを見聞きしてミュウは驚いた。完全にヒューバートの決意をエレナ・ケイツは掌握していた。
自分にはあんなことは出来ないとミュウは思いながら、レノチカが歩み寄って来るとミュウはヒューバートの考えを報告した。
「彼は動揺してましたがレナータの為だと本気で承諾しています。レノチカ、本当に彼に恩赦与えレナータに弁護士付けらるんですか?」
レノチカは小首傾げミュウに教えた。
「私は作戦指揮室代理長よ。旅客機を百機買うと言いだしても誰も反対しないわよ」
聞いたミュウは唇をポカンと開いてエレナ・ケイツを見つめると彼女が告げた。
「ミュウ、本社全員の調べは終わったの?」
「まだ半分も──終わってないです」
「じゃあ職務に戻って」
離れてゆく室長代理の後ろ姿を見つめながらミュウはマリア・ガーランド側の人だと考えを改めた。
レナータ・フォルストは早めに出勤してくるなり、内線でセキュリティ部門の代表へ掛けヒューバートを頼んだ。
『はいHマッキンタイアです』
「私よおはようヒューズ」
『ああ、お早う。今朝も早いね』
「夜勤お疲れ様」
『もうすぐ上がるけど。会うかい?』
「ええ、いつもの場所に」
そう告げレナータは冷ややかな目つきで受話器下ろすとデスクから離れた。
いつも二人で会う場所は決めてあった。スカイラウンジの階段下りた中間の踊場だった。そこには防犯カメラがないことを彼女は知っていたので、何か咎められても否定することができた。
それに階段の壁や手すりは単純な造りで盗聴器仕掛けられる恐れもなかった。
先にその場所へ行きレナータは一通り見回し辺りに不審な加工跡がないか調べ男を待った。
五分ほど待っていると、いつものようにラウンジの方からヒューバートが鼻歌混じりに姿見せレナータは軽く笑った。
「どうしたのヒューズ? ご機嫌じゃないの」
「ああ、臨時ボーナスが支給されるんだ」
「あら、良かったわね。食事に誘って」
「ああ、いいとも。何処がいい?」
「マンハッタにしましょう」
「いいね。仕事明けに迎えに行くよ」
そう告げヒューバートに引き寄せられ彼女は唇合わせると彼の首に回した手を引き寄せた。
「それじゃあ先に上がるよ」
そうヒューバートは彼女の瞳見つめながら告げ腕を放した。
そうして彼女に片手上げてみせてヒューバートが階段を鼻歌混じりに階段下りて行くと、レナータは歌が聞こえなくなるまで踊場で待機しそれからさらに数分おいて階段上りラウンジ前のエレベーターから国際通商部の入る七十二階に下りた。
歩きながらレナータは考えた。
鼻歌などこれまで彼が聞かせたことがなかった。ボーナスの話は確かに陽気な気分に結びつく。だが日常なかったことに用心すべきかと迷った。
切欠は些細なことから始まる。
見逃せば復讐の機会なくすと思った。
特殊部隊率いたのはマリア・ガーランドだ。
あいつを始末するまでは下手を打てなかった。
ヒューバートの様子に今まで以上に気をつけようとレナータは思いながらデスクについた。
机の周囲を見回し事務所にある三つの保安カメラを見て、出勤している他の職員へと視線向け異常に感じるものを探った。
周囲の何もかもがものにしか思えない。
弟を殺されてからというものそうだった。
この世に、生きがいはただの一つ。
この会社の社長が死ぬのをこの目で見ることだった。
それを誰にも告げたことはない。ヒューバートにでさえ口にしたことはない。いつ手のひら返すかわかったものではなかった。
早くあの中東の連中がこの会社をMGごと潰してしまえと机に載せられたものらを見つめ思った。
この世の中すべてものに過ぎない。




