Part 5-1 Scheme 策謀
In front of the Patriots Plaza Ⅱ indoor parking lot entrance, near Railroad Viaduct the 4th Av. SW, Capitol Hill, Washington, D.C., 10:23 Dec. 22nd
12月22日10:23 ワシントンDCキャピトル・ヒル サウスストリート4番街 鉄道高架橋傍パトリオットプラザⅡ 屋内駐車場出入口前
「マリア、NSAを巻いたようだが存在無しの連中は警察を手配したみたいだ」
そう助手席のヘラルド・バスーンが告げた刹那、鉄道高架橋先の右手から白のシボレー・インパラが赤と青のフラッシュ・ライトを瞬かせ2台連なり現れた。
マリア・ガーランドはヘラルドがなんて勘が鋭いのと思いながらアクセル踏み込んで向かってくる警察車輌の右をすり抜けルームミラー見ると通り過ぎた2台のPCが高架橋下で強引にターンし始めた。
マリーはワシントン市内を南下しているのはわかっていたが、ニューヨークに向かうハイウェイへのインターがわからずヘラルドにダッシュボードのGPSナビの操作を頼んだ。
「ヘラルド! ハイウェイの登り口への最短ルートを検索して頂戴!」
そう告げた直後、警察車輌を巻くためにマリーは眼の前の信号交差点を時速40マイルで後輪を派手に流しながらカウンター切って強引に右折した。
ヘラルドがナビのキーを操作せずに手のひらを液晶モニタに翳しただけでルート検索画面まで次々に切り替わりマリーはそういう操作が出来るのかと驚いた。
ルームミラー見ると自分らが曲がった交差点を2台のインパラが白煙上げ曲がって来るのが見え、マリーは次の交差点で信号の変わり目に強引に日本製のスポーツカーをドリフトさせ左折させようとした。
横断しているカート押す老婆が見えその後ろに車体逃がし信号待ちで停車中のフォード・ブロンコのバンパー角ににリアフェンダーをぶつけ車線に蛇行し入り込んだ。
「大丈夫なのか?」
そうヘラルドに問われマリーは苦笑いし言い返した。
「緊急時ってイレギュラーはあるものなのよ! 人を跳ねるよりはいいでしょ!」
そのマリーの言い分にヘラルドが言い返した。
「それはおかしいぞ」
こんな時に、とマリーは苛立って次に見えてきた交差点をリア流しながらカウンター当て右折し言い返そうとした。
『ルートが見つかりました。ナヴィゲーションを始めますか?』
そう機械に告げられマリーは口ごもってナヴィに問うた。
「どう行ったらいいの!?」
するとヘラルドがぼそりと指摘した。
「マリー、止めてくれ。こんな昔のナヴィにAIは入ってないぞ」
マリア・ガーランドは眼を寄せてルームミラーを見ると最後に曲がった交差点にインパラが警告灯を激しく点滅させ入り込んだ。
ヘラルドがナヴィに手を翳すとポンと電子音が鳴り機械が告げた。
『ナヴィゲーションを始めます。次の交差点を左折です』
そう言われた寸秒、交差点を通り過ぎてしまいマリーは唇をねじ曲げた。
「スピードを出し過ぎている」
そうヘラルドに指摘されマリーは言い返した。
「仕方ないでしょ! パトロールカーに追いつかれるじゃない!」
『ルートを再検索します。ルートが見つかりました。ナヴィゲーションを始めますか?』
そうナヴィに言われマリーは言い返した。
「さっさと案内しなさい!」
そうマリーが怒鳴りヘラルドは慌てて手のひらをナヴィに翳すとまたポンと鳴り機械が告げた。
『ナヴィゲーションを始めます。次の交差点を左折です』
そうナヴィが告げた直後、マリーはブレーキペダルを思いっきり踏みつけてWRXの4輪が凄まじい白煙上げテールが左向いて交差点の先に止まった。
ヘラルドが何か言いかけたのでマリーは彼の口先に人さし指を立て指を左右に振って、アクセルペダルをベタ踏みしハンドルを左に手のひらの腹を押しつけ片手で素早く回しスポーツカーのテールを左へ振って蛇行しながらナヴィ・ルート通りの道へ走りだした。
その後、曲がるべき交差点を6回通り過ぎ強引にルートへ戻ること4回、ルート再設定2回で、ハーフインターのランプが見えてきた。
「このまま上がるのか? 危険じゃないか?」
そうヘラルドに問われマリーは追い掛けて来るパトロールカー4台をミラーで見やり不満げに言い返した。
「下の道を走り抜けてニューヨークまで行くのは無理よ」
ハイウェイがなぜ危険かをマリーは理解していた。速度が高くなる分パトロールカーとぶつかったりすると乗っている車の損壊が大きく命の危険があり、さらに他の一般車を巻き込む危険もあった。
それにヘリなどでの追跡も容易であり、先のインターなどで規制線を張られる可能性も高くなる。
だがニューヨークまで遠く、下道を走ることは無理だった。
またナヴィがポンと電子音鳴らし告げた。
『この先インター入口へ右折』
それを聞いてマリーがヘラルドへ指摘した。
「ほら、ナヴィも言ってるでしょハイウェイに上がれと」
その言い分にNDC会長は絶句した。
ランプを加速させ駆け上る先のカーブでマリーは一瞬運転席ドアウインド越しに空を見上げると白いキャビンにその後部からテールローターへ向けディープブルーに塗られたAS350B3エキュレイユが飛んでいるのが見えた。
ワシントン警察のヘリだと顔を振り戻したマリーは顔を左へ向け合流線に走って来る車との間合いを右足の親指の押し込みを調整しアクセルワークで加速し続け一気に本社線に走り込んだ。
すぐにインター案内の看板が車線上に2枚見えて眼を凝らすと出口Aと出口Bに別れる案内で続く下の州道を案内してあり下りるつもりはなくマリーは無視した。
4車線の内で速く流れる左から2番目の車線に移った刹那、ランプからの合流路に赤青のフラッシュ・ライト点滅させるインパラがサイドミラーに見えた。
その追いすがる警察車輌に距離を稼ごうとマリーはアクセル踏み続け時速100マイルで先行車をハンドリングで抜き始めた。他の車の運転手を驚かせないように車間とり割り込むが追い掛けて来るPCはお構いなしで周囲の車輌が右往左往し始めた。
ヘラルドが座席で上半身捻り後ろ見てマリーに警告した。
「右から3台、左から1台来るぞ」
「大丈夫、心配いらない!」
そう告げマリーはハンドル切って縫うように急激に前走るサターン・アイオンの前方に強引に割り込んだ。
その赤い日本車を躱そうと左の車線に逃げたサターンへ加速してきたPCが逃げ場を失い右走る車に接触しスピンし側壁へ突っ込んで左側浮かせ横転すると後ろから走って来る他の車輌らが一斉に乱れた。
それに巻き込まれ右車線から追い上げる3台の警察車輌の最後尾の1台が接触事故を起こし追尾から外れた。
2台のPC引き連れ加速し続け縫うように逃げるマリーはハンドル切るごとにタイヤが滑っていることに気づき時速110マイル越えていることに危機感を抱いた。
だがチューンされているとはいえ追い掛けて来る図体のでかいインパラはもっと無理をしているとわかっていた。
マリーは前方の2車線併走するピックアップとステーションワゴンの前に追い抜きながら4輪を流しアクセルワークで車体を斜めに滑り込ませた。
ピックアップとステーションワゴンが泡食って左右に逃げようとして左右の車線走る車が逆に中央の2車線に逃げ並んで追い上げてきた警察車輌にぶつかり一瞬で7台巻き込む事故になった。
「マリー、あまりやりすぎるな」
そう言われMGはアクセル緩め流れに合わせ走り始め間を置くためにサイドウインド越しに上空を見つめたが警察ヘリの姿が見えなかった。
「やりすぎる? わたしがいつ?」
「もう何台も巻き込んでいる。死者や重傷者が出てないことを願うが──」
ムッとしてマリーは言い返した。
「NDCで補償金を出すからいいのよ」
「君は普段からその様に考えてしまうのか?」
問われた意味にマリーは腹立ち応えた。
「ええ、いつもそうだわ! あなたに雇われたその時からテロリストを狩りだすことを第一にしか考えていない! 補填は二の次三の次としか考えていない。コラテラル・ダメージはどんな場合にもありえるから!」
するとヘラルド・バスーンが厳しいことを指摘した。
「マリア、どうして全体を助けようとしない? 多くを助けるために少数を見捨てることに意味はない」
マリア・ガーランドが咄嗟に思いだしたのはベッカー高原での死闘だった。
仲間を助けるために千人以上のシリア陸軍兵と殺し合う羽目になった。その心的傷でシールズから抜けたのだ。
そんな苦悩を知らずこの人は一般論で全体を救えという。モガディシュの戦闘だって少数を救うために大多数が死んだのだ。そのどこに救いがある? ただの満足感だろうとマリーは思った。だが言いだしたことは正反対なことだった。
「わたしが少数を見捨てると言うの? そう言えるの? 」
そう切り出しマリーは続けた。
「部下の誰かが敵地に孤立しても、全中隊、全システムをその救出に送りだすし、いわれなき敵対行為に出る連中を根刮ぎ断つためならその連中を寛容する大都市ですら地球上から消し去る。物事には傷みが伴うものよ。あなたがわたしを取り込んだ時にわたしの痛みにあなたは気遣わずに押し進めたことを忘れていない」
そこまで言い切りマリーは付け加えた。
「悪いわ──言いすぎだわ────」
そう謝るとヘラルドが黙り込みマリーは彼の真意をつかみかねたが、直後に言い出されたことに思わずブレーキペダルを踏み込みそうになった。
「マリア、君は今、三十年の経験でそう判断しているのだろうが、この先五倍の経験で太極を判断する」
五倍? 五倍とはどういうことだとマリーは咄嗟に考え意味をつかめずに問い返した。
「そんなに長生きできるものじゃ────」
そう言いかけマリーは三年半近く前にパトリシア・クレウーザが言ったことを思いだした。西暦2197年の先にパトリシアはわたしに再会し、外宇宙から侵略者が来るとわたしに警告されたのだと教えてくれた。
だがそれは物事の流れの秩序に逆らうことだと受け入れていなかった。
「マリア、君はこの数年、身体に衰えもなく以前のままだと気づいているだろう」
なぜそのことをこの人は知っているのだとマリーは困惑した。身体能力だけでなく血液検査の値など僅かな変動あれど安定仕切っていてただただ健康なのだと思っていた。
「この先、まわりのものは寿命尽きても君は生き続け外侵略に備え続ける。それは地球のみならず銀河団の存亡に──」
「銀河団? 何の話?」
問いながらマリーはパトリシアがその宇宙外の侵略が行われるのが連合暦だと言っていたのを思いだし臓腑がざわざわとしてヘラルド・バスーンにおそる恐る問うた。
「ヘラルド──なぜあなたがそんなことを知っているの?」
「私は銀河連邦の外の高次元から見ていたからだよ」
マリーは先行車に突っ込みそうになり慌ててブレーキペダルを踏み込みタイヤが甲高い音を跳ね上げた。
ヘラルド・バスーンにその意味をさらに尋ねようとした寸秒、彼がぼそりと警告した。
「合流路から警察車輌が上がってくる。マリア、気をつけなさい」
彼がそう言い放った少時、右の合流から4台のPCが猛速で登ってきて横並びになりマリーはアクセルペダル踏み込んで左の車線にWRXを加速させ走り込ませヘラルドに問うた。
「知ってるなら教えなさいよ! どうやって逃げたらいいの!?」
「そんな些細なことを一々覚えられはしないよ」
マリーは一瞬右に振り向きNDC会長の横顔を驚き見て顔を振り戻し日本製スポーツカーをフル加速させながら僅かな間合いを縫って追いすがる白いフォード・クラウンビクトリアとシボレー・インパラに距離を開き始めた。
いつからだろう。
この人の手のひらで踊らされていたとマリーは思った。
MGは無理な追い越しを止めワシントン警察のパトロールカー追いつかせ横並びにさせるとボンネットを睨んだ。
一閃、フォード・クラウンビクトリアのボンネットの隙間から白煙と焔吹き出し失速し、マリーは次々に警察車輌のエンジンをブローさせ思った。
そうだ。
遥か高次元のパラメーターを自在に操れることになることすらヘラルド・バスーンに取って織り込み済みだったのだ。
腹立ちが消え失せマリーは氷のように意識が集中した。
周囲すべてのパラメーターが見えて警察ヘリAS350B3エキュレイユの相対位置からして掌握した。
その瞬間、上空から追尾していたワシントン警察のヘリコプターの燃料供給系ホースで燃料が沸騰しチュルボメカ アリエル2B遠心式ガスタービンエンジンは急激に回転数を落としパイロットはオートローテーションでヘリを降下させ始めた。
その下り行く先を意識しながらマリア・ガーランドはハンドルの握り位置を下に変え車を流れに任せヘラルド・バスーンに尋ねた。
「その侵略者らがいなければ、わたし達は出会わなかったの?」
すぐに彼が応えないことにマリーは運命の糸が見えたような気がした。
因果律はその改変を赦さず、別な手段を用意する。そのことを意識し、最悪の状況ではないような気がするとマリーは漠然と感じた。
テロリストらに振り回される状況が宇宙の外から攻め入るものらに比べると幼子の砂遊びにも劣る稚拙さなのだと安寧と同時に恐ろしさを抱いた。
だが氷のように冷徹に対応できるとマリーは思い、あの昔、少女だった自分がベッカー高原のテロリスト・キャンプから銃撃されながら砂丘を駆け降り自分には一発も命中しないと信じ切っていたものが蘇ってきた。
「マリア、君は運命が用意するどんな状況にも折れず私の前に何度も現れるんだ。誘いかけるように────」
それを耳にしてマリア・ガーランドは微かに鼻で笑ってしまった。
これは何かの如何様だわ────。




