Part 4-5 The Difference between US 彼我の差
Joint Region Marianas, Yigo northern Guam, Territory of Guam Mariana Islands Southwest Pacific, Local time 09:35 Dec 22nd
現地時刻12月22日09:35太平洋南西部マリアナ諸島グアム島グアム準州北部ジーゴ──マリアナ統合管区
ノックされ基地指令のイライアス・フォーガス中将が万年筆を止め書類から顔を上げ返事すると秘書のブリトニー・スターレットがドアを半開きにして顔を覗かせイライアスに告げた。
「国防総省のクリフォード・ハッチングズ大将からのお電話です。急がれています」
重大な事故でもあったのかと中将は頷いてブリトニーがドアを閉めるのを待ってキーテレフォンの受話器を上げ耳に当て話した。
「E.フォーガスです、大将閣下──」
『アンダーセンとアプラ港海軍基地に緊急事態を発令しアプラの全ての潜水艦を基地から出航させ、アンダーセンにある全空軍戦闘機に爆装させ至急スクランブル発進させよ。訓練じゃないぞ! 敵襲だ!』
イライアスは驚き冷静に返した。
「大将閣下、どこの艦艇ですか!? まだアンダーセンからも第七艦隊からも何も報告を受けていません」
『中国などの敵対国艦艇ではない。二マイルの大きさをした巨大球体が第七艦隊と交戦しグアムへ向かっておる。今、グアム南西百十七海里だと監視衛星画像で報告を受け確認した。空軍機を出し何としてもグアムを守れ!』
第七艦隊と!? 二マイル!? 艦隊との交戦なら爆装した艦載機や対艦ミサイルが用いられたはずだった。
浮かぶ二マイルの球体なら島並の何かだった。
「了解です大将殿、至急対処致します」
電話を切るなりイライアス・フォーガスは困惑しながら旧知のアンダーセン空軍基地司令のケネス・タウンゼント少将へと短縮ボタンで通話を掛けた。
「イライアス・フォーガスだ──少将を頼む」
僅かに間があり少将が出ると彼の方から切りだした。
『訓練中の機が南西六十海里に正体不明の二マイルもある球体状の飛行体を報告してきて今、大騒ぎだ!』
「ケネス、大将からたった今、攻撃し接近を阻止せよと命じられた。戦闘機を──第199飛行隊のFー22だけでなく出せる戦闘機と攻撃機を爆装し全機出せ。球体は第七艦隊と交戦した上でグアムに向かっている。出し惜しみすると────ちょっと待て!? ケネス、お前今、飛行体と言ったのか!? 二マイルもあるものが飛んでるというのか!?」
『ああ、ラプターの四名のベテランパイロットが報告しているので間違いない。その球は飛んでるんだ!』
何なのだとイライアスは絶句した。
大将は何を相手に仕掛けよと言ってきたのだ。
「ともかく居るパイロット全てで有りっ丈の戦闘機と攻撃機をスクランブルさせろ。敵の大きさからミサイルは効果がない。爆弾を──84をフルに装備させ送り出せ!」
途方に暮れるような声で了解したと少将が返し、通話終わるとアプラ港海軍基地司令へと続けて電話を掛けた。
現在停泊しているのはロサンゼルス級攻撃型原潜が三艦だった。非番になっている乗組員たちを呼び集め原潜を出航させ避難させるには一時間では無理だった。
いやアンダーセン空軍基地に前方配置されたBー52Hストラトフォートレスのロータリーランチャー1ユニットに爆装するだけで11時間は掛かる。それがCLRに事前にミサイル、爆弾を装填してあればBー52Hの爆弾庫に取り付けるだけで短時間での爆装が可能だが、用意されたCLRがなければ二十四時間作業で六日掛かりになる。
その島のような巨球が一体どれほどの速力で飛来してきているのかわからず、アプラ港海軍基地司令へどの様に説明するのかと困惑から抜け出せなく受話器を耳に当て続け繋がると切りだした。
「統合管区長E・フォーガスだ────」
航空機兵器官兵ら全員が汗だくで4機の戦略爆撃機に基地に保管されていた各種自由落下型爆弾を吊し続ける間にグアムへ遠征しているハワイ州軍第154航空団第199戦闘飛行隊のFー22がスクランブルしてゆくのをストラトフォートレスの搭乗員らは気にして眺めていた。
戦闘指示の攻撃対象は曖昧で二十マイルの球体型巨大飛行物体だとだけ指示されており、飛行する敵機に爆弾を落とすことになると合衆国空軍始まって以来だという言い合いになり、第1次大戦時に下を飛ぶ敵複葉機に手で爆弾落とした奴がいるという話しになり当たるものかとまた揉めた。
だが24本ものGBUー39を吊す世界最高の制空戦闘機の様は悍ましくBー52Hの搭乗員の一人が醜いと表現し男らは言い争った。
無駄口をたたくことで、男らはこれが第3次世界大戦の端緒にならないことを内心思えど誰も口にしなかった。
グアムに向かって来ている飛行体は二十マイルもあるのに空中に浮かんでいる。
どのようなエンジンを積み、どんな翼広げればそんな巨体が空に浮けるのかと理解及ばなかったが、すでに第七艦隊が迎撃に失敗しており、噂では四十発以上のミサイルに敵の被害はないと海軍士官が言っていたらしい。
おおよそMk.84が三十本分かとミサイルの型も弾頭重量も不明で空軍の男らは考えたが、そんなに大きな標的相手にトップガンの連中が外すとも思えず。効果ゼロとはどういうことだとストラトフォートレスの機長トリスタン・ヴァリス中佐は困惑した。
4機の太った糞ったれの内2機は装填されていたロータリーランチャーの在庫があったので1時間たらずで両翼のパイロンにも爆装が済んだ。
その2機に合わせ十人の搭乗員が爆装準備中に各種点検を済ませ離陸準備に入った。
庫内と8基のパイロンに合わせ108本のMkー82自由落下爆弾を搭載した2機が続けて離陸に入り飛び上がり、高度2万フィートで方位2ー2ー5へと回頭し550ノットで指示された爆撃対象へ一気に向かった。
2機目が離陸に入った直後、先行したFー22二十五機全機と連絡が取れなくなったと2機の爆撃機に無線連絡があった。
離陸3分で会敵まで1分を切りBー52H──2機はさらに高度を上げ続け爆弾庫を開きコクピットから島のように広がる巨大な鏡面の球体が成層圏に達しており、事実上爆装したストラストフォートレスの上昇現界高度の成層圏下層高さでの球体頭頂への爆撃は可能で上昇し続けた。
操縦桿を握り引き続けるトリスタン・ヴァリス中佐は間近に迫った巨大すぎて平面に見える鏡の巨球に対し不安以外の何かが意識に湧き起こり彼は操縦室にいる4人に怒鳴った。
この至宝に手を出してはならぬ。
「脱出しろ────」
副操縦士、レーダー航法士、航法士、電子戦士官が驚いて顔を振り向けたが寸秒次々に同じ思いに至り脱出ハッチを投棄し5人の搭乗員は射出座席でベイルアウトした。
25機のこの世界の制覇者らがFー22ラプターと呼ぶ戦闘機パイロットらに手を出してはならぬと上書きした。
次々にベイルアウトしてゆく操縦手らを見つめながらアストラル・マークⅢは本格的な戦闘に推移しつつあると仮想認識した。
この世界の制服者らは爆発衝撃波が音速を越える化学反応武器から、所有する最高の熱核エネルギー武器へシフトし使うだろうか。
領土の自衛権はこの世界の制服者らにある。
だが自己保存の本能に基づく不合理な侵害を排除するための武力をもって必要な行為を行う権利はあくまでも力の一形態であり絶対ではない。
彼我の差が歴然とする場合、劣る側の権利は存在しない。
この世界の征服者らは歴史の中でそれを繰り返し過去の大戦で棲み分けの領域と秩序を共有し、一時期、かりそめの社会的な調和があった。
だがこの世界の制覇者らはそれを維持する能力に欠け紛争という名の争いを繰り返し、限定的な戦争を巻き起こした。
それは優位な力による統治であり、社会的正義や平等、経済安定、基本的人権が必ずしも保証されず真の平和ではないとアストラルは膨大なデータセットとこの惑星のネットワークから得たもので仮想する。
この世界からすれば単一の構造体で我の巨体は甘受されない威圧であり脅威だ。
斥けたFー22戦闘群はまだ序の口でさらに多くの航空機や艦船を派遣してくるのは明白だった。
地勢的にグアム島とこの世界の制覇者らに呼ばれる土地に距離48海里と極めて近く、熱核反応の武器は使われないと99ポイントの確率で判断できたが用心するに越したことはなかった。
問題が起きるとすればマーシャル諸島からハワイ諸島の中間だろうとアストラルは確率分布を数極の五次元ニューラルネットワークで仮想した。
人なら憂いて溜め息をつくのだろう。
重力場の傾斜から電磁波で計測するまでもなく戦闘機よりも質量のある航空機2機が飛んで来ていたのをアストラルは理解した。
あと73秒でベクトルが交差する。
先の25機と同じように操縦者の意識を上書きするだけだった。生物の意識を決定づけるものは細胞間の化学反応で活動電位の構成の結果だった。それに干渉する術は幾つもあるが、アストラルは次元を任意に歪ませ干渉できた。
多くの場合それは想定通り上手くいく。
だが物事には想定できない事象により乖離する事象が生まれてしまう。
出来るだけこの世界の民族に干渉しないようにしたかったが、存在することで重力傾斜が生じるように本意との齟齬は防ぎようがなかった。
中央艦橋に立つ彼女は全周囲モニタを見回しグアム島の港から立て続けに黒い船が埠頭から離れ海洋に出て潜行するのを眼にした。
同じ様に11次元の中にブラックホール炉の四連マイクブラックホールにスピン与え急激に捻れば自身の二マイルの巨体を滑り込ませるのは容易だったが、惑星近くで開いた時空の歪みに海上の直径数百マイルの円域に過大な物理的損害を与えてしまう。
向かってくるこの世界の制覇者らの武器を相殺し続けねばならずアストラルは陰鬱になった。
数と威力が増せば、いずれ防ぐ行為で人が傷つくか命失うことになる。
それは本意でなくともいずれ避けようのない状況だった。
だが我はマスターの召還に応じなくてはならない。
そう仮想しアストラル・マークⅢは接近してくる2機の爆撃機へ指向性脳波制御を行い乗組員らに機を捨てさせグアム島へ11マイルと距離を詰めていった。
寸秒、南西に重力傾斜があることをスイープした。
この世界でXバンド帯域と云われる周波の電磁パルスを送り出し返ったエコーを精査すると一度落としたF/Aー18F戦闘攻撃機の同型が三十二機迫っていた。
距離はまだ七十九海里あり意識操作できる間合いではなかった。
業は深い。断念させる必要があった。
艦橋に立つアストラルは片手を振り上げ傍らに湾曲したスクリーンを立ち上げると一覧をスクロールさせ始めた。
こういう方法はこの世界の住人のようだとアストラルは能力の片隅で仮想し苦笑い浮かべると一つのコマンドに指を止めさらに別なスクリーンを開いてパラメーターを素早く設定しコマンドを読み込んで呟いた。
「教えよう────真の火力というものの破壊力を」
第七艦隊空母ジョージ・ワシトント艦載機第102打撃戦闘飛行隊F/Aー18F全機二十五機と空中給油用増槽を下げたF/Aー18F五機、EAー18Gグラウラー電子戦機二機が高度2万フィート600ノットでグアム島へと向かう国籍不明の巨大球体へ急行していた。
二十五機はMk.82爆弾を爆装しており先に堕とされた八機の報復だとパイロットらは心に誓っていた。
全機一斉にレーダー・ロックオンの警報に警戒したがそれも一瞬で走査波は消えてしまいそれぞれのパイロットらは水平線上に目視で敵を探したが見当たらず無線で連絡を取り合っていたその寸秒だった。
北東からホワイトアウトの眩い光りの帯が異様な速度で対向し隊長機の一機が一瞬でコクピット左右のストレーキから主翼や後部の水平垂直尾翼が切れ飛び四機編隊を組んでいる後続機が切れ飛んで激しく回転する翼を避けようと上と左右にブレイクし同時に回避に入った機体らも次々に翼を失い始めた。
胴体だけになった機体から搭乗員らが立て続けにベイルアウトし、それが他の編隊機にも伝染したように連続し翼を失い墜落しだした。
僅か6秒足らずで三十二機全機が海上に墜ちたがパラシュート降下する搭乗員に負傷者はいたが死者はなかった。
降下するパイロットらは、空にはまるで走ってきた焔の名残のように拡散する多光子イオン化やトンネルイオン化などの過程を通じ空気中の分子が電子とイオンに分かれたプラズマの残滓が揺れ動き北東水平線の方角から散り始めていたのを眼にし、一体何に機が破壊されたのか理解できず困惑しグアムの方を見つめていた。
まるでレーザーで薙ぎ払らわれた状況に編隊長は巨球体の攻撃手段なのかと顔を強ばらせ、空戦すら拒絶する巨球体に海軍に対抗手段があるとすれば核だけだと思った。
七十機余りの海空軍の航空機を落とした鏡面の2マイルにもなる巨大な球の接近にまず気がついたのは漁業に出ている漁師らだった。
網を捨てグアム島へと漁師らが舵を切りエンジンを掛けたその時点でグアム島の市民らも目視で球体に気づき浜辺に集まり騒ぎが広がっていた。
その事態をジーゴのマリアナ統合管区基地指令のイライアス・フォーガス中将は本土の国防総省に訴えた。




