Part 4-4 Desire 欲望
USS DDG-99 Farragut Arleigh Burgh-class guided missile destroyer US Navy 4th Fleet 155 nautical miles south-south of U.S. Virgin Islands U.S. territory Caribbean Sea, 03:02 Dec 23th
12月23日03:02 カリブ海アメリカ国領土バージン諸島南南百五十五海里米海軍第四艦隊アーレイバーグ級ミサイル駆逐艦DDGー99ファラガット
凪いでいるカリブ海の青畳を掠めシックス・ポイント・ファイブ・フィートでアルミ合金筐体のグレインキャストダブルベース固形燃料推進薬が毎時千百九十キロの速度与え続け海面を切り裂きながら、排気ベーンの熱電地駆動ジャガー・コントロールフィンが巧みに海面高度を演算したコントロールユニットに操られ全長十八フィート半にもなるミサイルの高度だけでなく前後に走る軸を三十度以内でローリングコントロールしながらアーレイバーク級ミサイル駆逐艦DDGー99ファラガットを目指した。
ファイア・アンド・フォーゲットで公式に知られるエグゾセは近接での2種類のXバンドとKuバンド波帯のアクティブ・ホーミングで標的艦からの反射波を拾うだけでなく、迎撃ミサイルのアクティブ・ホーミング・レーダー波を受信できる能力があり、標的艦や随行艦、迎撃ミサイルの索敵レーダー波を受信し飛行モードを迎撃対抗モードに切り替え飛行方向をランダムに切り替えた。
標的艦からの火器管制Xバンドの走査波でモードを一段階変え、時間をおいて浴びせられる迎撃ミサイルの走査波で急激に機動を変化させた。
ファラガットから打ち出されたSMー6ブロックⅠaは亜音速で間合い詰めてくる対艦ミサイルへ最高速度到達できず音速の3.6倍の対抗速度でDDGー99ファラガットの AN/SPGー62から照射されたXバンド波の対艦ミサイルの反射波から自身のXバンド波と赤外線画像認識に切り替え海面のシークラッタの中からエグゾセを見いだし、回避行動を取り始めた対艦ミサイルの速度を積分予測し、位置を積分予測し三次元の相対位置座標から俯角を打ち出し会敵ベクトルを打ち出し襲い掛かった。
艦上ミサイルのほぼ全てが直撃弾ではなく数千分の一で変化する標的からの距離をレーダーやレーザー、相対位置演算から近接信管が作動し目標直前で小型のタングステン・ロッド・クラスターを爆破射出し、140メガジュールの運動エネルギーでエグゾセ目標を破壊する破砕片を浴びせた。
弾頭から後部──セクション2からセクション3に掛け幾本ものロッドで撃ち抜かれた南東からDDGー99ファラガットへ向かっていたエグゾセは一瞬でバランス崩し波浪に激突し急激にスピンし搭載爆薬が起爆し大爆発を広げ滝のような水飛沫を周囲へ吹き広げた。
「バッチSSMー002! 撃破!」
そう隣のOPがクライド・アスプルンド少尉CIC室長に告げるのを耳にしながら、ロザリンド・サーマン:上級兵曹防空索敵担当官は自分が担当するRIMー174──SMー6ブロックⅠaがバッチコードSSMー001を撃ち損じアイコン傍らにMISSと赤字で表示され、ロザリンドは後から会敵するSM-2──RIMー66Mー2の火器誘導に集中した。
イージスシステム教育課程で多くの対艦ミサイルの挙動は学んでいた。
エグゾセのMM40はブロックⅢまで理解していた。
艦艇からの一次索敵レーダーからの初期に見せる大きな機動変更から対空ミサイルが浴びせるXバンド波を受け不規則に交互左右へ回頭する。その振るエリアの中央分布値の幅は狭く激しくダッチロールする。
SMー3で落とし損ねると二撃目のSM-2で撃ち落とせる確率は70を切っていた。
ロザリンドはできるだけエグゾセに正対するようにSMー2の機動に修正加え続け、同時に艦後部のCIWSの銃口をバッチ001の向かってくる方位1-6ー5へ回頭させた。
エグゾセは艦艇の腹を狙って最終突入時に高度をさらに落としてくる。
艦の待避行動にもよるが、向かってくる方位から機関部に命中する率がかなり高かった。当たれば残りの対艦ミサイルにいいようにされる。2発喰らえば沈没もあり得た。
SMー2のアイコンの傍らにMISSの赤い表示が点いた寸秒、ロザリンド・サーマン上級兵曹防空索敵OPは火器コンソールOPに命じた。
「Mk.45! 方位1-6ー5へ対空射撃開始!」
直後、甲板からの爆轟が3秒おきに始まり近接信管の付けられた榴弾が発砲されCICに響いてきた。一瞬AN/SPYー1(D)VAの受信波に乱れが出て中央演算ユニットに補正処理されモニタの索敵範囲が鮮明に映しだされた。
残り2発。
2発ぐらい艦隊防空を担うファラガットは撃ち落とせる。
そう信じて疑わないロザリンド上級兵曹が食い入るように見つめるバッチ001の後方30ヤードに004という文字が現れアイコンを確認すると新たなミサイルでバッチ001をSM-2が撃ち損じた直後、004が大きく北へ転身し新たな突入コース方位1ー0ー3から突入してくる。
「新しい対艦ミサイル! コード004──方位1ー0ー3、エグゾセです!」
報告上げながらロザリンド・サーマン:上級兵曹は003の破壊報告を聞いていないことに、その方位には艦橋前のCIWSしか撃ち落とす手立てが残されておらず、右舷には南東から001、東東南からの004二方から同型のミサイルが迫っておりその一つには対抗ミサイルを打ちだしていない事実に上級兵曹はコンソールのトラックボール操る指が一瞬止まった。
001着弾まで残り7秒、004は13秒しか残されておらず今からでも可能な対抗策はと火器制御OPを通さず直接、4基のESSM──RIM162ブロックⅡにキーバッチ001と004の指定を振り分け、射出キーを続けてタップした。
Mark41mod.15垂直発射機から1秒掛からず立て続き撃ち出された4発のレイセオン社製短対空ミサイルRIM162はブーストを持たず軽量さを武器に打ち上げ直後でも最大50Gという膨大な回頭性を有し5秒で音速の3倍に達しさらに加速する。
ペアとなった猟犬はファラガットから0.9海里の短距離で即応し次々に破砕片を浴びせ派手に被弾した001は海中に突っ込んだ。
だがバッチ004は動翼の一枚を損傷したがその不安定性さのまま2基の短対抗策の爆轟をすり抜け、海面高度5フィートという大人の身長よりも低い超低空で不規則にロールしながらMk.45─5インチ砲が撃ち出す榴弾の弾幕をかいくぐり、ファラガットへと肉薄した。
その対艦ミサイル・エグゾセはアーレイバーク級ミサイル駆逐艦へと千四百ヤードを切り、新設されたばかりの後部バルカン・ファランクスが艦の右舷へ20ミリ多銃身機銃を向け待機していたがCICからの索敵データを受けほぼ対艦ミサイルの軌道を予測しCIWS本体のKuバンド捕捉追跡レーダーに切り替え超低空飛行してくるエグゾセを捉え毎秒75発で撃ち出される高速徹甲弾の金属のシャワーが迎え撃ったが、エグゾセの巻き上げる水飛沫を撃ち抜き回頭した対艦ミサイルの胴体フィンを打ち抜いただけに止まった。
右舷甲板のMk.38─25ミリ 機関砲を構え射撃していた上等水兵は海上を走り迫る水飛沫が一気に伸びて迫った刹那、機関砲から離れ甲板に伏せた寸秒、エグゾセがファラガットの右舷中央部喫水線際に命中し三百六十三ポンドのヘキソライトが起爆しバスの前面より大きな穴が開き戦闘指揮所が火災に見まわれ同時に左舷艦首後方甲板際にもう1発のエグゾセが命中し艦首に大穴を穿った。
爆煙の合間に火焔とショートの火花が飛び散る中を床に跳ばされたロザリンド・サーマン上級兵曹は目眩に頭振りながら両腕を突っ伏し上半身を起こしながらコンソールのテーブル下に横向けに滑り込んだ。
艦が大きく傾いていた。
ダメコンどころではない。
DDGー99ファラガットは急激に没し掛かっていた。
コンソールのデスクトップ端をつかみ身体起こしたロザリンドは並んで対空戦闘を行っていた仲間が、何人も倒れそれを助ける防火服装備のCIC要員が助け起こすのが立ち込める灰と黒の煙りの幕のため下に見え、隣りに倒れる仲間を助けようと手を掛けた相手が見せた顔半分がなくなっており、中腰で立ち上がったロザリンドは大声で怒鳴った。
「脱出しろ! ファラガットは沈むぞ!」
そう叫んだ直後、踝上まで斜めに海水に呑み込まれ出入り口へとつかめるものになんでも鷲掴みになり身体を出入り口の方へと引き上げた。
カリブ海で四発もの対艦ミサイルに襲われるなど誰が予測しただろう。
この海域に少なくともあと2艦、軍部が投入していればこんなことにならずに済んだと後悔ばかりが頭によぎり、早くCICから出て甲板に向かわないと艦諸共海中に引き摺り込まれると必死になった。
右に傾いた下層通路の登り階段に辿り着くと上階から知っている三等兵曹が顔を出し手招きした。
「急いで下さいロザリンド! 五分も持たないです!」
そう告げられロザリンドは横に傾いた階段を懸命に手すりにしがみつき登った第一下層フロアにも煙りが充満し見渡せず三等兵曹の後ろ姿頼りに咳き込みながら CICにはまだ何人も残っていると引き返そうと階段に足を下ろした。
寸秒、三等兵曹に腕を引っ張られ怒鳴られた。
「上級兵曹殿! 無理だ! 待避は各人に任せるしかないです!」
「海軍は誰も見捨てない!」
そう叫びながらロザリンドは廊下に引き上げられ三等兵曹から引っ張られ甲板へと繋がる階段へと押しやられ見上げる三等兵曹が彼女に告げた。
「私がCICに戻り何名か助け出します。あなたは必ず避難艇に────」
そう告げた三等兵曹が背を向けて煙り立ち込める廊下へと消えて行った。
喘ぎながら通路を見つめるロザリンドは強い痛みに見下ろすと右の太腿が鮮血で染まっており何かの金属片が防火パンツを貫いて刺さっていることに初めて気づいた。
その傷に今はもう逃げるしかないと横に傾いた階段を登り甲板フロアに出て身近な水密ハッチのロックを解除し扉を押し開けるとすぐ近くの甲板から手摺り乗り越え二人の男らが海面へと跳び下りた。
煙りと焔は艦内だけでなく外にも立ち上っていた。
海原に浮かぶ数艇のゴムボートが焔の明かりに見え泳ぎ着いた乗組員を引き上げており、艦長は早期に退艦指示を出したのだと気づいた。
巨大な船が沈むと渦が発生し非力で浮力に劣るゴムボートは引き込まれれる。その前にゴムボートは艦から離れようとするだろうと、上級兵曹は手摺り跨ぎ海面へと飛び込んだ。
脚の痛みなど気にしている余裕はなく懸命にゴムボートに泳ぐと先に乗った船員がライフジャケットを脱いで投げ渡してくれロザリンドはそれにしがみつきボートへと辿り着けた。
引き上げてくれる先に乗った名も知らぬ海兵の男が唖然とした顔で引っ張り上げる手を止め、ロザリンドは身体捻り半身振り向くと、すでにファラガットは艦橋間近まで水没しており彼女が上半身をボートに乗り出したまま男らはゴムボートを懸命に漕ぎ出した。
CICに数人助けに行くと背を向けた三等兵曹の背姿を思い出して悔しロザリンド・サーマン:上級兵曹防空索敵OPさから涙流すロザリンド・サーマン防空索敵OPはゴムボートに引き上げられ思った。
何人助かったのだ、と。
深夜遅い時刻、執務室で政府機関の規模縮小の書類にサインしていたダニエル・トンプソン大統領はドアがノックされ顔を上げ入れと声を掛けると、ヴィンス・オハラが国家安全保障担当補佐官が扉開き執務室に入るなり大統領に報告した。
「大統領閣下、カリブ海に麻薬密輸対策で派遣しておりました海軍の駆逐艦が攻撃を受け沈められました」
ダニエルはまさか合衆国海軍の艦艇が、近隣のカリブ海で沈められたのが冗談に思え問い返した。
「本当に我が国の艦艇なのか?」
「はい、大統領閣下。第四艦隊のアーレイバーグ級ミサイル駆逐艦DDGー99ファラガットです。現在被害人数など情報収集に当たっておりますが、百名近い死者数になるかと」
その海域で襲い掛かるのは二国以外に考えられなかった。
ベネズエラか、コロンビアだ。
いいや、まさか麻薬カルテルがと考え、有り得ないと大統領はベネズエラ大統領が密輸船への攻撃をメディア通じ激しく非難していたのを思いだした。
「ハッチングズ国防長官を呼べ」
そう大統領がヴィンス・オハラ国家安全保障担当補佐官に命じるとヴィンスが大統領に問い返した。
「まさかあの作戦を御命じになるのですか!?」
苦虫を噛み潰したような面もちで大統領は今一度、国家安全保障担当補佐官に声荒げ命じた。
「いいから国防長官を呼べ!」
頷いたヴィンス・オハラが扉閉じるとダニエル・トンプソン第46代大統領は一線を越えなければと思った。彼の頭の中には同盟各国との間に新たに生まれる軋轢よりも、西側の統一と利権確保が念頭にあった。
それは先の米中首脳会談で取り交わされた密約に成り立っていた。
西とアジアは互いに干渉しない取り決め。
ダニエル・トンプソン大統領は絶対的決意作戦とグリーンランド獲得に向けた方針を国防長官に命じる腹積もりでいた。




