Part 4-1 Inviolability 不可侵
F/A-18F─102nd Strike Fighter Squadron, Carrier-based Aircraft CVN-73 USS George Washington, 7th Fleet Carrier, Mariana Trench Challenger Over the Abyss, Local Standard Time 09:43 22th Dec.
現地時刻12月22日09:43マリアナ海溝チャレンジャー海淵上空第7艦隊空母ジョージ・ワシトント艦載機第102打撃戦闘飛行隊F/Aー18F
これが任務でなければ絶好の飛行日和だと第102航空打撃戦闘飛行隊ダイヤモンドバックスの編隊長シオドア・メイトランド中佐は思いながら音速の1.1倍で高度1万フィートを爆走するF/Aー18Fのコクピットで通信ボタンを押し込んだ。
"GW, Diamond 1."
(:航空団司令──こちらダイヤモンドバックス・リーダー機)
"D-BACK 1, GW, Over."
(:ダイヤモンドバックスリーダー機、こちら空母ジョージ・ワシトント送れ)
"Bogey TALLY! 200 seconds to arrive. The bogey is huge. It's close to 2 miles or more because it's HD wide.It is a mirror-like sphere. It has been polished and looks like the Pacific Ocean is curved and at the end of a huge hole in the waterline."
(:敵視認! 現着前200秒。敵がでかい。HD(/ヘッドアップ・ディスプレイ)の幅はある。2マイル近くかそれ以上あります。鏡のような球体。磨き抜かれ、まるで太平洋が湾曲し水辺線の巨大な穴の先にあるようです)
"Are you receiving any radar or laser irradiation?"
(:何らかのレーダーもしくはレーザー照射は受けているか?)
"No, the reflected waves we emit do not return. Even the sea surface clutter has disappeared right under the bogey. It's like a huge completely stealthy body.Do we have to attack that?"
(:いや、こちらの出す反射波も返ってこない。海面クラッターでさえ敵の真下で消え失せている。まるで巨大な完全ステルス体だ。あれを叩くのか!?)
"Benfold and McCampbell had already fired more than thirty missiles."
(:すでにベンフォールドとマッキャンベルが三十発余りのミサイルを撃ち込んだ)
"Aye, sir!"
(:了解です!)
7機のF/Aー18Fハードポイントに吊した爆弾とミサイルすべて撃ち込んでも至らない──そう編隊リーダーのシオドア・メイトランド中佐は思い後続するEAー18Gグラウラー電子戦機の後席に乗る武器管制士官へと無線切り替え問い合わせた。
"OUTLAW 1、Diamond 1."
(:電子戦機、編隊長だ)
編隊の右翼最外縁に飛行するVAQ-141─第141電磁攻撃飛行隊の145号機に無線で呼び掛けた。
"It's an OUTLAW 1. What's it?"
(:グラウラー、武器管制士官です。何でしょう?)
"Do you know your bogies electronically?"
(:敵を電子的に把握してるか?)
"No, all bands 1 to 7 are non-reflective.Isn't it an advanced anaecoic?"
(:いえ、1から7バンドすべてがノンリフレクティブです。高度なアナエコイックじゃないでしょうか?)
それを聞いてシオドア・メイトランド中佐はあんな反射率の高そうな表面仕上げでかと困惑した。だが何であれDDG-65ベンフォールドへ敵対行動を取ったとこの空域に到達する前に連絡を受けていた。全機への無線へと切り替え中佐は指示をだした。
"This Diamond -1, all planes move on to attack from here. Radar does not work on bogies. Therefore, first of all, we guided the aircraft to the nearest Harpoon. After hitting, the GBU-24 is guided to drop."
(:こちら編隊長、全機これより攻撃に移る。敵にはレーダーが効かない。よってまず直近でハープーンを突入まで機上誘導。命中後、GBUー24を誘導投下行う)
"Follow all the machines!"
(:全機、付いて来い!)
そう命じてシオドア・メイトランド中佐は、ミサイル戦闘艦DDG-65ベンフォールドから離れた巨大球体の右翼へとスティックを切り右ペダルを踏み込みアフター・バーナー噴かせながらコクピット先のノーズコーン手前にモデックスNO.100を表記したライノを強速で旋回させ始めた。
449海里先から飛来する八機の航空機をアストラル・マークⅢは最初から把握していた。
全周360度の艦橋で2ー7ー4を見つめる彼女は8の内1が大きく構成が異なり吊っている武装が少なく、アストラルはその一機が編隊を護る電子戦闘機だと仮想した。
それぞれの機体には最低共通で空対空、七機に空対艦が2、爆弾が4搭載されている。
地球で第7艦隊と呼ばれる空母から離艦した8が真っ直ぐにベクトルをこちらへ引き伸ばしていることから敵だと現時点で86ポイントと演算した。
この星の最も繁栄している霊長類は、規模のこれほど違う相手に敵対心抱き挑むのかと、アストラルは長い年月で蓄積してきた情報群の中に、中世の騎士が主君である王の娘──姫を助けるために巨竜に挑む物語を見いだした。
それは寓話だ。
実在の史実ではない。
だが人々がより大きな悪に立ち向かう拠り所にしている。
それはマスターの世界の観念とは異なっているとアストラルは仮想した。
だが接近してくる戦闘機隊の通信を傍受し、アストラルは艦橋で完全に2の海上戦闘艦と同じく火蓋を切ろうとしていると南南東へベクトルの向きを変える航空機らへ顔を向けて眼で追い仮想した。
まず貴方がたの振り上げる武器が意味のない行為であると思い知らせる。
同時に放たれた14の固形燃料で加速する電子制御系を持った爆薬を搭載した飛翔武器に207万ピコ秒分の3で航空機からの電磁波をすべて排除した上で多周波数帯での総当たり攻撃を仕掛け、飛んでくる14の武器の制御系を乗っ取った。
指示は簡単。
ターンし海上に落ちよ。
するとそのデジタルの言の葉が成された。
次々に14の飛翔武器は向きを180度回頭しほぼ同時に洋上へ突っ込んで誘爆しさえしなかった。
その間に8の航空機らはアストラルをパスすることなく球体外殻の頂点へ偏向し28の爆発物を投射した。
各爆発物は簡単な誘導装置の動翼を持つ飛翔動力のないものだった。
対処には幾通りもあるとアストラルは1062万分の3ピコ秒で仮想しその一つの手段を最も対効果的にこの種に影響があると選択した。
主動力炉である正三角錐の頂点を形造る四連マイクロブラックホールを高速で回転させ座標を急激に変え大きく捻り回した。
発生した巨大な重力波は空気を目に見える形で波打たせ28の爆発物を境界線で捉え一瞬で引き潰した。
爆発することもなく飛散した爆発物らの破片が洋上に落ちると、アストラルは僅かにとても僅かに本腰になった。
これに貴方がたは抗えない。
撃ちだしたすべてのハープーンが巨大球体に届くことなく大きく軌道変え海面に次々に落ちるのを傾け旋回しながら編隊長のシオドア・メイトランド中佐は自分らが攻撃されたことも認識していなかった。
そのまま全機で巨大球体の頂点に駆け上りHDに映る自由落下爆弾の投射シンボルとタイミング表示に合わせペイブウェイIII─GBUー24精密誘導爆弾を投射した。
後続の僚機も次々にハードポイントから誘導装置の追加された二千ポンド爆弾が合わせ28基投射された。
爆発を避け急激に巨大球体の頂点から離れる攻撃飛行隊の各パイロットや武器管制士官は振り向き何も爆発が起きないことに激しく動揺した。
攻撃が一切無効化されていることをシオドア・メイトランド中佐は艦隊空母に報告しようと無線切り替え通信ボタンに指を掛けた少時、違和感に気づいた。
まるで頭の中を指でかき回されているような違和感。
それが急激に強まりまるで船酔いのような不快感に、中佐は一度も船で酔ったことがないのだと思いだした。
「なんだこの違和感は────意識を隅々まで探られているような────」
その走査は数秒で終わると何かが合わせてきたと漠と感じた刹那それが意識に聞こえた。
この至宝に手を出してはならぬ。
その思考がまるで打ち鳴らされる葬鐘のように意識を蹂躙し、シオドア・メイトランド中佐はジェットヘルのバイザーの内で大きく眼を見開き唇震わせ、操縦桿から手を放し膝元の脱出レバーをつかむと一気に引き上げた。
キャノピーが吹き飛び先に後席の武器管制士官が射出され、次に己が自機を見捨てたことを理解できずに空中へ座席ごと打ち上げられ、座席が分離し自動でパラシュートが開く衝撃に我を見失っていないのになぜこんな命令違反をと彼は思いながらパラシュート・コードを操り始め困惑した。
なぜあの球体を攻撃してはならないと思ったのだ!?
「ダイヤモンドバックス来ました」
管制空域を防空索敵しているチャーリー・アルケマ上級兵曹がそうDDG-65ベンフォールドの戦闘指揮所長に報告するとコンラッド・ヒルトン少佐は艦橋に報告した。
「CIC、Dバックス来ました」
『了解です』
そう艦橋の当直軍曹が応え内線を切った。
CIC室長にデズモンド・キングトン少佐は第102打撃戦闘飛行隊が球体を攻撃できるとは思えなかった。
すでにマッキャンベルと二艦で30発以上のミサイルを撃ちすべて無駄にしていた。
少佐がそう思ってる矢先に、防空索敵担当のチャーリー・アルケマ上級兵曹が声を上げた。
「少佐、ライノから撃たれたハープーン全発ターンし消失!」
それみたことかとデズモンドは思った。
巨大球体はジャミングだけでなくミサイルの制御系をリンクをハッキングし好きなように操れる。リンク帯域を知られているだけでなく32桁で守られているミサイル毎に異なるパスワードをミサイル発射した直後の極めて短時間に解読しているのだ。
ロシア艦にも解読できない壁を乗り越えてくる。
巨大球体の持つ演算ユニットの処理速度は量子コンピューター並みかそれ以上なのだと少佐は思った。しかも送信帯域が広く出力もAN/SPYー1Dの比ではない。
簡単にパッシブ・フェーズドアレイの3250素子を焼き切ったのだ。まれに並び停泊する同型艦が誤って走査してしまいイージスのアンテナを傷めることはあるがここまで被害は出ない。
少佐はあの巨体にどれほど大きなレーダーシステムを内包してるのだと想像すらできなかった。
しかもどんな動力原理かわからぬがあの巨球が空中に浮いているのだ!?
合衆国空軍はどんな物体でも飛ばせてみせるとかつて豪語したが、まさしくこれがそのどんな物体もの極致だった。
「少佐、これを見て下さい」
そう戦術管制士官に言われ少佐は彼の前のモニタを覗き込んだ。
艦橋後方の高精度カムが捉えたのは巨大球体の頂点に近い光景だった。
爆装したF/Aー18Fの投下した幾つもの爆弾が空中の一点で揃って落下が止まり、まるでジューサーで砕かれる氷のように歪みバラバラに砕け散った。
「バリアーなのか────?」
そうデズモンド・キングトン少佐が問うと、声掛けた戦術管制士官がわかりませんと応えた。
問うたもののSF映画ではあるまいしそんなものがあるものかと彼は思った。
だが鏡のような巨大球体は謎の力で空中にあり、海面をあの直径で大きく盆地のように穿った。
バリアーを持っていても不思議ではないと思ったがどこの国が造ったこの巨大球にそんな技術があってたまるかと彼は思った。その矢先に艦橋からの通話呼び出しが鳴ったのでデズモンド・キングトン少佐は内線受話器を取り上げた。
『十六名のパイロットらが機を捨て海へパラシュートで下りている。救助に向かうので球体の動きを警戒し変化あれば至急報せろ』
「了解です」
声は艦長だった。
機を捨てて降下しただと!?
一機七千三百万ドルもする機体をかと少佐は驚いた。
兵装を使い切り被害一つ与えることができず彼らは混乱したのか。
そんなわけがあるはずがなかった。
「少佐! 球体が移動し始めました。方位0ー4ー2、現在の速度20ノット(:約37km/h)」
042!? どこへと考え、グアムかと気づきデズモンド・キングトン少佐は青ざめた。
米軍の太平洋西部の要衝だと眼の前の受話器取り上げ艦橋へと報告した。




