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砂の街  作者: oz
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光を纏った朱螺は、笑みを浮かべた。久しぶりの魔法行使だが、すこぶる調子がいい。

少女の光が、徐々に突き刺した剣の上に移る。

それは円陣を描いた。

円陣は、意匠が金糸で描いたのかと思わせる程に繊細で美しいものだった。


すでに詠唱は終わっている。

後は、少しお願いするだけ。


「………氷舞、行ってらっしゃい」


朱螺がそう言うと、白い光が一層強く輝いた。

次の瞬間、円陣から何百もの氷の鎖が大蛇に向かって巻き付いた。

大蛇は暴れるが、鎖はより一層強く締め上げていく。

見ると、鎖が巻き付いた所から大蛇の焔が消え始めた。

蛇の体からは、大量の水蒸気が立ち昇る。


その様子を、無表情で朱螺は見ていた。

辺りは水蒸気で満ち、視界が悪くなり始めた。

水蒸気の中、陰影しか見えなくなった蛇は動かなくなっていく。

「……さよなら」

その時、大蛇の大地を震わす様な断末魔が轟いた。



未だに晴れない霧の中、永和は歩いていた。


「魔法には巻き込まれなかったけど、結局は水蒸気には巻き込まれたか……」


視界不良の中、永和は大蛇の動向をを見ていた。

水蒸気の中でシルエットしか見えないが、もう息絶えているようだ。

少しすると視界も開けてきた。

彼は、ゆっくりと大蛇に近寄っていく。


水蒸気が散ると、そこには冷気を湛えた氷の山が現れた。

先程までのた打ち回っていた大蛇は、完全に凍りつき息絶えていたのである。

永和は、改めて魔法の凄さに感嘆の声をあげた。


冷凍蛇から意識を戻すと、朱螺がさっきまで居た場所を見た。

しかし、朱螺が見当たらない。

「……どこ行ったんだ?」

永和は、剣を鞘にしまって冷凍蛇の周りを探すが、どこにも居ない。

「……朱螺、どこにいるんだ?!」

「ここよ、上にいる」

すぐ上から声がした。

見ると、朱螺が冷凍蛇の上に立っていた。


彼女は永和と目が合うと、下にいる彼の目がけて飛び降りた。

永和は、慌てて朱螺をきちんと両腕で受け止める。

その瞬間、盛大に顔をしかめた。

……朱螺には失礼だが、異常に重い。

見ると、彼女の腕の中には蛇の額にあった核石と呼ばれる石があった。


近くで見ると、闇の様な漆黒と薔薇の深紅を合わせ持つ、美しい色をしていた。

朱螺は、するりと永和の腕から降りた。

その空いた永和の腕に、持っていた核石を渡す。

石は見た目によらず、かなりの重さだった。


朱螺は歩き始めた。

永和は、戸惑いに声を上げた。

「ちょっ、こんな重いの持って町探しなんて無理だって」



冗談じゃないと彼は思った。

これから、どこにあるかも分からない町を探さなくてはいけないのだ。

……こんな重い物を持って、歩き回っていたら体力が保たない。

彼が、非難の声をあげていると朱螺は振り返って笑った。

それは、悪魔の微笑み。

永和は、ひっと情けない声を出して硬直した。

そのまま彼女は永和に近付き、背伸びをして彼の頭を両手でとらえる。

「……なっ!」

永和は、金縛りの様に動けなくなった。

無駄な抵抗しようとする彼の耳元に、小さな声で朱羅は囁く。

「言うこと聞かない子には、おしおきよ?」

彼女は、彼の額に軽く口付けをした。


動揺した永和の腕から、石が滑り落ちる。

静かな砂漠に、核石が落ちる重い音がした。





その瞬間、あっという間に永和は10歳ほどの少年になってしまった。

「………朱螺」

引きつった笑顔で朱螺を見るが、彼女はニヤリと笑う。

「ふふ、可愛いわよ。呪いも、たまには使えるじゃない」

彼女は、満足げに言うと颯爽と歩き始めた。

永和は、呆れつつも彼女について行こうと、核石を持ち上げた。


しかし、子供の体になった彼は、筋力の違いでよろめいた。

先程の数倍の重さにも感じる。

「……鬼だ」

永和は、軽快に先を歩く朱羅を恨めしそうに見る。

絶対、いつかは負かす。


また決意を新たに、彼はふらつきながら歩き始めた。



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