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黒い大蛇は、永和を焼き殺そうと黒炎を吐いた。
炎は砂漠を舐めるように焼いていく。
そんな中、永和は舞うように炎をかわしていた。
彼は横目で、黒炎が触れた地面を見る。
砂漠が泥の様に溶け、沸騰していた。
「……これ、熱いどころじゃ済まないじゃん」
永和は、軽口を叩きつつも、確実に大蛇の攻撃を見切っていく。
しばらくして、永和は避けていく中で分かったことが一つあった。
大蛇は、大きな火球を放った後にわずかに隙があるようだった。
そこを狙えば、一気に倒せそうだ。
つまり、火球を撃ってくるまでしばらくは、攻撃を避け続けなくてはならない。
永和は今一度、気合いを入れて走り出した。
大蛇は、大小いくつもの火球を放つ。
しかし、永和に全て避けられてしまっていた。
しびれを切らしたのか、一際巨大な火球を作り上げ始めた。
まさしく、闇の業火を集めたような炎。
周囲の温度が、数度上がったような錯覚がした。
熱波が少し離れた永和の所まで押し寄せる。
これほどの巨大な火球、必ず隙が生じるだろう。
待っていた絶好の機会に、永和は口の端を上げて笑った。
その時、大蛇がすさまじい轟音と共に巨大な火球を放った。
永和は、すぐさま蛇に向かって駆け出す。
黒い火球が迫る中、ぎりぎりの所で身を投げて避けた。
永和は転がる体を制御し、直ぐに体勢を立て直す。
その勢いのまま砂を蹴り、大蛇へ向かって疾走した。
永和は走る最中、剣をしっかりと握り直して大蛇を見上げる。
予想通りに、大蛇は火球を生み出すのに時間がかかっているようだった。
永和は、一気に大蛇の懐に入り込んだ。
素早く鱗の間を狙い、剣を蛇の腹に深く突き刺す。
「はぁっ!」
そのまま、剣を横に薙払うように力を振るう。
剣が硬い肉を切り裂いた瞬間、黒い血が溢れた。
血はすぐに、砂漠に黒い染みを作っていく。
大蛇はのた打ち、甲高い鳴き声をあげた。
永和は、すぐさま剣を抜き、大蛇から距離をとった。
これで少しは動けなくなるだろうと、彼は蛇を見やる。
しかし永和は、瞠目した。
「あれは、ちょっと……」
彼の視線の先。
大蛇は全身を激しい黒炎で包み、激しく暴れだしていた。
大蛇は怒りで我を忘れているようだ。
永和を見ることなく、当たらない支離滅裂な攻撃をしている。
本来ならこの隙に乗じたいところだが、纏う炎で近付くことができない。
「……ヤバイなぁ」
剣に付いた蛇の血を振り落とし、もう一度大蛇を見る。
しばらくして、大蛇は滅茶苦茶な攻撃を止めた。しかし、冷静さを取り戻したその目は憎悪で溢れている。
よく見ると、先ほど斬られた大蛇の体も再生し始めていた。
大概の傷では倒すことは無理そうである。
永和は小さく舌打ちをして、蛇を見た。
数秒間の静けさの中、ついに大蛇が動いた。
大蛇は、己の炎を纏った尾を鞭のよう振るう。
永和は避けるが、炎が徐々に肌を焦がしていく。
一度かなりの距離を蛇からとると、彼は剣を握り直した。
蛇は、また火球を放つ準備を始めた様だ。
「どうしたものか……」
彼は、忌々し気に蛇を睨んだ。
その時、朱螺の方から強い光と冷気が流れてきた。
朱螺の詠唱が完了したようだ。
永和は、彼女がいた場所を横目で見た。
「これで大丈夫だな」
永和は口の端を上げて、蛇とは逆方向へ走り出した。
大蛇は、逃走ともとれる彼の動きを止めるべく、火球を永和に向かって放つ。
しかし、彼を止めることなど出来はしない。
彼は火球を避けながら、少女の様子を伺った。
少女は光を纏っている。
そろそろ、彼女の魔法が発動する頃合いだろう。
巻き添えを食らってはたまらないと、永和はただ遠くに走る。
その時、最強の少女が動き始めた。