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砂の街  作者: oz
2/5

永和は朱螺と出会ってから、たくさんの仕事をしてきた。

ある時は、依頼人の探し物を手伝ったり。

またある時は、一週間、幻の虎を求めて森をさ迷ったり……。

最近の仕事では、いけにえにされる花嫁の身代わりをした。

もちろん退治したが、危うく大人の階段を登らされそうになった……。


考えると、ろくでもない事ばかりだ。

何だか、人生を損しているようないないような……。永和は、何だか少しぐらいは、文句を言っても許される気もしてきた。

しかし、言ってもその3倍は言い返されてしまいのが目に見えている。彼は、また一つため息をついた。



気を取り直し、朱螺を見ると随分と距離が空いている。

永和は歩みを速めて、彼女の隣に並んだ。

横目で朱螺の表情を伺う。

彼女は、機嫌が直ったのか小さく歌っていた。

異国の歌なのだろう。

聞いたことはない言語で歌っているが、耳に心地よい。

「それ、どこの国の歌?」

「んー……、知りたい?」

朱螺は永和の瞳を覗きこむ。

果実のように潤う唇が目に入り、知らず知らずに喉がなった。

急いで視線をずらすと、彼女の炎のような瞳にかち合った。

彼は、そのどこまでも深い紅に囚われる。


その瞬間、朱螺は両手でいきなり永和の頬をつかんだ。

「おわっ! なひをっ?!」


彼女の白い手が引っ張ると、彼の頬は面白いくらいに伸びた。

朱螺は、口の端を楽しげに吊り上げて笑った。


「やっぱり、教えてあげない」


朱螺は、してやったりと嬉しそうにして手を離した。

「っ痛ー……朱螺!」

永和は、つねられたせいか、はたまた恥ずかしさからか頬を赤く染めた。


彼は、この機会に何か文句を言っておこうと意気込んだ。

「本当に朱螺は意地が悪い!」

鬼族(きぞく)は意地悪だからな」

「いや、鬼族とかの前に、朱螺の本体の性格が悪い……」

朱螺が、意味深に目を細めて笑った。


朱螺は、鬼族だった。


―――鬼族。


彼らは、人間とは違う存在。

長き命に、強靭な肉体。

一族は、武術だけでなく魔術にも長け、その力はまさに一騎当千。

その強大な力を持ち、時には奇跡すら起こす、鬼の子孫達。

朱螺は、まさにその子孫だった。


「へぇ……永和も、言うようになったじゃないか」


永和は、笑顔の黒さに少し後悔した。


「冗談、本当に軽い冗談だって」


その慌てぶりに、朱螺が小さく声をたてて笑った。

こうして笑う彼女は愛らしい。いつもこうであったなら、と永和はため息をこっそりとついた。


それを見て、彼女はまた小さく笑う。


「永和は、いじめると面白いな」

「………はいはい、どうせ単純ですよ」

彼は、もう諦めの境地だ。

朱螺は笑いを収めると、遠く砂漠の向こうを見た。


「まぁ、本当に知らないんだけどね。かなり昔に旅芸人が歌っていた歌。だから、国とかは知らないんだ」


朱螺は過去を懐かしむように目を細め、一人で先に歩き始めた。


永和はただ、黙ってその姿を見た。


その見慣れたはずの小さな背中。しかし今は、知らない少女のような、そんな遠い存在に思わせるものだった。


彼は、小さくため息をつく。


全くもって、彼女は性格が悪いと永和は思う。

彼女は、自分を翻弄し過ぎる。

先を進む小さなその姿に、永和は何とも言い難い気持ちを覚えた。


ふと、朱螺が振り返った。

「何立ち止まってるのー」

「はいはい」


朱螺は何か思いついたらしく、急にニヤニヤと笑った。

永和は、少し引きつった顔で彼女を見る。

「ど、うした?」

「全く、永和はまた変な想像でもしていたのか? スケベだな」


永和は吹いた。

「なっ!そんなことあるか!」

永和は、急いで朱螺の後を追う。


彼女は、可笑しそうに笑う。


毎回、彼女にからかわれる度に永和は思う。


いつかは、絶対にみかえす!


「ほら早く来なさいよ。置いてくわよ」

「ちょっと、今行く!」


何だかんだ言って、永和は朱螺に付いていくのだった。



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