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見渡す限りの、砂。
そんな黄土色の世界に、白い点が2つ。
それは旅人だった。
小柄な者と、長身の二人組。
小さい人間は判らないが、長身の方は体格からして、男だろう。
彼らは日差し対策に厚手の服を纏い、腰には剣を提げていた。
顔は、目深にフードを被っていて見えない。
二人共、背中には大きな鞄を背負っており、長旅なことが伺えた。
長身の方が、懐から羊皮紙の地図を取り出した。
地図は古く、所々の文字がかすれている。
沢山の町の名前がある中、指で辿る先は、「エフェ」と書かかれていた。
――――エフェ。
砂漠の中の、砂の町。
町の周囲には、砂嵐が絶えることはない。
その特異な環境に、案内人無しには、たどり着けないと言われる町である。
地図を見ていた男は、ため息をつくと、地図を適当に折ってしまいこむ。
そして、立ち止まるとフードをゆっくりと上げた。
その顔は17、8歳の美しい青年だった。
髪は、光の加減で金にも見える茶色。
長さは肩に届かないくらいで、癖なのか少しはねていた。
瞳は、その髪に映える様な明るい空色。
少し垂れ気味の目が、人懐っこい印象を与ていた。
しかし今は、単調な砂漠の景色に飽きたのか、つまらなそうな顔をしている。
彼は、少し先を歩き続ける相棒を眺めた。
「朱螺、町はまだかなぁ」
朱螺と呼ばれた、小柄な人物が立ち止まった。
朱螺は、大きな溜め息をついて、自分のフードを乱暴に持ち上げた。
フードからこぼれ落ちた長い髪は、焔の様な緋色。
瞳は、髪よりも深いざくろの様な紅。
その印象的な瞳を、引き立てる様に整った顔立ち。
年齢は16、7歳ぐらいだろうか。
彼女は、美しさを純粋に集めた様な少女だった。
しかし、振り向いた彼女は、明らかに機嫌が麗しくなかった。
麗しいどころか、眉を寄せて彼を睨んでいる。
けれど、その表情は怖いというよりは、むしろ愛らしいとさえいえた。
「………永和、さっさと歩いて」
朱螺は赤い瞳で、後ろを歩く永和をきつく睨んだ。
彼は苦笑いして、彼女の後をゆっくりと追う。
彼女は、背筋をすっと伸ばして歩いてゆく。
それは永和がこの3日間、ずっと見続けた姿だった。
歩調を早めて朱螺に追いついた永和は、その背に話しかけた。
「もう俺、限界を超えてるんですけど……」
「あら、私は大丈夫よ」
彼女は、笑顔で言う。
その笑みは綺麗だが、どこか恐ろしいと彼は毎回思ってある。
「ははっ……」
とりあえず、引きつる笑顔を辛うじて返せたのが幸いだろう。
朱螺は、彼の様子に小さく笑うとさっさと先に歩き始めた。
それにしても。
永和は、腰に手をあてて遠く光る太陽を見た。
実際、彼は歩き通しでかなり疲れていた。
延々と変わらない風景にも、数時間前から飽きている。
つまらない。
ため息をこぼすと、また前を向き朱螺の後を追う。
何もない砂漠。
歩く以外に何もすることもない。
永和は、手持ちぶさたな両手を頭の後ろに回すと、今までの旅を思い出していた。