疑い深くてわるかったわね
疑い深いと言われようが、あたしはマロンくんを王子様だと信じない。もしそれが本当なら、影の薄いイケメンがお供としてつきそっていたり、幸の薄そうなオジサマが身内のふりをしてつきそっていても不思議はないからだ。
なのに、マロンくんはひとりだ。王子様は現在三人いることがわかっているものの、詳しい外見は公表されてない。
唯一あたしが知っているのは、王様が年より若く見えるほどの色男だということくらい。
なのに、よりによって第一王子がこんな場所にいるわけがない。
そうでしょ? と問い詰めると、マロンくんは不敵に笑った。
「この程度の場所で従者が必要になるほど脆弱じゃないんだ、僕は」
「わかった。あなた本当は酒屋の息子かなんかでしょう? で、年がら年中酔っ払ってるからおかしなことを言うんだわ。そうに違いないわ」
「決めつけてくれるな。きみ風情にそこまで言われる所以はない」
さっきから、この程度の場所とか、きみ風情とか。けっこうな侮辱なんですけどっ。
それに、ルルルンがすでに飽きてて、謎の手芸(作者注釈・リュビュネル刺繍のこと)を始めてるじゃないのさ。って、オーガニックの生地が恐ろしくたわんでるぞぉ。その生地恐ろしく高いんだぞぉ。
「ともかく、そういうことなので、一度城まで一緒に来てもらいたい。もちろん、ルルルンも一緒に、ね」
「待った。あなた、お城でなにをする係りの人? いい加減うさんくさいんですけど?」
「だから、第一王子だと言ったが?」
「武芸は?」
あたしはポケットの中から剣を取り出した。服のポケットに空間魔法を施すくらいのこと、朝飯前よ。
「得意だが、女子供に剣は向けたくない主義だが?」
言いながらも、自称王子はカバンの中からあたしと同程度の剣を取り出す。
ほう? そのカバンがあなたの空間魔法ですか? あたしよりたいしたことないじゃない。
そして、どちらからともなくかまえる。
「はじめっ!!」
ルルルンの号令で剣が合わさる。カチャカチャと音を立てて、剣の重みをしないでく。
おのれ、剣の腕はそっちが上か。
「わかった。あたしの負け」
こういう時に怪我をしたくなかったら、素直に負けを認めることだ。火炎魔法だったら得意だけど、武芸は苦手なんだよね。
「それなら、城まで同行願おう」
もうそれに倣うしかないか。
つづく




