あたらしい風とか言われてもなぁ。
城の中にあたらしい風を入れたいんだ、とこれまた唐突にマロンくんが言った。
「王妃様にとって、城はとても息が詰まる。古い体質だから。でも、きみたちは違うだろう? ふたりでひとりみたいな存在。だから、ふたりでお城に来てはどうだろう? これまでどおりにお互いを支え合えるし、なんなら王妃様からも信頼される」
「だいたいわかったけど、あたらしい風とか言うけど、そのせいであたしやルルルンがお局様方の意地悪の対象になるのではないの? わるいけど、そういうのって苦手なんだよね?」
「わかるけど、少しだけ我慢してくれないかな? 奥様は今すごく孤独なのだよ。第一王子、第二王子はすでに乳母たちに取り上げられているし、楽しみすらないのだから」
「そこを変えるのがあんたの仕事なわけ?」
「それに近い。けど、どんなに頑張っても僕ではなにもできないのだよ。城の雰囲気を変えたい。それだけなのだ」
あ〜。やっぱりそういうの苦手なんだよなぁ。
「ねぇ、なんてマロンくんは城にこだわるの? なんでマロンくんが城にいる? の?」
「何を隠そう、僕がその第一王子のシエトロンだからだよ」
王子、なの? スケールが違ってきたぞ。
「僕のせいで王妃様が苦しんできたのならば、僕がその苦しみを取り除いてあげたいのだ。残念ながら、王妃様が母上であらせられながら、舞踏会くらいでしか顔を合わせることがない。その場にいることも少ないのだ」
王子様かよっ。それでこんなにお美しいのかぁ。だけど、視点が少しずれているような気がするんだよな。
「ねぇ、それって他力本願なのではありませんか? 王子様」
「そう言われると思っていた。あと、話し方はこれまでとおなじでいいよ。他力本願だけど、仕方ないのだよ」
認めた、かぁ。けど本当にそっちの世界はかかわりたくないんだよな。なんたってあたしはものぐさだからさぁ。
うちみたいな宿屋件定食屋の娘がかかわるべきじゃないでしょ?
せいぜいスライムの討伐くらいしかかかわらないんじゃないかなぁ?
しっかし。こんな場所に王子様がひとりだなんて。護衛もなしでよくゆるされたなぁ。
っていうか、本当にこの人がシエトロン様なのだろうか?
なんだか色々とためされている気分だわ。
つづく




