表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

確信

作者: nandemoarisa

昼休み前の授業はいつものように気怠く、いつものように退屈なはずだった。しかし、今日は、いつものようにしていられない。たまたま他クラスとの合同授業になり、先生の思い付きで席順をシャッフルさせられた。別にそのくらいのことは、いつもあることだ。だが、今日は何が違うかというと、隣の席にフローリーがいるのだ。


 アメリア・フローリー


 俺の家と同等の権力を持つ公爵家の令嬢だ。昔からコールドウェル家とフローリー家はライバル関係にあって、両親同士も仲が悪い。貴族の集まりなんかでも、子供の頃からフローリー家と会うと火花が散っているように見えていた。子供心ながら、この家の人間とは仲良くしてはいけないんだと思っていた。

 けれど、そう思いながら彼女を観察するうちに、俺は彼女のことが気になって仕方がなくなっていった。

「この女は、コールドウェルの敵。」と考えていても、彼女が躓けば心配になり、彼女があくびをしていれば可愛いなと思い、彼女が笑うと、愛しいな、と思うようになっていった。

 そんな風に思い出したのはまだ幼い頃だった。実はそれからずっと、彼女から目が離せないでいる。以前は年に何回かしか会えなかったが、この魔法学校に入学してからは、ほとんど毎日、食堂か授業で姿を見ることができる。それがたまらなく嬉しかった。


 誰にも言えないけれど。


 どうせ、好きになったって、結ばれるはずもない。彼女の方はコールドウェル家の人間なんかごめんだろう。昔からお互いすぐに口喧嘩になってしまう。両親の手前、親密な態度を取るわけにもいかず、話そうとするとすぐに喧嘩腰になってしまうのだ。自分でもバカだと思うが、わかっていても、気持ちは簡単には消えはしないし、彼女に上手く接することもできない。


 今も、フローリーが隣の席にいるだけで、俺の心臓は嫌というほど早く脈打っているし、落ち着かない。彼女の方に目を向けないように俯いて、目を閉じている。目を開けていると、彼女の気配がして、どうしようもなくなるからだ。

 

 早く時間が過ぎれば良い。彼女だって、俺が隣にいるのなんか嫌なはずだ。いつも虫ケラでも見るような目で見られるのだから。


「それでは、今日はここまでにしましょうか。」


先生の声が聞こえ、漸く授業が終わったのだと分かる。彼女の気配が消えたら、目を開けても良いだろうと思った。

 しかし、ほとんどの生徒の声が遠のくなか、彼女の気配は一向に去らない。


「コールドウェル、授業終わったわよ。」


 俺は固まっていた。まさか、彼女が俺を起こそうとするとは思わなかったからだ。

寝ていると思われているのも何だか気恥ずかしくなってくる。


「コールドウェル〜。」


次には、肩が叩かれたり、揺らされたりして、彼女の小さな手が肩に触れる。


「…ん。」


俺は少し声をあげて、ずっと強制的に閉じていた瞼を開け、我慢ならずに、肩に触れる彼女の手をそっと退けた。触れた手は、柔らかく、少し冷たかった。握りたい衝動を抑える。心臓は早鐘を打っている。


 彼女を見ると、ポカンとしていて、可愛い。


「フローリー…。」


 名前を呼ぶと、少し早口で照れくさそうに話し出す。


「あの、もうとっくに授業終わったわよ。珍しいわね、寝てるなんて。」


 その口がぱくぱくと動く様をじっと見つめた。


「ところで、その手を離してもらえると助かるわ。」


 離すことが出来なくなっていたその手を、その指の形を感じながら、そっと離した。


「すまない。」


 その行為が、彼女にとって不快なものだったのではと思い、咄嗟に謝った。けれど、彼女はもうすでに踵を返して歩き出していた。彼女の後ろ姿が扉の中に消え、俺は溜息をついた。


「はあ〜。」


そして、椅子に倒れかかって、手を握る。


「手、柔らかかったな。」


そう言って、少しの間天井を見ていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ