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星に願いを、異世界に拳を  作者: シンゲン
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休息と質問

マコトが次に目を覚まして最初に見たものは、またもやミレイの泣き顔だった。


「……また泣いてる」


「泣かせてるのは誰ですか……!」


アーマードベアにトドメを刺し、礼を行った。マコトの記憶にあるのはそこまでだった。半分気を失いながら戦っていたようなものだ。戦いが終わりアドレナリンが切れてしまえば、そのままぶっ倒れるのは当然のことだった。


「あー……ぜんっぜん体が動かない」


しばらくの間ミレイに回復術をかけてもらい、肉体的な損傷は完治していた。だが、全く力が入らない。まだマコトは起き上がれないでいた。


「それは、魔力切れの症状ですね」


「魔力切れ」


体に蓄えられた魔力を使い切るとまともに動けなくなる。魔力は自然に回復するが、それには半日ほどかかるらしい。更に、回復術では肉体の傷は治せても切れた魔力の補充はできないとのことだ。


「病気だったりにも効果が薄いんです、回復術。だから薬がいるんですよ」


そう説明しながら、ミレイは薬を調合している。魔力補充の薬に持ち合わせはなかったようだが、集めていた薬草で作れるということだったのでそうしてもらっている。マコトはその間、どうせ動けないのならばと色々聞いてみることにした。


「魔力の使用用途は二種類あります」


ミレイはピンッと人差し指を立てる。先生気分が味わえて、嬉しいのかもしれない。

先ほどのミレイやマコトが使っていた、魔力を直接的に操っての攻撃や自己強化、そして回復。これは魔の技と書いてマギと呼ばれているそうだ。

もう一種類は魔力によって大気中の元素に働きかけ、共鳴させることにより属性を操る魔法。これはそう簡単なものではなく、長い修業の果てにとくできるらしい。


「大体の人は元素を感じ取ることすらできませんから。もちろん私にも無理です」


「ふーん……」


ここまでずっと状況に流されるままだった。だから、ずっとふわふわした感覚だったマコトだったが、冷静に説明を聞けた今、改めてファンタジーの世界に来たのだと実感する。


「それにしても、マコトさんがあんなに強かったなんて知りませんでした。あれ程の威力があるマギは見たことありませんし……魔力量も」


「そうなのか?」


なんならマコトはあの場で初めてマギを使った訳で、強さの基準など……、とここでミレイが言っていたことを一つ思い出す。


「そう言えば、アーマードベアは金級の冒険者が複数人で討伐にあたる、だっけ?」


「そう、そうですよ!アーマードベアを一人で倒しちゃうなんて、もうとんでもない事なんですよ!?」


ミレイは興奮気味にそう話す。

冒険者……一般人には難しい問題を代わりに解決してお金を稼ぐ職業。死の危険と隣り合わせだが、その分こなせれば実入りが良い。

冒険者にはランクがあり、下から銅、銀、金、白金、金剛まで。特に金剛は伝説的な偉業を成し遂げた人物のみが到達できるランクで、世界に数人しか居ないのだという。


そして元のマコトも冒険者であり、ミレイの所属する薬屋からの採取依頼を良く受けていた、と言うのは先程もざっくりと聞いたことだった。


(冒険者ねぇ)


アーマードベアとの死闘を振り返る。本来であれば自分にできる範囲を見極めて依頼を受けるのだろうが……あんな命のやりとりで金を稼ぐ事もあるのが冒険者。正気のじゃないと言うのが、マコトの正直な感想だ。

とはいえ、マコトにとっては都合がいい話でもある。この世界のことを何も知らないマコトが手っ取り早く生活基盤を作るためには、兎にも角にもお金が必要だろう。それに……


「マコトさん、お薬できましたよ〜!」


ミレイは明るい声で薬の完成を告げた。考え事の途中だったが、マコトの意識もそちらへ向く。先ほどまでとは全然違う振る舞いだが、こちらの方がミレイの素なんだろう。朗らかな優しい雰囲気で人を安心させる。そんな人なんだな、とマコトは思った。


「ありがとう」


マコトがお礼を告げると、ミレイはグッと親指を立てる。


「二回も命を助けてもらったんです。これくらい!」


「それはお互い様だ、ミレイ」


マコトとミレイは顔を向き合わせる。そしてどちらからともなく笑い合う。喜びを分かち合うように。


……それからマコトは、ミレイの作った薬を飲んだ。その薬は効果抜群で、マコトの魔力は十分すぎるほどに補充された。だが……


「ぐえぇ……」


「まぁ急ごしらえだから、味は、ね?」


その薬の味は、これまでマコトが飲んだことのあるどれよりも苦かったが……、生き残ったことを強く実感できるものでもあった。

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