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星に願いを、異世界に拳を  作者: シンゲン
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魔族とは

何とか森を抜けたマコトは、そのまま急いで町まで帰ってきた。フィメラトの派手な魔法は町からも見えていたようで、更にはぐったりしているバルドも含めて、門の守衛には心配の声をかけられた。だがマコトが魔族が居たと一言伝えると、血相を変えてアレオロ邸まで走り去っていった。


マコトはと言えば、まずバルドの回復が最優先だと宿に駆け込む。ミレイ達の部屋にノックもせずに飛び込むと、ミレイは驚きながらもすぐにバルドの回復に移った。そうして、バルドの容体が安定した頃……マコトはようやくと言うように、口を開いた。


「魔族って……なんなんだ?亜人とは違うのか?」


ミレイとフィメラトはその疑問に目を見合わせるも、二人で教えてくれる事となった。


「魔族とは……簡単に言えば魔力が多い人間です」


「……人間、なのか」


「そうです。これについては、魔力保有の性質についてお話する必要があります」


曰く、体内には魔力の器があり、普通であればそこに収まる程度に魔力が精製される。だが時折、生まれつき器から溢れるほど大量に魔力を精製してしまう者が存在する。溢れた魔力は無くなる訳ではなく、体に何らかの形で影響を及ぼしてしまう。


「……魔族の場合は、角という形で現れることが多いですね。溢れる魔力を受け止める器が新たに作られている、らしいです。ですので、魔族はとんでもない魔力量を保持していることが殆どです」


「……つまり、大体強いと」


「そういうことです。多少鍛えるだけでも白金、下手すれば金剛級の冒険者にも匹敵するとかしないとか」


「補足すると、魔獣の類も同じようなものよ。アーマードベアなんかは体毛に魔力が流れ出す事で、耐久力が上がっているわ。人間と違って微細な魔力操作なんかしないから、まだ何とかなってるみたいだけどね……」


「なるほどな……。でも皆の反応を見ていると、こんな所にいるはずない、って思ってるみたいだが……」


マコトのその疑問にミレイ達が答える前に、横から口を開く者がいた。


「……魔族はどうなった?」


その声にベッドを見ると、バルドが上体を起こしている。頭を掻きながらベッドから出ようとして……ふらついたのでまたベッドに座らせた。取りあえずは逃げおおせたことと、マコトとフィメラトが一発ずつ重たいのを叩き込んでおいた事は伝えた。そうして今はマコトが魔族について聞いていると言うと、俺が話そうか、と提案してくれたのだった。


「あんまり気持ちのいい話じゃないが……大昔の……もう、歴史の話だな」


そうしてバルドは語り始めた。その内容はこうだ。


魔力が溢れて角が生えたりすると言うのは先程も言っていたことだが、そんな姿が社会で好意的に受け止められる筈がない。魔族は半ば社会から弾き出されるような立場だった。だがある時ある街で、とある魔族が……その力を振るった。理由は分からない。理由が判明する前に、その魔族は討伐されたからだ。だが、その街は半壊。この事態を重く見た当時の王家は、魔族を敵性勢力と見なして国外追放を決定した。いくら素の魔力量が多いと言っても、皆が戦えるわけではない。それに絶対数も少なく、団結している訳でもない。故に多くの魔族が逆らえず、国外へと追放された。最も、逆らったものは殺されてしまっている。その後、この国イルミナでは魔族は入国禁止とされた。


「……と言うわけだ。だから、この国に魔族が居るって事は当然不法入国だってことだな」


「なるほど……。でも話を聞いた限りでは、自然に生まれてしまうこともあるんだろ?それはどうするんだ?」


「……魔族の存在が確認されたら、騎士団が向かって確保する。その後は……建前上は追放となっているな」


「建前……?」


「考えても見ろ。強大な力を持っていて危険だと認定した存在を、他国に押し付けて問題にならない訳無いだろう」


その言葉に何事かを悟ったマコトは、言葉も出せず手を口に当てた。


「……まぁ俺も詳しくは知らん。人道に外れた手段が取られていないことを願うがな……」


一瞬沈んだ表情を見せるバルドであったが、すぐに気を取り直して話をまとめにかかる。


「そんな訳だから、魔族は人間に対して敵対的だ。組織立って動いていた事を考えると……国内に他にも魔族が居る可能性はある。すぐに各所に伝える必要がある」


バルドは改めてベッドから降り、ちゃんと足に力が入るかを確認する。


「バルド……もう少し休んだ方が良いんじゃ」


「できる事はしておく。武器も失って戦えない今、俺にできるのは伝達係くらいのもんだ」


それじゃあな、と言ってバルドは部屋を出ていく。姿を追って窓の外を見ると、守衛が迎えに来ていた。実際に現場を見たバルドに対して、町長が詳しい報告を求めたのだろう。バルドは守衛と共に、町長の館へと向かっていった。


マコトとしてはバルドの精神面も心配であったが……敗北で折れる人じゃないだろうと、彼を信じる事にした。


さて、ではマコト達はこれからどうするか、という雰囲気になった所で、唐突に少女の声がした。


「や〜っと話せるよ。話が長い!」


ミレイとフィメラトは驚き周囲を見渡すが、誰もいない。いや、正確には誰も見えないと言った方が良いだろう。


「姿を現してくれ。焼き鳥の子だろ?」


「おっ、察しがいいねぇ」


そう言うと、パッと少女が姿を見せる。マコトには見覚えのある姿で、まるで最初からそこにいたように。それがあまりに急すぎて、ミレイは小さな悲鳴を上げていた。


「……君は何者なんだ?」


「んー?本当なら姿を見せる予定じゃなかったからね〜。……まぁ名前だけならいっか。私の名前はロマラン。以後よろしく〜」


「ロマラン……。それで、なぜあの場にいたんだ」


マコトがそう聞いても、ロマランはおどけながら人差し指を口に当てる。


「それはひみつー。名前以外は教えないよ〜。……でも〜……これあげるね」


そう言って少女は複数枚の紙をマコトに渡す。軽く目を通すと、それは事件の報告書……、そう、アレオロの息子が殺された事件の報告書であった。


「これは……なんで君がこれを?」


「必要だと思ってね〜」


マコトとしては求める返答ではなかったものの、これ以上掘り下げても得られるものはなさそうだと、口をつぐんだ。


「さて、それじゃ私はこれで失礼〜。後は頑張ってね」


ロマランはやるべきことはやったとばかりに、こちらの言葉も待たずまた姿を消した。それから急に、バンッと窓が開け放たれる。窓から出ていったのか……、とそちらを目を向けたマコト達だったが、その後ろでは静かに部屋のドアが開いていたのであった。


……さておき、目下注目すべきはロマランから渡された報告書である。出どころはあえて考えないようにしつつ、読んでいくことにした。内容が内容なので先にマコトが一人でざっと確認したのだが、生々しい記述もあり思わず眉をひそめてしまう。その中で、被害者についての新しい情報と言えるのは名前と死因だ。名前はカイネ・ディガン。死因は絞殺。


続いて加害者の亜人であるベイル。カイネの首を絞めて殺害したが、その場面を目撃され糾弾に合う。そこで爪で自分の喉を切って自死。……そこまで読んで少し気分が悪くなる。青ざめたのを察してくれたのか、ミレイから心配の声が投げかけられた。


「大丈夫ですか?」


「ああ……ちょっとエグくて……補足とかも書いてるんだけど、現実味が増して結構きつい……。……?」


再び目を落として見えた記述に、マコトは違和感を覚える。その違和感が間違っていないかどうかを確認する為、表現を抑えつつ二人に伝えるのであった。


〜〜〜


場面は変わってアレオロの館の執務室では、アレオロとネイクが話をしている。アレオロの表情は至って険しい。それもそのはずで、先ほど入ってきた魔族が現れたという情報は、良い知らせとは言えない。だがアレオロとしては、それ自体を問題視しているわけではなかった。


「魔族……襲撃があると思うか?」


「いえ……町の付近に潜んでいたとするならば、いつでも襲えた筈です。わざわざ存在がバレてから来るとは考えにくいでしょう」


「お前もそう思うか。……まぁ来たら来た時だ。それよりも……あれのことだ」


背筋を伸ばして椅子に座っていたアレオロであったが、あれ、と口にすると共に、肘を机に置いて顔の前で手を組む。


「恐らくは、明日にも調査隊がこの町にやってくるでしょう。そうなれば、目立ったことはできなくなります」


「取り繕わねばならんとは言え……わざわざ邪魔者を呼ばねばならんとは面倒なものだな」


先ほど事の詳細を冒険者のバルドとやらから聞いた後、各所へ報告を行うというので騎士団やギルド宛の書簡を持たせた。だが、心中では毒づいていたものである。


「……ですが、まだ今日中なら。この機に乗じて逃げ出した、とすることもできるでしょう」


「ならば……今日の夜。執り行うこととしよう。町の者に対しては、魔族の襲撃を警戒して今夜は家から出るなと声明を出す」


「それがよろしいかと」


丁寧な態度での受け答えであったが、そんなネイクにアレオロは鋭い眼光を飛ばしていた。それに気づいたネイクはアレオロに尋ねる。


「いかがされましたか?」


「魔族が出たというのに、やけに冷静ではないか」


「そのようにあろうと、努めているのみでございます」


「……まぁ良い。どうでもいい事だ」


軽くかわしたネイクから視線を外し、アレオロはゆっくりと立ち上がって傍らの杖を掴んだ。状況把握の後に決定した対応を町内に周知させるため、伝令係として守衛を一人玄関の前で待たせているのだ。アレオロはゆっくりと、しかし確かな歩みで、ネイクの開けた扉を通り抜けて行くのであった。

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