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星に願いを、異世界に拳を  作者: シンゲン
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予期せぬ遭遇

森を探索するマコト一行は、昨日の方針と変わらず水場周辺の探索を行っていた。朝から数カ所巡ったが、まだ痕跡の類いは何も見つけられていない。そうしている内に昼になったので、軽く食事を取る事となった。適当な倒木や岩に腰掛けて、しばしの休憩だ。


「何も見つかんないわね……ったた、足いったい……」


「大丈夫か、フィメラト」


「お構いなく。歩き疲れよ……」


「一番若い奴が何言ってるんだ。シャキッとしろ」


「……そういうあんたは、説教臭くておじさんみたいね」


「なにぃ?」


「二人共……せっかくの飯時に喧嘩するなって」


フィメラトはふん、と鼻を鳴らしてサンドイッチを口に運び、バルドは肩を透かして干し肉を噛みちぎる。間に挟まれたマコトはと言えば、二人に呆れるばかりであった。


そんなこんなで食事を終え、次の水場へと向かう。付近へ到着してから、各々離れすぎずも手分けして痕跡を探す。しばらくしてから、マコトとフィメラトはバルドから集まるよう呼びかけられた。


「見つけたぞ。コイツだ」


指で指し示された地面は泥でぬかるんでおり、そこにははっきりと靴跡が残されていた。最近人がここに来た証明である。


「ふむ……、足跡は向こうの方へ続いてるな。行くぞ」


バルドを先頭に、足跡が続く方向へと進んでいく。なるべく音を立てないようなバルドの慎重な歩みに、マコトは緊張感の高まるのを感じていた。


少しばかり歩くと、ふっとバルドが腕を横に伸ばす。止まれ、の合図だろう。身をかがめて前方に視線を伸ばすと、そこには木々のない空き地があり、数名の人の影を確認できた。彼らは一様に赤黒い色のフード付きマントを羽織っていて、顔は隠され確認できない。マントの下に着ている服装も統一されており、そんな彼らを見てバルドが小声で呟く。


「……賊じゃないな」


「分かるのか?」


「服装の統一は、集団への帰属の意思を示すために行われる。だが、賊に帰属意識なんてもんはない」


「だったら、あいつらは何者なのよ?」


「分からない。……だが、こんな森の中で、こんな怪しい格好した連中だ。下手すりゃ賊より面倒かもな……」


そのようなことを話していると、集団のうちの一人が不意に辺りを見回し始めた。それから、顔を隠していたフードを取る。髪は白く、肌は浅黒い。顔は中性的で性別は判然としなかった。普通の人のようにも見えたが、一点まったく異なる部分があった。その額には小さな突起……言うなれば、角が生えていた。エルフや獣人が存在する世界だ。身体的に人と違うところがあっても、いい加減マコトも慣れてきていた為に特に驚きもしなかったのだが……思わぬ所から驚きの声が聞こえてくる。


「魔族……!?なんでこんな所に……!」


バルドから漏れ出したその声からは動揺が読み取れる。フィメラトを見ても信じられないものを見たというように口を抑えている。


「事情が変わった。いったん引くぞ」


「あ、あぁ」


バルドは冷静であるよう努め、即座に指示を出した。なにか尋常ではない事が起こっているようだとマコトも認識し、素直にそれに従う。バルドがここまで焦りを見せる、魔族。いったい何なのかと一瞬だけ目線を戻すと、その魔族は耳に手を当て、大きく口を開けた。


「んぎっ」


途端にフィメラトが耳を抑えてうずくまる。


「な、なんだ、どうしたんだ!?」


「なにこれ……嫌な音……み、耳が痛い……!」


「音……!?そんなの何も……」


マコトはバルドと顔を見合わせるが、バルドにも何も聞こえてはいないようだった。何が起こってるのかも分からないままだが、誰がそれを起こしているのかは予想がつく。マコトが改めて魔族の方に顔を向けると……その魔族の見開かれた目と、目が、合った。


「っ、伏せろ!」


バルドの叫びと同時に、魔族がこちらへ向けて口を開く。すると途端に周囲の木々が音を立てて爆ぜた。つまりは……攻撃されている。バルドは伏せながら、しゃがみ込んでいるフィメラトを一瞥して、覚悟を決めたように言う。


「マコト。お前はフィメラトを抱えて逃げろ」


「……バルドはどうするんだ」


「馬鹿野郎、コイツは俺が受けた仕事だぞ。……さっさと行け!」


「……っ、すぐ戻る!」


マコトがフィメラトを抱えて走り出すのと同時に、バルドも立ち上がり武器を手に取る。とは言え、攻撃のためではない。バルドの大戦斧は刃が広く、側面に身を隠せば小盾のように使うこともできるのだ。壊れないよう魔力を纏わせ強度を上げるも、容赦なく襲い来る攻撃に大戦斧は軋む。だが、マコト達が逃げ切るまで身を呈して射線を塞ぎ続けた。


マコト達の姿が見えなくなったのを確認してバルドは再び身を伏せる。そしてそのまま木々に隠れて素早く移動する。気づけば空き地にいるのはフードを取った魔族一人だけになっていた。他は戦闘要員ではなかったのかもしれない。


さておき、攻撃の頻度が高く、真正面に立っていては近づきもできない。幸い森の中は薄暗く、視界が悪い。何とか死角に入って不意を打ちたいのだが……。


「ーーーッ!!」


どこに隠れていても魔族はすぐにバルドの方へと向き直り、攻撃を仕掛けてくる。これでは不意を打つどころではなく、移動をし続けるしかない。とは言え相手の探知と攻撃の方法については、バルドにはアタリがついていた。


(……フィメラトが耳を抑えてたとこを見ると……おそらく音だ。動物の中には、人間には聞こえない音を出し、その反射で辺りを探る奴がいるらしい。それにこの小爆発みたいな攻撃も……奴を見る限りは、口から発せられている)


だが、それが分かっていても実際にどう対処するかは閃かない。冷静に考える間もないのだ。このままでは心身ともに徐々に削られていくだけでジリ貧である。多少無茶でも接近を狙うべきかと、そう思い始めた時……、魔族が不機嫌そうに唇を歪めた。


バルドが何事かと考える間に魔族はもう一度大きく口を開け、恐らくは探知を行った。そうしてバルドの方へと向き直ると、素早く、深く身をかがめた。そして翻ったマントの下、腰につけていたナイフを二本抜き去りながら、足をバネにして突撃する。


(……来たか!)


まだるっこしくなったのだろうか、なんにせよ隠れんぼはおしまいだということだろう。バルドとしても、攻撃が届く距離に来てくれるならそれに越したことはない、のだが……。


ナイフの二刀流となれば、手数の多さで攻める類の武器だ。しかしリーチが短いので、距離を詰めるのに苦労する……、のは攻撃手段がそれだけであればの話だ。この魔族の場合、先ほどから見せている口からの攻撃……音波爆発が、リーチの短さという弱点を完全に消している。それを踏まえてどう立ち回るのかだが、これはもう一つしかない。


(懐に潜られたら終わる。中距離戦だ)


むざむざと近づかせてしまっては、両手と口の三点から来る波状攻撃に耐えるのは難しい。しかし離れすぎてはこちらの攻撃が届かない。つかず離れずの絶妙な距離感を保って戦うしかない。


(……無理難題もいいとこだ。だが……やらなければ死ぬ!)


「断空!」


バルドは自分を奮い立たせるように、技名を叫ぶ。幅広の刃に、更に薄く大きく魔力を纏わせ薙ぎ払う、単発の威力よりも範囲を重視したマギだ。魔力によって更にリーチを伸ばす断空は不意打ちにも使えるため、初撃には丁度いい。さらに念には念を入れ、斧を振りながらも後ろに飛び退すさる。


さしもの魔族もこの急激なリーチの変化には対応しきれなかったようで、ナイフを十字に重ねて攻撃を受ける。そのまま耐えることなくふっ飛ばされるが、空中で体勢を整え近くの木に着地した。そのまま再び、跳ね跳ぶように突っ込んでくる。


直撃を取れなかった事に舌打ちが漏れるも、バルドはそのまま後退しつつ断空で牽制を続けた。……だが、当たらない。当然と言えば当然で、本来は身動きの取りにくい対集団用の技だ。身軽な相手に対しては、タネが割れればただの大振りだ。しかも、避けるのと同時に音波爆発を狙ってくる。そのような状況でもなんとか近づかせまいと必死に大戦斧を振るが、確実に距離を詰められていた。


(……覚悟を、決めるか)


このままでは結局仕留められる。その前に……まだ何かできる内に、勝負に出なければならない。バルドは決断し、大戦斧を振るった。


魔族は軽々とそれを避け、音波爆発を仕掛けようとして……違和感を覚える。今の薙ぎ払いには魔力が乗っていない。何のつもりかと思った刹那、魔族の目に飛び込んだのは、一歩踏み込み大戦斧を振り上げる敵の姿であった。


バルドの仕掛けた一瞬の駆け引き。これが理想通りにハマった。リーチの長い横薙ぎを避けるなら上か下、どちらかに限定される。だが上で避けると体勢が悪くなり距離を詰めるのは難しくなる。ならば自然と下に潜って避ける可能性が高い。更には、幅広の戦斧によって一瞬だけでも視界を奪う。そのタイミングで強い一撃を叩き込む。ここまで後退を続けて来たからこそ、この踏み込みに反応するのは遅れるだろうという期待も含めた作戦、いや、博打と言ったほうが正しいか。


そして、その全てが上手く行った。後は全力をもって叩き潰すだけ……!


「剛断、大瀑布!」


それはシンプルなマギだ。ただ強く大きな魔力を乗せて、手に持つ大戦斧を振り下ろす。


……冒険者になるにあたって、ミルドラルと似た武器を使おうとこの大きな戦斧を選んだ。最初は振るのも難しかった。だが今は、自分の手足のように動かせる。ミルドラルへの憧れ、それに向かって歩む自分自身への期待。この大戦斧にはバルドの魂が宿っている。


魔力を乗せて大戦斧を振り下ろすだけ、だが魂を込めて振るうのだ。……これは、バルドに振るえる最も重い一撃だった。


そしていよいよ大戦斧は振り下ろされ、轟音を唸らせた。衝撃で木々の葉は飛び、土煙が起きる。……しかし、バルドの顔は強く歪んでいた。


足……足だ。足で大戦斧を止められている。上体を屈めた姿勢から、綺麗に足が上がっていた。靴に何か仕込んでいるのか、はたまたマギか。何も分からないがとにかく、バルドの全身全霊は、魔族の片足で受け止められていた。


……バルドは基本的にリアリストだ。物事の優先順位はきちんとつけるタイプで、今がショックを受けている場合ではないことは分かっていた。これを止められるのならいよいよ勝ち目はないのだから、すぐさま逃げ出さなければならない。しかしながら……一瞬でも停止してしまった思考は、判断力を低下させる。逃げるのであれば、重たい大戦斧は置いておくべきだった。身を引こうと斧を引っ張り……それがいつもより重たいと気づくのに、一瞬遅れてしまった。


……足で大戦斧を掴むようにして、魔族が付いてきていた。身体が振り回されないよう、ナイフを大戦斧に突き立て身体を安定させる。そして、刃の横から顔を覗かせて……その口を開いた。


バルドは大戦斧から手を離し、離れようとするも……圧倒的に足りない。時間も、距離も。口から放たれる音波爆発は、バルドの胸元に直撃した。


揺らぐ視界、断続的に途切れる意識、熱さにも似た激痛と、遠くて近い叫び声。ただ自分が吹っ飛ばされ、地面に転がっていることだけが、バルドが唯一、理解できることであった。


魔族はバルドが動かなくなったことを確認すると、大戦斧からナイフを抜く。軽い調子でお手玉してから鞘に戻し、バルドにとどめを刺すべく向き直った。そうして口を開こうとした瞬間……。


「おーい、こっちこっち」


背後から呼びかけられ、魔族は飛び退く。……いつの間にそこにいたのだろうか。どこからか姿を現していたのは、銀髪の少女だ。ぽりぽりと人差し指で軽く頭を掻きながら、少女は口を開いた。


「流石にこの状況じゃ~……、見てるだけって訳にもいかないよねー」


気怠げにゆらゆらと体を揺らしながら、少女は不敵に微笑むのであった。

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