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星に願いを、異世界に拳を  作者: シンゲン
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言えない想い

次の日の朝。マコトはいつもより早めに起き、日課の鍛錬とシャワーを済ませていた。昨日、完遂できていなかったのを気にしてのことである。そしてフィメラトを連れバルドと合流し、また森へ向かう。


町を出る際、門に立つ守衛にそれとなく昨日の顛末てんまつを聞いてみたが、当然の事ながら何も教えてはくれない。駄目で元々なので特に気にせず、森の探索へと意識を切り替えたのであった。


〜〜〜


昨日と同じく町に残ったミレイであったが、今日はやる事があった。過去の事件の概要について調べるのである。多少目立ってしまうかもしれないが、状況的にモタモタしている暇もないと判断しての事だ。


とは言え図書館のような過去の事象を調べられるような施設はこの町にはない。必然的に町人から話を聞かなければならないのだが……、露骨に避けられている。初日からそうと言えばそうなのだが、これでは話すどころではない。どうしたものかと考えて守衛の詰所などにも行ってみたりしたが、仕事中だと言って取り合ってくれない。


情報が簡単に得られる状況ではないのは分かっていたことではあるが、それでも焦ってしまう。膨らむ不安に背中を押され、気づけばアレオロの館が見える場所まで来ていた。外から眺めた所で中で何が起きているかなど分からないが、もしかしたらあの亜人達が今も酷い目に合っているかもしれないと胸が苦しくなる。


とは言え、そんな事をしていても何の解決にもならない。ふぅ、とため息をついて視線を外すと、先日葡萄を売ってくれた年配の男性が視界に入った。今日も変わらず葡萄を売っているようだ。せっかくなのでまた買おうかと考え、ミレイは男性に声をかけた。


「こんにちは」


「ん……?あぁ、こないだの……」


「葡萄を一房、頂けますか?」


「……はい、どうぞ」


買った葡萄は実が詰まりずっしりとしている。よく育っているその葡萄に、改めてミレイは感嘆した。


「前に頂いた時も、とても美味しかったです。愛情深く育てられているんですね」


「そりゃあどうもね」


ミレイが笑顔で話しかけてみても、返事はそっけない。……どうせ元々忌避されているならば、いっその事思い切り踏み込んでみてもいいのかも、と思う。多少心証が悪くなっても今さらの話だ。


「……この町の人は亜人を嫌ってると、前に言ってましたよね。実は、私達が連れていた亜人の子。最近家族としてお迎えしたんです。フィメラトさんと言うんですが」


「家族として……?随分と物好きなんだな」


「そうかもしれません。でも……普通の女の子ですよ」


「普通?亜人は人とは違う」


男性は苛立たしげにそう言い放つ。だがミレイはそんな態度にも怯まず、男の目を真っすぐと見つめて言い返す。


「どう、違うんですか?」


「なに?」


「亜人と人とは違うから……だから仲良くできないんだって。私も漠然とそう思っていました。でも……何が違うのかを私は知りません。知ろうともしてこなかったんです」 


男は黙ってミレイの言葉に耳を傾けていた。ミレイは語り口に熱が入るのを自覚していたが、それを抑えるつもりもなかった。


「でももう、無責任ではいられません。だから知りたいんです。あなたは何が違うと思いますか?あなたは、なぜ……亜人が嫌いなんですか?」


ミレイの問いかけに男は少しうんざりしたように頭を振る。それから、諭すような口調で話し始めた。


「……あんたな、夢を見たい年頃なのは分かるよ。だが連中とは文化が違う、価値観が違う。嬢ちゃんは野生の獣と仲良くできると思うのか?」


「獣、ですか。なぜ、そんな風にまで……」


「……分かった。聞きたいと言うなら教えよう。この町で、亜人が何をしでかしたのかを……」


〜〜〜


昔……人亜戦争が終わって少し経った頃だ。タニアは今よりもっと寂れてたんだ。前任の町長は自分にばかり金を集める男でね。税は重く、町への還元はない。町人が農作物の不作に喘ごうがお構いなしだ。畑も人も……何もかもがボロボロの有様だった。そんな時、奴の汚職が発覚してね。奴は牢獄にぶち込まれた。その後釜として、あの人……アレオロ町長はやってきたんだ。


忘れもしないよ、あの時の事は。誰もが疲れ果て、諦めていた。だと言うのに不安には駆られるものでな。就任式には不穏な空気が流れていたものだが、そこで町長は言ったんだ。


「民が生きれば町が活きる!町が活きれば国が栄える!君達こそが国の心臓なのだ!なればこそ、君達にこそ強く、たくましくあってもらわねばならない!そのために、私は全力を尽くそう!」


最初はだれも信じちゃいなかった。所詮は貴族の出、どうせ口だけだけだろうと。だが彼は、真摯にこの町と人に向き合った。知識が無ければ勉強し、共に働き、すっかり痩せたこの土地に葡萄の木を植えた。今じゃあそれが特産品だ。彼はな、タニアを救ったんだよ。


それでだ。ここからが本題だが……ある時、彼が結婚したんだ。植えた葡萄がある程度収穫できるようになった頃だったかな……。相手はこの町で農業に携わる一般人だ。名前はミラ。しっかり者でね……良い子だったよ。その後子供も産まれ、順風満帆だった。あの日までは……。


町長はタニアの建て直しと言う仕事の他に、亜人との融和を目指していた。その一環として、亜人の保護を行なっていたんだ。四、五人程、だったな。そのうちの一人……亜人達の中でも最年長で、町長と一番仲が良かったはずの亜人が……、町長の息子を殺した。丁度……十五年前だ。息子を殺した後、逃げられないと悟ったのか、奴は自死した。


……その後は悲惨の一言だ。町長も沈んでいたが……ミラが酷く病んでしまった。そのままどんどんと衰弱していって……一年後には亡くなっちまった。一人残された町長は、全てを忘れようとしてか仕事に打ち込んだが……まるで機械になったみたいだった。あの時は……とても見ちゃいられなかったよ。


町長にはな、この町に住む者なら皆、恩を感じてる。その町長から大事なもんを奪った亜人は……俺たちの敵だ。


〜〜〜


「……どうだ、これで満足か?」


「……話してくれて、ありがとうございます」


アレオロの善性と、彼が町人からいかに慕われているか。そして、アレオロを傷つけた亜人への怒り。それらが痛い程に伝わってくる話であった。


「連中は恩を仇で返すような奴らだ。嬢ちゃんも、手遅れになる前に考えたほうが良いぞ」


フィメラトが自分達に危害を加えてくる。そんな姿はどうしても想像できない。しかしながら、現にアレオロは息子を亜人に殺されている。複雑な胸中からか、ミレイはその忠告には応えられなかった。代わりに言葉にしたのは、一つの質問だった。


「あの、最後にもう一つだけ聞かせてください。アレオロ町長が新たに奴隷を買い始めた理由を知っていますか?」


「……知らんよ。何を考えてるんだかな。ただ……もう60近いんだ。死ぬ前に何か、しておきたいのかもな」


「……そうですか」


何をしていても止める気はない。ミレイには男性が、言外にそう言っているように感じられるのであった。


〜〜〜


男性に礼を言ってその場を離れたミレイだが、もう一つやる事があった。宿に戻っても恐らく大丈夫だが、せっかくここまで来たので、アレオロの館が見える所でしばし待つ。時刻は昼過ぎ。そろそろかな、と館の方に目を向ければ、目立つ赤い髪の少女が歩いてくるのが見えた。イチである。イチかフタバ、どちらかとの接触が、もう一つのやることだ。館から見える位置で声をかけるのは良くないだろうと、もう少し町の方まで歩いてから声をかける、つもりであったが……。


「あ、おねーさん!」


「え!あ、はい、こんにちは」


向こうから話しかけられてしまった。こうなっては仕方ない。せめて立ち止まらずに話すことを提案して、一緒に歩いていく事にした。


「おねーさん、どうしたの?なんか用……あっ、えーと……」


「普通にお話していいですよ。私は気にしませんから」


「ほんと?ありがと!」


パッと笑顔を見せるイチに、ミレイの口元も綻ぶ。しかし、癒されている場合ではない。あまり時間をかけるべきではないだろうと本題に入る。


「実は、いくつか聞きたいことがあるんです。良いですか?サンゴさん」


「うん、良いよ!……って、あれ?なんで私の名前……」


やはり、とミレイは思う。昨日の会議においてフィメラトが口にした意見だったのだが、サンゴという名前がイチの本名なのでは、というものだ。フィメラトが本名を名乗っているのはマコトがそれを望んだからであって、本来ならば奴隷の名前は購入者が付けるものだ。その考えは当たっていたようなので、そのまま話を掘り下げていく。


「フタバさんから聞いたんですよ。でも、フタバさん、ご自分の本名は教えてくれなくて……」


「そうなんだ……。えっとね、ユーリは、ユーリって言うんだよ」


「ユーリ……。サンゴさんとユーリさんですね。覚えました」


嘘は言っていないが、なぜだか騙している気になってしまい心が痛む。だが必要なことだと割り切って、どんどんと聞いていく。


「他に働いている亜人の方はいるんですか?」


「んーん。僕とユーリだけ」


「そうなんですね」


これで救出対象が二人だけであると確定できた。だがまだ最後に……大事な質問が残っている。


「……お屋敷ではなにか、嫌なことはされていませんか?」


「え。……あの、えっと、……その」


だいぶ踏み込んだ質問だが……この子の性格なら、されていない場合そう言い切りそうなものだ。ミレイは、やはり虐待は有るのだろうと密かに確信を深めつつ、話題を切り替える。


「いや、お仕事であれば嫌なことくらいありますよね。言いにくいことを聞いてごめんなさい」


「あ、え、あの……、……うん……」


ミレイが話題を切ると、イチは酷く落ち込んだ顔を見せる。本当は助けてほしいと言いたいに決まっている。だが、館にはフタバが残されていて、下手なことをすれば彼女がどうなるか分からない。二人には隷従の首輪もつけられておらず、一見すると自由にも見える。その実、二人はこれ以上なく縛られている。……必ず、この鎖は断ち切らなければならないとミレイは決意を新たにする。


「……色々聞かせてくれてありがとうございました!お礼と言ってはなんですが……これをどうぞ」


ミレイがイチに手渡したものは、小さな木彫りの人形だ。フィメラトが作ったもので、イチとフタバを模している。


「僕たちの人形……!」


「ええ、この間見ていたでしょう?せっかくですから」


「……これ、あの子が作ったの?」


「あの子……、はい。フィメラトさんですね」


「フィメラト……」


何を考えているのか、真面目な表情で人形を見つめるイチ。それから何事かを口にしようと、ミレイの顔を見つめ口を開いて……一度閉じて。改めて、言った。


「……ありがとう。大事にするね」


イチはミレイが何かを言う前に、急に走りだしてその場を去った。本当は、何を言いたかったんだろうか。一人残されたミレイは、そのことを考えずにはいられなかった。

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