町に戻って
街に戻ったマコト達は宿へ直行した。とにかく汗と土と泥まみれ、なんなら所々に蜘蛛の巣まで引っかかっている。なにをするにもまずは体を洗ってからだ。宿内でバルドと別れてから、まずはフィメラトを届けるため彼女の部屋へと向かう。こんこん、と扉をノックして声をかけると、ミレイの返事と共に扉が開かれた。
「おかえりなさい、マコトさん、フィメラトさん」
「ああ、ただいま」
「……ただいま」
「フィメラトが歩き疲れちゃったから届けに来たよ」
「荷物みたいに言わないで」
そんな二人のやりとりに、ミレイはくすりと笑う。
「ふふ……。それで、何か見つけられましたか?」
「いや、何も。だから明日も森の探索に向かうことになった」
「あ、そうですか……」
明日もマコトは町にいないとの事でミレイは浮かない顔を見せる。それを見逃さなかったマコトは心配そうに声をかけた。
「なにかあったのか?」
「……はい、伝えておかなきゃいけない事があります……けれど……」
「けれど……?」
緊張感のあるその話し口にマコトは身構える。そんなマコトにミレイは告げた。
「まずはお風呂に入ってきてください。お部屋も汚れちゃいますから」
〜〜〜
マコトは自室でシャワーを浴び、少し時間を開けてから改めてミレイ達の部屋のドアを叩いた。そうして招き入れられた後、椅子に座ってミレイの話を聞く態勢に入る。
「落ち着いて聞いて下さいね……」
そのように前置きしてからミレイは話し始めた。傷だらけのフタバと人質らしきサンゴと言う人物について……。ミレイが話し終える頃にはもう、マコトの表情は険しさに満ちていた。
「虐待、か。すぐにでも助けたいけど……」
「でも、証拠も何も無いんです。体の傷だって、それ自体が虐待を証明するわけではありません。……例えアレオロとあの子達を無理やり引き離そうとしても、今の情勢では……」
ミレイはそこで言葉を詰まらせる。だが、言いたいことはマコトには伝わっていた。……亜人奴隷と一つの町の長を比べて、どちらの証言が重んじられるのか。何を言うのかではなく、誰が言うのかを重要視する人間は少なくないのが現実だ。そして、その現実を覆すだけの何かなど、今のマコト達は持ち合わせてはいない。それがマコトには無性に腹立たしかった。
「……とりあえず、できる事を見直そう」
マコトはそう言って、重い空気を仕切り直す。それから、一つずつ情報を整理していった。
アレオロが亜人達に危害を加えていることは最早ほぼ間違いない。そして、亜人達が自発的に逃げ出すのも難しいとなれば、やはり失踪にも関わっているはず。それを前提として、どう動くのか。やれるだけのことをやる為に、改めて作戦会議が開かれるのだった。
〜〜〜
しばらく続いた会議も方向性はおおよそ定まり、だんだんと落ち着きを見せていく。しかしその中で、マコトには気になっていることがあった。先ほどから、やけにフィメラトの口数が少ないのだ。様子を窺う限りは何か考え事をしているようだが、話もある程度まとまったこのタイミングが良いだろうと、聞いてみる事にした。
「フィメラト、どうしたんだ?なにか気になることがあるなら、話してみてくれ」
そう言って促すと、虚空を泳いでいたフィメラトの瞳がマコトへと向けられた。まだ考えがまとまっていないのか少し躊躇いも見えたが、フィメラトは素直にそれを言葉にした。
「……アレオロのしてること、なんだか適当じゃない?」
「適当、って言うと?」
「亜人にある程度の自由を与えておいて、失踪ができたように見せる。という割には、ちょっと調べただけで自発的な失踪は難しいって分かるじゃない」
「それは……そうですね」
「虐待にしても、傷だらけの身体がもし誰かに見つかったら……現にミレイに見つかった訳だけれど、証拠が無いって言ったって怪しまれちゃうわよ。こんな事するなら素直に監禁しとけば良いのに」
マコトは腕を組んで首をひねる。確かに不可解ではあるが……それが何に繋がるのかは全く見えない。ただ甘く見ているだけなのか、あるいは別の何かか。
「復讐だって決めつけてたけど……アレオロの目的も探った方が良いかもしれないな」
「であれば……過去の事件もちゃんと調べなきゃいけないですね。関係ないってことはないでしょうから」
それからまた、アレオロの目的や調査方法について少し話し合う。そうしていると、そろそろ時間は晩飯時に差し掛かっていた。お腹が減ったと言うフィメラトの催促もあって今回の会議はようやく終了したのであった。




