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星に願いを、異世界に拳を  作者: シンゲン
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探索への出発

次の日の朝。マコトがいつも通りに早起きして鍛錬に勤しんでいると、部屋のドアをドカドカと叩く音が響いた。汗を拭いながらも返事をして、ドアを開けるとそこには予想通り、バルドが立っていた。


「起きてたか。……えらく汗をかいてるな?」


「ああ、日課の鍛錬だ。まだ途中なんだが……」


「どうせ身体は動かすんだ。出る準備をしろ」


「分かった。……汗を流すくらいはいいか?」


「すぐに済ませろよ」


宿には簡易的なシャワーが取り付けられていたため、さっと身体を洗い身支度を整えた。部屋から出て真っ先に向かうのはミレイとフィメラトの部屋だ。


「おはよう」


コンコンとノックしてからそう言うと、はーい、と中から応答がある。ぱたぱたという足音の後に、扉が開いた。


「おはようございます、マコトさん」


「ああ、おはようミレイ。……フィメラトは起きてる?」


「とっくに起きてるわよ」


ミレイが返答する前に、フィメラトがずいっと前に出てくる。外出の準備も万端の状態だ。それがなぜかと言えば、今回の探索にフィメラトも連れて行くことにした為だ。


突発的な戦闘が起こる可能性も有る探索だ。最初は一人で付いて行こうとも思ったのだが、フィメラトの立場的に街に残すのも不安が残る。フィメラトは空を飛べるため、もしもの時にも避難が容易だろうと言うことで、同行してもらうことにしたのだった。ちなみに完全に非戦闘要員であり、町に残す事に然程さほど不安要素もないミレイは当然ながらお留守番である。


「おはよう、フィメラト。準備も……できてるようだし、行こうか」


「ええ。いってくるわ、ミレイ」


「いってらっしゃい。お気をつけて」


ミレイの見送りを受けながら階段を降り待合スペースに向かう。そこにはバルドが仁王立ちで待っていた。


「待たせたな」


「ああ、……なんだ、その子も連れてくのか?ピクニックじゃないんだぞ」


探索に付いてくるのはマコトだけだと思っていたようだ。バルドは忠告のつもりだったのかもしれないが、当のフィメラトは軽んじられたと感じたのだろう。ムッとした顔で怒りを隠さず口にする。


「子供じゃないの。バカにしないでくれる?」


「おお、昨日は分からなかったが、随分と跳ねっ返りだ。……大丈夫なんだな?」


バルドはマコトに目線を移し問いかけてくる。フィメラトはその態度にも気分を害したようだったが、何かを言う前にマコトは説明する。


「ああ、フィメラトは魔法が使える。自分の身くらいは守れるはずだよ」


「魔法か。成る程、エルフ……。そういうことならいいだろ。それじゃあ行くぞ」


「……ちょっと!いい加減にしなさいよ!人の頭を飛び越えて話さないで!」


バルドは踵を返し、宿屋の扉に手をかける。が、それを止めるのはフィメラトだ。ぞんざいな扱いに頭にきているようで、口調も荒い。マコトがなだめるもフィメラトは聞く耳を持たない。怒声を浴びせられたバルドは、面倒くさそうに頭を掻いて振り向いた。


「……あのな、別にチームを組んだわけじゃないんだ。確認事項があれば代表者と話すのは当然だ」


バルドはいたって冷静な様子であったが、言い聞かせる為か語気は強い。フィメラトが怯んだ隙に更に畳み掛ける。


「怒りを飲み込めないのは勝手にすればいいが、コントロール不能な感情はもしもの時には命取りだ。それで何があっても俺はお前達を助けない。他人に気を配るような余裕があるなら、自分の命を守るために動くからな。お前だって、日常が、命が、あっけなく失われるものだと知っているだろう」


「……っ!」


「バルド、流石にそれは……!」


フィメラトが奴隷の身分だという事から、その経緯を想像しての言葉だろう。それはフィメラトにはあまりに鋭すぎる一言だ。しかし、バルドは気にも留めない。


「甘えた言動は控えろ。子供扱いされたくないならな」


「……」


フィメラトは何も言えず、拳を握りしめている。元々賢い子だ。その意見が正しいと思えば、いくら悔しくとも滅茶苦茶な反論はしない。とは言え、すぐには心の整理もできない。バルドはその様子を見て軽い溜息をつく。それからマコトにも目を向けた。


「マコト。お前も保護者として責任を持て。お前が言わなきゃいけないことを他人に任せるな」


「……ああ、すまない。肝に銘じる」


マコトの言葉にバルドは小さく頷き、改めて宿の扉に手をかけた。


「説教は終わりだ。気を取り直して……行くぞ」


バルドが先んじて宿を出ると、マコト達もそれに続く。フィメラトは見たことない位のしかめっ面ではあったが、それでも素直に付いてきていた。そうして町中を歩きながら、今日の探索についての予定をバルドが説明する。


「賊の類がこの町を狙ってると推定するならば、町の近くに潜伏しているはずだ。それなら焚き火の痕跡なんかが残ってる可能性は高い。そして、地理的には街道と平原が広がっている南側、西側は潜伏には向かない。つまり……北から東にかけて、町の近くにある森や洞穴を探していく。いいな?」


「ああ、分かった」


「……」


「フィメラト」


「……分かったわよ」


最初は黙っていたフィメラトだが、マコトの促しによって顔を背けながらも返事をする。バルドはと言えばやれやれと言わんばかりに肩をすくめていた。


そうしている内に町の入り口まで来ていた。門の外側に守衛が立っているのが見える。ふと横に目をやると、石門のそばにある詰所にも人がいるのに気づいた。どうやら何かの資料を読んでいるようだ。特に気にすることでもないので、そのまま門を通っていく。


「止まれ」


「ん?なんだ?」


立っていた守衛が先頭を歩いていたバルドの前に立ち塞がる。それから守衛は三人へさっと目を走らせた。少しばかり見られる時間があってから、守衛は改めてバルドに向き直る。


「軽い荷物検査だ。果実泥棒が居たりするからな……。とは言え……それらしい荷物もないようだ」


「なんならまた町に戻るからな。俺はこの町周辺で確認された怪しい連中を調査する為に来た冒険者だ」


「なんだ、そうだったか。それならしっかり頼むぞ。本当は私たちで何とかできれば良かったんだが……」


「仕方ないさ。防衛があんた達の仕事だしな」


少しバツが悪そうな顔をしている守衛。町の戦力として自分たちがいるのに、他所から力を借りなければならないことを不甲斐なく思っているのかもしれない。励ましも兼ねて、マコトは思ったことを口にした


「ちゃんと丁寧に仕事をしているし、……詰所にはこんな朝早くから資料を読んでる熱心な人もいるんだ。あなた達の仕事ぶりには感心するよ」


「……なんだって?この時間は私の一人当番だぞ」


「……」


マコト達と守衛は顔を見合わせる。一瞬の沈黙の後、バルドが気まずそうに口を開いた。


「……見に行ったほうがいいんじゃないか?」


「そうさせてもらう。君たちは通っていいぞ」


そう言い残して守衛は慌ただしく詰所に向かう。事の顛末が気になるマコトであったが、バルドが引き止めた。


「やる事があるのに、面倒事に首を突っ込むな。行くぞ」


マコトは後ろ髪を引かれながらも、バルドに付いて外の探索に出るのであった。


〜〜〜


守衛が詰所に飛び込んだ時にはもう誰もいなかった。使う連中が連中なので綺麗でもない空間だが、パッと見では変わったところはなさそうに見える。しかしそこで、資料を読んでいたというマコトの言葉を思い出し、資料棚を見てみる事にした。すると……過去の事件資料が一部なくなっているのが確認できた。


「こりゃあ……始末書……で済むかな……」


守衛は頭を抱えて座り込み、そう独りごちる。もう朝日は登りすっかり辺りも明るいが、守衛の気分は暗く沈んでしまうのだった。

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