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星に願いを、異世界に拳を  作者: シンゲン
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タニアの町

ザフィスからの依頼書を受け取った翌日、マコト達三人は朝から馬車に乗ってタニアの町へと向かっていた。あいも変わらずミレイはお店を休業にして着いてきており、最早マコトもそのことについて気にしなくなり始めていた。しかしフィメラトは大いに呆れている。


「ミレイ、気分で行動し過ぎじゃない……?」


「良いんですよ!物事は自分で決断するのが大事なんですから」


「……あなたも大概破天荒よね」


「お、もうそろそろ着くみたいだ」


タニアは果樹園の町である。ステラヴィルは住宅地が少なく、そして消費の激しい街だ。なので必要な物の生産地、かつ住宅地として周辺にはポツポツと中〜小規模の町がある、とのことだ。ここも石造りの外壁に囲まれており、そこそこの高さがある。道の先に見えてきた入り口には守衛が立っており、大きな声で呼びかけてきた。


「そこの馬車、止まるんだ」


馬車はそれに従い止まる。守衛は二言三言御者と話し、次に荷台のマコトたちに話しかけてくる。


「名前と仕事を」


マコトは冒険者証を提示しながら、自己紹介する。喋る気の無さそうなフィメラトもマコトが紹介し、その後ミレイも同じく自己紹介を済ませた。気のせいでなければ、守衛はフィメラトを見て少し顔をしかめたように見えたが、特に触れることなく次の確認に移った。


「この町へはどういう用事だ?」


きた、とマコトは思う。この質問に対して本当の目的を話すわけにはいかない。なので事前に設定を決めていたのだが、それがこれだ。


「ええ、最近家族が増えまして。ですので、引っ越しを考えているんです。その候補地を見て回っているんですよ。ここには数日滞在する予定です」


守衛は先ほどフィメラトを見た時と同じ顔をマコトに向けてきたが、やはり特に何も言わず荷台から離れ、御者に通行の許可を与えた。入り口を通り過ぎて守衛が見えなくなると、ミレイは小さく呟いた。


「……随分、嫌な顔をされましたね」


「私がいるんだから当然でしょ」


「フィメラト。自分でそんな事言うもんじゃない」


「……」


微妙な空気の中、街の中心に近い所まで来たので馬車を降りる。道を引き返していく馬車を見送りながらも周囲を見渡すと、商店街のような感じで店が並んでいる。町での買い物はここで行うのだろう。


「さて、まずは町を見て回ろうか」


しばらく町を散歩してみたが、町中はとりわけ目立つ所はない。子供が駆け回っていたり、主婦が道端でお喋りしていたりする。しかし、マコトたちが横を通り過ぎると一様に奇異の目で見られ、特に大人からは眉をひそめられた。亜人への感情を横においておけば、穏やかで平和な町という印象になるだろう。そうやって住宅地を歩いていると、不意に視界が大きく開けた。


「わぁ、広いですね」


「おぉー……」


マコト達の眼前には、果樹園が広がっていた。見たところそこで育てているのは葡萄ぶどうらしく、等間隔に並んだ木々には沢山の大きな実がなっている。丁度収穫期なのかもしれない。


「あれ、あのお屋敷は……?」


葡萄の果樹園を左右に見る道の先、少し離れたところにポツンと建つ大きな屋敷が見える。


「町長のご自宅でしょうか」


「どうだろう……あ、丁度いい所に」


マコトが目を向けた先に有るのは、葡萄の直売所だった。マコトは座っている年配の男性に声を掛ける。


「こんにちは」


「はい、いらっしゃい……ん……」


男性はやはりフィメラトを目にした瞬間に、しわの深い顔を更にしかめた。この町の住人のような反応が本来一般的なんだろう。ステラヴィルの特殊性を再認識するが、それはさておき並べられた葡萄を手に取ってみる。


「美味しそうな葡萄ですね」


「ああ……タニアの特産品だからね」


「そうなんですか。一つ貰おうかな……」


つっけんどんな声色だが、応対自体はしてくれるようだ。マコトは葡萄を一房購入してから、何気なく会話を続ける。


「実は今引っ越しを考えてまして。この町は穏やかで良いですね」


「……奴隷を飼ってるんならお勧めはしないね。この町の住人は亜人を嫌ってる」


「……そうなんですね。そう言えば、向こう方の離れたところ、大きなお屋敷がありますけどあそこは……?」


「あそこは町長の屋敷だよ。町長も最近、何考えてんだかよく分からんけどねぇ」


「と言うと?」


マコトが聞き返すと、男性はしまったと言わんばかりに口に手を当て、話は終わりだと言わんばかりに手を払って退散を促した。亜人を連れたよそ者に話すことはないということだろう。マコトも素直に引き下がり、葡萄を手に直売所を後にした。


「なにか、町長への不信感があるみたいでしたね」


「亜人嫌いのこの町で、町長が亜人奴隷を買えば誰でもおかしく思うだろうけど、そのことかどうか。……ほら、フィメラト」


話しながらも買った葡萄を一粒もいで、フィメラトに渡す。


「……なによ」


「なにって、食べないのか?」


マコトはそう言ってミレイにも一粒渡していた。フィメラトはまじまじと葡萄の粒を見つめてから口に放り込んだ。そしてマコトも一粒食べる。


「うん、甘いな」


「……もう一粒ちょうだい」


「ああ、もちろん」


マコトはもう一粒もいでフィメラトに手渡す。その時フィメラトがじっとマコトを見つめるのに気付いた。表情は特に変えず、何を思っているのかは分からない。


「どうした?」


「……何でもない」


ふい、と顔を背けながらフィメラトは葡萄を口に入れる。そんなマコトとフィメラトのやりとりを側で見ながら、ミレイは葡萄の優しい甘さを感じていたのだった。


〜〜〜


葡萄をつまんでの軽い休憩を挟んでから、街の中心部へ戻って来た。マコト達が次に向かったのは、店が並ぶ通りの一角にある二階建ての建物……宿屋だ。この国では観光地ではない町でも宿屋はある。町と町の間隔が離れているからだ。夜に町の外に出るのは危険な為、よほど僻地でもなければ宿はあるとのことだ。受付にて、二階の通りに面した部屋を二部屋借りる。同じ家で寝泊まりしていて今更ではあるが、何となく一部屋にするのは気が引けたのだった。それから部屋に荷物を置いて、三人は片方の部屋に集まった。


「じゃあまずは予定通りに行こうか」


そう言ってマコトは窓を開ける。転落防止用かあまり大きくは開かないが、通りを眺める分には問題ない。どのような予定を立てたかと言えば、まずは見張りである。町長に買われた亜人奴隷は使用人として扱われている。であれば日々の買い物などに出てくるかもしれない。そうであれば、直接接触するチャンスだ。


「見張りは私が担当ですね」


「ああ、よろしく頼む。フィメラトには……」


「分かってるわ。……風よ。かすかな囁きをその揺らめきに乗せて届けよ。ウィスパーブリーズ」


フィメラトが詠唱すると、小さな風の球のようなものが宙に浮かぶ。ミレイはその風の球に声を掛けた。


「あー、聞こえますか?」


「聞こえるわよ。そういう魔法だもの」


「不思議ですねぇ。どういう原理なのか」


ミレイは不思議がっているが、マコトには何となく分かる。音とは空気の振動によって生まれるものだ。この風の球に声を浴びせるとその振動を読み取り、魔法の行使者に届けるのだろう。早い話が電話だ。興味深げに風の球を見つめるミレイに、マコトは声をかける。


「よし、じゃあ行ってくるよ」


「ええ、いってらっしゃい」


そうして、ミレイを宿屋に残してマコトとフィメラトはまた外に出る。これも予定通りだが、二人は下調べとして外壁の確認に向かった。昨日の作戦会議の際に改めてフィメラトに何ができるか聞いてみると、便利な魔法をいくつか使えることが判明した。と言うわけで今回はかなりフィメラトに頼る形となる。マコト達は街の端の外壁まで足を運び、目測で4~5メートルは有るだろうか、威圧的にすら感じる石の壁を見上げる。


「結構高いなぁ……」


「何かしらの魔法かマギ、あるいは梯子はしごでも無いと登れなさそうね」


「でも、その魔法を今から見せてくれるんだろ?」


「あのねぇ、見せものじゃないのよ、まったく。……風よ。地に根ざす我が足を天空へ導け。スイムスカイ」


フィメラトが魔法を発動すると、その体がふわりと浮かぶ。そう、なんと空を飛ぶ魔法だ。しかも浮かぶだけでなく高速移動もでき、他人にかけることもできるとのことだ。それを聞いた時、マコトはフィメラトに空を飛んでみたいと懇願したが、


「嫌」


の一言で一蹴されたのだった。閑話休題。


なぜ外壁を確認するのかだが、亜人奴隷が逃げ出したと仮定した時、気づかれずに街を脱出するのが可能かを調べるためだ。実際消えた亜人奴隷がどのような能力を持っていたのかは分からないが、複数回失踪があって全員にこの壁を乗り越えられたとは考えづらい。


マコトは軽く柔軟運動をして、フィメラトに合図する。それと同時にフィメラトは滑るように外壁の上空を進み始め、マコトはそれを追うように走る。壁をジロジロ見ながら沿って歩くのははたから見てかなり怪しいので、あまり時間をかけずに確認を済ませるようにとランニングしながら壁を見ていくのだった。


〜〜〜


それなりに長いランニングになったが、外壁に穴があるとか低い部分があるなどと言うことは特になく、抜け道などは無いことが確認できた。つまり、自発的に失踪するのはかなり難しい、と言うことだ。マコトは汗を拭きながら考えをまとめていく。


「うーん……後は協力者がいるかどうか位だけど……」


「協力者……亜人の奴隷に?どこの物好きよ」


「外側にいたとしたらそもそも接触が難しい。内側にいたなら逃がすことはできるだろうけど、匿う場所の用意やその後の世話の必要もある。そんなことしていてバレないわけがない。……逃げるのも難しければ、協力者も考えにくい。……となると……」


マコトは言葉を濁し、沈黙が場に流れる。調査は進んでいるが、最悪の想像が少しづつ現実として見え始めたのは決して良いことだとは思えなかった。


「……取りあえず帰ろう」


「そうね……」


マコトとフィメラトは疲れた身体に重い気分を引きずって宿へと帰り、ミレイが待つ部屋へ戻るのだった。


「おかえりなさい。こちらはそれらしい人は見ませんでしたが……そちらはどうでしたか?」


マコトは外壁についての情報をミレイに共有する。それを聞いたミレイの反応も少し悲しげなものだった。そんな嫌な空気を払うように、マコトが明るく声を挙げる。


「よし、じゃあ次は例の作戦を始めるか!」


「……ほんとにやるの?」


「今からでも考え直した方が……」


マコトが例の作戦と口にすると、フィメラトとミレイは渋い顔になる。どうやら乗り気でないようだが、それでもマコトは引かない。


「結果的に駄目だったとしても取り返しのつかないことにはならないと思うし、やるだけやってみよう!」


そう言って、マコトは返事も待たずに部屋を出る。色々と準備が必要だからだ。残された二人は顔を見合わせる。


「なんであんなに乗り気なのよ……」


「……なるようになれ、って感じですかね、もう」


フィメラトとミレイものそのそと、作戦のための準備を始めるのだった。

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