昼下がりの作戦会議
帰宅後、マコトがネスティレに渡された紙を開いてみると、それはやはりザフィスからの依頼書であった。内容を纏めるとこうだ。
タニアの町長、アレオロ·ディガンの調査
アレオロはここ1年ほど、数回に渡って亜人奴隷を購入している。購入した亜人奴隷は使用人にしているが、毎回数ヶ月の後に失踪し、新たに亜人奴隷を購入する。失踪した亜人の行方を追って欲しい。方法は任せる。成功報酬は5千リュミル。
これが前半だ。タニアとは何かとミレイに聞いてみると、ステラヴィルにほど近い町だそうだ。それからもう一度紙に目を落とすと、文の後半にはアレオロのプロフィールが載っていた。
年齢は55。貴族の出として人亜戦争を戦い、終結後はタニアの町長を任される。亜人保護の立場を取っていたため、保護の一環として亜人奴隷を買っていた。しかしその亜人に息子を殺されている。
読み終えた後、三人の間にはしばらくの沈黙が流れた。その沈黙を最初に破ったのはフィメラトだ。
「……で、どうするのよ」
「ん……そうだな。……取りあえず……」
「取りあえず……?」
「昼ごはんを作ろう!」
「なんでですか!」
「なんでよ!」
ミレイとフィメラトのダブルツッコミが入ったが、マコトはまあまあと二人をなだめた。
「あんまり気負うのもよくない。取っ掛かりもないし、一旦ご飯を食べてリラックスしよう」
「既に気が抜けたわよ……」
「ふぅ……そうですね……」
マコトは厨房に立ち、調理を始めた。だいぶ慣れてきた手際で、手早く炒飯を作って食卓に並べる。そして三人揃って、いただきますと言って食べ始めた。
「うん、もう炒飯は言う事無しですね」
「そうだろ?だいぶ慣れたしな!」
「あ、マコトさん。なんでもそうですが、慣れ始めた頃が一番油断しやすいんですよ。今後もちゃんと基本に忠実に、です」
「は、はい」
ミレイが料理の先生としてマコトを指導する横で、フィメラトは渋い顔をしていた。
「いや美味しいけどね……?練習とは言え、この数日お昼が炒飯ばっかでさすがに飽きるわよ……」
「そうですね。炒飯は炒め物の基本ですから、野菜炒めなんかもレシピがあればもう作れるでしょう。とは言え美味しく作るには、それはそれでコツがありますが」
「奥が深いな……」
「……しばらく炒め物なのは変わらないのね……。はぁ、自由が欲しいわ……」
「はは、フィメラトが自由を得るのが先か、俺の料理がフィメラトを満足させるレパートリーを得るのが先か……どっちも頑張らなきゃな。……ん?」
フィメラトが何気なく呟いた一言に答える形で口にしたことが、マコトに一つの気付きを与えた。再びマコトは依頼書を手に取り文面に目を落とす。そして険しい表情を浮かべた。
「どうしたんですか?」
「……失踪した亜人奴隷が逃げ出したんだと仮定すると……その自由が与えられていたことになる。亜人に息子を奪われた人物が、そんなの許すか?」
「……確かにおかしいですね」
「でもそんなこと言ったら、亜人奴隷をまた買うのがそもそもおかしいじゃない」
マコトは頷いて、フィメラトを迎えてから少し勉強していたことを思い返す。
「奴隷身分となった亜人は生命の保証が成される。所有物扱いだと言っても、殺せば罰せられる」
一息にそこまで話してから、一呼吸置く。そしてマコトは話の核心を告げた。
「だけど、失踪したことにすれば罪にはならない」
「それじゃあ……失踪した亜人奴隷は……」
「最悪の想像ではあるけど、矛盾はない。なんにせよ、あまり調査に時間をかけるのは良くないかもしれない」
「とはいえ、どう調べるのかはまだ決めて無いわよ?」
フィメラトの一声でマコトはうーんと唸る。怪しまれて警戒されるのは避けたい。方針が定まらないまま動くのは得策ではないだろう。まだ温かい炒飯を食べながらも、昼下がりの作戦会議は続くのであった。




