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星に願いを、異世界に拳を  作者: シンゲン
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サプライズプレゼント

数日後の早朝。マコトが日課の筋トレをこなしていると、音もなくそこにいたフィメラトが話しかけてきた。


「毎日、飽きないわね」


ミレイが用意した質素な普段着と長く綺麗な金髪のツインテールが微妙にアンバランスである。火傷の跡を隠すために前髪を片方に寄せているため顔は半分しか見えないが、それでも彼女は表情豊かであった。今も、呆れ半分感心半分と言うのが伝わってくる。


「興味があるなら一緒にやってみるか?」


「遠慮しとく」


マコトの誘いはにべもなく断られてしまったが、この場を離れる気はないらしい。せっかくなので話を振ってみることにした。


「フィメラトは何かないのか?続けている事とか」


「……朝起きたら、御神木にお祈りしていたわ。燃えちゃって、もうないけどね」


「……」


マコトの気まずい沈黙に対して、フィメラトは自嘲気味に笑う。


「これじゃただの当て擦りね。……他は……精霊さんの声を感じていたわ」


「精霊?」


マコトにとっては聞き慣れない単語だが、フィメラトには馴染みがあるらしい。それが当たり前にあることかのようだ。


「声、ってことは意思疎通ができるのか?」


「完璧にではないけどね。……例えば魔法だって、精霊さんに協力してもらってるのよ。魔力を精霊さんに受け渡して、詠唱で何をしたいか伝えるの」


以前に魔法についての説明をミレイがしてくれた時には、大気中の元素なるものに働きかける、といったものだった。この場合、別々のものと考えるより文化圏によって呼称が違うと考えた方が自然かもしれない。


「ふーん……詠唱は絶対に必要なのか?」


「必要よ。何をしてほしいか伝えなかったら、精霊さんたちが魔力を持て余して暴走しちゃう」


「いや、そうじゃなくてさ。他の方法で伝えたりはできないのか?」


「……他?」


フィメラトの魔法をその身に受けていて、感じたことが一つあった。それは詠唱の冗長さだ。実際に対面していて、打ち込む隙は幾らでもあった。誰かに守られながらでないと強い魔法が使えないのでは、いまいち使い勝手が悪い。しかしながら、それを伝えてみてもフィメラトはあまりピンときていないようだった。


「考えたこともなかったわ。私は詠唱するものだって教わってきたもの」


「でも、もし無詠唱が可能なら便利だと思わないか?」


「まぁ……確かに。でも想像つかないわね」


「そうか……なら、詠唱についてもう少し教えてくれないか。何か思いつくかも」


フィメラトは頷き、知っている事を教えてくれた。詠唱には段階がある。まず呼びかけ。精霊がいつもこちらを見ているわけではないので、呼びかけることで自身に注目させる。次に行動指定。どのように力を発揮してほしいかを伝える。最後に魔法名。放たれる力に名を与えることによって、一種の現象として安定化を可能にしている。魔法名がないと、行動指定で述べた詠唱を精霊が独自解釈して、望まない形で力が発揮されるかもしれない、だそうだ。


「呼びかけ、行動指定、魔法名。この三つの条件が満たされれば良いのか。魔法名は発声でいいとして……、紐付けとかどうだ?」


「紐付け?」


「そう。詠唱の際に特定の動作を同時に行う。呼びかけには音が必要そうだから……手を叩くとか。それを繰り返す内に、動作だけで反応してくれるかも」


「でもそれじゃ、発動に時間がかかるのは同じじゃない」


「それなら、その動作自体が実用的であればどうだ?」


「どういうこと?」


「こういう事だ!」


マコトは正拳突き、続けて上段足刀蹴りを空に放つ。美しさすら感じる技であったが、それを見せられたフィメラトは呆気に取られ、同じ言葉を繰り返す。


「……どういうこと?」


「詠唱自体が攻撃なら隙はない!普通の攻撃と思わせておいて魔法で不意も撃てる!どうだ、一緒に鍛えないか!?」


「……それはさておき、動作との紐付けは面白い発想ね。試す価値はあるかも」


「さておくなよ……」


「二人ともー、ご飯ですよー」


ミレイから朝食を告げる声が届き、二人ともそちらに意識が向く。マコトも手ぬぐいを手に取り汗を拭き始めるが、唐突に声を挙げた。


「そうだ、フィメラト」


「どうしたの?」


「この後、一緒に出かけよう。引き取りに行くものがある」


「……?おかしな言い回しね。何を取りに行くのよ」


「秘密だ」


「なにそれ?」


「まぁまぁ。取りあえずご飯を食べよう」


怪訝な顔をしているフィメラトを促し、二人は美味しそうな匂いを漂わせる家の中へと入っていった。


〜〜〜


正直なところ、フィメラトは呆れていた。ご飯を食べている最中、マコトとミレイの二人はずっとソワソワしていた。その後マコトは汗を流すために朝風呂に入ったが、お皿を洗い終わったにも関わらずミレイは店を開ける素振りを見せない。それどころか出かける準備をしている。そしてちらちらとフィメラトの方を見てはニコニコしていた。二人のおかしな態度に、フィメラトは嫌でも悟る。


(これ、なんかのサプライズでしょ)


先ほどマコトが言っていた、何かを引き取りに行くというのを合わせて考えると、プレゼント辺りが妥当な所だと思われる。


(隠し事、下手ねぇ)


そう思いながらも、ニコニコしているミレイを見ていたらなんだか気が抜ける。


(……まあ……喜んであげるか……)


まだフィメラトは人間と言う種族自体を受け入れている訳ではない。憎しみもある。だがここ数日一緒に暮らす間に、マコトとミレイの純朴さは良く分かった。だから……二人の悲しそうな顔はあまり見たくないと、なぜだかそう思うようになっていた。そんな事を考えていると、マコトが風呂から上がってくるのだった。


〜〜〜


その後、三人は出かける準備を済ませて家を出る。マコトが先頭に立ちしばらく歩くと、目的地にはそう時間もかからず到着した。


「ここは?」


「仕立て屋だよ。魔物の素材で服を仕立てる店だ」


説明しながらマコトはドアを開き中に入る。ミレイとフィメラトもそれに続いた。


「いらっしゃい……おや、君は」


「どうも。服を受け取りにきました」


初老に差し掛かった男性店員が穏やかな笑みを浮かべ応対してくれる。マコトが店員に予約票を見せると店員は一つ頷いた。そしてまっすぐに伸びた背筋を崩さず、店の奥へと入っていった。


「服を作っていたの?」


「あぁ、そうだ。どんな出来かな……」


フィメラトの問いに答えるマコトの声色には期待と少しの白々しさが混じる。そんなやりとりの中、店員はすぐに表に戻ってきた。


「こちらは、ご注文の毛皮のポンチョになります」


「…………ぁ」


店員がその手に持っていたポンチョは、黄金色に輝いていた。フィメラトはその美しさに息を呑む。マコトが服を受け取ると、店員が少し疲れたように言う。


「アーマードベアの毛皮ですから頑丈さは折り紙付きですが、その分仕立てには骨が折れましたよ」


「……へぇ……アーマードベアの…………、アーマードベア!?」


「あぁ、俺とミレイで倒したんだ」


「……っ……!」


驚きのあまり、フィメラトは声も出ない。フィメラトが住んでいたエルフの里は、魔群の森にあった。人間の生活圏内には居られないのだから、当然人間が立ち入りにくい場所に居を構えなければならない。しかしそういう場所は、大抵が魔物の生息域だ。エルフは魔法が使える者も多いため、そんじょそこらの魔物なら退治も容易だ。しかし、アーマードベアはレベルが違う。奴には魔法が効きにくく、剣も弓もまともに通らない。里付近に現れた時は、魔法によって爆音を鳴らし逃げ出すのを期待する。それが叶わなければ、風魔法によって奴の届かない空中へ逃げ、里の建物が荒らされるのを黙って見ていた。今はもう里はないが、ついぞアーマードベアの退治はできなかった。そのアーマードベアの毛皮で出来た服が目の前にあり、退治したという人間が目の前にいる。フィメラトにとっては相当な衝撃であった。


「フィメラトさん」


「え、な、なに?」


唖然としているフィメラトの背に、ミレイはポンと手を置く。そして前に軽く押し出した。輝くポンチョの前に立つフィメラトにマコトが言う。


「フィメラト。君に用意した服だ。受け取ってくれるか?」


「えぇ!?こ、これを?」


なにかしらのプレゼントを貰うのだろう、と言うことは事前に予想できていた筈のフィメラトであったが、流石に物が物だけに素で驚いてしまう。


「……気に入らないか?」


「そういうわけじゃ……。私、亜人で……奴隷、なのよ?」


「そんな風には扱わないと約束したはずだ」


「そ、それにしたって……ミレイは良いの?」


振り返りミレイを見るフィメラトであったが、ミレイは変わらず笑顔で答える。


「私たち二人であなたを大切にすると決めました。嫌でなければ、着てみてほしいです」


二人の言葉を受けてフィメラトは改めてポンチョに向き直る。手を伸ばして撫でてみると、芯はありながらもしっとりとした手触りだ。そうして少し時間をかけて、フィメラトは覚悟を決めた。


「わ、分かった……着てみる……」


そのポンチョは前開きだったので、羽織ってから首元で固定する。少し大きめのサイズで、フィメラトの上半身から腰下辺りまですっぽりと覆われた。


「ど、どうかしら……?」


「うん……良いと思う!」


「とっても可愛らしいです!」


手放しで褒めてくれる事にむず痒さを覚え、フィメラトは目線を泳がせた。そうしていると、ミレイがなにやらマコトに耳打ちする。


「マコトさん、アレも渡さないと」


マコトは頷いて懐から何かを取り出す。それはアーマードベアの爪で装飾されたペンダントであった。


「それは……」


「これは一種の魔除けだ。ミレイ、お願いしていいか?」


「ええ、任せてください」


ミレイはペンダントを二つ受け取ると、まずフィメラトにペンダントをつけてあげた。そして自分も身に着ける。そしてその間にマコトも自身で身に着けた。


「これで三人、お揃いだ」


にっと笑うマコト。変わらずニコニコしているミレイ。……フィメラトは未だ癒えていない心の傷からか、覚えた感情を素直に受け止めきれはしない。それでも、そのペンダントを手に包むと少しの安らぎを感じるのだった。


〜〜〜


仕立て屋を退店してからは、お昼用の食材を買いに行く事になった。その道中マコトはやけに張り切っているのだが、それはなぜかと言うと先日からミレイに料理を教わっているからである。


「よし、お昼は俺が作るぞ!」


「また炒飯?早くレパートリー増やしてよね」


「ああ、その内に色々作れるようになるさ。なんせ、良い先生がいるからな!」


「先生だなんて……。気恥ずかしいですね」


ミレイは教え上手で、炒飯の出来も日に日に良くなっていたのだった。そうして三人で食材を買い回り、家へと帰る。その道中、フィメラトが改めて服とアクセサリーについて聞いてきたので、ミレイが嬉しそうに答える。フィメラトとミレイの二人で一緒に風呂に入った時、健康状態の確認と汚れを落とすためなんて言っていたが、その時密かに寸法を測っていたのだ。一石二鳥ならぬ三鳥だった訳である。少し大きめなのはまだ身体に成長の余地があるだろうということで、長めに着れるようにということだ。おかげで今着ると裾が少し長く幼く見えるが……フィメラトとしては特に気にならなかった。


ミレイの話が一段落つくと、今度はマコトが口を開く。アーマードベアの毛皮は防具としても優秀だ。だからこそ、亜人で立場の危ういフィメラトに着てもらうのが安全上良いだろうと言う話になったという。


「それを言うなら、冒険者のあんたが一番危険なんじゃないの?」


「だからもう一着……これを作ってもらった」 


マコトは手に持つ紙袋を見せる。服を二着作れる程の生地はないにせよ、余りはしていたので腹巻を作って貰ったのだ。


「腹巻は良いぞ。腹が冷えてると体調を悪くしやすいからな。……それに……」


「……それに?」


「……毛皮のベストとかつけた俺を想像してみてくれよ」


フィメラトはほわほわーんとイメージを膨らませると、木こりか山賊かと言ったマコトがそこにいた。


「……うん。ある意味似合うけど」


「そう、ある意味な……っとと」


話しながら歩いていると、通行人がマコトにぶつかってきた。その人物は深くフードを被っており、チラリとこちらを見てすぐに歩き去った。その態度にフィメラトは気分を害したようだ。


「なによ!感じ悪いわね」


「いや……あれは……」


マコトは一瞬覗かせたその顔に見覚えがあった。あれは、ネスティレだ。なぜこんな分かりにくい接触の仕方をして来たのかを考えれば、その目的は限られるだろう。そう考え、ズボンのポケットを探ってみると……


「マコトさん?」


「……どうやら俺も、サプライズプレゼントを貰ったらしい」


くしゃりと、折りたたまれた紙の感触を指に感じたのであった。

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