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星に願いを、異世界に拳を  作者: シンゲン
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結ばれた手

マコトとミルドラルが選手控室へと戻る際、通路で見ていたシノが傍に寄って来る。ミルドラルはその出迎えに対して手を挙げた。


「反則負けだとよ。シノ……お前が横にいないと、どうにも考えなしに動いてしまうな」


「……力強いお姿でした、ミルドラル様。マコト様もお疲れ様です」


結果自体を気にしているわけではなさそうだが、少し自嘲気味に笑うミルドラルにシノは寄り添った。


選手控室には既に救護班が控えており、二人に対して椅子に座るよう促した。二人はそれに従い、背もたれに背中を預けて力を抜く。そうして回復術を受け始めた……のだが。


「……いっ……てぇ〜……!」


アドレナリンで麻痺していた身体の痛みがだんだんと強くなる。肩と腕もそうだが、二回喰らったミルドラルのパンチは防いだものの強烈だった。回復術には即効性がないため、少しの間とは言えこの痛みと付き合わなければならないのは、かなり辛い時間だ。気を紛らわそうとミルドラルの様子を見てみる。


「ぬぅぉおお……」


ミルドラルも腹を抑えて脂汗を流していた。手加減などと言っていられる相手ではなかったにしても、その姿を見ているとちょっと悪い気がしてくる。

紛らわせついでに、少しばかり話しかけてみる。


「なあ、ミルドラル。最後の一発を直撃させるまで、全然ダメージなさそうだったよな。なにか特別な防御法でも有るのか?」


「うん?あ~……ありゃ痩せ我慢だ。あんなの防御しても痛えに決まってる。ポーカーフェイスは戦うやつには必須だぞ」


「……全然分からなかった」


緊張感のある決闘であったが、終わってしまえば気楽なものだ。そんな感じで二人は雑談に興じていたが、そこに駆け寄る人物が現れる。ミレイだ。


「マコトさんっ!大丈夫ですか!」


何故ミレイがここに、という疑問は投げかける前に解消される。その後ろから、ザフィスがネスティレを引き連れてやってきたからだ。一応関係者ということでここに来る際に一緒に連れてきたのだろう。


「まずはお二人とも、お疲れ様でした。回復が終わりましたら場所を移しましょう。色々と……話すことがありますからね」


ザフィスと目が合ったマコトは、静かに頷いたのだった。


〜〜〜


回復が終わるとまずボロボロになった服を着替え、それから皆で領主館へと向かうこととなった。領主館とは文字通り領主であるザフィスの家だ。中央広場から少しばかり北東方面に進んだ場所に建っている。ギルドほどの規模ではないが十分大きな建物であり、マコトはその領主館を眼前にして緊張していた。……さながら職員室に入る時のような……かしこまる必要のある場所に向かう時は得てしてそうなるものだろう。それも、これから行われる話し合いは重要なものになるかもしれないときている。ふぅ、と息を吐いて落ち着くよう努めていると、ぽんと肩に手が置かれた。振り返るとミレイが笑顔を向けていて、それを見ているだけで緊張が和らぐのを感じるのだった。


領主館へと入った後は応接室に案内され少し待つよう言われる。ザフィスを待つ間、ネスティレが用意してくれたお茶を飲みながら部屋の内装に目を向けてみる。床には絨毯が敷いており、椅子や机と言った家具も装飾された質の良さそうなものだ。しかし美術品などはなく、見た目の割には簡素な雰囲気だ。領主という格は豪華な家具で担保しながらも、不必要な装飾はしない。実利を優先しそうなザフィスらしさを感じる部屋であった。ちなみにミルドラルは、酒はないのかとネスティレに絡んだことでシノにたしなめられていた。

そうこうしているとザフィスが部屋に戻ってきて椅子に座り、その口を開いた。


「お待たせしました。では、始めましょう」


ザフィスは懐から小さな袋を取り出し、ネスティレ経由でマコトに渡す。


「話すべきことは多いですが……まずはこれを。アーマードベア討伐の報奨金、1万リュミルになります。ご確認を」


「……いいんですか?」


「ええ。あなた達は強さを示しました」


マコトが中身を確認したところ、見慣れない硬貨が10枚入っていた。これが噂の白金貨なのだろう。


「確かに受け取りました」


「……それでは本題に入りましょう」


ザフィスは椅子に深く座り直し、指を組む。そしてマコトを見据えて話し始める。


「あなたのことを軽く調べさせてもらいました。ひと月ほど前に冒険者ギルドに登録しており、そこからずっと軽難度の依頼を受け続けていたことを確認しています。あれほどの実力を持ちながら銅級で足踏みしていた理由は気になりますが……記憶喪失ということですから、聞いても詮無いことでしょう」


元のマコトのこの街での来歴はマコトも初めて知るが、ザフィスと同じ疑問は持っていた。金欠であったようだが、等級を上げて報酬の多い依頼を受ける選択を何故取っていなかったのか。……疑問も同じなら答えも同じだ。分からないものは分からない。しかし……。


「しかし記憶喪失後のことであれば、あなたが何を考えて行動していたかは話せるはずです。とりあえずはそれを教えていただきましょうか」


ザフィスの目は鋭く尖り、マコトを捉えている。ここの返答次第でザフィスが敵となるか味方となるかが決まる気がした。とはいえ、マコトとしては無闇に敵を作る意味もない。ザフィスとミルドラルの関係に探りを入れたことで疑われているのだろうとは当たりがつくので、その辺の事情を正直に話すことにした。


ひょんなことから奴隷を買う事になり、資金調達が必要になったこと。この決闘でザフィスにアピールできれば、冒険者としての等級に関わらず仕事を回して貰えるかもしれないと考えたこと。そうして貰えそうな根拠として、ザフィスとミルドラルが特殊な関係にあると推察できること。


マコトの話を静かに聞いていたザフィスであったが、聞き終わると同時にふっと息を吐きだした。それから指を額に当て考える素振りを見せる。そうしながらもマコトに質問を投げかけた。


「奴隷を買うとのことですが、その目的は」


「助けたかっただけです。見過ごせませんでした」


「腕の良い冒険者でもなければ、1万リュミルは大金です。それを見ず知らずの者の命の為に支払うと?」


「俺も迷いましたが……悪い使い道ではないはずです。それに、これから腕の良い冒険者になりますよ」


ザフィスは額から手を離して腕を組む。マコトはその仕草を見て方針が定まったのだろうかと思いつつも、続く話の内容に耳を向ける。


「お察しの通り、私はミルドラルにギルドを通さない依頼を出しています。しかし、あなたにはもう必要ないのではありませんか。先ほどの報奨金で奴隷の購入には足りているでしょうし、生活費にしてもアーマードベアの素材を売却すればしばらく保つはずです」


「いえ、報奨金はミレイと折半します。アーマードベアの素材がどのくらいになるかは分かりませんが……」


「ちょっと待ってください!」


ミレイはずいっと身を乗り出し、マコトの返答を途中で遮った。恐らく報奨の折半についてだろうとマコトは思う。貰えるかも分からなかったので話してはいなかったが、マコトは最初から折半するつもりだった。アーマードベアとの死闘もミルドラルとの決闘も、ミレイの助けがあって乗り切れたのだ。当然ミレイにも受け取る権利がある。もしミレイが遠慮したとしても、ちゃんと受け取ってもらおうと考えていた。だが、ミレイの言葉は予想外のものだった。


「マコトさん、こういう降って湧いたお金はパッと使い切っちゃうのが良いと思うんです!だから、一緒に助けましょう。このお金で!」


「いいのか?俺が勝手に言い出したことなのに……」


「最初はマコトさん一人の想いだったかもしれません。でも二人で話しあって、二人で決めたんです。今はもう二人の想いですよ!」


「……そうか、そうだな。ありがとう」


マコトとしては、ミレイに助力を仰ぐことを考えなかったといえば嘘になる。だが、住む場所も食事も世話になって、その上厄介事を持ち込んだ。迷惑をかけてばかりでもうこれ以上は、と……はっきり言えば意地になっていた。そんなマコトの気持ちをミレイは察していたのだろう。かなわないな、とマコトは思う。


「……それはそれとして、実はザフィスの依頼には興味があります」


「ほぅ……?」


ザフィスは怪訝な顔をしながらこちらを窺う。ギルドが存在する理由を考えれば、ギルドを挟まない依頼なんて本来は受けるべきではない事はマコトも分かっている。……だがしかし、マコトはザフィスのことを信用に足る人物だと判断していた。


「……俺はミルドラルのことを少ししか知りませんが……それでも軸のブレない人物だと感じています。そんな彼が信用して依頼を受けているというのは判断材料として大きいです」


「……この短期間で随分と仲良くなったものですね」


「なぁに、漢同士本気で戦えばそんなもんよなぁ!」


話を振るんじゃなかったとばかりに、ザフィスは肩を竦めて首を振る。苦笑いを抑えつつマコトは言葉を続ける。


「そしてもう一つ。二人はネスティレさんとシノさんを、亜人というくくりではなく個人として扱っています。そんな二人が組んで何かをしているなら……きっと正しいことをしているんだと思うんです!」


「……正しいこと、ですか」


「聞いたかザフィス!正義のヒーローになったみてぇだなぁ!ガッハッハッハァ!」


「黙りなさい、ミルドラル」


ザフィスは豪快に笑うミルドラルを諌めるが、ミルドラルは愉快そうなままだ。そんなミルドラルのことは最早さておいて、ザフィスは背もたれにその背を深く預ける。そして大きく息を吐くと、その口を開いた。


「……私の依頼は、奴隷が不当な扱いを受けていないかの調査や、亜人集落への襲撃の阻止等……総じて亜人の保護となります。その先に目指すものは、人と亜人の友好関係の結実です」


「人と亜人の友好……」


「……特定の政治思想を含んだ依頼を冒険者ギルドは受け付けておりません。冒険者が代理戦争の駒となってしまうからです。しかしギルドの力を借りられないとなると、今の情勢ではこのような活動を公然とは行えません。そこで、ミルドラルに個人的な依頼としてお願いしていた、というわけです。……あなたに詮索された時はどうしようかと思いましたよ」


「なるほど……紛らわしくてすいません」


頭に手をやり謝意を示すマコトに対して、ザフィスは構わないと言うように手を上げた。それからザフィスは立ち上がり言う。


「いずれ人手を増やしていくつもりではありましたが……良きタイミングなど自らで選べるものではありません。……マコト。あなたさえ良ければ、その力を貸してもらえませんか」


「……はい!是非!」


マコトも同じく立ち上がり、ザフィスが伸ばした手を力強く掴むのであった。

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