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星に願いを、異世界に拳を  作者: シンゲン
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終幕

「ちょ、直撃!マコトの攻撃が直撃だああ!これは強烈!ミルドラル地面に倒れ伏すぅ!」


ノーヴェが実況として状況説明に費やした時間は10秒程度。それだけ時間が過ぎてもミルドラルは動かない。その様子を見た観客たちは声を挙げ始めた。


「信じられねぇ……ミルドラルを、倒しちまった……」


「お前は銅級の星だー!」


観客席は大歓声に包まれ、自然とマコトコールが巻きおこる。


「マ・コ・ト!マ・コ・ト!」


「これはミルドラル起き上がれないかー!?であれば!この決闘は!マコトのぉ!しょう……っ!?」


実況がその宣言を口にしようとした瞬間、キィーーンと耳をつんざく爆音が場を包む。実況が持っていた拡声器が派手な音を立てて破壊されたのだ。

その音は観客席の熱気もマコトコールも全てを吹き飛ばした。


何が起きたのかを誰も理解できない状況の中、ぴくりとミルドラルの体が動いていた。そのままゆっくり、ゆっくりとミルドラルは起き上がる。腕で上体を支えながら起こし、笑う脚を抑えつけながら、ゆっくりと。そうしてミルドラルは立ち上がった。


「……効いた。ここまでとはな……」


「……ミルドラル!」


立ち上がったとは言え、もはや満身創痍だ。しかしその目を見れば、戦意は消えていないと分かる。ミルドラルは荒い息を抑えもせずに、唸るように話しだした。


「別に……負けられねぇ戦いってわけじゃねぇさ。……だがよぉ!漢として……!負けたくねぇよなあっ!マコトォ!」


ミルドラルは吠える。そこに先ほどまでの傲慢はない。自身を追い込んだマコトを好敵手として認め、その上で叩き潰すと宣言したのだ。


それを受けてマコトは構える。正直なところ、マコトもまともに動けはしない。拳一発振るう体力も残っているか怪しいくらいだ。だが、気持ちはミルドラルと同じ。負けたくない、……勝ちたいのだ。もう動けないからと今さら背中を見せるなど、あまりに失礼だ。最後まで諦めず立ち向かう事こそが、この場にふさわしい振る舞いだと感じていた。


マコトの覚悟をその構えから見て取り、ミルドラルはニヤリと笑う。そして、その手のひらを天に掲げた。


「これが……俺の持つ、最強の槌だ」


ミルドラルはそう言うと、おもむろにその手を振り下ろした。


その瞬間、マコトは地面に叩きつけられた。全身を押し潰されるような重圧に身体が軋む。何をされたかも分からないまま、ザリザリとした土の感触を頬に感じていた。


「こいつの前では……誰もが地に伏し、許しを請うのみ……!これは神が振るう槌……神槌だ!」


「ぐ……ぅあ……!」


壊れている肩から先には激痛が走り、肺は潰されまともに息もできない。あまりの苦しみに意識が飛びそうになるが、唇を噛んでなんとか耐える。だが、限界は近い。マコトは急ぎ考えを巡らせる。

このマギ……神槌は、シンプルに考えるなら魔力による遠隔攻撃だ。その性質は、何もない空中から巨大な鉄塊……大槌が振り下ろされるイメージだろうか。そもそも頭上というのは死角である。こんなもの初見では避けようもない上に一度喰らえば逃れられない。まさしく必殺技……対策などない。


朦朧とした意識の中……せめて魔力が回復できれば、そんな考えが頭をよぎった。自身で試していた時から思っていたことではあるが、神槌をその身に受けて考えはより強くなる。マギは自由だ。イメージ次第でその形はなんにでも変わる。もしかすれば、この凶悪なマギに対しても、何かできたかもしれない。そう、魔力さえ回復できれば……。


「負けを認めろ、マコト。これ以上は……死ぬぞ」


(もう、駄目なのか……?)


ミルドラルの声も遠く聞こえる程だ。限界を感じ、マコトは目を閉じる。そしてなにかを求めるように、口を開いて……閉じた。


「……っ!?」


ミルドラルだけが、その異変に気づいた。急に……それこそ何の前触れもなく、マコトを抑えつけている神槌が軽くなったのだ。


(なにが起きてる……!?)


ミルドラルはマコトを注視する。目立った動きなどない。神槌で押し潰しているのだから当然だ。唯一動かしているのは、口。開いて……閉じる。マコトがそうすると、またも神槌は軽くなった。


(まさかっ……!)


その行動と結果が意味することとはなにかということに、ミルドラルの考えは至ってしまう。


ミルドラルの背筋に悪寒が走る。悠長にしている暇はない。今すぐに叩き潰し、意識を刈り取らなければ負けるのは自分だ。ミルドラルはもう一度手のひらを天に掲げる。そして、その手を振り下ろさんとしたその刹那……。


「グレートウォール」


マコトとミルドラルを分かつように、急激に地面が隆起する。それは分厚い壁となって頭上高くまでそびえ立ち、中央の広場を寸断した。神槌の重圧が無くなったことでようやくまともに息が吸えたマコトは、咳き込みながら身体を起こす。ミルドラルは驚き怯むも、こんなことができる奴は一人しかいないとその名を叫んだ。


「ザフィス!」


「二人とも、そのまま動かないでください」


ザフィスは隆起してできた壁の上を道にして、実況席までまっすぐ向かう。そこでノーヴェに何か耳打ちすると、彼女は酷く驚いた様子を見せた。そしてノーヴェは新しく用意された拡声器を手にして言う。


「えー、運営委員からの連絡です。先程の拡声器の破壊は、ミルドラルが行ったものと判明。観客席への攻撃ということで、ルールに則りミルドラルを反則負けと致します!」


その宣言に場内は激しくざわつく。ここまでの死闘を見せられたというのに、最後の最後が反則による決着なんて興醒めもいいところだ。だんだんと観客席のあちこちから不満の声が挙がり始める。


その反応を受けてか、ザフィスはノーヴェから拡声器を受け取り、観客に向かって語り掛け始めた。


「このような結果となりましたこと、非常に残念に思います。しかし、これ以上の戦闘続行は死人が出てしまう可能性も有ります。この終わり方に納得がいかない方は多いでしょう。しかし二人の戦いが我々の心を昂らせるものであったのは間違いありません!熱くぶつかり合い、魂を燃やして戦った二人に、どうか拍手と声援をお願い致します!」


まだ野次を投げかける者もいたが、ザフィスの促しに応えた拍手がポツポツと出始めると、それは大きな波となって広がっていく。最後にはその拍手と声援は決闘場の外にまで聞こえるほど大きく響いた。


ザフィスはそれを確認すると、隆起させた壁を沈下させ、破壊された広場を修復する。また向かい合うことになったマコトとミルドラルは、互いの顔を見て笑い合った。それからゆっくりと近づいて肩を組み、支え合いながら出口へと歩き始める。万雷の拍手の中、二人はその場を後にした。


こうしてマコトとミルドラルの決闘は幕を閉じるのであった。



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