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星に願いを、異世界に拳を  作者: シンゲン
18/44

切られる火蓋、起こされる撃鉄

ざわざわと騒がしい観客席の一角にある実況席。そこに一人の女の子がいた。背はあまり高くはなく、スレンダーな体型をしている。黒色でハイネックノースリーブのへそ出しインナーの上に短めのベスト、下はショートパンツ。頭にはキャスケットを被っている。ショートカットの黒髪をぴょこぴょこと跳ねさせており、笑顔で何かを待っていた。そこに駆け寄ってきた運営の者が二言三言伝えると、女の子は頷いて拡声器を握り大きく息を吸った。


「さあ、いよいよ始まるぞ!みんなぁ!盛り上がってるかーい!」


拡声器を使っているとは言え、そのきゃしゃな身体から出ているとは思えない大声である。その大声での煽りに合わせて観客席からは歓声が湧く。

娯楽は様々ある街だが、決闘の開催頻度はまちまちだ。たまの開催を街の皆は心待ちにしている。故にこうやって実際に開催されると、毎回大盛りあがりなのである。


「良いねー!実況は飲み屋を放り出されるでおなじみ!騒音のノーヴェちゃんが担当するよ!よろしくねー!」


ノーヴェちゃーん!と野太い歓声がちらほらと挙がる。ずいぶんと人気だがそれもそのはず、ノーヴェは金級冒険者でありながら決闘での実況を毎回務め、その盛り上がりに貢献している。ノーヴェにとって実況は天職であり、いわば影の主役でもあった。ちなみに本人としては、合法的に大騒ぎできるからやっているだけである。


「じゃ、このまま主役の二人を呼んでくよ!まずは、流星のように現れた謎の銅級冒険者!マコトだあぁぁぁ!」


名前の読み上げに合わせて、マコトが広場へと姿を現す。観客もそれに合わせて声を投げかけるが……それは歓声や応援ではなく野次が大半だ。マコトはそれを気にせず四方に礼をする。その際、観客席の上段辺りにミレイを見つけて、軽く手を振った。


「確認できる限り実績も全然ないけど、なんとこないだアーマードベアを単独討伐し街へと持ち帰ったらしい!それが嘘か真か、この決闘で明らかになりまーす!」


マコト的には聞き捨てならない単語が聞こえる。単独討伐などしていないが……恐らくザフィスが話を盛ったのだろう。決闘を盛り上げるための方便だということは想像できるため、否定の言葉は飲み込んだ。そんなマコトを置いて、次の呼び込みが行われる。


「さぁーお待ちかね!次に呼ぶのはステラヴィルが誇る白金冒険者が一人!戦鎚のミルドラルだあぁぁぁ!」


ミルドラルがのしのしと広場に歩み出ると、マコトの時とは段違いの歓声が巻き起こった。凄まじい人気ぶりである。酒場で見たあのような振る舞いを色んなところでしていたりするのかもしれない。ミルドラルは歓声を浴びるようにゆっくりと歩く。そして、観客で埋め尽くされたこの決闘場で、マコトとミルドラルはいよいよ向かい合った。


「今回の決闘は読めないぞ!なんせマコトの実力は未知数!どんな決闘になるかは分からない!……ともかく、一瞬で終わっちゃ面白くないから粘ってくれよなー!」


実況からまで野次が飛ぶ状況にマコトは思わず苦笑してしまう。これだけの大人数がいて、マコトが勝つと思っている者は、ほとんど居ないのだろう。だが問題などない。ミレイは信じてくれている。そして誰よりマコト自身が自分を信じているからだ。


「準備は良いかな!?良くなくても関係ないけどね!じゃ、決闘開始ぃ!」


決闘開始の宣言が成される。マコトは礼を行い構えを取る。そしてすぐさま踏み出そうとしたが、先に動いたのはミルドラルだった。


「行くぞ少年!まずは小手調べだ!」


ミルドラルは離れた距離にいるにも関わらず体を捻って大槌を振り上げた。相手の手の内を何も知らない以上、不用意な行動はできない。踏み出しかけた足を止め、マコトは身構える。


「ブレイクブラスト!」


振り上げられた大槌はそのままゴルフのようなスイングで地面に叩きつけられた。爆発のような衝撃が地面をえぐり、巻き上げられた土砂がマコトに向かって飛んでくる。マコトはそれを受けることなく、大きく距離を離して避けることに集中した。


「早速ミルドラルが地面をぶん殴って石礫だ!如何にも近接戦特化な武器だが、こんな攻撃も有るのかー!」


ババババッ!と、弾けるような音で地面に刺さっていく石礫。それを見て、マコトは冷や汗をかく。


(ただの石礫じゃない。大槌に乗せた魔力を、地面にぶつけた瞬間礫に移行して威力の底上げをしている。恐らくはあの細かい粒の一つ一つが、ミレイのマジックエッジ並みだ)


「続けていくぞ!ブレイクブラスト!」


マコトが対処に困っていると見るや、続けて同じ技を放つミルドラル。マコトはまたも大きく後ろに避ける。そんな事を繰り返していると、壁がもうそこまで迫っていた。


「さあ、マコト!壁に追い詰められてもう逃げるスペースがなーい!早くも絶体絶命だー!」


「こんなもんじゃねぇだろ!見せてみろ、その実力を!」


ミルドラルの大槌がまたも地面をえぐり、マコトに礫が襲いかかる。その瞬間、マコトはミルドラルに背を向け壁に向かって走り出した。


「おっとマコト、背中を向けた!?しかし逃げ場はそちらにはないぞ!」


(……逃げる?違う。これは近づくための、一歩目だ!)


マコトは大きく飛び上がり力強く壁に足をかける。そして壁を足場にして反対側へと更に跳ね上がった。無数の礫は飛び上がったマコトの真下を通過して、壁に穴を開けていく。そして着地した後、その勢いのままにミルドラルへと突進する。


「これはぁ!三角飛びでブレイクブラストを躱したぁー!そして、そのまま……ミルドラルへと接近する!猛スピードだ!」


「はっ、そうでなくっちゃな!」


ミルドラルは大槌を構え、マコトを待ち受ける。だが、マコトはその大槌を振らせるつもりはなかった。


「……閃光!」


「う、ぉあ!?」


マコトは瞬時に加速する。魔力での筋力増強による高速移動だ。最初から最高速を見せてしまうと動きが読みやすくなってしまう。なので最初は抑えめに走り、ある程度の距離まで近づいてから最高速を出す。そのように緩急をつけることで、ミルドラルの不意をついたのだ。

ミルドラルの得物である大槌は大きすぎるため白兵戦には向かない。故に近中距離をすっ飛ばして超至近距離まで近づく。これが一番危険の少ない戦法だ。

ミルドラルは大槌での攻撃をマコトの突進に合わせようとしていた。しかし急激に加速したマコトに驚き、思わず瞬きをしてしまう。一瞬の暗闇の後、目を開いたときにはもうマコトは目の前にいた。


「焔!」


突進の勢いを保ったままマコトは拳を突き出す。その拳にはもちろん魔力が込められている。

魔力を含ませて威力を上げる……そこに、酸素を取り込み大きくなる焔を見出したのだ。


「マコト近づく!今にも殴りかかるぅ!ミルドラル避けられるかぁ!?」


ミルドラルはマコトを迎え撃つために既に大槌を振りかぶっていた。そのような不安定な体勢ではまともに回避もできない。マコトの拳は直撃する……そのはずだった。

実際にはマコトの拳はミルドラルに突き刺さらず空を切る。目の前からミルドラルがいなくなったのだ。しかしどの方向へと躱したのか、マコトには見えていた。上だ。ミルドラルは急激に真上へと飛び上がった。


「と、飛んだぁ!何が起きた!ミルドラルが垂直にぶっ飛んだ!あり得ない動きぃ!」


「エクスプロード!魔力を爆発させて推進力を生むマギだ!本来ならそれでぶっ叩く技だが……とっにしては良い使い方ができたもんだ!」


振り上げられていた大槌を、エクスプロードで生まれた推進力でもって空へと放り投げたのだ。大槌の方が圧倒的に重量があるため、ミルドラルの身体は大槌に引っ張られる。結果として空中へ飛び上がったというわけだ。


マコトはかなり前のめりだったため、攻撃を躱され体勢を崩してしまう。しかしもたもたしている暇はない。マコトが空を見上げると、ミルドラルは大槌を振り上げていた。


「あの時の再現だ、少年!弾き返せるか!俺の……大槌が!」


ミルドラルは落下しながらマコトへと狙いを定め、大槌を思い切り振り下ろす。


「ギガントプレス!」


あの時……初めてミルドラルと会った時は、直前でミルドラルがマコトに気付き力を抜いていた。だが今回は違う。最後まで全力で振り抜いてくるだろう。

だからといって、避けるという選択肢はハナから頭にない。ミルドラルやザフィスがマコトを試しているように、マコトも自分自身を試したいのだ。マコトは正面から迎え撃ち、拳を突き上げた。


「爆焔!」


ミルドラルの大槌とマコトの拳がかち合った瞬間、ドォン、と凄まじい衝撃と圧がマコトに襲いかかる。足が地面にめり込み、体が軋む。だが……やはり折れはしない。


「ぶつかったぁ!マコトを殺す気かミルドラル!……いや、潰されない!潰されていなぁい!凄いぞマコトぉ!」


「うぉおおおお!!!」


焔が単純に魔力を乗せた威力増幅なら、爆焔は言葉の通り魔力を衝突地点で爆発させる。その爆発で大槌の威力をある程度相殺できていた。マコトはミルドラルの大槌に耐えきったのだ。


「もう一発……!爆焔!」


「ぐぬぅ、エクス、プロード!」


次はこちらの番とばかりに、マコトは大槌へともう一度爆焔を打ち込む。ミルドラルは吹き飛ばされる前に、エクスプロードによる推進力を重ね、マコトを叩き潰そうと試みる。大きな動きはないものの、爆焔とエクスプロード、二つのマギがひっきりなしにぶつかり、ドォン、ドォンと衝撃波が広がる。


「凄まじい音だ!マギとマギの激しいぶつかり合い!さぁどちらが勝つのかぁ!」


奇しくも爆発をイメージしたマギ同士で衝突したが、その原理は異なる。マコトは運動エネルギーに乗せた魔力を拳の外側で爆発させる。ミルドラルは大槌にまとわせた魔力で、叩く側とは逆側の表面を爆発させて推進力を生ませる。

これらが何を意味するのか。二手からの爆発的なエネルギーは、どちらもミルドラルの大槌へと向かっているということ。そして、如何に上等な武器と言えども、消耗品には変わりないのだ。


「爆焔!おぉああああっ!!!」


「ぐぅう……ぬおお!」


「これはっ!ミルドラルがっ!大槌ごと吹き飛んだぁああ!!!」


最後の一撃でミルドラルの大槌は砕け散り、花火のようにぜた。その衝撃で、ミルドラル自体も上空へふっ飛ばされる。しかしマコトは気を緩めない。まだ、武器を破壊しただけだ。即座に身体強化による跳躍力で吹っ飛んだミルドラルへと肉薄する。そして今度こそ、ミルドラルへとその攻撃を届かせる。


「揺焔……!」


……ミルドラルは白金級の冒険者である。そこに至るまでに様々な修羅場を潜りもした。強烈な攻撃で死にかけた事も多々ある。

しかし……これは質が違った。接触面を中心にガクンと揺さぶられるような感覚。例えるなら……池に石を放り込んだ時に生まれる波紋。その衝撃は分厚い鎧も突き抜け、ミルドラルの身体を襲った。


(なんだ、こりゃあ……!)


むち打ちという怪我がある。車の事故などで頭が揺れ、首を捻挫してしまうことによって起きる。つまり、急激な強い揺れに人間の身体は耐えきれないと言うことだ。その揺れを意図的に起こすのが揺焔である。掌底で瞬間的に押し込み、身体を部分的にへこませるイメージだ。


「ごっ、あっ」


「まだだっ!」


揺焔によって怯んだミルドラルにマコトは更に追撃を仕掛ける。脚を高く振り上げ、胴体へと踵落としを繰り出す。脚を最後まで振り抜くことで強く吹き飛ばし、地面へと叩きつけた。

脚を振り抜いたことにより、頭が下に向きマコトの身体はそのまま落下を始める。肘を先端に身体をまっすぐと制御したその軌跡は、まるで一筋の流星のようであった。


「爆、焔!」


「っ……!」


マコトの肘はミルドラルの鎧へと突き刺さり、爆発する魔力が襲う。その重さと衝撃にミルドラルは声も出ず、直接その威力を受け止めた鎧も損壊する。マコトの足が地面についたとき、周辺にはクレーターができていた。その威力に絶句してしまったノーヴェは、数秒の後にやっと言葉を取り戻す。


「な、何を目撃したんだ我々は!ミルドラルが!白金級冒険者が!地面に背中を付けているっ!!!」


その事実に観客席からは割れんばかりの大歓声が起こる。人はみな、大番狂わせが大好きなのだ。


……だが、マコトは気を抜くことはない。まだ終わってなどいない。寧ろ……始まってすらいなかった。


「よっこいせ……」


ミルドラルはそう呟きながらのそりと起き上がる。まるで何事もなかったかのように、自然に。そうして、マコトに軽い調子で話しかける。


「見込んだ通りだ、少年。……ふん、脱ぐのも面倒だ」


ミルドラルは、鎧に空いた穴に指を引っ掛けて、メリメリと穴を広げていく。そしてそのまま鎧を引きちぎり、ミルドラルの鍛えられた上半身があらわになる。その光景に観客席はざわつき、マコトにも冷や汗が流れた。


「試験官は終わりだ。こんな重たいもん着てちゃあ満足に動けやしねえ」


ミルドラルは最早鎧とは呼べなくなった物を遠くへ放り投げる。それはドスンと重たい音を鳴らし、地面に転がった。


「さあ、始めるぞ。これから見せるのが本当の……」


ミルドラルは力強く構えを取る。その顔には……獰猛な笑みが浮かんでいた。


「戦鎚のミルドラルだ」

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