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星に願いを、異世界に拳を  作者: シンゲン
17/44

決闘場へ

決闘当日。マコトはいつも通りに起き、いつも通りのトレーニングをこなす……そんな朝を迎えた。

ミレイは昨日に引き続き張り切っているようで、朝だと言うのに分厚い肉がドンと出てきてマコトを驚かせた。それをありがたくいただいてから、作るのはやってもらってるんだからこれくらいは、と言って皿洗いを済ませた。


決闘まではまだ時間があるため、何をしようかとマコトは考える。しかし、運動の類でこれ以上疲れるのも良くないだろう。と言うわけで、前々から気になっていたものへと目を向けた。本棚である。実際のところ、マコトは本を読むのが好きだ。とは言っても娯楽小説や漫画の類だが。

武を高めるには知識と理解が必要だ。知識は指導者から教わったり、あるいは経験でも補える。しかしその理解には教わった事を噛み砕いたり、思考を言語化する能力……国語力が求められる。それを鍛えるためには本を読むのはかなり効率がいい。楽しむことが鍛錬になるのだから最高だ。


そういう訳で、お店を開けているミレイに断りをいれて、本棚を眺める。7割くらいは薬学の本だ。まったく興味がないわけでもないが、流石に合間の時間に読む本ではない。残りの3割の中で最初に目についたのは、何冊かある童話だった。童話というのは大体がなにかしらの教訓を示すものだ。

はてさて、この世界の童話はどのようなものだろうか、とその本をマコトは手に取った。


〜〜〜


数冊読んだが、なんとも後味の悪い気分である。だいたいの本が、泣いた赤鬼や幸福な王子のような、自己犠牲について考えさせられる内容だった。これらの本に、ミレイはどういう気持ちを抱いたのだろうか。そう思って童話の棚に目を移すと、一冊だけ真新しい本があった。他の本が子供の頃から残しているものなら、これは最近買ったものだろう。どうにも気になって、読んでみることにした。タイトルは……「リーシャのたからもの」……その内容はこうだ。


リーシャのお父さんは冒険家。たまに帰ってきては金銀財宝を持ち帰り、冒険の話をしてくれる。リーシャもそれを楽しみにしていたが、ある時不意に、自分しかいない家がすごく静かで怖くなってしまう。それからしばらくして、また金銀財宝と冒険話を引っさげてお父さんが帰ってくる。しかし、リーシャは全然喜ばない。困ったお父さんは金銀財宝を持ってどこかへ行ってしまう。


「おとうさんはおたからばっかりすきなんだ」


リーシャはとうとう泣き出してしまう。そこへお父さんが両手におもちゃを抱えて戻って来る。そのおもちゃは全部二人で遊べるものばかり。


「おたからはどうしたの?」


「リーシャをなかせるあんなものいるもんか。さあいっしょにあそぼう」


それから二人は、ずっと仲良く遊びましたとさ。めでたしめでたし。


……随分シンプルな家族愛の話だ。敢えて教訓を見つけるなら、手段と目的は取り違えてはいけない、というところだろうか。ミレイはなぜこの本を買ったのか……というのは深くは考えない事にした。ミレイの心を黙って覗き見るような真似はあまりしたくなかった。


本棚には娯楽小説もいくつかあったので、それを手に取り時間を潰した。そうしていると、店の方からミレイが顔を出す。いつの間にか時間はお昼にさしかかっており、ミレイはお昼ご飯を作り始めたのだった。ちなみに、お昼ご飯にも厚い肉は出てきた。


お昼を済ませるとマコトはお風呂に入る。朝の鍛錬でかいた汗を流し、身を清める。そして風呂から上がると、用意していた道着に着替えた。

袴の帯紐を締めて、深呼吸をする。この世界に来てから始めて道着に袖を通すが、身が引き締まる思いであった。その姿を見たミレイは、両手を合わせて感心する。


「お〜……なんだか凄く似合ってますね!」


「あ、ありがとう……」


マコトは思わず照れてしまったが、いかんいかんと首を振り、もう一度深呼吸をしたのだった。


〜〜〜


マコトとミレイは昼過ぎ頃には既に決闘場についていた。最初はマコト一人で向かうつもりだったが、ミレイが絶対についていく、と言うのでそうなった。営業中の札をひっくり返すのを眺めながら、閉めてばかりで店は大丈夫なのかとマコトは心配したものだが……。


「どうせ決闘でみんな浮足立ってますから、誰も来ないですよ!」


とのことだった。特に心配が解消されたわけでもなかったが、ミレイが良いと言うならマコトから言うこともない。


決闘場につくと、周囲には出店が出ていた。肉やら粉ものやらお酒やら、主に飲食物だ。辺りは既に盛り上がりを見せており、ワイワイとしている。まさしくお祭り騒ぎである。


そんな中マコトが非常に目立つ格好で現れた、となれば注目を浴びるのは当然だろう。好き勝手な言葉があれやこれやと飛んでくる。頑張れよ、と言った応援もあれば、逃げるなら今のうちだぜ、なんて皮肉めいた言葉まで様々だ。

この注目の中心にいるのは心地良いものではなかったし、隣のミレイも縮こまっている。しかし、だからといって逃げるように振る舞うのも癪に障る。

なので、自分は本日の主役だと言わんばかりに堂々として歩く。そのまま喧騒を割って、決闘場内部へと歩みを進めるのであった。


特に入場制限などはされておらず、入場料もない。見る側としては、あくまで庶民の娯楽として行われるのだろう……賭博も含めて。発券窓口や換金窓口が視界の端に映っていた。ただ、そこに人は立っておらず、どうやら今回の決闘では賭博は無しのようだ。

白金級冒険者と自称アーマードベアを倒した銅級冒険者では賭けが成り立つわけもないので、当然と言えば当然だ。


「賭けが開催されてれば、ミレイをお金持ちにしてあげられたのに」


「買いませんよ。マコトさんへの応援に邪念が入っちゃいますから」


二人は他愛もない冗談を言いあって、笑いながら移動するのであった。


そしてまず観客席へと向かった。闘う場の確認をするためだ。

決闘場は外から見ると中々の大きさだが、観客席からだとその高低差でより広く見える。ざっと見渡すと既に席も半分くらいは埋まっている。流石に緊張感を覚えるが、すぐに意識を中央に向けた。

そこには学校の運動場位の広場がある。石畳などもなく、普通に土が敷き詰められている。土の硬さも気になる所であったが、それは実際に立った時に確かめればいい。


下見も済んだ所で、一度入り口付近に戻る。マコトは関係者用通路から控え室へと向かうので、ミレイとはここで別れることになる。


「頑張ってくださいね!マコトさんならきっと大丈夫です!」


「ああ、ありがとう。ミレイはもう席を取りに?」


「いい席はもう埋まっちゃってますし、せっかくなので出店を回ってからにします。お祭りですから!」


なんだかんだと楽しむ気満々のミレイに、マコトは頭を掻いて笑ってしまうのだった。


ミレイと別れてその後向かった先は、名前こそ選手控え室となっていたが扉で仕切られているわけでもない。どちらかと言えば待合所だ。そこから中央の広場へと通路で直接繋がっている。先ほど観客席から確認したところ、広場への出入り口は一箇所しかない。つまり控え室はここだけで、決闘を行う者は一度ここで顔を合わせることになるのだろう。

今回の決闘はザフィスが仕組んだものだが、本当に仲が悪い者同士での決闘では地獄のような空気になりそうだと想像する。


それはさておき、マコトは準備として柔軟運動を始めた。時間にはまだ余裕があるが、じっとしているのも性に合わない。緊張もしているので、その分念入りに筋肉を伸ばすことにしたのだった。


〜〜〜


開始時間のおおよそ1時間ほど前になった頃、控え室にザフィスが現れた。その後ろにはネスティレが控えている。ザフィスはマコトの姿を認めると、歩み寄って話しかけてくる。


「こんにちは、マコト」


「えっ、ああ、こんにちは」


普通に挨拶をされて、マコトは逆に戸惑ってしまう。人柄を掴みきれない上に領主というその立場の高さを前に、どう対応するのが正解なのか迷ってしまう。そうなると、結局は無難な受け答えになってくるのだった。


「今日はよろしくお願いします」


「ええ、こちらこそ」


それで会話が途切れる。非常に気まずい空気だ。マコトの想像上では、こんな中身のないやりとりを好むとは思えない人物だが……。などと考えていると、ザフィスはおもむろに話しかけてきた。


「決闘について説明することがあるのですが……ミルドラルはまだ来ていないのですね」


「そう、ですね。ギリギリになるんじゃないですか?」


「……全く」


やれやれ、とばかりにこめかみに指を当て頭を振るザフィス。ミルドラル待ちのこの状況、マコトはせっかくなので気になることを聞いてみることにした。


「少し、良いですか?」


「なんでしょう」


「この決闘。あんなわざとらしい演技までして仕組んだ理由は何ですか?」


ミルドラルはマコトを試すためと言っていたが、答え合わせがしたかった。

その質問にザフィスはピクリと眉毛を動かし、一度目線を離す。そして改めてマコトを見て、口を開いた。


「あなたの実力を見たかったんですよ。腕のいい冒険者はいればいるほど良いですが……あなたの場合、判断材料に乏しい。手早く確認できて、街の住民に娯楽も提供できる。一石二鳥と言うやつです」


「なるほど。……もう一つだけ良いですか?」


「……その質問を最後にしてください」


探りを入れていることにザフィスは気づいているようだとマコトは悟る。しかし、めんどくさい駆け引きが不得意なのは自覚しているので、思いきり踏み込むことにした。


「ミルドラルを随分と信用してるようですけど、どういう関係ですか?」


その質問に、ザフィスは明らかに眉をひそめた。話す素振りを見せないので、続けて根拠を話していく。


「実力を見たいと言っても、銅級と白金級で決闘なんて非常識です。しかし思い返せば、あの門の前での話し合いでミルドラルは俺の肩を持っていました。ミルドラルが俺に何かを感じている事を察知し、それを信用して決闘という判断に踏み切った。違いますか?」


マコトの考えを聞いてザフィスは目を閉じ、何事か考えているようだった。しばしの間そうしていたが、不意に口を開く。


「……推理ごっこは楽しいですか?」


「考えるのが好きなだけですよ」


「……そうですか。ですが、今は決闘に集中することです」


返答はしないという意思表明だろうとマコトは受け取る。言う気がないなら無理に聞く気もない。しかし、思ったよりも警戒されたことには違和感を持つのだった。


〜〜〜


ザフィスが口を閉ざしてからしばらく経ち、もう少しで決闘が始まるという時間になる。するとようやく、ドカドカと騒がしい足音が聞こえてきた。ミルドラルがシノを従えやってきたのだ。


「おーう、待たせたかぁ?」


「……」


ザフィスは無言のまま、冷ややかな視線をミルドラルに向けている。が、ミルドラルは全く気にする素振りを見せない。通じないと諦めたのか、ザフィスはため息をついて、説明を始めるのだった。


「時間もありませんから手短に。一つ。決闘はどちらかが戦闘不能になるか、負けを認めるまで行なわれます。場外への逃亡は負けを認めたものとして扱います。戦闘不能の判断は運営側で行ないます。二つ。対戦相手の殺害は認められていません。場合によっては運営から介入を行います。三つ。観客席への故意の攻撃は認められていません。行ったものは反則負けとなります。攻撃が逸れたりして観客席に向かってしまった場合はその限りではありません。以上です。何かご質問は?」


まくし立てるような説明であったが、内容は単純なものだったので理解はできた。ミルドラルは隣で、分かってますよと言わんばかりの態度で手をひらひら振っている。しかし、マコトには一つ確認したいことがあった。


「観客席の安全性はどうなってますか?」


「基本的には、各所に防壁が得意なものを配置しています。それで足りなければ私が防ぎます」


「ザフィスが?」


この言い振りからするに、ザフィスは実力者なのだろうかという疑問が湧く。それに応えたのはミルドラルであった。


「こいつは土の魔法を使える。土があるところならこいつの庭みたいなもんだ。もちろんこの決闘場もな」


「ミルドラル。あまりペラペラと人の手の内を晒さないでください」


「別に隠してるわけじゃねーだろ?」


ザフィスは横目でマコトをちらりと見る。マコトは気づかないふりをしたが、ミルドラルは肩をすくめていた。ザフィスはまたもため息をついて言う。


「もうよろしいですね」


仕切り直すように再度確認を取るザフィスに、マコトとミルドラルは首を縦に振る。


「では最後に。実況が名前を呼びましたら場へ出て、決闘開始の合図を待ってください。その後はお好きなように」


そう言って、ザフィスはマコトとミルドラルに背を向ける。自分の持ち場に向かうのだろう。


「それでは私は失礼します。……お二人が実力を発揮しきれるよう、祈っていますよ」


ザフィスはそう言い残し、少し早歩きで控え室から去っていく。ネスティレは結局一言も発することなく、ザフィスの後についていった。そんなザフィス達の後ろ姿を見ながら、ミルドラルはぼやく。


「何だか知らねぇが随分ピリピリしてたな。なんか言ったのか、少年」


ミルドラルの疑問への答えをマコトは持っていた。ザフィスは深刻そうに受け止めていたが、マコトからすると特に隠すことでもない。なので素直に答えることにした。


「ああ……ザフィスはミルドラルを信用してそうに見えるから、どういう関係なのか聞いたらあんな感じに」


「ザフィスが俺をぉ!?ガッハッハ!何の冗談だ!そりゃあ怒っちまうわなぁ!」


ザフィスの時とは正反対にミルドラルには軽く笑い飛ばされてしまう。だが、結局どういう関係かまでは答えてくれない。どうやらマコトが思っているよりも、繊細な話なのかもしれない。


「……まあその話はもういいさ。それより、シノさんはどうするんだ?」


「ん、あぁ……。一人にはできなくてな。そこの通路で待っててもらう」


「そうか……」


シノは奴隷……つまり亜人だ。この国が亜人を一人にできる環境にないことは、昨日ミレイから聞いて把握している。

シノに目を向けると、ミルドラルの傍らで静かに佇んでいた。しかしその姿を見てマコトに疑問か生まれる。シノに亜人的特徴が見当たらないのだ。


「ミルドラル……シノさんは……」


「おっと、おしゃべりは終わりだな」


ミルドラルの言葉で意識を広場の方に向けると、拡声器らしき響き方で前説が聞こえてきていた。始まるのだ、決闘が。


「シノの話が聞きたきゃ後で教える。今は……楽しもうぜ」


「……ああ!よろしくな!」


前説も終わりいよいよ選手入場だ。マコトとミルドラル、二人の名前が高らかに読み上げられたのだった。

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