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星に願いを、異世界に拳を  作者: シンゲン
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決闘前夜

たっぷり一時間はかけたであろう技の名付けも一段落し、マコトは改めて魔力操作の練習を再開した。技の名前を叫びながら気持ちよく練習を続け、魔力残量が倒れないギリギリ程になった頃には日が傾きかけていた。

帰路についたマコトが家に着く頃には辺りは暗くなり始めており、ミレイも店じまいの準備を始めていた。


「あ、おかえりなさい!」


「ああ、ただいま」


「ごめんなさい、もうちょっとかかっちゃいますので、先にお風呂沸かして入っちゃってください。水を張って魔燃機関に魔力を注げば、後は魔源を入れるだけです」


「……、分かった」


魔源、という言葉に聞き覚えは無いが、文脈と仕組みを考えれば電源と同じ意味だろうと推測できた。

マコトは居住スペースの方に上がり込んで風呂を沸かす。魔燃機関に注ぐ魔力はそんなに多くなかったので、今の少ない魔力量でもなんとかなった。


お風呂が沸いたのを確認すると、マコトは着替えを用意する。横目に入った洗濯機にも魔力を込めて、土と汗にまみれた服を洗濯籠に入れる、前に止まる。さすがに別で洗おうと思い直し、脱いだ服は避けておくことにする。この世界に来る前は汗まみれの服をポイと籠に入れておけば母親が洗濯してくれたものだが、今になって申し訳なく思うのだった。

さておき、体を綺麗にして湯船でゆっくり休ませる。そして風呂から上がると、料理をしているミレイが目に入った。


「あ、マコトさん!もうすぐできますから、もうちょっと待っててくださいね!」


ジャカジャカとフライパンを振るミレイ。なんだかとても張り切っているようだった。


「ありがとう。その間に汚れた服を洗っておこうかな」


「え、私がやっておきますよ?」


さもそれが当然だとばかりにミレイは言う。だがマコトはそれを断った。


「俺はもう客じゃなくて同居人だ。やるべきことはやる。流石にミレイの服を俺が一緒に洗うのは嫌だろうから、自分の分だけにしようと思うけどそれでいいかな?」


「あ……、大丈夫です。ありがとうございます!」


マコトは外に出て汚れた服を手洗いする。そして物干し竿に干してから、家の中に戻った。その頃には料理は完成しており、肉と野菜の炒めものが大皿に山盛りになっていた。


「おお……」


「明日は決闘ですから!いっぱい食べてくださいね!」


いただきます、と述べて二人は食事を始める。マコトは一口頬張ると、これはと唸る。


「美味い!」


「あ……良かったです!」


ミレイはマコトが食べるのをにこにこと見ながら少しずつ食べていた。マコトはガツガツと食べ進め、大皿はあっという間に空になるのだった。


「ごちそうさまでした。お腹はいっぱいになりましたか?……なんて、マコトさんならまだまだ食べれちゃうんでしょうね」


冗談めかしてミレイは朗らかに笑う。その明るい笑顔を見ていると、マコトは胸が温かくなる。だからこそ今、伝えたいことがあった。


「……ミレイ、ありがとう」


「うえ?い、いきなりですね!?どうしたんですか?」


急に真面目な雰囲気で礼を言うマコトにミレイはあわあわと狼狽えるが、マコトはそのまま話を続けた。


「ミレイは……一人は寂しいって言ってたよな。記憶はないが、多分俺も一人だったんだ」


一日街案内してもらった時も、紅の不死鳥亭でも、朝のランニングの時も……。誰からもミルドラルの対戦相手としてしか見られることはなかった。マコトを心配して駆けつける者もいなかった。

元のマコトはこの街に友人もおらず、一人だったのだろう。そして清澄誠である自分も、異世界に飛ばされただ一人であったのは言うまでもない。


「さっきおかえりって言ってくれて、凄く安心したんだ。ミレイがいてくれて、俺はきっと救われてる。だから、ありがとう」


マコトは心から思うことをそのまま口に出していた。ミレイはそれを静かに受け止めていたが、最後まで聞き終わると、微笑んだ。


「お互いに、寂しがりやなんですね」


「……そうみたいだ」


どちらからともなく笑い合う。……それは一人ではできないことだと二人とも分かっていた。


「それにしても、なんだか急に感傷的になりましたね。なにかあったんですか?」


「ああ……実は、奴隷商にあった」


「奴隷商、ですか」


マコトは朝の出来事を簡潔に話す。奴隷を買う約束をしたことまでの全てを。


「買うんですか。奴隷を」


ミレイは何とも言えない顔をしている。いろんな感情がない混ぜになったような表情だが、一番近いのは浮かない顔、という感じだ。それからミレイは奴隷制に関わる歴史について、簡単に教えてくれた。


「この国では、人と亜人は仲が悪いんです。どちらかと言えば、人が亜人を恐れていたようですが……。亜人もそれを受けて人を憎みました。それが行き着く所までいって……戦争が起こりました」


ミレイは悲痛な表情で語り続ける。優しいミレイには辛い話だろうし、マコトにとっても同じことだった。


「私も、詳しく知っているわけじゃありません。ただ……互いに沢山の人が亡くなりました。最終的に人の勝利で戦争は終わって……、それがおおよそ30年前の事です」


「30年……。まだ、全然……」


「戦争が終わっても、憎しみは終わりません。亜人達は人の襲撃を逃れるため隠れ住むようになり……それでも捕まった亜人は殺されるか、あるいは奴隷となりました」


ミレイは、テーブルの上に置いた手をぎゅっと握る。その表情は酷く辛そうであった。だがミレイは意を決したように言う。


「種族間に深い憎悪が横たわっているんです。だから、半端な同情心で関わるべきではありません。きっと……良い結果にはならないですから……」


沈痛な面持ちでミレイは俯く。マコトのことを思って言ってくれているのは、はっきり伝わっている。ただ、マコトには一つ確認したいことがあった。


「……ミレイは、どうなんだ?」


「え?」


「ミレイは亜人を憎んでいるのか?」


ミレイは驚いたように顔を上げる。そんな事を聞かれるとは予想していなかったのだろう。しきりに目線を動かして、考える素振りが見てとれる。それから少しの時間が経って、ようやくミレイは口を開いた。


「……分かりません。戦争は私が生まれる前の話ですし……生活圏内では亜人の姿もあまり見ません。シノさんを見て驚いたくらいです。……ただ」


ミレイはそこで一度言葉を止める。自分の思うことを打ち明けるべきか否か……迷っているようだった。だからマコトは、先に自身の心の内を明かすことにした。


「ミレイ。先に謝らせてほしい」


「なにを……」


「住む場所も借りてる立場で、勝手に奴隷を買うなんて判断は軽率すぎた。だから、ごめん」


「……」


ミレイはぎゅっと口を結んで聞いている。その目はマコトをじっと見ていた。


「でも俺は……手を伸ばせば助けられる人がいるなら、助けたい。その先に何があったとしても。手を伸ばさずに後悔するのだけは、嫌なんだ」


マコトを見つめるミレイの瞳を、マコトは見つめ返す。しばしの見つめ合いの後、ミレイは結んでいた口を開いた。


「私は、亜人のことを何も知りません。助けるべきなのか、そうではないのか……」


ミレイは静かに語る。その結論がどこへ向かうのか、マコトは緊張しながらもしっかりと聞く。


「でも……助けられるなら助けたいという気持ちには、共感できます。一度亜人のことを知ってみるのも、良いのかもしれませんね」


ミレイはそう言って、にこりと笑ったのだった。


〜〜〜


奴隷は買って助けるということで話は決まったが、他にも話すことはいくつかある。その一つをミレイは議題に挙げた。


「ところでなんですけど、買うといってもお金はどうするんですか?マコトさんは銅級ですから、高額依頼は受けられませんよ」


「一応考えはある」


この至極もっともな疑問に、マコトは指をピンと立てて答えた。


「今回の決闘でミルドラルに勝つ」


ミレイはポカンとする。お金のことと決闘がどう結びつくのか分かっていないという顔だ。それもそのはず、ミレイはミルドラルとの話し合いの際、盛大に酔っ払っていたため話の内容は全く覚えていなかった。と言うわけで、マコトは軽く説明したのだった。


「なるほど、領主様が用意していた褒賞……」


「……急いで欲しがるつもりはないとか格好つけといてちょっと恥ずかしいけど……そんな事も言ってられないしな」


「うーん……。ミルドラルさんを信用しない訳ではありませんけど……。又聞きですし、あまり当てにしないほうがいいんじゃないでしょうか」


ザフィスに対してあまり良く思っていないのもあってか、ミレイは不安そうだ。が、それについてはマコトも同意見だった。


「それはもちろんだ。仮に貰えたとしても、それがいくらかも分からないしな。他にも案はあるよ」


「他の案ですか。それはどういう……?」


「説明の前に一つ確認したい。冒険者ギルドのトップはザフィスなのか?」


「いえ……違う方ですね。とは言えこの街のギルドマスターともなれば、領主様と同等の影響力は持っていますが……」


「その話も面白そうだけど、今は置いておこう」


マコトは指を口元に当て、考えをまとめてから案について話し始める。


「ザフィスとミルドラル……不思議な関係性だと思わないか?」


「不思議?」


「ザフィスは俺とミルドラルを戦わせて、俺の実力を測りたかった。それは良いとして、ミルドラルがそれに乗る理由はない。他にも、緊急事態とは言えザフィスからミルドラルに直接報奨が払われる予定だった。要するに……二人の間に冒険者ギルドの仲介がないんだ」


「あ、確かに……そうですね」


「ザフィスはかなり慎重な性格だ。ミルドラルが白金冒険者とは言え……いや、むしろ白金冒険者だからこそ、普通は冒険者ギルドに義理を立てるはずだ。だがそうしていない。そして、ミルドラルはザフィスの意図を組んで自発的に動いたようだし、こちらも冒険者としての動きに見えない」


「つまり……どういうことです?二人の関係性が、お金の調達とどのような……?」


いまだ繋がりの見えない話にミレイは疑問を投げかける。マコトはそれに答える形で結論を述べた。


「領主が冒険者ギルドを通さず、有力な冒険者と直接的に繋がりを持つ理由……。冒険者ギルドには頼めない依頼があるため雇用している、というのが妥当な線じゃないかと思う」


「……なるほど?」


ミレイはしかめっ面でパチパチとまばたきしている。それが何を意味するかを頑張って考えているようだったが、その前にマコトが言葉にした。


「それがどういった内容かは具体的には分からないけど……冒険者ギルドを介さない仕事なら、力さえ示せば雇ってくれるかもしれない。それが銅級だとしても」


「おぉ……、なるほど」


ポンと手のひらを打つミレイだったが、そこにマコトは補足を入れる。


「もしこの考えが違っても、こちらから打診してみるという手もある。なんにせよ、勝つことが重要だ」


「そうなりますね……。でも、相手は白金級冒険者です。……勝てるんでしょうか」


「勝てなかったらまたなにか考えるさ。できるできないの話はしない」


決意を瞳に秘めて、マコトは宣言する。


「全力で、挑むだけだ」


マコトは胸に当てた拳を、グッと握りしめるのであった。

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