表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星に願いを、異世界に拳を  作者: シンゲン
14/44

奴隷商と傷の少女

結局、マコトはまたもミレイの家に泊まらせてもらうことした。しかしミレイが寝てしまって許可も得られない中、布団を勝手に使うのも忍びない。というわけで、床を使わせてもらって睡眠を取る事にした。

そして朝になり、固くなった身体を伸ばしながらマコトは起きる。ベッドの上ではミレイがまだ爆睡中だが、わざわざ起こすこともないだろうとそのまま朝のトレーニングを始めることにしたのだった。


マコトは準備運動をしながらランニングのルートを考えていた。昨日ミレイに案内してもらったとは言え、まだ慣れない街だ。細々した裏道を走ると迷ってしまうかもしれない。その為、迷いにくく幅も広いため邪魔になりにくい大通りを走ることに決めた。

……のだったが、それは失敗だった。


「ミルドラルと決闘する奴じゃねーか!」


「せいぜい死なないようになー!ははっ」


(……超目立つ!)


撒かれたチラシの情報拡散力を舐めていた。一日も経つと、マコトの顔は大分広まってしまったらしい。更には早朝から大通りを走っている人など他におらず余計に目立つ。結果として、決闘の件で声をかけられまくって、まるで走りに集中できない。街の一大イベントとは言え、ここまで注目を受けるとはマコトは考えもしていなかった。

大通りをある程度西側に走ってから折り返して帰る予定でいたが、これ以上大通りを走るのは恥ずかしい。と言うことできゅうきよルート変更し、娯楽街の方から周って帰ることにしたのだった。


娯楽街の方でも多少声はかけられるが、そもそも人通りが少ないのでほど気にはならない。ミレイに案内してもらった時とは違う道であったため少し不安であったが、見慣れない街を走るのもなんだか面白いものである。


マコトがそうして走っていると、前方に気になる一団を見つけた。その内の一人、そうしんでいかにも成金といった服を身に纏った長い金髪の男が、逆に服とも言えないようなボロ切れと首輪を身に着けた少女を叱りつけていた。気になったマコトは少し離れたところで立ち止まる。


「まともに歩くこともできないのか?」


「……っ」


少女は男を睨みつける。その反抗的な態度を受けて、男は手に持った機械のようなものを見せつける。


「自分から歩きたくなるようにしてやってもいいんだぞ」


少女の目はさらに鋭く尖る。少女が態度を改めないのを確認すると、男は大きくため息をついて機械に魔力を送る。すると、途端に少女が苦しみだした。


「うぐぅううう!」


「お前に選択肢なんてない。いい加減学べ」


「ちょっ、ちょっと!何してるんだあんた!」


「……なんです、あなた」


思わず声をかけたマコトに、振り向いた男はげんな顔を向ける。そしてすぐに興味をなくしたように言う。


「あなたには関係ないことです」


「なっ」


「ほら、行くぞ」


「……っ」


少女は悔しげに歯を食いしばっていた。金髪の長い髪はボサボサ、その顔には痛々しい大きな傷があり、他の目立つ特徴として長い耳を有していた。


「……嫌がってるだろ!どうしてそんな扱いをする!」


マコトは尚も食い下がる。こんな格好の少女を、関係ないからといって見過ごすことはマコトにはできない。そんなマコトを男は冷たく、うっとうしげな目で睨む。


「嫌がってるからなんだと言うんですか。この亜人は私の商品であり、言うことを聞かないなら躾けなければならないのですよ」


「亜人……、商品……!?」


そこでマコトは思い出す。この国に奴隷制度が存在することを。その考えを肯定するように、男……奴隷商は言葉を続けた。


「奴隷ですよ。この首輪を見れば分かるでしょう。分かったらさっさとどこかに行ってください」


「ぐっ……」


国として奴隷が認められているのなら、口出しできることなどない。ないのだが、だからといって納得はできない。そんなマコトの様子を見て、奴隷商は顔をしかめてため息をつく。


「……はぁ、面倒な……。それならあなたが買えば良いでしょう。はっきん10枚!……1万リュミルを用意できれば今すぐお渡ししますよ」


「……!」


マコトは何も言えない。白金貨というのは初めて聞いたが、金貨の10倍の価値のようだ。とても手が出せる金額ではない。奴隷商はそれを見越してか更にマコトを煽る。


「この奴隷は労働力にもならないくせに、顔の傷のせいで更に需要が少ない。だから安くして差し上げているんですよ。それでも手が出せないのですか?責任を取る気もないくせに幼稚な正義感を振りかざすのは、辞めていただきたいものですね!」


奴隷商がまくし立てた言葉になにも言い返せず、マコトは俯き、悔しさのあまり歯ぎしりする。ふん、と鼻を鳴らし呆れる奴隷商だったが、ここでなにか気づいたように眉をピクリと上げた。少しばかり考える仕草を見せた後、少女に語りかけ始める。


「しかし売れない上にトラブルまで引き起こして。私もいい加減面倒見きれません。あなたはそろそろ廃棄も視野に入れなければなりませんね」


「廃棄……?」


「は、……廃棄って、なによ」


あまりにも物騒な言葉に、マコトは考えが追いつかない。マコトがその意味を尋ねる前に、少女がそれを口にする。そして奴隷商が語り始めたその内容はあまりにも残酷なものであった。


「廃棄は廃棄です。他の街へ移動する際に途中で放り出すんですよ。そうすれば魔獣だか賊だかが勝手に片付けてくれます。隙を見て逃げ出したとでも言えば、誰も追及などしないでしょうし……、うっ……!」


「っ、お前……!」


奴隷商の服の首元をマコトは、ねじりあげる。こんな言動が許されているというのはマコトにとって信じがたい話だった。しかし、奴隷商は全く物怖じしていない。


「そんなに怒ることはないでしょう。あなたが買えば、そんな未来は訪れないんですよ、マコト様」


「なっ」


不意に自分の名前を呼ばれて、マコトは力を緩める。その隙に奴隷商はマコトの手を払い、服を正す。


「今、あなたはそこそこ有名人です。銅級の身でありながらアーマードベアを倒したそうですね。それが本当なら1万リュミルなど余裕でしょう」


余裕でしょう、などと言われても、マコトには分からないことだ。少女の方を見てみると顔を青ざめさせて震えている。その目には深い怒りと悲しみと……絶望の色が見える。助けたい、助けたいが金はない。マコトが答えあぐねていると奴隷商はまたも煽ってくる。


「あなたが買えなければ廃棄するだけです。どうせ他に買い手など……」


「それ以上喋るな!……殴りそうになる」


奴隷商は口を止め、冷たい目をマコトに向ける。マコトはその目を睨み返し、言った。


「買うよ。俺が買う。それで良いんだろ!?」


その言葉を聞いた途端に、奴隷商は笑顔を浮かべる。マコトはあまりの変わりように面食らう。


「ええ、ええ、そういうことであればあなたはお客様。私も名乗らせていただきましょう。私はヘルビス。しがない奴隷商でございます」


(こいつ……っ!クソ野郎が……!)


マコトは内心で毒づく。恐らくは表情にも出ているだろうとマコトは自覚していたが、取り繕う気もない。しかしヘルビスは全く気にする様子もなく、話しかけてくる。


「今手持ちがないのでしたら、商品は取置しておきましょう。とは言えいつまでも待てるわけではありませんから、なるべく早めにお願いしますよ」


「……分かった」


急にベラベラと流暢に喋りだしたヘルビスに、マコトは心の底から嫌悪を感じる。それでも、少女を救う手段はこの取引以外他にないため、我慢した。


「私は朝から夕方まで集いの広場におります。金が用意できましたらいらっしゃってください。奴隷の引き渡しはその場で行いましょう」


「ああ」


「他に確認したいことはありますか?」


「ない」


「そうですか。それでは、もうよろしいですね?他の奴隷を売りに広場へ向かわなければなりませんので、失礼しますよ」


ヘルビスのその言葉は無視して、マコトは少女へと話しかける。


「勝手にいろいろ決めてごめん。細かい話は、君を買ってからにしようと思うけど、……酷いことはしないから」


「……」


少女は答えず目を伏せる。マコトは悲しげな表情を浮かべるが、すぐに怒りを含んだ顔でヘルビスを一瞥してその場を去った。


マコトがいなくなると、ヘルビスは貼り付けた笑顔をやめ、馬鹿にするように口角を上げる。


「ふん。ケツの青いガキはヒロイズムを煽ればすぐに操れる。ちょろいもんだ。……ほら、行くぞ!」


ヘルビスは、奴隷を連れて大通り集いの広場へと歩を進める。傷の少女はそれに付いていきながらも、マコトが去った方向に目を向けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ