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星に願いを、異世界に拳を  作者: シンゲン
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街案内 昼

ギルドでの用事を済ませた二人は、大通りの西側へ向かう。目的は防具屋だ。マコトの防具はほぼ損壊してしまっており、新調を考えてのことだ。

歩きながら適当に目星をつけて、店に入ってみる。しかし現実は厳しいと言うべきか、マコトの前には大きな壁が立ちはだかっていた。そう、値段である。


「高い……」


「私も防具の相場は知りませんでしたが……考えてみれば、実質命の値段ですもんね」


一番安い革の胸当てだけで、おおよそ500リュミルである。全財産の半分だ。他の買い物を考えると気安く手は出せない。


「んん……マギでの防御も可能なら……節約、かなぁ……」


「マコトさん。防具を軽んじてはいけませんよ。今はボロボロですが、あの胸当てが無ければマコトさんの胴体は真っ二つだったかもしれません。いわば、最後の命綱なんですから」


真っ二つ、と聞いてマコトに寒気が走る。だが、無い袖は振れない。生活できなくなっては元も子もない話だ。


「どちらにせよ、今は厳しいな……。決闘もあるから防具は欲しかったけど」


「せめて、服を買いましょうか」


ミレイの提案にはマコトも賛成だった。アーマードベアとの戦いで、防具だけでなく服までボロボロになっていたのだが、どうやらいっちょうだったらしくまともな着替えがない。

防具屋の店主に冷やかしを謝りながら店を出て、服飾店へ向かう。


「こういうのどうでしょう!」


服飾店に入って早々、ミレイがあてがってくるのは白いシャツとベストだ。比較的フォーマルな服装だが、マコトは冒険者である。そのような服が必要なのかは疑問だった。ちなみにお値段は合わせて300リュミルである。


「えっと……ミレイ?」


「気に入りませんか?じゃあこういうのは!?」


ミレイは、今度は革のジャケットを手に取る。なにやら急にファッションショーが始まったようだった。


「おお……ワイルドですね」


「……店員さんの視線が痛いんだけど」


ミレイは楽しそうだったが、このままでは一生終わりそうにない。なので、最初の目的を改めて伝える。


「今日は当面の普段着と、決闘に着ていく服を買う!分かった?」


「はーい……」


それから、普段着にはこれぞ布の服、といった感じの服を三着ほど選んだ。問題は決闘用の服だったが、店内を見回っているとマコトの目にあるものが飛び込んできた。


「これは……」


「ん?ロングスカート、ですか?」


「いや、違う」


マコトが手に取った紺色の服は、裾が大きく広がっていて一見スカートにも見える。だが、足を通す所はちゃんと二手に分かれていた。


(袴だ……異世界にも袴があるのか)


となれば上衣もあるのでは、と探してみればすぐに見つかった。これも紺色で、種類としては剣道着が一番近い。


(この世界で、道着が見つかるなんて)


「なんだか独特な服ですね」


「え、あ、ああ」


街並みにこんな服装をして歩いている人はいなかった。この服がこの世界でどういう扱いなのかも分からないので、下手をすれば墓穴を掘ってしまうかもしれない。

こういう時は、素直に聞いてみるのが一番だと判断した。


「あの、店員さん。この服なんだか面白い形ですね」


「ああそれ?ウチはちょっと変わり種も扱っててね。大昔にそんな格好した剣の達人が竜を斬った、なんて詩があるんだよ。胡散臭い話だけど、こうして服は残ってるんだからホントだったのかもしれないねぇ」


マコトはその話を聞き、もしかしてと思う。マコトがこの世界に来てしまったように、過去にも異世界転生した人物は居たのでは、と。

想像には過ぎないがあり得ないことでもない。手にした道着は、間違いなく日本で見たものと同じ形状をしていた。


……それはさておき、この服のこの世界での扱いは、存在したかも怪しい人物が着ていた服。早い話がコスプレだ。かなり心惹かれているが、周りからどう見られるかを考えると悩んでしまう。マコトがそうやって唸っていると、ミレイが声をかけてくる。


「迷うなら買いましょう。きっと似合いますよ」


そう言ってにこりと笑う。その言葉が後押しとなって、マコトは武道着を買うことを決めた。

とは言っても見た目だけの製品で丈夫さはそこまででもなく、それに比例してかお値段はそこまで高くはなかった。布の服三着とズボン、道着の上下、それと下着を数点。合わせて、400リュミルで済んだのだった。


店を出ると太陽は真上にあった。お昼である。通りには、そろそろご飯にしようかと飲食店街がある東へ向かう人が多い。


しかし、食事時である事とはまた別の賑わいも街に溢れているのにマコトは気づく。それはそこかしこで話されており嫌でも耳に入ってくる。


「決闘だってよ」


「ホントに?楽しみねぇ」


「ミルドラルの戦いが見れるなんてな」


「そうは言っても相手は銅級だぞ。どうせすぐ終わっちまうよ」


「でも、アーマードベアを一人で倒したらしいぜ」


街はなぜかマコトとミルドラルの決闘の話題で持ちきりだった。顔も名前も売れていないマコトは全然気づかれないが、何となく居心地が悪い。


「マコトさん。説明を忘れていました」


街の様子を見て察してくれたのか、マコトが尋ねる前にミレイは話し出す。


「決闘は、この街では一つの娯楽なんです」


「娯楽」


オウム返ししてしまったマコトだが、すぐに思い浮かんだのは古代ローマのコロッセオだ。剣闘士の殺し合いを見せ物にしていたというが、現代でも殴り合いの観戦は大人気コンテンツだった。

この世界でも、それは例外ではないのだろう。


「冒険者は気が荒い人が多いですから、喧嘩もしょっちゅうなんです。それを一々取り締まるのも大変だということで、いっそ街が取り仕切って戦わせて興行にしてしまおうという試みなんですよ」


要するに一石二鳥を目論んでのこと、というのはわかったが、気になる点もある。


「それって冒険者からの反発はないのか?個人的ないさかいに街が横入りするのをよく思わない人もいそうだけど」


「そもそも街なかでは非常時以外の戦闘は重罪なんですよ。冒険者の方々の中には規格外な人もいますし……。なんなら、正当性をもってうっぷんを晴らせると言う事で、割と好意的に受け止められてるみたいです」


「そんなもんなのか」


説明を受けてから改めて決闘を話題にしている人達を見てみると、なにやらチラシを手に持っているのが伺える。昨日の今日でもうそんなものが配られている事に驚きを覚えるが、ザフィスはなぜそんなにやる気なんだろうか、とマコトは不思議に思うのだった。


なんにせよ、マコト達もお昼ご飯を食べるために適当なお店を見繕って入店する。そしてメニューを見て気付くが、料理の種類が多彩だ。市場の方でも新鮮そうな魚や果物の類が並んでいたが、食についてはどうなんだろうとミレイに尋ねてみる。


「このイルミナ国の北部には森と山、南部には海があります。東の都市ソルスタッドは農耕が盛んで、いろんな食材が中心部であるステラヴィルに集まるんですよ」


「じゃあ、美味しいものも沢山あると」


「もちろんです!」


そうやっておしゃべりしてる間に頼んだ料理が運ばれてくる。夜に酒場での待ち合わせもある上に懐もあまり温かくはないので、軽めに済ませるつもりだった。なのでサンドイッチらしき料理を頼んでみたら、知っているものとほぼ変わりない代物がでてきた。


(異世界と言えど、考える事は同じだなぁ)


考えてみれば、元の世界でも違う国なのに似たような文化があったりするものだ。

燃料と機械でもって作業の単純化を図ったり、観戦が好きだったり……。料理だって試行錯誤がなされているのだろう。

異世界と言えども、その文化に触れることに身構える必要はなさそうだとマコトは思った。


話をしながら料理を美味しくいただいて、さてお会計を、という時にマコトはミレイに提案する。


「ここは俺に払わせて欲しい」


「えっ、良いですよそんな」


ミレイは手を振って遠慮している。マコトが貧乏だと分かっているからなおさらだ。しかし、マコトも男の子である。少しは格好つけたいのだ。


「街案内もそうだけど、色々教えてもらってるから。お礼だと思って欲しい」


「うーん……。別になんてことないんですけど……分かりました。ここはごちそうになりますね。ありがとうございます」


「ああ!」


そうしてマコトは嬉しそうに支払いを済ませるのだった。


昼ご飯を済ませた二人は、次にどこへ行くかを話し合う。南の工房街は職人たちが仕事でもりきりだし、用事もないのに覗き見るのも失礼だろう。ということで、北西の娯楽街へ向かうことになった。


娯楽街には書籍類を扱う店やボードゲームなどを遊びながらくつろぐ店、他にも銭湯や劇場など文字通り様々な娯楽がある。冒険者にも癒しが必要なのだ。

ちなみに、当然色街も存在しているが、ミレイはその説明を端折はしょった。


そんな風に娯楽街の説明を受けながら歩いていると、円形の大きな建物がマコトの目に入る。ミレイもマコトの視線の先を辿って何を見ているかに気づいた。


「あれが決闘場ですね」


決闘が娯楽なら、決闘場が娯楽街にあるのも当然だろう。一万人くらいは入りそうな大きさだ。マコトは足を止め、決闘場を見上げて息を呑む。


「あそこで戦うのか……」


今回の決闘は、マコトも受けることを決断したとは言え自ら望んだわけでもない。未だに実感も湧かないまま予想外の規模感であることを知らされて、流石に緊張感を覚える。そんなマコトの様子を心配してか、ミレイはマコトの顔を覗き込んできた。


「……マコトさん?」


「あ、ああ、ごめん。行こうか」


マコトはその緊張を誤魔化すように手をぐっと握ってミレイに答える。そして二人はその場を後にした。


その後、街案内も一段落ということで食料を買ってから一度ミレイの家に帰った。そして荷物を置き、マコトとミレイはいよいよ紅の不死鳥亭へと向かうのだった。

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