『リヴァイアサンの魚介豚骨ラーメン』10
辺りは霧で包まれ、目の前には聳え立つ邸宅と巨大な鋼の門が不気味に一同を見下ろしていた。
「やっと着いたわね……」
すると、ヤーハンがシュリルの肩を軽く叩く。
「ありがとう。降ろしてくれ」
「分かった」
シュリルがそっと降ろすと、よろけるヤーハンにすかさず龍拓が倒れないよう脇に割って入る。
「すまんな……。
もう大丈夫だ」
ヤーハンはため息を吐くと、一人で門に向かう。
そして、門に刻まれた七芒星に手をかざすと、紫色の妖艶な光を発した。
リプイは光を見た瞬間、心の中にあった答えが確信に変わる。
「やっぱり、あの人は生きている!」
『ゴゴゴゴコゴゴゴゴゴコゴォ!』
地響きを起こしながらゆっくりと門が自動で開いていく。
そして、開き切った先には一人の黒髪で頭に角を二本生やし、紫色のエナンを着た褐色の男が立っていた。
「お久しぶりですヤーハンさん。
それに、リプイも……」
目に涙を溜め、リプイは男を見つめる。
「モービル先生!」
リプイはたまらずモービルの方へ駆け寄ると、思いっきり抱きついた。
「てっきり死んでしまったのかと思ってた……」
「すまない。君たちには心配をかけたな」
モービルの顔をじっと見つめると、リプイは安堵の表情を浮かべる。
「後で詳しい事情を聞かせてもらいますからね!」
「分かったよ」
モービルは微笑むと優しく抱きしめ返した。
二人の光景をじっと見つめていたヤーハンは頬を膨らませる。
「なんじゃ! 物凄く羨ましいのう!」
モービルが肩ををポンポンと軽く叩くと、抱きつくリプイは手を離す。
「皆さん、案内するので私について来てください!」
すると、モービルは邸宅に一同を手招きして案内した。
邸宅の中はまるで大聖堂のようになっており、壁一面に描かれた美しい壁画が一同を圧倒する。
壁画は魔界から人間界に逃れて来た使者たちが、人間と手を取り魔王を倒す内容だった。
「こんな場所があるなんて……」
リプイは壁画の美しさに見惚れていた。
「ここにある壁画には私たちの歴史と希望が描かれています。
私たちが人間界に来たのは、いずれ太陽の力を使う者と手を取り、魔王を倒すためです」
すると、モービルは龍拓を見る。
「君が希望だ。早速だが能力の検査をしたい」
モービルは少し進むと、地面に向かって手をかざす。
『ブウォォォォン!』
地面から魔導陣が浮き上がり、柱状の台が出現する。
「ここに手をかざしてみて下さい」
台に龍拓は恐る恐る近寄ると、台に向かって手を伸ばす。
『バチバチバチッ!』
手をかざした途端、電流の様な音が響くと黄色い稲妻が龍拓の腕に纏わりつく。
「わぁぁぁあ!」
驚いて手を引こうとすると、モービルが龍拓の腕を抑える。
「まだ動かしてはいけません」
そんな光景を見ていたシュリルは龍拓の腕に纏わりつく稲妻を羨ましそうに見ていた。
「カッケェなぁ……稲妻」
そして、腕の稲妻は段々と体の方に移動すると、まるで黄色いオーラの様に体全体を優しく包み込んだ。
「まさか、ここまでとは……」
モービルとヤーハンは龍拓から発せられるエネルギーに笑みを浮かべる。
「これなら、あの魔力壊包丁の力を引き出せるじゃろう!」
龍拓の肩にモービルは手を乗せると微笑む。
「今、貴方を包んでいるエネルギーが太陽の属性の力です」
「これが……。
なんだか暖かいな」
太陽の属性エネルギーはまるで干したての布団の様に心地よかった。
龍拓は手を眺めて、エネルギーを興味深く見つめる。
「よし、そろそろエネルギーを体にしまった方が良さそうじゃな」
そう言うと、ヤーハンが龍拓の背中を反時計回りになぞる。
すると、龍拓の体にゆっくり太陽の属性エネルギーが体に戻っていった。
「エネルギーもしまえたことだし、訓練場で力を扱うトレーニングに入りましょう」
「お! いよいよ訓練場が見れるのか!」
シュリルはワクワクして、その場でジタバタし始める。
一同は邸宅の地下に続く薄暗い階段を降りていた。灯は松明のみで、リプイは何度か転びそうになると、モービルが体を支えていた。
そんな光景を再びヤーハンが羨ましそうに眺める。
「リプイちゃん。倒れそうになったらワシを頼ってくれてもええんだぞ」
リプイはヤーハンの声など耳に入っておらず、優しく接してくれるモービルに見惚れていた。
しばらくの間階段を降りると、魔導陣が掘られた石で出来た大きな扉が見える。
「あの扉の先が訓練場です」
モービルの言葉に一同は期待を寄せる中、魔導陣に手をかざす。
「リフトアフ」
モービルが呪文を唱えると、扉の魔導陣が紫色に光って動き出す。
『ゴゴゴゴコゴゴ……』
そして、ドアが開いて見えた光景にリプイたちは目を見開いた。
巨大なドーム状の建物の中を天井にある魔法で作られた人工太陽が照らし、その中で大勢の屈強な魔族の戦士や魔法使いたちが額に汗をかきながら稽古を行っていた。
「すげぇ!」
シュリルは魔族の戦士たちが稽古をしている姿に目をキラキラさせる。
「こりゃ楽しめそうだぜ!」
To Be Continued…