『リヴァイアサンの魚介醤油ラーメン』8
ふと、シュリルが思い出したようにリプイの方を見る。
「そう言えば、リプイのステータスはホルモンラーメンで何か変わったのか?」
シュリルの問いかけで、リプイはメガネ型のデバイスをかけると、横にあるボタンを押して自分のステータスを確認する。
『レベル36 攻撃力42 守備力29 魔力92 スピード32 新スキル・癒しのバリア』
リプイは自身のステータスを見て、目が点になる。
「私がもう、このスキルを使えるってこと?」
「どうかしたのか?」
固まるリプイが心配になり、龍拓が駆け寄る。
「私、もの凄いスキルが使えるようになっちゃった!」
リプイの一言に二人はワクワクすると、その場でジタバタした。
「で、どんなスキルなんだ?」
二人の反応に胸を張ると、リプイは自慢げに笑みを浮かべて話し始める。
「このスキルは国王を魔王から救ったと言われているもので、相手の攻撃を防御しつつ、その攻撃力分バリア内の仲間を回復させる魔法なのよ!」
ポカンとするシュリルとは違い、龍拓は大きく口を開けると満面の笑みを浮かべる。
「それは凄いじゃないか!
例えば、敵から攻撃された時にバリアの中に居ればシュリルが怪我をしていた場合、その怪我を治しつつ攻撃も防げるってことだろ?」
身振り手振りでわかりやすく龍拓が説明すると、理解してシュリルは興奮で両手を突き上げた。
「うぉぉぉぉお!
もう、リプイが居ればどんな敵にも負けないんじゃないか!?」
滅多に褒めることのないシュリルが興奮しているのを見て、リプイは自身の鼻を高らかに上げてどうだと言わんばかりに二人を見下ろした。
「これがあれば、魔王も倒せるんじゃないか?
攻撃されるたびリプイにスキルを使ってもらえば、実質的に受けるダメージが無いわけだし」
龍拓の提案にリプイは天井を見上げたまま気まずそうにしていた。
「どした?」
「そ、その……。
スキルは、一日一回が限界だから何度もは使えない」
「そうなのか。
まぁ、強力なスキルだからな。
それくらいの制約はあるだろう」
「じゃあ、どのタイミングで使うかが大事になるんだな!
俺が致命傷を受けたら使ってくれ!」
「あまりの深傷だと回復が間に合わずに死んでしまうわ。
使うタイミングは私に任せて」
「わかった!
あ、そうだ! 龍拓は今日のうちに魔力壊包丁の使い方をヤーハンのところで教えてもらった方が良いな!
明日、絶対使うことになるだろうし」
シュリルの提案にリプイは龍拓を眺めた。
「それもそうね。
今のままじゃ、龍拓の身が持たないわ。
ヤーハンならきっと良い案を教えてくれるはず」
龍拓は魔力壊包丁をじっと見つめる。
あの包丁を使いこなせれば、調理の時短にもなる。
それに、今はシュリルに戦闘を任せっきりだから俺が多少戦えれば負担が減らせるかもな……。
二人に向かって龍拓は優しく微笑む。
「よし。
飯も食ったことだし、ヤーハンのところへ行くか」
「決まりね。
じゃあ、さっさと準備して向かいましょう」
雲一つない晴天の空。
照りつける日差しの中、支度をして家を出た一行はヤーハンの店へ向かっていた。
「なあ。
ヤーハンと俺の属性が同じだとして、習ったら直ぐにあの包丁を使えるのか?」
リプイは顎に手を添えて目を瞑ると少し考える。
「うーん……。
それは、龍拓の才能次第としか言えないわね。
魔力に関しては問題無い筈だけど、自身の力をコントロールするのが難しいのよ。
魔力壊包丁は力のコントロールが出来ないと自身の魔力を吸い切ってしまう」
「もし、仮に魔力を吸い切られた場合はどうなるんだ?
「死ぬわ」
「えっ!?」
唐突に死という言葉を聞き、龍拓は顔を引き攣らせた。
すると、シュリルが龍拓の肩に手を乗せて軽く揺する。
「まぁ、そんなに大丈夫だ!
もし、龍拓の力が暴走してヤバくなったら俺が一発で気絶させてやる!」
能天気に笑うシュリルに対して呆れた様に龍拓はため息を吐く。
「それこそ、俺が死にそうじゃないか」
三人が話している間にヤーハンの店の前に着くと閉まっていた。
『準備中』
「休憩中か。どうする?」
龍拓が尋ねると、リプイは引き戸に手をかける。
「お邪魔しまーす!」
元気よく挨拶をして店の引き戸を開けると、涼しい店内でヤーハンが美味しそうに棒アイスを食べていた。
「あ~! 愛しのリプイちゃん!
わざわざワシに会いにきてくれたんか!」
「よお! 元気してるか?」
シュリルの声を聞いて少しヤーハンはしょんぼりとすると、ため息を吐いた。
「なんじゃ……。
おまえさんも来てたんか。
てっきり二人っきりだと思ったのに」
「お邪魔します」
「!?」
ヤーハンは龍拓のことを見た途端に目の色を変える。
そうか! お前が……。
ジロジロと見てくるヤーハンに龍拓は顔を引き攣らせた。
「三人が来た理由は分かった。
早速だが、移動しよう。
ここで教えたら店が壊れちまう」
そう言うとヤーハンはアイスを一気に食べて立ち上がる。
「おいおい。どこに行くんだよ!
というか、何で分かったんだ?」
目を丸くして質問するシュリルにヤーハンは笑みを浮かべる。
「裏山だ。
あそこには昔、勇者たちが訓練に使っていた施設があるからな。
それに、ワシを誰だと思ってる!
こう見えても元は勇者のパーティーに居たんだぞ?」
To Be Continued…