『リヴァイアサンの魚介醤油ラーメン』7
[作戦当日]
日差しが照りつける晴天の午後。
再び、時計台近くのベンチでシュリルとリプイは待ち合わせをしていた。
「持ってきたんだな!」
シュリルはリプイの腰に付けられた魔力壊包丁を見て笑みを浮かべる。
「ええ。せっかく貰ったし……」
そして、二人は首にシファから貰ったネックレスを着けてギルドに向かった。
ギルドの門を開けると、シファの声が脳内に語りかけて来る。
『皆んな、揃ったみたいね。
シュリル君、初めまして』
すると、ネックレスの裏に付いているボタンを押してシュリルは応答する。
「お、おう! よろしくな!」
シュリルの大きい声が周囲の注目を集める。
「こら! 声のトーン落としなさいよ!」
ヒソヒソ声でリプイが注意すると、頭を掻きながら反省して俯く。
「すまねぇ」
「シファはどこで待機しているの?」
『私は奥のバーカウンターで待機しているわ』
二人がバーカウンターを見ると、黒いエナンを着たシファが一番奥の席に座っている。
すると、二人はシファが手に赤い球体を持っているのに気が付く。
「手に持ってるそれは、怪物檻か?」
『ええ。今朝、アミルがワイバーンを捕まえたの』
シファの一言にシュリルは額に汗をかいて目を見開く。
アイツ……。
もう、ワイバーンを倒せるのか!?
『何かあったらすぐに連絡して。
じゃあ、作戦通りに。健闘を祈るわ』
「「了解」」
二人は返事を返すと、上の階に向かって進んだ。
シュリルとリプイは順調に進んでいき、魔力迎撃砲がある屋上手前まで来た。
二人は首に着けたネックレスを改めて眺める。
「本当にこのネックレス凄いなぁ!
ここまで防衛システムが一切働かなかったぜ。
こんなのを作れるシファはやっぱり凄いんだな!」
シュリルの一言にリプイは表情を曇らせる。
「これは簡単に作れる様な物じゃない。
それだけの代償を払っているのよ。彼女は……」
「そうなのか……」
だからこそ、絶対に失敗する訳には行かない!
ネックレスを強く握ると、屋上に続くドアを見つめた。
『二人とも、無事に屋上前まで来た?』
リプイは握ったネックレスのボタンを押すと、深く息を吐いて応答する。
「ええ。目の前よ」
『時間も計画通りね。
今なら屋上に見張りは居ないわ』
「よし! じゃあ行くか!」
リプイは内ポケットからカードの様な物を取り出すと、ドアに刻まれた魔法陣の前でかざす。
『ゴゴゴゴコゴ……』
ドアが開くと二人は屋上までの階段を駆け上がった。
『キィィィィン』
すると、ペンダントから耳鳴りで聴く様な高音の音が聞こえて赤く発光した。
「一体何なの?」
「リプイ、屋上に着くぞ!」
階段を登りきると、青空と聳え立つ巨大な漆黒の大砲があった。
「あれが魔力迎撃砲……」
「すげぇな!」
「隕石は今どこに?」
二人は南の空を確認すると、見開いて立ち尽くす。
「こんなにデカいのが……」
炎を纏った町を飲み込んでしまうほどの巨大な隕石がこちらに向かって接近していた。
「何だ貴様たちは!?」
思いもがけない男の声に二人は向くと、そこには六人の武装した警備隊がいた。
「なんで!
この時間は警備隊が昼休憩で居なくなるってシファが……」
「アンタたち! 空を見てくれ!」
シュリルが隕石を指差し、警備隊が見ると首を傾げる。
「何も無いじゃないか!」
警備隊の反応に二人は困惑する。
「お前ら、隕石が見えないのか?」
「何ふざけたことを言っているんだ!
お前らを拘束する!」
すると、警備隊は一斉に武器を構えた。
「仕方ねぇ! 俺が何とか食い止める。
その間にリプイは魔力迎撃砲を頼む!」
「わ、分かったわ!」
「行くぞ!」
シュリルの掛け声と共に二人は走ると、シュリルは警備隊に向かって体当たりをする。
「「「「「「ぐはぁ!」」」」」」
シュリルが警備隊を吹っ飛ばして道を作る。
「今のうちに行けぇ!」
シュリルが警備隊を押さえている間にリプイが魔力迎撃砲の操作パネルを使って起動させる。
『ヴィィィィィィィィィン!』
独特なサイレンの音と共に青白く発光すると、ロイアルワ全体を囲むバリアのエネルギーを吸収していく。
すると、少しずつバリアの色が薄くなっていった。
「リプイ、時間が無い!
早く隕石を!」
シュリルの声と共に、リプイは操作パネルで魔力迎撃砲の角度を隕石に向けて調整する。
「いけぇぇぇぇえ!」
発射ボタンを押すと、チャージされたエネルギーが凝縮され、砲台から発射された。
『ブッギャアァァァァァァァァン!』
国全体に響き渡る様な轟音と共に光線が隕石に向かって発射された。
『ピシュンッ……』
リプイは今、目の前で起きたことが信じられずにあんぐりと口を開けていた。
光線が当たる直前に隕石はまるでテレビを消す様に消えてしまった。
そして、首につけていたネックレスの宝石が砕け散る。
リプイは絶望に顔を歪めると、自然に涙を流していた。
騙された……。
隕石はペンダントの見せていた幻影。
私は何てことを!
その瞬間だった……。
『バァァァァァァアン!』
バリアに光線が直撃して大穴が空くと、爆発音と共に穴から一匹の大型ワイバーンが入って来る。
「あれは!」
リプイは見て直ぐに思い出した。
あれはさっき、シファが怪物檻に入れていたワイバーンだということに……。
ワイバーンは大きく口を開くと、エネルギーを溜める。
『ボワァァァア!』
口から吐き出された業火が町に大火災を引き起こすのに時間は掛からなかった。
『ギロッ……』
屋上のリプイに気付いたワイバーンは口を大きく開け向かってくる。
≪シャァァァ!≫
蛇の様な声を上げながら襲って来るワイバーンに震えながらリプイは咄嗟に腰の魔力壊包丁を突き立てた。
すると、魔力壊包丁はオレンジ色に発光して斬撃波を飛ばす。
『シュパンッ!』
斬撃波はワイバーンを貫通し、胴体を真っ二つにする。
「助かった……」
リプイは力無く膝からその場で崩れた。
「アイツらを捕まえろ!」
警備隊の声が聞こえてリプイは振り返ると、シュリルは既に拘束されていた。
「無駄な抵抗は止め、投降しろ!」
リプイは両手を上げると、警備隊に拘束された。
シュリルとリプイは手錠をされ、ギルド外に待機した警察車両に向かって連行されていた。
「えっ?」
車両の前にはシファが立っている。
シファはゆっくり二人に向かって近寄ると、拘束している警備隊に向かって捌けるようジェスチャーをする。
警備隊は二人を跪かせると、その場から数歩下がって待機した。
「アンタだけは絶対に許さない!」
自身を睨みつける二人に対してシファは不適な笑みを浮かべると、耳元で囁いた。
「ワタシ、思い通りにならない人はとことん潰すのが趣味なの♡
リプイちゃんったら、勝手に進路決めちゃうし……。
ましてや、こんな原人みたいなヤツと仲良くしちゃってさ。
アンタと仲良くしてたってだけで私の株が下がるのよ」
リプイは堪らず悔しさで涙を溢す。
「でも、アンタを見るのはこれで最後ね。
さよなら」
そう言うと、シファは手袋を外して警備隊へ合図をする。
リプイはショックで放心状態になる。
手袋を外した手は綺麗で、カフェで見た爛れも魔法で見せた幻影だったのだ。
警備隊が二人を立たせると、シファは嬉しそうにその場を去った。
「ごめんなさい。私のせいで……」
リプイは泣きながらシュリルに謝る。
「リプイは人々を救おうとしたんだ。
悪いのはアイツさ。
いつかアイツを見返してやろう」
そして、二人が警察車両に乗せられそうになると警察たちが一点を見て動きが止まった。
二人も警察が見る方向を向くと、そこにはヤーハンの姿があった。
「どうして、ここに……」
困惑する二人にヤーハンは優しく微笑む。
「その子たちはワシの弟子だ。
事情を話したい」
警備員たちは驚いて、目を見開く。
「コイツらがヤーハンさんの?」
「詳しい話は署でお願いします」
どうしてそんな嘘を……。
リプイとシュリルは自分たちを庇うために嘘をつくヤーハンを必死で止めようとした。
「ダメだヤーハン! 共犯になるぞ!」
「私と彼は何も関係ない!」
すると、ヤーハンは二人に近寄って抱きしめる。
「ワシが何とかする。だから、心配するな」
そう言うと、二人とは別の車両に乗り込んで連れて行かれた。
龍拓はリプイからシファの話を聞いてやるせない気持ちになっていた。
「その後、私たちは刑務所へ連れてかれた。
でも、ヤーハンが庇ってくれたおかげで数日間の拘束で釈放された。
後々に聞いたら、国王へヤーハンが自らの功績と引き換えに私たちを解放するという条件を出したんだって。
だから、ヤーハンは町の外れでひっそりと暮らす羽目になってる。
ギルドへ行った際に周りが冷たかったのは、大した罪に問われずに済んだ私たちを今でも恨んでいたから」
リプイとシュリルは悔しそうに拳を握る。
「じゃあ、ますます代表勇者にならないとな!
この機にシファたちを倒してやろう!」
龍拓の一言で目が覚めた様にリプイとシュリルは顔を上げる。
「ヤーハンが二人を信じていた様に俺も信じてる。
必ずなれるさ!」
「よし! リプイやるぞ!
俺らが代表勇者になって魔王を倒したら、ヤーハンの信用も取り戻せるかもしれない!
それに、俺たち龍拓が作るラーメンのおかげでめちゃくちゃ強くなったしな!」
「そうね! ヤーハンのためにも頑張らないと」
さっきまで代表勇者パーティーになりたくないと言っていたリプイに元気が戻ると、龍拓は安心して微笑む。
「それに、龍拓は魔力壊包丁を起動させていたけど、それが出来た人は歴代でヤーハンしか居なかった。
きっと、これは運命よ!
龍拓はヤーハンと同じで、魔王が特に苦手とする太陽の属性が使えるんだわ!」
龍拓は驚きのあまり、自身の両手を凝視する。
「ってことはつまり、俺が……」
「ええ。魔王にとっての天敵はあなたよ」
「俺にそんな力が……。
スゲェな! こんな展開、RPGでしかやった事ないぞ」
シュリルは龍拓に肩を組むと、笑みを向ける。
「俺らで魔王ぶっ倒そうぜ!」
「おう! リプイやってやろう!」
リプイは感慨深く二人を見つめる。
「ええ! やってやりましょう!」
すると、思い出した様に龍拓が上を見る。
「あ、そう言えば代表勇者になるには大会までのモンスター討伐が関わるんだろ?
周りのライバルとどのくらい差があるんだ?」
リプイは青いメガネ型のデバイスで確認する。
「残念だけど、私たちは四番目だね」
「下から二番目か!」
「一位はアミルのパーティーで二位は炎使いのレハバのパーティー。
三位が植物使いのレーシンのパーティーで四位が私たち。
最後が泥使いのボーツのパーティー。
ちなみにボーツと私たちのポイントは少ししか変わらないわ」
「じゃあ、モタモタしてると直ぐに追い越されてしまうのか。
三位とはどのくらい離れているんだ?」
「多分、ポイント差的にS級を三体討伐すれば追いつくとは思う。
だから、今から狙うのはS級以上なのは確定ね」
リプイはアイテムボックスからモンスター図鑑を取り出すと、テーブルで広げる。
「ここらへんから次の標的を探さないと行けないから……」
すると、シュリルが図鑑の一点に指差す。
「なあ! 俺久しぶりに魚が食べてぇんだ!」
龍拓とリプイは指の先を確認すると、目を見開く。
「リヴァイアサン!?」
同時に二人は名前を叫んで驚く。
「コイツは俺も何かの神話で聞いたことあるぞ!
話覚えてないけど、ヤバそうだ」
「リヴァイアサンを借りに行くなんて正気?
S級の中でもトップテンに入る難易度なのよ!」
「魔王倒すんだから、こんぐらい倒せないと話にならんだろ。
龍拓、きっとコイツは旨いぞ!
前にヤーハンから味の感想を聞いたんだけど白身を食べた瞬間、天にも昇る心地だったって!」
シュリルの話を聞いた途端、龍拓は目をキラキラさせる。
「それは気になる!
次は魚介ラーメンか……。
楽しみだな!」
リプイは二人の様子を見て、深くため息を吐いた。
「どうせ止めても無駄ね……」
シュリルは腕を勢い良く突き上げると満面の笑みで二人を見る。
「よし! 次の標的はリヴァイアサンだ!
明日、早速討伐しに行こう!」
To Be Continued…