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ラーメン屋の店主が異世界転生して最高の出汁探すってよ  作者: 髙橋彼方
第三章『リヴァイアサンの魚介醤油ラーメン』
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『リヴァイアサンの魚介醤油ラーメン』5

 落ち着いたコーヒー豆の香りが漂う店内。

 リプイの前にはホットコーヒーと真剣な表情を浮かべたシファの姿があった。

 重い空気に堪らずリプイは無理やり笑顔を作って話しかける。


「それにしても久しぶりだね!

 それで……。

 急に呼び出してどうしたの?」


 シファはコーヒーを一口飲むと、リプイの目を真っ直ぐ見る。


「実は、頼みがあるの……」

「頼み?

 シファが私に頼まないといけない事なんてあるの?」

「ええ。これは貴方にしか頼れないわ!

 きっと、誰に言っても信じてもらえない……」


 そう言うと、シファは悲しそうに俯く。


「顔を上げて!

 何だか分からないけど、とりあえず話してみて」


 すると、ゆっくり顔を上げて神妙な面持ちで喋り始める。


「実は、このロイアルワに三日後……。

 隕石が落ちるの」


 リプイは顔を引き攣らせると、思わず首を傾げた。


「隕石?そんなまさか……。

 ニュースでもそんな情報出ていないわ」

「私が天文学に長けていたのを忘れた?」

「それはそうだけど……。

 根拠を教えて欲しいな」


 すると、シファはバッグから青色に光る魔法の書を出す。


「それは?」

「これは、魔術天体書(セフフェルミケッセン)と言って天体の動きを予測する物なの」


 魔術天体書を開き、シファは地球が描かれた見開きのページを見せる。


「これを見て」


 ページの端には小隕石が描かれていて、ロイアルワに向かって移動していた。


「計算では南南東の方角から、午後十六時三十二分に衝突する」


 そう言うと、天文書の小隕石は地図のロイアルワへ重なった。

 リプイは目を見開くと、シファのことを眺める。


「これが本当だとして、私に何をしろって言うの?

 隕石なんて私の力じゃどうしようも……」

「いいえ。

 貴方だからこの隕石を撃墜できるわ!

 ギルドの屋上に魔力迎撃砲があるのは知ってるでしょ?

 あれを使えば小隕石を粉々に出来る」

「私にそんな権限は無いわ!

 魔力迎撃砲を起動するなんて……」

「貴方は研究員としてギルド上層階のアクセス権を持っているわ。

 それに、お友達のシュリル君は勇者見習いなんでしょ?

 貴方だけでは許可証が必要だけど、シュリル君となら途中の検問を顔パス出来る」

「それは……」


 予想だにしない提案でリプイは悩んで俯くと、シファは自身の手袋を着けた手でリプイの両手を優しく握る。


「これが成功したら、私たちの故郷を守れる!

窓の外を見て!」


 リプイは右を向き、カフェの外に広がるのどかな日常を見つめる。


「このままだと、あそこにいる人たちが皆死んじゃうのよ!」


 目を見開くと、リプイはシファの手を握り返す。


「分かったわ。やってみる!」

「ありがとう! 

 貴方ならやってくれると思っていたわ!」


 そう言うとシファはバッグから紅に輝く宝石を装飾したネックレスを二つ取り出す。


「これを貴方とシュリル君で着けて」


 リプイはネックレスを手に取ると首を傾げる。


「これは一体?」

魔封宝石(ソウシャレット)よ」

「これが……。

 まさか!」


 何かに気付いたようにシファの手を掴むと、手袋を無理やり脱がす。

 すると、手全体がまるで火傷をしたように(ただ)れていた。


「貴方たちだけにリスクは課せないよ」

「シファ……」


 手袋を拾って着けると、シファは魔封宝石を手に取る。


「貴方も知ってるとは思うけど、これは私の魔力の結晶。

 自身の魔力を犠牲に、特定の能力を渡した相手に付与できる。

 これを着けていれば、一時的に監視システムは貴方たちを感知しないわ。

 いくら勇者候補だとしても、魔力迎撃砲付近に近寄る事は固く禁じられている」

「それじゃあ、シファはろくに仕事も出来ないじゃない!

 もう、魔法をろくに……」


 心配で表情が歪むリプイにシファは優しく微笑む。


「良いのよ、これで……。

 私には夢より大切だったから」

「そこまでしてでも、この町を守りたかったんだね」


 すると、シファは窓の外を見て優しく微笑む。


「ええ。

 此処が生まれた故郷で思い出があるのもあるけど、何より一番の友達に出会えた場所だから……」


 嬉しさからリプイは頬を赤くすると、照れ隠しで俯く。

 シファは視線をリプイに戻すと、自身の手を庇うように膝元へ持っていく。


「私はこんな状態だから当日役に立たない。

 当日は二人が無事に目的を果たせるように私もギルド内で潜伏して、ネックレスに付けてある無線を使ってサポートをするわ。

 久しぶりに会って、いきなりこんな事を頼んでしまってごめんね……」

「いいのよ! 理由が理由だし」


 急いでリプイは笑顔を作ると手を振る。


「あと、最後に聞きたいことがあるんだけど……」

「なに? 何でも聞いて」

「ずっと気になっていたんだけど、何で私から距離を取ったの?」


 リプイの問いかけにシファは再び、申し訳なさそうに俯く。


「ごめんなさい。

 私にとってリプイは友達の中でも特別な存在だったから、きっと進路も同じ道を選んでくれると思っていたの。

 でも、貴方は別の道へ……。

 もちろん、リプイが別の道で評価されるのは嬉しかったんだよ?

 だけど、当時の私には別の道を歩んで、あの時みたいな関係を続けられなくなるのが辛かったの」

「そうだったんだ……」

「本当にごめんね。

 酷いことをしたわ……」

「もう良いよ。

 正直に話してくれてありがとう」


 その後、二人はゆっくりコーヒーを飲みながら思い出話に浸っていた。




× × ×




 話が盛り上がり、時を忘れて夢中で喋っていると二人が座るテーブルに夕日が店内に差し込む。

 すると、シファが胸ポケットから懐中時計を取り出して確認する。


「もうこんな時間!?

 リプイ、ごめんなさい。

 私、この後に依頼があって行かなきゃいけないの……」

「わかった。じゃあお開きにしましょう」


 リプイがバッグから財布を出そうとしている間に、テーブルの上にある伝票を持ってレジへ向かう。


「あ、ちょっと待って!」

「ここは私が払うよ。

 色々迷惑掛けちゃったし」


 シファが会計を済ませると、二人はカフェを出て行った。



To Be Continued…

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