逃げた先で幸せを掴んだ男。
書き貯めしてたのを発見。
テンプレです、
名前は変えるのが面倒だから、そのままにしました、ゴメン。
10年振りの日本。
色々あって、二度と帰るつもりは無かったが、ケジメとして今回俺は一時帰国を決めた。
「色々あったな」
空港から予約していたレンタカーに乗る。
運転する俺の脳裏に二人の姿が頭に浮かぶ。
一人は蕗野史佳。
10年前、俺の婚約者だった女。
そしてもう一人は安帆満夫。
俺の親友だった男。
高校時代からの付き合いだった満夫に、まさか婚約者を寝取られるとは思わなかった。
史佳とは当時交際三年目で、一年も浮気をされていた。
気づいたのは史佳の俺に対する態度に違和感を覚えたからだった。
興信所に調べて貰い分かったのだが、俺は直ぐ史佳と別れを選択しなかった。
決してやり直すつもりだった訳じゃない。
ただ奴等に消えないダメージを食らわせたかった。
既に結納も済ませていて、結婚まで半年を切っていた。
発覚前、友人との飲み会で満夫はしれっと俺におめでとうと言い、史佳も笑顔でお礼を言ってる姿を思い出して、単に浮気から終わりでは気持ちが収まりそうになかったのだ。
後の憂いを断つ為、勤めていた会社を辞め、大学時代の友人リョージが立ち上げたアメリカの会社に転職を決め、準備を進めた。
俺の両親にも電話で報告をした。
『そうか、まあ...仕方ないな』
『そうね、徹底的にやりなさい、待ってるから』
両親も転勤でアメリカに住んでいたので、史佳とは数回しか会ってなかったのが有り難かった。
こうして、来るべき日に備え忙しくする俺に史佳は全く気がつかなかった。
それだけ俺に興味が無かったのか、報告書には満夫との関係は遊びとあったから、結婚までヤリつくすつもりだったのだろう。
史佳は会社を辞めるつもりだと言っていたが、それは止めた。
慰謝料をしっかり払って貰うには、収入元を失っては困るし、後々依存されても嫌だった。
俺の真意に気づかない史佳は満夫に報告し、稼ぎの悪い間抜けと盛り上がっていたが、どうでも良かった。
むしろ、新たな証拠が増えただけ。
そして迎えた運命の日。
俺は史佳の両親に最後の挨拶をするため、書類を携え向かった。
何も知らない史佳の両親に心が痛むかと思ったが、意外にも全くそんな事はなかった。
『申し訳ありません、婚約中に不貞をする方とは結婚出来ません』
俺は証拠の書類をテーブルに並べ史佳の両親に見せた。
『な...』
『嘘よね...史佳...貴女まさか』
絶句する史佳の両親。
対する史佳は言葉を失い、真っ青な顔で固まっていた。
直前までの家族の笑顔が一変していた。
『後は弁護士さんに、失礼します』
急いで史佳の実家を後にし、待たせていたタクシーに飛び乗る。
振り返ると、外に裸足で史佳は飛び出し、俺の名前を叫ぶ姿が見えた。
それが10年前、史佳を見た最後だった。
結婚後もそのまま一緒に住む予定だった俺の賃貸マンションも既に月末で解約をしていたし、家財道具も前日までに処分していた。
携帯は着信拒否にし、ホテルに避難した俺は後の処理を全て弁護士に任せ、翌週アメリカに旅立ったのだ。
愛情の裏返しは無関心と言うが、それは俺にも当てはまった。
弁護士からの報告を聞いても、心は全く動かなかったし、史佳が書いたお詫びの手紙も届けて貰ったが、
(馬鹿か?)
読んでも、それしか思わなかった。
[寂しかった]だの[やり直したい]だの、特に直接会って謝罪したいなんて、絶対に要らなかった、早く関係を終わらせたかったのだ。
満夫は史佳との関係が友人達にバレ、孤立した。
慰謝料の請求はしたが、別に俺がバラした訳じゃない。
史佳が周りの知り合いに相談し、俺との復縁を頼んだ事で知れ渡った。
友人達はみんな呆れ、誰も協力をしなかったのは言う迄もない。
慰謝料は大した金額では無かったので、史佳からは直ぐに振り込まれた。
弁護士から再度、史佳から手紙を預かったと聞いたが、返すよう伝えた。
それから史佳の近況は興味が無いのに、お節介な友人が時折メールで教えてくれる。
破談から二年後、史佳は勤めていた会社の同僚と結婚し、二人の子供に恵まれたが、5年で離婚した。
なんでも旦那の浮気が原因だったらしい。
『これも政志を裏切った天罰なのね...』
そう周りに溢しているらしいが、天罰ではないだろう。
単に人を見る目が無かっただけ。
だけど、俺もそうだったって事だ。
婚約者の友人と浮気するような女と婚約してたんだから。
満夫は慰謝料の支払いをゴネた。
遊びだっただの、史佳の方から誘われただの、挙げ句俺が史佳を繋ぎ止めておかないからとまで弁護士に言ったそうだ。
アホらしくなったので、慰謝料は分割を提案し、毎月1万ならとの言われ了承した。
これも早く終わらせたかったからだ。
結局満夫から慰謝料の全額は取れなかった。
懲りないアイツはまた他の既婚女性数人と付き合っていたのがバレ。
その関係者と思わしき人間から...
「そう言えば、奴は今年で七回忌か、愚か者の最後だったな」
「どうしたのマサシ、何か言った?」
俺の独り言に隣で寝ていた恋人のサオリが目を覚ました。
「なんでもないよ」
「そう?久しぶりの日本は何か感じない?」
「そうだな...」
上目遣いでサオリは甘えて来る。
リョージの妹で俺より9歳下の26歳。
身長175センチで栗色の髪をした美人。
サオリとは彼女がハイスクール時代からの知り合いだ。
優秀な成績で大学を卒業し、一流企業に勤めていたのに、三年前リョージの会社に入って来た。
『ワタシと付き合って下さい!』
『はい?』
その時、サオリからの告白に滅茶苦茶驚いた。
妹の様に接していたんだから。
『信じられないだろうが、ずっとサオリはマサシが好きだった、頼んだよ』
リョージはそう言って笑ったが、俺も信じられなかった。
まあ、直ぐに付き合い出したんだけどね。
サオリは俺が婚約者の浮気で別れた事を知ってか、愛情表現が激しい。
毎日、何度もアイラブユーを連発する。
言わないと俺が不安にならないか心配だそうだ。
リョージはサオリに俺の事を何て伝えたんだ?まあ嬉しいけどさ。
「ちゃんとマサシのグランマに、ご挨拶しなくちゃ」
「サオリ、アメリカで会ったから初対面じゃないだろ」
今回の帰国は婆ちゃんに来年サオリとの結婚を報告するため。
リョージとサオリはアメリカ生まれで、母親が白人と日本人のハーフ、父親はフランス系アメリカ人。
だからか、日本人には見えない。
婆ちゃんは去年アメリカに来て、サオリを紹介した時、ハローって声を震わせていた。
『 Cutegranma!』
そう言ってサオリは笑った。
「幸せ」
「俺もだサオリ」
そっとサオリの手を握り締める。
仕事も順調、プライベートも充実。
「幸せになる事が一番の復讐か...」
「なにソレ?」
「格言だよ、誰かのね」
笑顔のサオリに俺も笑う。
俺の人間を見る目はどうやら大丈夫のようだ。