第65話 ライブ遠征
片桐さんの家で永吉姉妹と片桐さんと晩御飯を食べたあの日から数日が過ぎ、ついにライブ遠征当日になった。
今日の天気は晴れ。
11月中旬だから少し肌寒いが、太陽の暖かさのおかげで過ごしやすい気候になっていた。
「ふぅ……気合入れろよ俺……」
俺は両手で頬を叩いて気合いを入れる。
パシッという音と同時に、俺の頬に少しの痛みが走った。
……俺は今回のライブ遠征で灯に告白する。
あれだけ待たせてしまった。
灯の方から言うような状況に追い込んでしまった。
灯を悲しませてしまった。
あの日から俺の後悔は止まらない。
でも、後悔ばっかりしても先に進まないし進めない。
だから一歩を踏み出さないといけないんだ。
「ふぅ……」
「おーまたせっ!!」
「ッ!!」
俺が息を吐き出すと同時に聞こえてくる声と、背中の痛み。
こんなことするのはーー。
「びっくりしたぁ。 驚かさないでよ灯」
「えへへっ。 ごめんごめん」
お洒落な服を身に纏った灯は、顔の前で両手を合わせて謝る。
ちょっと覗き込むように頭を下げてウィンクする灯はお茶目だった。
あの日からの灯はいつも通り、いや、いつも以上に楽しそうに笑い、明るくなった。
そのことに嬉しさを感じたけど、それ以上にホッとしたのを覚えている。
「新幹線なんて久しぶりだよー! 私、無事に乗れるかな?」
「なにその心配」
「いや、席間違えたり新幹線間違えたりしないかなーって」
「間違えそうになっても大丈夫だよ。 しっかり調べてきたからさ」
「へへっ! 頼もしい〜!!」
俺たちは話しながら駅の改札口へと向かう。
キャリーケースが動く音を聞くと、これから旅行に行くんだって気持ちが強くなり、テンションが上がった。
「どれぐらいで着くのかな?」
「調べたら2時間ぐらいだってさ」
「3つ隣の県なら着くの早い方なのかな? どうなんだろう?」
「俺もあんまりその辺は分からないなー」
俺は買っていた新幹線の切符を灯に渡す。
そして俺たちは改札を通ってエスカレーターへと乗った。
うおっ!? 案外エスカレーターにキャリーケース乗せるの難しいな。
「エスカレーターにキャリーケース乗せるの難しくない? 普段使わないから余計にそう感じるよ」
「分かる。 普段はリュックとか肩掛けタイプの鞄だもんねー」
俺たちはそんなことを話しながらエスカレーターを降りて、少し歩いて新幹線を待つ。
途中、駅弁の美味しそうな匂いに釣られそうになったのは秘密だ。
「今日のホテルは灯がとってくれたんだよね?」
「うん! 値段も雰囲気も良い感じのところが取れたよ!!」
「取るの大変じゃなかった?」
「未成年だから大変だったけど、お姉ちゃんが色々協力してくれたからなんとか取れたよ〜」
「ごめんね、ありがとう」
「ううん。 泉だって新幹線の切符買ってくれたもん。 お互い様だよ」
そんなことを話していると、新幹線があと少しで到着するというアナウンスが流れた。
その数分後、新幹線は予定通りの時刻に到着し、俺達は乗車。
隣り合わせに座った俺達は外の景色を楽しみながら、これからの旅行に胸を躍らせるのだった。




