第28話 好きな人の家に行こう! ①
「高山君背高いわね〜。 何センチあるの?」
「181cmです」
「たっか!! もしかしてまだ身長伸びてるの?」
「一応伸びてます」
「うっわ! 凄いわね!」
「ちょっとお母さんとお姉ちゃん! そんなに泉に話しかけないで! 困ってるでしょ?」
土曜日に灯の家に遊びに行くと、お母さんとお姉さんが在宅していた。
2人とも灯と血が繋がってるのがパッと見ただけで分かるぐらい似ていて、灯が大人になったらこんな感じになるのかな?と、思えるぐらいな美人さんだった。
今は灯が男を連れてきたということで、2人が興味津々で俺に話しかけてきている。
「ちょっとお母さん聞いた〜?」
「聞いた聞いた。 そんなに話しかけないでですって! 嫉妬かしら〜」
灯のお母さんである恵さんと、お姉さんである陽さんが顔を近づけて俺たちの方を見ながら、ニヤニヤと笑って楽しそうに会話をする。
そんな2人に対して俺はどう反応すれば良いのか困り、苦笑いを浮かべていた。
「ち、違うよ! それは言葉の綾で……と、とにかく! そんなに初対面の人にグイグイ来られると困るでしょ? だから、もうちょっと距離感とか考えよ?」
「はいはい、分かりましたよー」
「分かったわぁ」
「…………そのニヤケ顔、ウザイんだけど」
「ちょっと陽聞いた? この子、母親に対してウザイって言ったんだけど」
「聞いた聞いた。 お姉ちゃん、悲しいわぁ〜」
「あ〜もうっ! うっさいなぁ! とりあえず今日と明日は家で遊ぶから、お母さんもお姉ちゃんも邪魔しないでよ!?」
灯がガーと怒ると、恵さんと陽さんはニヤニヤ笑みを浮かべながら、リビングから出て行く。
その時、陽さんが俺に対して今度デートしよーと軽く笑いながら俺に言うと、灯は物凄い勢いで怒っていた。
「まったくお姉ちゃんったら……! これは後で戦争だね!! 冷蔵庫のプリン食べてやる!!」
リビングから灯の部屋に移動すると、灯はぷんぷんと怒っていた。
しかし、そんな灯の様子よりも、俺は今、灯の部屋にいるという現状で気持ちが一杯いっぱいになっていた。
これが灯の、好きな人の部屋か……。
白を基調とした部屋は、見ていて爽やかを感じた。 壁には大きな姿見があり、勉強机とドレッサーが並列して置かれている。
机の上にはぬいぐるみや電気スタンド、化粧ポーチなどの化粧グッズが綺麗に並べられていた。
部屋はなんだか良い匂いがする。 アロマでも焚いているのだろうか?
「とりあえず、この辺に座ってよ」
灯がクッションを俺に渡す。 可愛い女の子が好きそうなクッションを見ると、俺の尻の下に敷くのは憚られた。
「こんなに可愛いクッションを座布団代わりに使って良いの?」
「いいよいいよ。 そんなに気にしないで」
「灯がそう言うなら分かったよ」
俺はクッションをお尻の下に敷いて座る。 座り心地は良いのに、なんだか落ち着かなかった。
「お母さんとお姉ちゃんがごめんね? うるさかったでしょ?」
「いや、そんなことないよ」
「それならいいんだけど……お父さんは今日仕事だから居ないってのは知ってたんだけど、まさかお姉ちゃん、バイト休みだなんて思ってもなくて……くそっ……できれば会わせたくなかったのに」
「?? なんで?」
「お姉ちゃん、絶対からかってくるもん。 泉も見たでしょ? あのニヤケ顔」
「あーあれね」
あの面白いおもちゃを見つけた時みたいな、無邪気な笑みね。
「あれ絶対泉が帰った後、ダル絡みしてくるよ……はぁ」
灯は机の上にあるカップに紅茶を注ぎながら、小さくため息をついた。
「お姉さんって雰囲気大学生っぽいけど、大学生なの?」
「そうそう。 大学2年生。 だから、普段はバイトやら遊びやらで家にいるのが珍しいぐらいなんだけど、よりによって今日は居たのよ」
「なんかタイミングが悪かったんだな」
「そうなんだよ! お姉ちゃんってさーーーーーー」
「うんうんーーーーーー」
俺は相槌を打ちながら、灯の話を聞く。
身振り手振りで話す灯は、愚痴を言いながらも、どこか姉のことが嫌いになれない、素敵な一面を覗かせていた。
俺は下の子の気持ちを語る灯の話を聞きながら、もうちょっと都に優しくしてあげようかなと思った。
そんな灯の話を楽しんで聞いていると、いつの間にか帰る時間になり、土曜日はおしまいになったのだった。




