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【終】誓い

「ハーニティー!」

「やっ」


 あぁ、今日も可愛らしいエボニー。

 植物たちの合間からふわふわ髪を揺らして駆け寄ってくる姿は、思わず抱きしめたくなるな。

 しばらく会えないかも、なんて……寂しすぎる。


「……ほんとうに、もう行くの?」

「……うん、なんかじっとしてられなくて」


 継承の儀を終えたわたしは、名実ともに次の恵土の魔女。

 ふつうであれば、現大魔女に付き添って色々教えてもらったり、魔女の騎士を見繕ってもらったり、修行したり……なんだけど。


 わたしにしかやれないこと。

 まだ魔力で圧を与えることはないであろう、地味魔女な内にやっとかなきゃなことがある。


「大丈夫……? テオレムって、危険なんじゃ──」

「なんか、根拠はないんだけどさ。大丈夫かなって」


 まずはテオレムに一番近い、魔法使いの集落を目指す。

 ダオが、シークイン様にはじめて視てもらったところ。


 なんか、それすら見通していたらしい彼女の依頼で、グランローズ様の魔女の騎士──カッツェ様が先に行って色々と手配してくださっているそうな。

 水の大魔女、すごすぎる。


 そこでテオレムの実地調査だ。


 呪いを最後に解くのは己の力。

 たぶんダオもレトくんも、もう乗り越えられると思う。

 というか呪い自体効果がなくなっているし、そろそろ居場所がバレるってこともなくなるはず。 


「……息子が生きていて喜ばない親は、きっといないよ」


 わたしの勝手な願望かもしれないけど……ね。


「そっか……。なんか王様、具合わるいみたいだもんね?」

「そう。それに……大魔女の皆さまいわく、闇の魔法の残滓ってのは魔物にとって居心地がいいらしいし。……王様の周りにいる魔女さんは、もしかしたら国を壊したいのかもしれなくて」


 闇の魔法ってのは、弱った心に深く根付く。

 王様のように、呪いを担う魔女さんたちも……心が壊れていってしまってるのかもしれない。

 戦に駆り出されてる魔法使いたちも、緩やかに心を病んでいるのかもしれない。


「まずはさ、腕のいい医者的な立ち位置目指そうかなって。いくら魔法使いでも、王様を治せそうなら城くらいには入れそうじゃない? まずは、王都の周りの村でコツコツ活動してみる」

「そっか……」

「実際、この前来てた間者? にも言われたし。呪いをどうにか出来るもんなら、そうして欲しいって。……だれも、やりたくてやってる訳じゃないんだろうなぁって」

「うん……」

「寂しくなるね」

「……帰って、くるよね?」

「当たり前じゃん、ここエボニーに任せっぱなしには出来ないよ」


 わたしが不在の間、ラヴァース様とエボニーがマイ植物園の世話をしてくださるそうな。

 助かります。

 ラヴァース様にはいくつか種もいただいたし、手持ちの植物は主に乾燥させたものだ。


「……だね! あ、そうだ。ダオに言っとかなきゃ」

「ん?」


 いったい何を……、挨拶かな?


「おい、ハニティ。荷物はこれだけで良いのか?」

「あ、レトくん。ありがと、助かる~。……ていうか、お留守番しててもいいのに」

「ふんっ。……お前みたいなお人好し、放っておくとすぐに殺されそうだからな」

「へー、だから着いてきてくれるの? ダオがいるからじゃなくて?」

「っ!? ば、ばかをいうな! あんな男──」

「はいはい~」


 レトくんは相変わらずのツンデレ、ブラコン属性。

 ありがたい。

 癒しって大事だからね。


 少年の体に似つかわしくない大荷物を抱えてくれているのは、素直にすごい。

 鍛えてたんだろうなぁ。


「準備は出来たかのぉ?」

「あ、もうちょっとです」

「そうかそうか、かまわん。ゆっくりやるといい、のぉアヴラ?」

『えー? ほんとに全員飛ばすのぉ? だるいんですけどぉ』


 …………ギャル!?


 エルドナ様よりも若干幼い少女のような風の精霊、アヴラ様。

 せ、精霊ってのは、個性派ぞろいだな……。


「こらっ! アヴラよ、こういう時に風の大魔女の名を売らずにどうするのじゃ!」

『べつにぃ? テキトーで良くない?』

「アヴラーっ!!!!」


 ……エルドナ様は、構われ属性だな、うん。

 仲良さそうで何より。


「だ、ダオの様子みてきますね~」


 わたしとレトくんの方は準備終わったし、あとはダオだな。

 エボニーは挨拶、終わったかな?




「──ダオ~」

「ハニティ」

「……?」


 話は終わった様子だけど、なにやらエボニーがにやにやとこちらを見ている。

 ……なんだ、何かイタズラしたのか?


「ど、どうかした?」

「ダオが言いたいことあるって~」

「言いたいこと?」

「ハニティ、その……」


 レトくんやエルドナ様も集まってきた。

 な、なんだろう……。


「……改めて言わせてくれ、俺を……貴女の騎士にしてほしい」

「っあ~! うんうん。そのことね」


 先延ばし、先延ばしにして答えるのを避けてきたこと。


「……頼む。テオレムでは何があるか分からない。ハニティを、護りたいんだ」

「べ、別に騎士にならなくても助け合えばいいし……それに。わ、わたし。ほら。強いからさ、……必要、ないかも~」

「ほんとぅに~?」

「エボニー!」


 あれか、からかい要員なのか!?

 全身から恥ずかしさと嬉しさともどかしさで汗がすごい。

 分かってる。

 ほんとうは、わたしが何を望んでるのか。

 でもやっぱり、これだけは言っておかないと。


「……魔法。今までとはちがうって、……料理で楽しそうに使ってたじゃない」

「それは真実だが、魔法は手段に過ぎない。……使えなくとも、貴女と料理を共にすることはきっとこれからも生きがいになる」


 一歩も引かないダオ。

 くっ、いつもは一歩身を引いた立ち位置なのに。


「……わたし、人の命とか預かりたくないし……」

「俺は貴女の剣にも盾にもなる。……だが、以前ほど自分の命を粗末にするつもりはない」

「僕もいるからな、ダオレンがそう易々と命を落とすようなことはない」

「レトくん」


 な、なんか……周りから固めていってません!?


「わたしのやりたいことって! 結構時間がかかるというか……、その。任期も長いだろうし、……そもそもわたしの代で終わる保証もないし……」

「では、率直に言おう。貴女のそばで、生きていきたい」

「──!?」


 顔に熱が集まるのが分かる。

 そ、それは……ズルなのでは……!?

 先日は告白っぽいことをされ、今回はこれ……プロポーズっぽいですよね!?


「はぁ……、こんな時だけ強情なんだから」


 いや、自分を大切にして欲しいとは常々思っていたけども。

 なにも、わたしじゃなくて良くない?

 もっと、幸せになれる道あると思う。


 ……思うんだけど、……わたしはもう、自分の気持ちに気付いてしまっている。

 そして、それが彼も望んでいることだと言う。


 これはもう、観念するしかないのでは?


「…………わ、わたしも……。その、ダオと料理するの楽しいというか……」

「うん」

「一緒に……、魔法使いにとってのふつう……変えていきたいなというか……」

「……うん」


 そこまで言い終わると、ダオはわたしの前に跪いた。


「……誓うよ。ハニティ。俺は、貴女を傷付けない。傷付けるものからも、護る。だから……、一人で背負わないでほしい。……共に、歩もう」

「ダオ……っ!?」


 そう言うとダオは……、指先に口づけた。


 …………。


 ななななななな。


 なにしてんのー!?


「ちょッ!? まっ!?」

「──次は、ここに。ハニティから……な?」


 甘い言葉を囁くには最適な、妖艶な顔をしながらダオが迫ってくる。

 身を起こし、近付きながらわたしの顔に右手を沿え、──トドメに親指で唇をなぞり。

 と、同時に首をかしげてわたしに問いかける。


(ちょ、ちょおおおおやめろおおおお!!!!)


 フルセット! 女を喜ばすフルセットを標準装備するんじゃないよ!

 まったく……美形を有効活用するんじゃない、ちくしょうめ。




 ……ん?

 わたし、魔女の騎士の契約方法言ったっけ?


「……エェーボォーニィー?」

「だってハニティが素直じゃないんだもん」

「ちがいない」

「レトくんまで!?」

「なんじゃ、もう誓いを立てる騎士とは……やりおるのぉ」

『将来有望ってやつぅ?』


 ……はぁ。

 ええ、どうせ素直じゃないですよ。

 わるかったですね。


 ダオは満足そうにニッコリとこちらを見ている。

 あれだな、わたしの反応を楽しんでいる。

 やっぱり最初に出逢った時に感じた、女慣れしているってのは間違ってなかった。


 はぁ、まだ顔が熱い。


「ところで具体策はあるのかの? テオレムの王はともかく……、大魔女すら介入できなかった土地で魔力のない人間にそう簡単に受け入れられるかのぉ?」

「あ、それはですねぇ。ちょっと考えました」

「えーなになに?」

「移動式の食堂、開こうかなって」

「しょくどう?」

「そ。大衆食堂的な? そりゃ勝手に開いたら怒られるからさ。魔物の討伐に困ってたら依頼引き受けて、交換条件だそうかなって」

「ほぉ……?」

「そしたらさ、追い出そうにも魔物倒してくれた恩があって言いづらいかな~って。……人の良心に付け込む作戦!」


 なんかやってることは闇の魔法と変わらん気がするが……この際いいでしょう。


「なるほど、お主らしいのぉ」

「名前は考えたのか?」

「あ、名前。うーん。名前は~、そうだねぇ──」


 ──恵土の魔女の気まぐれ食堂。


 体調をうかがい、薬膳コースのみのご提供です。


 地の魔女らしく、『あなたの土地にわたしの料理、根付かせます!』



 ……なぁんて、どうかな?







 ─了─




最終話まで読んでいただき、ありがとうございます!


『6月中に、10万文字の、料理ものをupする』


ひとつの目標から無事作品をお届けすることができて良かったです。


5月や梅雨の季節は体調を崩しやすいので薬膳料理を選んだワケですが、本当はもっと(作中で)使いたい食材やハーブもあり……。それに伴って書きたいお話がたくさんあり……。


本当は、


キィルくんの街で事件が発生したり、シークインとハリルの出逢いを書いたり、レトのツンデレとブラコンが限界突破したり、キィルくんとレトが友達になってハニティが一生拝んでいたり。


テオレムが魔物に襲われちゃった(!)り、食堂の様子書いたり、エボニーとイチャイチャ(!?)したり……。

料理の描写をもっと細かく書いたり……。



10万文字と決めていたので、削った部分も多いですがいつか機会があれば書いてみたいなと思います。



今は、既存の作品の改稿・更新と、新作の書き貯めに集中したいと思います。


よろしければ読んでみたご感想や★評価など、作品がどうであったか教えていただけると嬉しいです(*´ω`)


最後までお付き合い頂き、感謝いたします!


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