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59 反目するもの

「────そうして幾年の時を経て、神の啓示か、人の願いか。魂のかがやきを視たウルマリンは大魔女たちに告げ、シークインはその命の巡りを引き寄せた……そう。貴女を、ね」


「……!」

「なるほど……そういうことだったか」

「ふん」


 わたしの料理がとんでもない効果を発揮するのは……。

 この世界の先祖は全員なんらかの呪いを大昔に受けていて、わたしだけが違う世界で生まれた魂だから……ってこと?


 それに、地属性というのは……闇の魔女がもっとも欲しかった、大魔導師の愛の心だから?

 この世の大地には、少なからずラヴァース様の恩恵があるもの。

 

「ハニティ。貴女はずっと怠らず修行を続けてくれたけれど、どちらの貴女が欠けてもきっとダメだったと思うの」

「グランローズ様……」

「ラヴァースには原初の魔女の力が二人分、じゃからのぉ。大変じゃ」

「わたくしたちの魔力も、魔力を持たない者たちも、……みな呪いを受けしもの。特に大魔女であるわたくしたちは、魔力がこの身を離れてはじめてヴィダに許される。……でも、考えてみて? 魔力を持たない者は、魔力を持つ者へ『嫉妬』の感情を向けることになるの」

「それを引き起こさないための、修行。定期試験もそのひとつ、という訳ね」

「時代を築くというのは……、命を繋ぐだけでは足りないのかもしれませんね」


 すべてに。

 すべてに、意味があったんだ……。


「……というワケじゃ、そこの二人」


「「!」」


「リチアナ、落ち着いたかしら?」

「っ。……は、はい……」

「ここはわたくしとラヴァースの庭。多少の呪いくらいは……、修行にきちんと取り組んでいれば未然に防げたと思うのだけれど。きっと貴女のなかでたくさんの葛藤があったのね」

ヴィダの祝福(呪術)は人の内にある徳をひとつ、反転させる魔法じゃからのぉ」

「おおかた、ハニティに差し入れしようとこっそり着いてきたところを狙われたのね」

「あ……、やっぱり。作ってくれたんだ」


 たぶん本来はゼノに着いてきたかったんだとは思うけど。

 ローズコーディアルを用意してくれたぐらいだし、わたしを認めてくれた気持ちも絶対あったと思う。


 あのコニファーの精霊に捕まってる男が居なかったら……。

 ふつうに、毒なんか入れずに差し入れしてくれたのかな?


「……ありがとう、リチアナ」

「!? いいえ、……いいえ……」

「リチアナ……」

「わたくし、ハニティが……ずっと羨ましかった」

「大魔女候補だったから?」

「もちろん、それもありますけれど……。貴女は、わたくしにないものを沢山持っているから……」

「……そうなの、かな。自分では分からないけど。……少なくてもゼノに関しては、心配しなくていいと思うよ」

「──え!?」

「ハ、ハニティ殿!? な、なにをおっしゃって」

「だって、わたしよりリチアナが大事だから、自然と体が動いたんだよね? もし。貴方がリチアナをなんとも思っていない魔女の騎士だったら、切り捨ててると思うけど」

「……ふんっ、甘い女だ」


「ゼ、ゼノ……」

「リチアナ……えっと……」


「なーーにを見せつけられておるんじゃか!」

「あら、アトラに構ってもらったらどう?」

「うるさいわ!」


 テオレムの継承してきた呪術は、人の徳を一つ反転させる魔法……か。

 そして、魔力のない人は魔力を持つ者に『嫉妬』の感情を否応にもつ。


(もしかして、王様って本当は……)


 いい王であろうとすればするほど、歯痒かったんだろうか。

 いい親であろうとすればするほど、苦しかったんだろうか。


 本当は、ダオのこともレトくんのことも……はじめは自慢の息子のように思っていて。

 それが、その感情が魔力に感化されてどんどん変わっていくのかな。


 だから、魔法使いたちは……反乱を起こそうともしないのかな。


 本人たちにしか分からないけど、いくら影響があるからと言って。

 やってしまった悪意は、元にもどらない。


 人間同士の争いも、他国の領土や富をうらやむ気持ちからだったとしたら──


「ラヴァース」

『……ここに』

「ハニティの前に、姿を現してあげて」

『……はい』


 思考に沈んでいると、周囲に花びらが舞い始める。

 いつか見た、幻想的な光景。


 その花びらの舞から現れたのは、優しげな精霊。

 人間でいう髪の部分は植物の蔦、あるいは蔓。

 ところどころに綺麗な花が咲き、服のように葉が重なっている。


 ……言わなきゃ。


「ラヴァース様、……わたしは、魔法使いにとっての『ふつう』を変えたいんです」


 それが、すべて過去の出来事からくる呪いだと知ったなら、なおさら。


「人と人との交流の末、人が他者に負の感情をもつことは……絶対ないとは言い切れません。……でも、存在すら認められない、関わり合いをもつ間もなく理不尽に貶められるのは……ちがうと思うんです」

『……』

「だから、わたしは地の大魔女として……。自分の魔力を使って育てた植物、それと相手を想って作る料理。……自分にしかできないことで、少しずつでも変えていきたいです」

『……貴女の役目は、促進。働きかけること』

「え?」

『最後に解くのは、己の心。……それでも貴女は、ゆきますか?』


 呪いのことを……言っているのだろうか。


「──もちろんです。だって……、ここまで大魔女のみなさまは、諦めなかったじゃないですか」


 今、目の前にいる精霊たちだってきっと例外じゃない。

 ヴィダの授かった闇の魔法は、神の力。

 もし、大魔女たちが一度でもその役割を放棄すれば……。


 奪われる魔力が上回って、四大精霊たちも存在はしていなかったはず。


「それに、……」


 テオレム。


 ダオとレトくんの故郷。


 わたしは、どうしても放っておくことができない。


『……ハニティ、貴女を次代の大魔女として。……我が主として、認めます』

「……! ありがとう、ございます!」

「なら、わたくし達も」


 周りで見守っていた大魔女のみなさまも、ラヴァース様にならって声をあげる。


「──破炎の魔女がメイラフラン、次代の恵土の魔女を見届けん。我が勇気と希望の心をイグリースに託すまで、共に在ろう」

「彩風の魔女がエルドナ。同じく見届けた。我が自由と彩の心をアヴラに託すまで、共に尽くそう」

「…………蒼水の魔女、シークイン。同意、了承。調和の心と運命の水鏡をイフェイオンに託すまで、共にゆく」


 そして、……我が師匠。

 幼い頃に両親が亡くなって以来、わたしに愛を授けてくださった方。


「恵土の魔女がグランローズ。次代の継承を見届けました。……我が慈愛の心をラヴァースに託すまで、全ういたします」


 グランローズ様がそう言うと同時。

 右腕にまるでシロツメ草の花冠みたいな、可愛らしい草花でできた腕輪が現れた。


『……いずれ、その時が来るまで。その証をみて、己を見つめなおし続けるよう』



 あとはもう、やるしかない。



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