45 決意
「だ……」
ダメだってば! いや、嬉しいよ!? けどさぁ。
ん? わたし……嬉しいんだ?
あぁもう、ぐちゃぐちゃだよ。
「ほう? ……理由を聞かせていただいても?」
「私も気になるわ」
「い、いや、あの……」
なんか、わたし無視して話進んでない?
「私は、テオレムの魔法騎士でした」
「「!」」
「訳あって、ハニティの元で世話になったのですが……。元々私は、他を傷付けることでしか魔力の価値を見いだせなかった。でも……。彼女の魔力の使い方、地の魔女として他を思いやる心……。彼女の、すべてが。……私にとっては新鮮で、時に眩しかった」
ダオは、呪いを解く手がかりを求めて永遠の樹を目指していた。
その途中で、たまたまわたしと出会って。
……農作業だの、料理だの、今までとは真逆の魔力の使い方に遭遇した。
(わたし……、もっとダオの話聞いてあげるべきだったなぁ)
そんな劇的な体験をした彼の考えを、もっと聞いてあげたらよかった。
人は、自分の考えが揺るがされる体験をすると、どうしてもそれに影響を受ける。
ダオも、きっと今まで戦うことだけに魔力を使ってきただけに、わたしや魔女に対して言葉にできない思いがあるはず。
気持ちは分かる。
でも、わたしは……。
よりにもよって、ダオの。
……一人好きと思っていた自分が、一緒にいても窮屈にならない。
そんな存在のダオの命を、人生を握るなんて、できない。
「──そして、彼女は言いました。地の魔女として……魔法使いにとっての、『ふつう』を変えたい、と」
「魔法使いにとっての、普通……」
「ええ。母国での魔法使いの扱いは特別ひどかったですから。その言葉に、私は夢をみた。だから私は……。ハニティの隣で、彼女の思い描く未来を……一緒に見てみたい」
「「!?」」
(ちょ、待っ。そ、そんなん、ほぼ告白じゃないですか!?)
な、なんでドヤ顔なんだ……!
いや分かるよ? 恋愛的な意味じゃなくて、魔女の騎士としてってことだろうけど。
度々思ってたけど、ダオはちょっと天然だ。
言葉の選び方が、ずるい。
美形効果を存分に発揮しておられる。
「なるほど、分かりました。……それは、貴方の手に宿るものにも起因するのでしょうか?」
「! お気付きでしたか」
「……ええ、良く知っています」
「?」
さすがグランローズ様。
呪いの不思議な魔力を感知されていたとは。
……でも、良く知っているって……なに?
「話は分かった……が、それではい、譲ります。とはなれないですね」
「それは、ごもっともだ」
「ちょっと、当人置いて話進めないでくれる!?」
ダオの想いも少し知れたし、ゼノって人が剣の腕を生かせる場所を探しているのも分かった。
「あのさぁ、二人とも。魔女の騎士がどんなのかちゃんと分かってる? わたしはイヤよ、他人の命もつなんてさ」
おまけに、ダオ。
……あんなに楽しそうに、料理で魔法を使ってたじゃない。
「分かってますよ」
「分かってはいるつもりだ」
「ぬぅ……」
くっ。二人とも、思いつきで言った訳でもなさそうだ。
意志が固い。
「……ともかく、継承の儀は来週行います。そして、実際に魔力を継承するのは、……恐らく二年後となります。まだ、時間はありますから。結論を急ぐ必要はありません」
「それはそうですね、まだ……私のことを十分に知ってもらえていないので」
「いや、そういうの大丈夫です……」
「二年、か」
二年……ね。
大魔女の力を受け継いだらやりたいこと。
それは、わたしの庭でも世話になった『豊穣の種』をつくること。
ラヴァース様の力で、この世の大地に宿る魔力……その種がどんな植物でも、ひとつの種として生成できて、魔力が宿る土でなら育てることができる。
それと、薬膳料理の相性といったら。
抜群でしょう。
で、今回の試験で改めて気づかされた。
相手の心身の健康を願う料理。……つまり、相手に合わせたオーダーメイドの料理。
それを、魔法使いも魔力のない人も関係なく。
そうして広がる、魔法使いと人々との輪。
理想論、かもしれないけれど。
(それがわたしの、……魔法使いの『ふつう』を変えるための、手段)
……というかそもそも、なんでわたしの料理は効きが良すぎるのか。
それ、シークイン様に会ったら教えてもらえるのか……?